五夜目 5
右手に握られた機械を突き出す跳津。
「これはスマートフォンという。 アップル社が開発した最新の機種で、人工衛星を介して位置情報を割り出せる。 複数の人工衛星が同時に探査する三点計測で正確極まりないそうだ」
目を見開く真悟。
「軍事衛星か」
「そういう事だ。 SWATの知り合いから手に入れた特注品で、あの時ここで落としたらしい」
けがの巧妙って奴さ、と黒士。
「位置情報を割り出して驚いたよ。 全く別の場所にあったんだからな。 現場へ来たら、この村があった」
「ここの装置でライトアップすると、まるで早朝じゃないか。 スモークを炊けば霧深い森の中にある廃村って寸法だ。 深夜に起きたら、まず夢かと思うだろうな。 被害者が寝ている時、ここに拉致った訳だ」
それが『呪殺夢』の正体だ、と続ける黒士。
跳津が、肩をすくめる。 アメリカ人が、やれやれと呆れるような自然な仕草で。
「運転手さん、ここに来た時、あなたは言いましたよね。 底なし沼があるんでしょうね、と。 普通は、水たまりとか湿地帯って言うのに、まるでここの地形をはじめから知っているように、自然に」
失笑する真悟。
「あれは失言だったな。 なんだ、すべてお見通しって訳か」
「ここから採取した指紋を調べたんだ。 該当者は運転手と、大黒様の先輩の二人。 それで分かった」
おだやかな笑みを浮かべている真悟。
「分からない事がある。 ハガキを破いた後が偶然地図になっていた事だ。 あの時、俺がハガキを手にしていた理由も」
真悟が、いきなり黒士に向かって来た。
あっという間に、目の前から消える。
「こうした」
いつの間にか、黒士の後ろにいた真悟。
黒士の脇に差し込まれたハガキが、ゆっくりと下---つまり手のひら---に滑り落ちる。
「そ、そうか。 あの時、編集長に声をかけられてから初めて気付いたけど、この状態になった時に編集長がハガキを目ざとく見つけただけか」
頷く真悟。
「破いたハガキを回収したのは俺だ。 その時、あらかじめ地図に沿って破いたハガキに取り替えた」
なるほどと頷くゆとりは無い。 この忍者は、いつでも二人を屠れる位置にいるのだから。
沈黙が続いた。
「これから、どうするんですか?」
たまらずに声をかける黒士。
「別に。 どうでも」
自嘲気味に呟く真悟。
「どうでもよくなったんだよ、もう」
どっかと腰を落とす真悟。
「本当の『呪殺夢』は、始まってしまったんだ」