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14 第2ラウンドとエースの活躍

「……やはり、駄目か……」


送り出した最後の戦艦が撃破されてしまった。

もっと耐えると思っていたが、実際は短時間で殲滅されたな。

敵の10倍の数を揃えても、そもそも戦艦の性能が違いすぎる。

どうやら惑星連盟は地球軍が残した戦艦を相当改造したようで、主砲の数が増えていたり出力が大幅に上昇していた。


更に言えば戦闘ロボットの有無が大き過ぎる。

どうやら敵のパイロットは良く訓練されているらしく、たった一機の戦闘ロボットが宇宙戦艦を何隻も沈めてしまうのだ。

この事態に対応する為、私も戦闘ロボットを生産しようと考えているが、どうしても設計図が見つからない。

どうやら、末期の地球軍は情報管理が適当だったようだ。


「……ああ、ご先祖様……。

せめて、宇宙を去る時には戦闘ロボットだけでも爆破処理しておいて下さい……。

今、こうして子孫が苦労しています……」



私は愚痴をこぼしながら、現状の確認を急ぐ。


やはり最大の問題は作戦で、単純に生産された戦艦の数が多過ぎる。

大量に居る戦艦の一隻一隻に指示を出すのは、私と言えども面倒くさい。


まあ、この作業はさっきサルベージした地球軍の人工知能に任せれば良いだろう。

この人工知能は戦争に特化された人工知能であり、作戦の立案から補給の管理までこなしてくれるのだが、あまりに古い人工知能だった為、埋もれたデータを見つけるのに時間がかかってしまった。


そして、今回の戦闘によって敵戦艦の性能も理解できた。

その殆どの性能はノーマル戦艦を上回っており、良くぞここまで改造したと褒めたくなる位だった。

私は得られた情報を元に、宇宙戦艦を改良する。

そうして開発された改良型戦艦の生産も、既に開始されている。


戦闘準備が進む中、私が特に注目した情報は敵艦に搭載された「弾薬量」だ。

今回の戦いで連盟艦隊が所有している弾薬量の目処を付いたので、次の戦いでは改良型戦艦を連盟艦隊が所有している総弾薬量の100倍ほど生産して最前線に送り込む事にした。


弾の数よりも多い戦艦を送り込めば、負けることも無い筈だが……、最悪の場合を想定して生産体制は強化した方がいいだろうか?

ひょっとしたら今回の改良型戦艦でも、負けてしまう可能性もある。

そうなった場合に備え、図面の更新システムと戦艦の生産体制だけは維持しておこう。


私がそんな事を考えているうちに、生産された改良型戦艦が次々と最前線に転送されていく。


(今回は、私も最前線に行くとしよう。

その為に私が乗る旗艦まで用意したのだから、特等席で彼らの戦いを観察しようじゃないか。

この旗艦は古い技術を使った物ではあるが、まあ、壊れたりはしないだろう。

……しかし……・、昔はこんなに脆弱なバリヤーを使っていたのか……)


日々、人工島に張られた強力なバリヤーに守られる生活に慣れてしまうと、なんというか裸で宇宙に放り出されるような感覚に陥ってしまう。


(……そうだ……、いっそ今回は地球軍の制服でも着ようか?

一応は戦いなのだから、それなりの服装をする事も最低限の礼儀として必要があるだろうし……。

……さて……どれを着ようか……、地球軍の制服の中では一番動きやすそうな……、少尉の制服でいいだろうか?)


私は制服のデータをサルベージし、己のサイズぴったりに作った真っ白な制服に袖を通す。


(なんだか引き締まった様な気分だ。

これが軍人達の気分なのだろうか?

まあ、それも戦場で分かるのだろう)


軍服姿となった私は、徐々に暗くなる空を見上げる。


(……ああ、やはりこうなってしまったか……)


今回の戦いに備えて宇宙に転送した改良型戦艦の数が多過ぎた。

あまりに膨大な戦艦が太陽光を遮り始めてしまった。


(とりあえず地球の自転と公転に影響が無いように戦艦を転送したが、このままでは地球だけでなく太陽系の他の星にも影響が出てしまうだろう。

何とか人工重力を利用して、各惑星の衛星軌道に影響が出ないようにしないといけないか……。

いや、それより先に地球の自然環境に配慮すべきか?)


