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23 久しぶりの我が家


長い時間が経過し、私は久しぶりに人工島へと戻ってきた。

実際、宇宙全域の経過時間としては0秒なのだが、私にとっては長い時間が経過していたのだ。


「……ふぅ……」


人工島に足を踏み入れた私は、小さくため息を吐き出す。


(……流石に、少しだけ疲れた……)


私が飲んだ毒液は、地球の海よりも遥かに多い。

私が流した血は、太陽すらも消火してしまうだろう。

私の目玉は何度も床を転がり、体は切り刻まれ、肉は焼かれ、骨は砕かれ、体は徹底的に辱められた。


その間、私は謝罪を続けた。

そして、彼らの憎悪を味わい続けたのだ。


「もう、二度と経験できないのだろうな……」


彼らは考え付くありとあらゆる手段を用いて、私に憎悪を向けてきた。

しかし、私に憎悪を向けていた人々は、最後には泣きながら許してくれたのだ。

そして私を抱きしめ、彼ら彼女らは感謝の言葉を口にした。


「貴方のお陰で、私は救われたわ」

「……ありがとう、ありがとう……」

「こんな事を言うのはおかしいんだが……、どうか体に気をつけてくれ」


これで、地球人が犯した罪の償いは出来たのだろう。

事実、彼らの心からは憎悪の炎は消えていた。


(……しかし、しかし……。

……もう、あれ程の憎悪を味わう事は出来ないと考えると……)


「……少し……残念だな……」


私は少しだけ悲しそうな顔をしながら我が家へとたどり着き、用意されていた茶を口にする。

そして、久しぶりに毒ではない液体を体に入れた。


「……あぁ……美味しい……」


微笑む私を、柔らかな日差しが包み込む。

花々は小さく風に揺れ、甘い香りを運んでくる。


それはまさに「平和」とでも言うべき光景だろう。

そんな光景の中で私は残念そうに小さくため息を吐き出すと、日課となった散歩に出かけるのだった。






それからしばらくして、私が賠償として惑星連盟に渡した記憶媒体の解析が終了する。

解析したデータを見た連盟の学者達は、驚愕するしかなかった。

そして「起こされた化け物」が今一度眠りについた事に歓喜したのだ。


それからというもの、惑星連盟は手に入れた技術を使いこなし、新しい「宇宙の春」を迎える事となる。

星々は競う様に新技術を学び、活用し、改造していった。


この事件を境に、連盟は実感する。


「地球には、手を出してはいけない」


と。


こうして、私は地球を守ったのである。




「これで、新人類の発展を阻害する者はこの世に存在しない。

君達は、好きなだけこの世界を楽しむことが出来る」


私は散歩の途中で立ち止まり、輝く世界を眺めながらつぶやいた。


「君達には、多くの困難と喜び、怒りや悲しみが待ち受けているのだろう。

しかし、何も恐れる必要はない。


君達の生きざまは、どれもこれもが誇り高く、美しいのだから。

君達の生きざまは、どの瞬間も輝かしく、力強いのだから。


こんな私に言われても、嬉しくないかもしれない。

しかし、こんな私だからこそ言えるのだ」


私は薄いバリヤーを触り、海の向こうで暮らす新人類を感じながら微笑む。


「君達の行く先には深い深い闇が待ち受けている。

君達の行く先には多くの困難が待ち受けている。

しかし、そのどれもが君達を輝かせる。


これから君達は苦しみ、悲しみ、怒り、恨み、憎しむだろう。

しかしどんな事態になろうとも、君達は喜び、笑い、愛し合うのだろう。

そして、君達は未来へと歩んでいくのだ。


ああ、なんと素晴らしいのだろう……。

ああ、なんと美しいのだろう……。


それがどんな未来であろうとも、私はここから感じ続けよう。

破局を迎えようとも、繁栄を謳歌しようとも。

それらすべては、君達が手に入れた未来なのだから。


さあ、さあ、踊れよ新人類。歌えよ新人類。

君達の未来は、君達しか掴み取る事が出来ないのだから」




私は微笑みながら、この世の観察を再開した。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 俯瞰視点での物語だけどとても感情移入できる作品 [気になる点] 原作の方も読んでますのでそれも踏まえていえば、 原作は一時宇宙からの攻撃から守るという少女自身の行動があったもののその後長い…
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