五夜目 2
「以上が調査結果です。 件の村と思われる草原と点在する底なし沼で起こった殺人事件にまで発展して『呪殺夢』が、果たしてこれで終わるのか。 全く分かりません」
黒士の報告に、編集長を始め朝帳ジャーナルの面々が一斉に唸った。
「結局、君が確認してのは『呪殺夢』が本物であるという事だけなのか」
編集長の言葉に、黒士が首を振った。
「次に、これを見て下さい」
黒士がパソコンを操作すると、Iチューブの画像が映し出された。
霧深い村の道を、一人の男が逃げている。
時々振り返っては悪態を付くそぶりだが、その顔は恐怖で歪んでいた。
途中で転び、慌てて起き上がった男は、睨みながら叫ぶ。
「あんだよ。 何なんだよあんた」
映像の距離が近付き、再び逃げ出す男。
草原に足を取られつつ逃げる男の足音が水音に替わった時、
「おい、止まれ。 そっちは底なし沼だぞ!」
映像の中に、黒士の声が聞こえた。
編集長達が、一斉に黒士の方を見る。
映像を止めた黒士が、続きを見るように促した。
画像が、黒士達を撮した。
慌てて逃げ出す黒士達。
家の影に二人の人影が消えた事を見届けた後、映像はぬかるみに足を取られた納豆ゲーマーを映し出す。
「女性陣は見ない方がいい」
黒士の言葉に、数人が慌てて目をそむけた。
次の瞬間。
納豆ゲーマーの顔が鮮血に変わった。
首の皮一枚で辛うじてつながった頭を肩に乗せ、奇妙な踊りをしつつ倒れる死体。
一瞬、沼に沈んだ後、ゆっくりと上半身が水面に浮かび上がる。
はずみて落ちた首を探すように伸ばされた指先が、自分の生首に触れた。
沼を覆い隠す枯れ草の毛布がゆっくりと遺体を隠す様が一瞬途切れ、黒一面の背景にメッセージが浮かぶ。
ねぇ、こんな話、知ってる?
鈴の音で目覚めると、いつの間にか見知らぬ村にいるらしいんだ。
良くある話じゃん。
夢から覚める夢ってさ。
でも、そこには鬼がいるらしいよ。
その鬼に襲われた傷は、目が覚めても残っているって話だよ。
それでさ、その鬼に殺された奴、朝には無残な死体になっているんだってさ。
その場にいたほとんどの者が体をくの字に折り曲げ、編集部内に吐瀉物の臭いが充満した。
誰もが痛感した。
『呪殺夢』は本物だ、と。