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歌の歌詞使えへんのか~~い(;∀;)
大量削除じゃ畜生
短編を書いていたつもりでしたけど7万字を越えてしまっているらしくシリーズ化で出します
めんどー
【鼻が潰れる】と言うのだそうだ。
ボクシングジムに通うような血気盛んな若者が、始めて鼻にまともにパンチを食らった時、途轍もない痛みが鼻から後頭部に向かって突き抜け、そしてジムの帰り道で誰もがこう思うという『もうボクシングは辞めよう…こんなに痛いんじゃ無理だ』僕はボクサーでもなんでも無かったので単純にこう思った。
『こんなに痛いのなら素直に金を渡そう』
この話の面白い部分は、ボクサーは一度鼻が潰れると、それ以降鼻にパンチを食らってもさして痛いと感じなくなるのだという。だから鼻の潰れた新人ボクサーに対して、ボクシングのトレーナーはニタニタと笑いながらこう言うのだそうだ。『鼻が潰れた?よしよし、これでお前も一人前だ』
あれ以降僕の鼻はどうなっているのか分からない。金を渡しているからだ。痛みを感じなくなっている?本当に?だからってそれを確認する気にはならない。そもそもどうやって確認すればいい?『もう一回殴ってみてくれないか』と樋口に頼むのか?そもそも潰れていなかったらどうするんだ?もう一度あの痛みを経験しなければならないなんて、想像もしたくない。鼻が潰れた時、一体どれくらい痛いか、あんたに分かるか?
しかし、今、僕の目の前にいるこの連中の全てに、鼻が潰れた経験があるかとなるとかなり疑わしい。あるとすれば、恐らく樋口と佐々木くらいだ。この二人だって怪しいもんだ。そして他の取り巻きは、樋口の影に隠れてイキがっているだけの木っ端に過ぎない。年齢も体格もさして僕とは変わらない。学年も、僕と同じ高校2年生だ。僕の捨て身のパンチが奴等の鼻に入ったら、恐らく卒倒するのではないだろうか?そうとも、樋口は分かる。佐々木も仕方が無い。しかしお前等は何だ?樋口と佐々木の二人がいなければ、お前達は僕に金をたかったりなどしないだろう。この腰巾着、小判鮫…金魚のフン野郎共!何故お前等はそっち側にいる?そして何故、僕はこっち側にいるんだ?最近は眠る前にコイツラの鼻面に右の拳を叩き込む妄想ばかりしている。井上尚弥のような、モンスターパンチだ。『次こそは…次こそはやってやるぞ。僕の鼻は潰れているはずだ。奴等のパンチなんか、もはや利かないっ!』そう固く決意するが、目の前に奴等がニヤニヤ顔で現れると、僕の闘志はすっかり萎縮してしまう。何故僕はこうも根性が無いのだろうか。小学校の時、教師に何か質問(4+8はいくつかな?)されたりするだけで顔が真っ赤になってしまう、極度の赤面症の男の子がクラスにいたが、彼の気持ちが今になってなんだか分かる。自分ではどうしようも無い、持って生まれた気質なのだ。殴られれば殴り返す奴もこの世の何処かにいるらしい。そして僕は、悲しい事に『殴られて金を出す奴』なのだ。しかしこうも思う。5人に囲まれている状況で、手痛い反撃を貰うのを分かっていながら、決死の覚悟で殴り掛かるのと、大人しく金を渡すの、いったいどちらが懸命だ?うん。分かっている。人によって意見は別れる。そして正直、僕の本音としては、5人だろうが、10人だろうが、樋口だろうが、ヒクソン・グレイシーだろうが、勇気を振り絞って、無駄に終わるかもしれない抵抗を試みるような男でありたいと思わなくもない。というよりも、むしろ自分がそういう人間であればと心の底から思う。『人が勇敢さを示す事が出来る唯一の瞬間は、恐怖に直面した時だ』と映画の中の英雄が言っていた。その通りだ。そして僕は、勇敢さを示す機会を逃し続ける事に長けていた。それが僕の持って生まれた気質だった。
『じゃあな』
樋口はいつも最後に別れの言葉を口にする。樋口はイケメンだ。韓流スターのようなタレ目と、サラサラの茶髪。女子からの人気も絶大だ。そしてそういう女子達が自分達に向けられたいと願っているであろう、甘い笑顔を浮かべて、奴は僕から金を奪った後、僕に別れを告げる。その別れの挨拶に、いったい何の意味があるのだろう?僕も『じゃあね』と返した方がいいのか?『出来れば次は2週間くらい開けて欲しいな、母さんの財布だけじゃなく、最近は父さんの財布からも金を抜くようになっているからね!』
