四夜目 4
その夜
チリーン
寝返りを打った黒士は、鈴の音を聞いた。
最初は気にしていなかったが、肌寒さを感じて目が覚める。
「ここは?」
寝泊まりしている部屋にしては、この寒さは異常だ。
目が慣れてくるに従い、ここは四畳半程の小部屋だと分かる。
隣には、跳津が寝ていた。
「跳津、起きろ。 なんか変だぞ」
寝ぼけ眼をこすりながら毛布からでようとした跳津の目が見開かれる。
「何だ、ここは?」
黒士の神妙な顔に気付き、大人しくなる跳津。
もしここが噂の「村」だとしたら、迂闊に動けない。
ゆっくりと戸口に近付く黒士に倣い、壁に耳を当てる跳津。
誰かが叫んでいる。
よほど焦っているのか、ろれつが回っておらず、声色から察するに走っているらしい。
いや、逃げているのか? 何から?
好奇心には勝てず、ゆっくりと戸を開ける黒士。
跳津も、彼に続いて外へ出る。
「あんだよ。 何なんだよあんた」
泣き叫びながら逃げ回る納豆ゲーマー。
その後ろを、やっくりと追いかける大男。
憤怒の形相は、まさに鬼。
やがて村はずれに逃げた納豆ゲーマーの足音が、バシャバシャという水音に替わる。
「おい、止まれ。 そっちは底なし沼だぞ!」
納豆ゲーマーと鬼は立ち止まり、黒士の方をゆっくりと振り向く。
「大黒様、ヤバいって!」
必死になって黒士の腕を掴み、鬼と反対方向へ逃げようとする跳津。
黒士の方も顔を硬直させたまま走る。
ある程度、鬼と距離を取った事を確認した跳津は、手近にある家に飛び込んだ。
文字通り脱兎の勢いで姿を消した跳津の手際に唖然とした黒士。
鬼の方もあっけに取られたのか、しばらく立ち尽くした後、納豆ゲーマーの方に戻っていく。
しばらくして、村はずれから悲鳴が聞こえ、そこで目が覚めた。