四夜目 3
神主さんの計らいで、一室を借りる事が出来た。
時々訪れる参拝客の為に、木賃宿として利用している部屋は、学校の教室くらいの広さがあり、部屋の隅に毛布らしき薄い布が平積みされている。
「野宿にならなかっただけでもありがたい。 まあ、これもいい体験談になるだろうな」
荷物を置いた轍と神社を何度も往復し、一段落した頃には日がとっぷりと暮れていた。
神主さんに改めて挨拶をし、宿泊費として千円札を手渡した後で台所に行く。
「ラーメンと缶詰位しか無いけど、無いよりはマシか」
そう言いながら箸を付けようとした時、不意に扉が開いた。
「ハヒフヘホーーッ」
思わず振り向く黒士と跳津。
「えっと、どうも?」
そんな二人を無視し、ずかずかと部屋に押し入った男は、跳津のラーメンをひったくるとズルズルと食べ始めた。
「おい、何すんだよ!」
跳津の抗議を無視してドンブリを空にする男。
黒士は、その顔に見覚えがあった。
「なあ、お前まさか『納豆ゲーマー』か?」
黒士の言葉を肯定するように握り拳を振り上げ、親指をおっ立てる男。
大手掲示板の一つに「3(み)ちゃんねる」というものがある。
その掲示板に喧嘩を売った男がいた。
それが、「納豆ゲーマー」という、ふざけたハンドルネームを付けた奴だった。
彼は、掲示板の利用者から住所や名前を特定され、自宅で押し問答になって逃げたらしいと聞いていたが、いつの間にかIチューブで復活したそうだ。
「なんで問題人物がここにいるんだ? そう言えばお前、ネットゲーマーを騙って3ちゃんねるを荒していたらしいじゃねぇか。 今度は何を企んでいるんだ?」
黒士の詰問に、拍手する納豆ゲーマー。
「そこまでバレてたの? いやー、参ったね。 なんちゃって」
そう言いながら空になったドンブリを床に放り投げる。
睨む跳津を無視して黒士に向き直る納豆ゲーマー。
「おメーら、面白そうな事してんじゃない。 さすがは大黒様、やっぱ違うねぇ」
こいつ、俺達が命がけで足掻いているのをネタにしてやがる。 なんて悪趣味な奴だ。
黒士は、自分の顔が火照っていくのを自覚した。
「まさかネットゲーム内で流れている噂は、お前の仕業じゃないだろうな?」
「噂ぁ?」
白々しくおどける納豆ゲーマー。
「第二次世界大戦後に帰郷した男が神器を盗んで死んだ話だ。 故人を恥ずかしめる奴は、ネットゲームをやる資格は無いぞ!」
黒士の怒声が部屋中に響いた。
「うっせぇんだよバカ。 俺は天下のIチューブ様だぞ!? 自作自演なんて、みんなやってるっつーの! そんなんで泣く奴の方が馬鹿だっつーの! そもそもおメーが俺ん家の住所を特定したんだろうが! 違うか?」
そう叫びながら黒士に殴りかかろうとする納豆ゲーマー。
コーン
木こりが大木に斧を入れたような軽快な音が響く。
動きを止めた三人が、お互いを確認するように見た。
「い、今のは?」
慌てて部屋を出た黒士が目にしたのは、部屋の扉に穿たれた菱形の穴だった。