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4 女神から魔王へ

私はこの魔法の杖が気になり、どういった物なのかを詳しく調べてみた。

どうやら原理としては「充電池」と「火吹き竹」を合体させた物のようだ。

 

小さな魔力臓器からも、少量ではあるが魔力は放出されている。

人々は常に魔法の杖を所持しておく事で、放出される魔力を魔法の杖に仕込んだ「魔石」に溜め込む事が出来る。


この「魔石」は魔法研究の副産物であり、とある鉱石に特殊な加工を施す事で魔力を貯める性質を持たせる事が出来た。

正しく偶然の発見ではあったが、この魔石技術こそが新人類を大きく飛躍させることになったといえよう。


人々は魔石に魔力を溜め込み「火吹き竹」のように「魔力の濃度」を高める事で魔法として使う事が可能となる。

流石に攻撃魔法や回復魔法という高度な魔法を一般人が使うことは出来ないが、生活関連の魔法なら杖さえあれば誰でも使える。


そして魔法の杖には生活関連の魔方陣が既に描かれている。

その為、人々は魔法を使う時に呪文を唱えたり、魔方陣を描く必要は無いのだ。


しかし、杖を使っても魔法が使えない人々も居た。

生まれつき魔力臓器が無い人や、臓器が小さすぎて魔力を溜め込むのに時間がかかりすぎる人達だ。


そういった人達は既に魔力を充填してある魔石を買い、杖に装着する事で魔法を使う事が出来た。

その為、魔力臓器が大きい人は己の魔力を魔石に充填し、その魔石を販売するだけで生活出来るほどだった。


(なるほど、これは中々に興味深い)


私としても興味が沸いたので、この「魔力臓器」と「魔法の杖」を科学技術を用いて再現する事にした。


しかし、ドローンから得られる情報には限界がある。

原理不明な部分は、私の知り得る科学技術で穴埋めするしかない。


そんな試行錯誤の結果、多少歪にはなったが、なんとかレプリカを作り出す事には成功する。

培養液の中に入った「魔力臓器レプリカ」から魔力を作り出し、作り出された魔力を「魔法の杖レプリカ」に溜め込み「魔法陣レプリカ」に魔力を流す。


その結果、新人類が用いている魔法と殆ど同等の「現象」を発現する事に成功した。

そして魔法の杖レプリカから吐き出された炎を前に、私は思案する。


(まあ、どう頑張っても所詮はレプリカに過ぎないのだが……。

実際に新人類の体内でどのような反応が起こっているのかは、解剖しない限りは分からない。


……だが、とりあえず魔法の再現はできた。

現時点では、これで良しとしよう)


その後、私はレプリカを使って「科学で再現した魔法」の研究を続けた。


(どうやら魔法陣を改良すれば、そこそこの能力を出せるようだ。

とりあえず何が出来るのか実験を繰り返そう。


しかし、実験するには魔力が足りないな……)


最終的に私は魔法の研究をする為に魔力臓器レプリカを大量に作り出し、電池を直列接続するように臓器をつなぎ合わせる事にした。

 

新人類が持つ魔力臓器は一見して小さな心臓のような形をしている。

別に血の循環をしているわけではないのだが、この臓器は鼓動しているのだ。


そんな魔力臓器の大きさは「優秀な魔法使い」であっても精々親指の先程の大きさであり、一般人の場合は大豆程の大きさしかない。

その程度の大きさでは役に立たないので、レプリカはサッカーボール程の大きさにまで巨大化する事にした。


完成した魔力臓器を一列に並べると、ドクンドクンと鼓動を続ける大量の臓器が並ぶ事になる。


(培養液に入った大量の魔力臓器レプリカが並ぶと、まるでマッドサイエンティストになった気分だ。


……いや、実際、やっている事はマッドサイエンティストに近いかもしれない。

魔法というオカルトを科学技術を用いて真面目に研究するなど、旧人類の科学者が聞いたら鼻で笑うだろう。


……まあ、これだけレプリカがあれば魔力に関しては問題無い。

では、計画通りに魔法の研究を進めよう)


それから私は魔法陣も集積回路の技術を応用して複雑に、そして高度に作り直す。

更に呪文も改良し、もはや普通の人間では絶対に発音出来ない音域を使う事で、それなりに高度な魔法を生み出せるようになった。


その結果どうなったかというと、私は火星に移動することに成功した。

科学技術で言うところの「ワープ」に近い魔法を生み出す事に成功したのだ。


(まあ、魔法の多様性に多少は感動したが……、正直言って魔法は私の性に合わないな……。

それなりに便利なのは事実だが、魔法で出来る事は全て科学技術でも再現可能だ。


更に言えば、魔法は「フワフワした感じ」がする。

技術的に安定しておらず、どうしても不安要素が大きい。


それならば、使い慣れた科学技術の方が私としては扱い易いと感じるのも仕方ないだろう。

「充分に発達した科学技術は魔法と見分けがつかない」とはよく言ったものだ)


