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15 攻撃が当たる少し前の私

「また、防衛線を突破するとは……。

ここまで人工知能を手玉にとって戦うパイロットが居るなんて、想像もしていなかった」


私は戦場の様子が表示されているディスプレイを見ていた。

そこには一機の戦闘用ロボットが表示されている。

そのロボットは既に私が乗っている旗艦の目と鼻の先まで来ているのだ。


本来、こんな場所に来る前に撃墜されているはずなのだが、この機体はどうやら特殊な機体のようだ。

地球艦隊を指揮している人工知能は敵戦闘ロボットの基本データを記憶し、それに対応するようにミサイルやビームを撃っている。


その為、大半の連盟ロボット達は私の艦隊に接触すると同時に撃破されている。

しかし、この機体は他の機体とは全く異なる性能を持っている。

他の機体よりも明らかに高性能な機体は、恐らくエースパイロットが操縦しているのだろう。


人工知能が敵機の回避パターンを記憶し終える頃には、新しい回避パターンを繰り出すので処理が追いつかない。


実際、この機体にドローンを進入させるのは本当に苦労した。

まるでネズミのように、ちょこまかと動き回るのだ。

旧式の人工知能では処理するのに時間がかかるのも納得してしまう。


戦闘ロボットには一人の男が乗っていた。

ボロボロになった歯を噛みしめ、私に対して確固たる敵意を向けている。

そこには、恐怖や不安といった感情は一切無い。


まるで生きるナイフのようなパイロットだ。

敵を切る事しか出来ないが、どんな状況になろうとも敵を切り裂こうと前進してくる。

そんな切れ味の鋭いナイフのような男は、血の涙を流しながら機体を制御している。


「ああ、また防衛線を突破した!

私の艦隊を動かしている人工知能が焦っているのが手に取るように分かる!

凄い! 素晴らしい!

ひょっとしたら、ここまで来られるのではないだろうか?!


……しかし……、来てどうするのだろうか?」


男の機体には一切の武装が無く、彼自身もナイフすら持っていないのだ。


(これでは私の戦艦に体当たり位しか出来ないではないか?

その程度の攻撃ではこの巨大な旗艦に傷をつけるなぞ、夢のまた夢だ。


もちろん彼もそれを承知なのだろうが、では一体どうやって? 何をしようというのか?

確かに私を殺そうとする強い意志を感じるが、彼に武装は無い。

彼の行動は矛盾している。


だが、一見すると矛盾している様な事には、深い意味がある事を私は知っている。

恐らく、彼には秘策があるのだろう。

暗黒の宇宙で強い輝きを放つ男がどんな秘策を持っているのだろうか?)



「ああ、ワクワクする!

ああ、興奮する!


さあさあ! 君の秘策を私に見せてくれ!

早く早く! 私の前に現れてくれ!


君の燃えるような殺意を! 君の凍えるような憎悪を! 早く私にぶつけてくれ!」



まるで中身の見えないプレゼントを貰うかの様に、私はディスプレイに注目していた。

そして終に、彼は私を見つけ出す。


既にロボットはボロボロだ。

エンジンは後10分程度で爆発するだろう。

いや、それより先に穴だらけの機体が空中分解するだろうか?


彼は必死に通信をしている。

耳を澄ますまでも無く、その全てが私の耳に届く。


彼の願い、想い、決意、そして秘策……、その全てが私の耳に……、そして私の心に……、届いた。




(ああ、そうか。

君もか。

君も……、そうなのか……)


私は余りの興奮に叫び始める。


「何故なんだ!

何故!! 私をそこまで惹きつける!!?

一体誰が知っていただろうか!?


純粋な敵意が! ここまで心地よいなんて!

揺るがない殺意が! ここまで温かいなんて!!

確固たる決意が! ここまで私を魅了するなんて!!


君は言うだろう! 俺を撃てと!!


早く言ってくれ!! そして私を攻撃してくれ!!

頼む言わないでくれ!! 投降してくれ!!


ああ! 君の決意が実を結ぶ瞬間が見たい!!

ああ! 君の意思が宇宙から消え去るのを感じたくない!!


嫌だ!!

素敵だ!!


感じる! 君の後ろからやって来る膨大な量の殺意が!!

聞こえる! 君の最後の声にならない囁きが!!!


君達の想いが! 私に近づいている!!」


次の瞬間、男の機体は爆散し、旗艦に攻撃が直撃した。



既に惑星連盟軍の総数は当初の3割り近くまで落ち込んでいたが、それは数百万隻という残存艦隊の総力を挙げた攻撃だった。

巨大な塊となったビームは、攻撃の直線上に存在していた地球軍の戦艦を何隻も沈め、勇敢な男の乗る機体を撃破すると、私が居る旗艦に直撃したのだ。


直撃した膨大な量のエネルギーに旗艦のバリヤーは必死に耐える。

しかし、何重にも展開された強力なバリヤーであったが、彼らの想いは、その全てを突破した。

彼らの敵意が、男の決意が、私が居る艦橋に直撃したのだ。



それは、すさまじい衝撃であった。

バリヤーを突破した大量のビームは艦橋の装甲に穴を開け、私が居る司令室に爆発を起こした。

様々な部品が飛び散り、司令室の中はグチャグチャになる。


しかし、その直後から旗艦は己の修復を始める。

黒煙をあげる司令室は即座に修復が始まり、飛び散った部品は回収され、破壊された回路とは別の回路が接続されてディスプレイは復活する。

装甲に出来た小さな穴も修復され、攻撃が直撃した数分後には、旗艦にダメージは残っていなかった。



……そう……、「旗艦に」ダメージは残っていなかった。

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