そんな事を私が考えている間に、宇宙に展開した改良型戦艦は起動する。

すると戦艦のエンジンが発する紫光によって空全体が紫色に輝き始めたのだ。


(これは美しい。

まさか空が紫色になるなんて、思ってもいなかった。


……随分と大事なってしまった……)


そして私は、紫色の空を見上げながら生まれて初めて気合を入れる。

頬をペチペチと叩き、連盟艦隊に視線を向けると、高らかに宣言した。


「では、惑星連盟の諸君。第二ラウンドを始めようか」





「ん? なんだこりゃ?」


惑星連盟軍のレーダー員が首を傾げた。

すると、彼の隣に居た同僚が話しかける。


「どうしたよ?」

「いや……、なんかレーダーが故障したっぽいんだ」

「はぁ? こんな時に故障かよ。一体どんなエラーが起こったんだ?」

「エラー表示は無いんだが……、ちょっと見てくれよ」


彼が席を譲り、同僚がレーダーディスプレイを覗き込む。

そこには、上部から赤い帯が徐々に現れ始めていたのだ。


「なんだこの赤い帯は?」

「さっぱり分からん。画面の上に突然現れて段々と下の方まで来るんだが、消せないんだよ」

「あ~~~、こりゃ故障だな。ブルー画面ってのは時々見るが、レッド画面ってのは珍しいな。記念撮影しとくか?」

「馬鹿言うなよ。全く、これじゃ仕事にならん」

「ハハハ。まあ確実に故障だろうし、今回は他の艦に情報を提供して貰えばいいさ」

「それしかないか。あ~あ、俺も活躍したかったのに、レーダーが回復するまでお休みか~~」

「腐るな腐るな。地球に到着するまでには修理も終わるさ」


同僚はケラケラと陽気に笑いながら、他の艦に事情を話して情報提供を頼んだ。


しかし、それは叶わなかった。

何故なら、他の艦でも同様の現象が発生していたからだ。




彼らは勘違いしていた。

「赤い帯」に見えた物……それは、「赤い点の集合体」であった。


「赤い点」……それは、「敵」を知らせる表示だ。

あまりに大量に現れた地球軍の改良型戦艦だったが、惑星連盟が改造したレーダーはその性能をフルに生かし、その全てを画面に表示していた。

その結果、「赤い点」は「赤い帯」になっていたのだ。


そしてその赤い帯は、着実に艦隊に迫っている。

これは、彼らがその事実に気がつく、少し前の出来事だった。



「撃て!撃ちまくれ!! 狙う必要なんか無い!! 前に撃てば当たる!!」

「クソ! もっと砲台にエネルギーを回してくれ!!」


「予備戦力を早く投入しろ!! 戦線が崩壊するぞ!!」

「とっくに投入している!! もう予備戦力なんか無い!!」


「増援を! 増援を!」

「誰か弾をくれ! もう弾切れなんだ!」


「機体が大破した! 着艦許可を!」

「ここらの空母は全部沈んだ! 他の艦隊に行け!!」



赤い帯が現れてからたった数時間で、惑星連盟軍はかなりの戦力を失っていた。

先ほどの戦いが嘘のように、地球軍は強力な戦艦を転送してきたのだ。


連盟戦艦の攻撃は地球戦艦には通用せず、逆に地球戦艦の攻撃で連盟戦艦は簡単に爆散していく。

分厚い対空砲火の前に、戦闘ロボットは接敵する前に次々と撃墜されていく。

そして何よりも地球艦隊は完璧と言っても良い陣形を取っており、全くスキが無い。


次々と戦線が崩壊していく中、連盟艦隊司令部は必死に作戦を立てて命令を送り続けている。

しかし、既に最前線では弾薬が欠乏しつつあり、司令部の中は阿鼻叫喚の地獄のようだった。


「今すぐ! 後方の補給艦隊を前進させて補給しろ!!」

「無理だ!! 補給艦隊の護衛にまわせる艦は一隻も居ないぞ!」


「味方より入電! 「我、既に戦力なし! 撤退の許可を願う!」 クソ!! こんな通信しか来ないぞ!!」

「既に艦隊戦力の3割が壊滅している! 陣形を維持することなど不可能だ!!」


参謀も司令も顔面蒼白となりながら、己の使命を果たそうと必死に命令を送り続ける。

どうやら惑星連盟は残存艦隊を一箇所に集結させ、艦隊の再編成を行おうとしているようだ。

その為、当初は太陽系を包囲していた惑星連盟艦隊は、今では逆に地球艦隊に包囲され始めている。


最早、連盟艦隊に残された退路は後方しかないが、後方には連盟補給艦隊が展開している。

彼らは足が遅いため、どうしても蓋の様に連盟艦隊を閉じ込めてしまうのだ。

これでは連盟艦隊は後退も出来ない。

そんな絶望的な状況下でも、彼らは必死に戦い続ける。


「クソが!! こんな分厚い弾幕初めてだ!!」


絶望的な状況下、一機の戦闘ロボットが猛烈な弾幕の中を突き進む。