……さて、私生活話が長くなってしまった。いい加減、新人類の話に戻ろう。


長い研究の結果、耳長族以外も魔法を使えるようになったが、どうやら耳長族の使う「魔法」と耳長族以外が使う「魔法」は「似て非なる魔法」のようだ。


簡単に説明するなら、効率が段違いなのだ。


耳長族が100の魔力を使って魔法を発動した場合、約90程の魔力が魔法となる。

しかし、耳長族以外が使っている魔法は100の魔力を使って魔法を発動しても20~30程度の魔力しか魔法にならず、他の魔力は変質した後に体外に排出されてしまうのだ。


まあ、耳長族の魔法は森の中でしか使えず、戦闘関連の魔法が多い一方で、耳長族以外の魔法は世界中どこでも使えるし、日常関連の簡単な魔法も開発されている。

もし区別するならば耳長族の魔法は「古代魔法」であり、耳長族以外の魔法は「現代魔法」というべき物なのかもしれない。


そんな現代魔法を使いこなす新人類は、日常の様々な物に応用していく。

もちろん航海技術にも魔法は応用され、原始的な帆船の代わりに魔法を原動力とした魔法船が開発された。


そして何隻もの巨大な魔法船が作られ、新人類の活動範囲は一気に広がる事になる。

大海原を進む海路も作られ、そのうちのいくつかは人工島を目印に海を進んだ。

その結果、最近では人工島の直ぐ側を巨大な魔法船が通る事が増えたのだ。


最初の頃は私の事を「死神」と教育された人々も多かったが、世代を進むたびに私を「女神」として扱う船乗りも増えてきている。

最近では人工島外周部を散歩をしている私を見かけると、船乗り達がワラワラと甲板に集まり大きく手を振って来るようになった。

中には投げキッスする者や、手を合わせ航海の無事を祈る船乗りまで居る。


まあ、私から彼らに何かをする事はなかったが、彼らはそれで満足なようだ。

実際、港の酒場で船乗り達が、


「俺さ! 女神様に微笑んでいただけたよ!」

「はん! 若造が! ワシなんて手を振ってもらえたぞ!」

「バッカ! 俺なんて投げキッスしたら投げキッスを返された事があるんだぞ!!」


と騒ぐ事も増えた。


一応言っておくが、私は彼らに対して微笑む事は無かったし、手を振る事も、ましてや投げキッスなんて一回もしていない。

彼らが勝手に思い込んでいるだけだ。


そしてその内、人工島に現れる船に特殊な船が混ざるようになった。

今までの船は漁場等に行く途中で人工島を通り過ぎるだけだったが、その特殊な船は人工島を目指してやって来る。


そんな彼らの正体は各国から派遣された神官や占い師だ。彼らは人工島から少し離れた場所に停船すると、


「女神様! どうぞお受け取り下さい!」


と叫ぶ。

すると見目麗しい少年少女達が、重りを抱いて海へと飛び込むのだ。


それは異様な光景ではあった。

彼ら彼女らは嬉しそうに微笑みながら次々と海へ身を投げる。


(……まあ、これが彼らの選択ならば致し方ないだろう。

私に彼らの行為を止める理由などないのだから……)


その後、神官や占い師達は麻薬の一種を飲み込み、巫女と共に甲板で不思議な踊りを一晩中踊り狂ってから帰っていく。

国に帰った彼らは、


「女神様から伝えられた事」


 として国や教会に様々な報告をするのだった。


もちろん私は何も助言なぞしていない。

だが、彼らはまるで私の言葉のように無いこと無いこと報告している。


隣国とは戦争をするべきだとか、あの山を掘れば金塊が埋まっているだとか、これとこれを調合すれば不老不死になれる薬を作れるとか……。

そしてそれらの言葉を元にして、教会の方針が決まり、国家政策が作られていく。


(……それなりに国家の規模も大きくなっているのに、国家の行く末を決めるのが占い頼りというのはいかがなものだろうか?