夕食の食卓のテレビの優先権は僕には無い。基本は母親。父親が帰ってきている時は父親だ。そして父親はニュースを好む。別に構わない。僕が見たいアニメは、ネットの動画配信サービスで配信されている。昔のテレビはオンタイムで見なければならなかったという話だが、今の時代は飯を食べ終わって、風呂に入って、何もする事が無くなった後でゆっくりと番組を観賞する時代なのだ。それを便利だとは思った事は特に無いが、昔はなんと不自由だったのだろうとは、時々思ったりする。それはさておき、ニュースで一番厄介なのはイジメ問題が取り沙汰された時だ。さっきまで秋の風物詩の話をニコやかに喋っていた美人女性アナウンサーが、急に神妙な顔つきをしてこう喋りだす。『続いてはイジメ問題です』あぁ…と思う。やめてくれ…何故連続殺人のニュースじゃないんだ?何故大地震の話じゃないんだ?何故第三次世界大戦が始まった話じゃないんだ?何故宇宙人が侵略してきて、地球はもう駄目だって話じゃないんだ?何故…何故…何故イジメなんて…そんな酷い話を始めるんだ。僕の事が嫌いなのか?テレビの中の嘘つき連中共がイジメの話をし始めると、僕の身体は敏感に反応し、自分の身体の大きさが親指くらいになったように感じ、世界は全ての色を失い、母親が作ってくれたせっかくの料理は全ての味を喪失する。イジメ…イジメ…ミジメ…畜生…!僕が総理大臣になったらイジメをこの国から無くしてやる。そのためにまず学校組織を解体するんだ。『おいおいおい…ゴキブリやネズミを家から追い出すために、家を焼いちまうっていうのか?』そうさ。お前等の埒の明かない議論にはうんざりだ。僕はやる、それが国民に対する義務だ。そうだろう?好きにさせてくれよ。僕は今、僕が総理大臣になった時の話をしているんだから。僕が何をしようと、何を言おうと、僕の勝手のはずだろう?そしてだからこそ、僕は誰からも総理大臣になれとは言われない。そんな事は分かっている。
鼻が潰れた日から父親は僕に殆ど話しかけてこなくなった。思い当たる理由が実は一つだけある。僕の鼻が潰れていたからだ。樋口の右ストレートが僕の鼻にクリーンヒットして、僕は地面に倒れ込んだ。間違いなく、生まれてきてから一番の痛みだった。エイト!ナイン!テン!カンカンカンカン!カウントアウト。勝者は決まった。え?ファイトマネー?ファイトしてましたっけ?くそったれ…僕は財布に入っていた札を全部差し出した。硬貨は取られなかったから、帰りに氷と、キンキンに冷えたアクエリアスを買い、鼻を冷やそうと思ったが、痛すぎてそれどころじゃなかった。ボクシングのトレーナーならこう言うはずだ。『これでお前も一人前だ』そう言われたボクサーは多少は自分の事を誇らしく思うのだろか?しかし僕の父親は何も言わない。僕の父親はボクシングトレーナーではないし、僕もボクサーじゃないのだから。そしてボクサーじゃないというだけならまだしも、恐らく手酷いイジメを受けて、顔面が赤紫色に変色していたのだから。
『野球部のボールが突然飛んできて…』
必死に考えた嘘に対して、父親も母親も納得していない事はすぐに分かった。そして今よくよく考えると、そんな事になれば、学校側も何がしかの対処をするだろう。突然野球の球が生徒の顔面に直撃するなんて、安全管理の面でヤバすぎる。『どういう事なんですか?息子の顔を見て下さい!訴えますよ!』恐らく治療費はもちろんと、それと慰謝料も多少はもらえたりするんじゃないだろうか?しかし、僕の両親は、金を稼ぐこの機会を有効に使おうとはしなかった。何故だろう?知りたい?僕は知りたくない。そして、一番事の真相を知りたくなかったのは、他でも無い両親だろう。
『ごちそうさま』
食器をシンクにさげ、僕は自室に帰り、ノートパソコンを開いた。僕が好きなアニメの掲示板に、三日前から荒らしが住み着いてしまっている。大地震よ来い。第三次世界大戦よ起これ。宇宙人よ、地球人共を焼き尽くせ。