その一機の後ろから、何機かの戦闘ロボットが続く。


「隊長!! これ以上は危険です!!」

「もういい! 俺についてくるな!! お前達は退避しろ!!」

「しかし! 隊長一人でこの先に行くなんて!」

「俺なら行ける!! 地球のクソ野郎に連盟の意地を見せ付けてやる!! 早くお前らは退避しろ!!」

「りょ、了解! 我々は退避しm……」


次の瞬間、後方に居た筈の機体の信号は消え去り、無線からはザーという音が響いた。

隊長と呼ばれた男はその音を聞き、歯を食いしばる。


「畜生!! お前ら!! 先に逝って待ってろ! すぐに俺も逝く!!」


この男は惑星連盟に並ぶ者無しと言われているエースパイロットであった。

その為、与えられた機体も専用機であり、全ての性能がノーマル機の数倍という驚異的な機体に乗っているのだ。

しかし、人体に与える衝撃も強烈であり、この男以外では誰も乗りこなせないモンスターマシーンでもあった。

そんな機体を操り、男は地球艦隊のど真ん中を突き進んでいく。


暗いはずの宇宙が男の周りだけ輝いている。

無限とも思える地球軍の戦艦が放つビームが彼を狙うが、彼は紙一重でそれらを回避しながら前進していく。

彼は地球艦隊の親玉を捜しているのだ。


最早、惑星連盟が勝利する可能性が無い事を男は理解していた。

それでも、せめて一矢報いたかったのだ。


その為、この機体には武装が無い。

どうせ命中しても効果が無い武装ならば、外した方が機体性能は上がる。

男は戦闘ロボットから全ての武装を外し、身軽になった機体を縦横無尽に操っている。


男には秘策があった。

その秘策を実行するためには、どうしても敵の親玉……つまり旗艦の位置を知る必要があったのだ。


既にレーダーは役に立たない。

赤い点として表示されるはずの敵がレーダーを埋め尽くし、表示画面はただ赤く光っているだけだ。

男は己の肉眼を動かし、全ての攻撃を回避しつつ、敵旗艦を探す……、そんな神業的な操縦をしているのだ。


「どっちだ!? どっちの弾幕が分厚いんだ!?」


男は周囲を凝視し、より弾幕が分厚い方向へと突き進んでいく。


「この先だ! この先に旗艦が居るに違いない!! だから弾幕が他よりも分厚いんだ!」


激しく揺れるコックピット内で、男は絶叫する。


男の周囲では、弾幕は激しさを増していく。

既に戦闘ロボットはボロボロだ。

戦闘ロボットは右足を失っている、左腕を失っている、エンジンは赤熱し、各種センサーも大半が壊れている。


しかし、男は進み続ける。


そして終に男は見つけた。

周りの戦艦よりも明らかに巨大な、白く輝く地球軍の旗艦を。


「俺だ!! 敵旗艦を発見した!!」


男の通信に、連盟艦隊が答える。


「了解!!! くそっ!! レーダーが役に立たない!! 砲撃するので観測をしてくれ!!」

「そんな余裕は無い!! だが安心しろ!! 俺の位置は分かっているんだろ?!」

「もちろんお前の位置は分かるが……まさか!?」

「総司令に伝えてくれ!! 攻撃目標は俺だ!! 全火力を俺に向けてくれ!! 必ず敵旗艦に命中させてやる!!」

「そんな事したら! お前!!」

「最後くらい綺麗な花火になりたいんだよ!! 攻撃の合図は俺が送る!! 準備してくれ!!」

「クソ!! ああ!分かった!! 了解した!! 砲撃準備は万全だ!! いつでもいけるぞ!!」

「ありがてえ!! あと少し!! あと少しなんだ!!」


男は地球軍の旗艦を睨みつけ、雄叫びを上げる。

死線を潜り抜けてきた彼の髪は色を失ない、目からは血涙が流れ、噛みしめた歯はボロボロになっている。

しかし、それでも彼は引かない。


エンジンは最大出力を維持しており、モンスターマシーンは悲鳴をあげ続けている。

機体には振動が広がり、いつ空中分解してもおかしくない。

だが、男は突き進む。


そして終に、男は旗艦を真正面に捕らえた。

その瞬間、彼は絶叫する。


「今だああああああ!! 撃てええええええええ!!」


男の合図を待っていた連盟の残存艦隊は、その全火力を彼の機体に向けて放った。

放たれたビームは地球軍の戦艦を次々と沈めながら、彼の機体へと迫る。

後方から近づく味方のビームを感じた彼はニヤリと笑うと、音の無い声を発した。


直後、男の機体は光に包まれ、機体共々、彼はこの世から消え去った。

そしてその光は直進し続け、巨大な戦艦の艦橋に命中したのだった。

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