過去の出来事を参考にして知識を身につけ、それによって未来を予測するという当たり前の行為を放棄しているようにしか思えない。


……まあ、人も国も試行錯誤を繰り返して成長していくのだろう。

もし失敗して死んでしまったり滅んだりしても、それはそれで一つの立派な結果なのだから……)



その後も私は観察を続けていたが、世界に異変が起こり始める。

この頃から、新人類以外の動物達が暴力的に進化を始めたのだ。


例えば小さなネズミは世代が進むにつれて凶暴化、巨大化していった。そして体毛は全て抜け落ち、肌の色は緑に変色し、二足歩行を始め、こん棒や石を持って新人類を襲い始めたのだ。

もちろん変化したのはネズミだけではない。様々な動物や虫、魚、果ては植物まで凶暴化し始めた。


新人類は軍隊をもって対処したが、次第に軍隊だけでは対処が追いつかなくなる。

すると今度は民間から協力者が現れた。


新人類は彼らを「冒険者」と呼び、一種の職業として凶暴化した動物を処理していく。

各国は凶暴化した動物を「魔物」と呼び、魔物を処理した場合は報奨金を出したり、部位を市場に流すことで冒険者の収入を支えた。


しかし魔物の数は減る事は無く、むしろ増え続ける。

新人類は強力な魔法を開発し、これに対抗した。


炎を出して魔物を焼き払う魔法はもちろん、己の肉体を強化したり、魔物を弱体化したりと魔法の幅はドンドン広がっていく。

しかし、それと比例するかの様に段々と魔物達は増え、強くなっていった。

どれほど大規模な魔物掃討作戦を実行しても、翌月には掃討前より魔物の数が増えているのだ。


新人類が魔物に頭を悩ませている時、私は魔物の発生原因を調べていた。

まあ、ドローンから得られる情報を整理するだけで原因は理解できた。

魔物の発生原因は「魔法」そのものだったのだ。

 

魔法を使うことで大気中に「魔力のカス」つまりは「汚染物質」が発生していた。

その汚染物質を動植物が吸引する事で、動植物は魔物化していたのだ。


特に現代魔法は魔力変換効率が古代魔法に比べて極端に悪い。精々30%程度の変換効率であり、70%近くの魔力が魔力カスとして体外に放出されてしまう。

その為、現代魔法を積極的に使う大国ほど魔物に苦しめられた。


では動植物が魔物になるのに、どうして新人類は魔物にならないのだろうか?

それは、魔力臓器が汚染物質から体を守っているからだ。


魔法を使えない者であっても、臓器として体内に備わっている限り魔物になる事は無い。

例え体内に魔力カスが入ろうとも魔力臓器が栄養として吸収してしまうため、魔物になる事が無いのだ。


確率は相当に低いが、生まれつき魔力臓器を持たない者や後天的に魔力臓器を失った者が魔力カス濃度の極めて濃い場所で半世紀以上も生活すれば魔物になる可能性はある。

しかし、それは一種の奇病という事で新人類は処理していた為、誰も気が付いていなかったのだ。


(旧人類も大気汚染や水質汚染、土壌汚染には苦労した……。

これは、新人類に与えられた試練の一つなのだろう)


私は新人類が汚染問題をどのように乗り越えるのかワクワクしながら観察を続ける。

すると新人類は世界会議を開催し、世界中の知識人を招いて魔物に対する抜本的解決方法を話し合う事にしたのだ


 広い会議室で彼らは必死に議論を続ける。


「何故魔物は生まれたのか?」

「一体魔物は何をする為に存在しているのか?」

「人類はどうすればいいのか?」


 既に会議は何日も続いているが、明確な答えは得られていない。

 もし、私がその会議に参加していたならば、


「魔物は現代魔法が原因で生まれた」

「魔物は体内で汚染物質である魔力カスを浄化しており、彼らのお陰で地球の自然環境は維持されている」

「魔物の発生を防ぎたいのならば、魔法を使うことを即時停止し、汚染物質が出ない魔法、もしくは汚染物質を除去する方法を検討するべきである」


 と助言していたであろう。


 もちろん私に会議への招待状は届いていないし、例え招待状が届いたとしても参加するつもりはない。

私は会議室に潜り込ませたドローンから送られてくる情報を興味深く感じていた。


 すると、会議は変な方向に進み始める。


「この魔物達は人知を超えた力を持つ何かが作り出している違いない」

「その者は神の力を持つ者に違いない」

「では女神様が何らかの理由で我々を苦しめている可能性が高い」


段々と会議は、


「女神が魔物を作り出して人類を苦しめている」

「人々を苦しめる存在を女神として扱うべきではない」


という結論に近づいていった。そして最終的に、


「女神が全ての魔物の発生源であり、この会議以降「女神」は「魔王」と呼称する」


という事が決定したのだった。


その結論に、私は震えるしかなかった。

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