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13 初陣

……さて、惑星連盟についての説明が長くなってしまった。

ここで私が人工知能から報告を受けた時まで時を戻そう。


全ての報告を終えた人工知能は沈黙したが、一方で私は困惑していた。

そこで私は目の前に表示されている立体映像を凝視しながら思案を続ける。


(既に地球軍は解体されているのに、何故、地球軍の艦隊が太陽系を包囲しているのだろうか?

ひょっとしたら他の星で生きていた地球人が地球に帰ってきたのだろうか?


……にしても数が多すぎる。

それに戦艦で帰ってくる必要なんか無いだろう)


そこで私は目を凝らして太陽系の果てを直接見る事にする。

そこには、巨大な艦隊が見事な陣形を組んで展開していたのだ。


(……やはり、これは地球軍の戦艦だ。

黄昏の時代に入る直前の時期に作られた地球軍の戦艦に間違いない。


……ん?

よく見ると、装甲に描かれた識別マークが地球軍の物ではない……?

これは……、確か……、データが残っていたはず……。


……ああ、惑星連盟か。

まだ存在していたんだな)


私が耳を澄ませて艦隊の無線を傍受すると、彼らの使用言語は惑星連盟が共通語として利用していた言語であることが分かった。

これで、あの艦隊は惑星連盟の物である事は、ほぼ確実と言っていいだろう。


(しかし……、一体何をしに来たんだろうか?

地球観光でもする為に来たのだろうか?


……にしては全員が殺気立っているし、そもそも戦艦に乗って観光には来ないだろう)


普通回線の傍受だけでは細部まで解らなかったので、私は更に耳を澄ませて秘密回線も聞いてみた。

その結果、彼らが地球に復讐に来たという事が判明したのだ。


(どうやら彼らには長年の恨みが積もっているらしいな。

まあ、彼らの気持ちも理解出来なくも無いが……、それは困る。


そもそも、私が産まれたのは黄昏の時代に入ってから大分経った時代だ。

今更、遠い遠い昔の因縁をつけられても対処が出来ない。


しかし、彼らは攻撃準備を進めている。

このままでは地球は宇宙の塵となってしまうだろう。


私だけが住んでいるなら地球が吹き飛んでも特に問題は無いが、地上には愛すべき新人類が居る。

このままでは、新人類にとっては寝耳に水といった滅亡になってしまう)


私としても、観察対象が居なくなっては人生に張り合いがなくなってしまうので、可能な限り攻撃は阻止したい。

その為には彼らと戦う必要があるのだが、そこには大きな問題があった。

それは、


「私は産まれてこの方、他人と争った経験が無い」


という事だ。


産まれて一度だって喧嘩をした事が無いし、討論すらもした事が無い。

それを平和主義というのは簡単だろうが、単に争わなくとも生きて来られたからに過ぎない。


家の中でじっとしていだけで人生を送る事が出来たのだ。

隣人とも会話どころか挨拶の一つもした事も無い事が、その証明となるだろう。


そんな私が戦う……それも何かを守る為に戦うというのは、中々に難しい。

そもそも、私には戦力が無い。

一応、地球軍が使っていた宇宙戦艦の図面は残されているが、それは黄昏の時代に入ってから一度も更新されていない太古に描かれた図面だ。


簡単に言うと、かなりの旧式戦艦の図面という事になる。

軽く図面を見たが、恐ろしく古い技術で作られている事がわかった。

基本的に兵器というのは良く言えば「安定した技術」悪く言えば「枯れた技術」を使って開発される事が多い。

つまり、この戦艦は作られた当時から見ても、安定していて枯れ果てた技術で作られていた事になる。


軽くシュミレーションしてみたが、この戦艦の演算能力は相当低い。

多分数万隻程度なら演算能力を合計しても、私の暗算より遅いだろう。


惑星連盟も地球軍の戦艦を使っているが、外見を見る限りでは色々と改造している可能性が高い。

という事は、何の改造もしていないノーマル状態の戦艦では勝てないかもしれない。


更に悪い事に、地球軍ご自慢の戦闘ロボットの設計図が見つからない。

あの量産機の有無は戦況に大きく影響するので何とか見つけ出したいのだが、軍事に関する情報は長い間放置していた為、私もどこにどんな情報があるのか完全には把握していないのだ。


そして戦力以外にも問題はある。

一番の問題は作戦だ。

一体どういった作戦を実行すればいいのだろうか?

知識としては備わっているが、実際試した事が無い。


数秒間考えてみたが、浮かんでくるアイディアはどれも現実性に乏しい物ばかりだった。

そこまで考えた私に、妙案が浮かぶ。


「そうだ。連盟に事情を話して攻撃を中止して貰えばいい」


彼らが使っている戦闘艦は元々が地球軍が運用していたものだ。

ならば、私から彼らに通信を飛ばすことも出来る。

そして事情を説明し、攻撃を取りやめてもらえばいいのだ。


そこで私は連盟艦隊に向けて通信を飛ばした。

どの周波数や暗号を使えば良いのか分からなかったので、とりあえず全ての周波数と暗号を用いて連盟に対して呼びかける。


「はじめまして惑星連盟の皆さま、私は最後の地球人です」


そんな私の通信を聞いた連盟艦隊は、一時的に全ての通信が停止した。

恐らく、何か通信が混線したとでも思ったのだろう。

しかし、これは大切な、地球の命運を決める通信なのだ。

通信トラブルで片づけられては堪らないので、私はもう一度通信を送った。


「はじめまして惑星連盟の皆様、私は最後の地球人です」


しかし、連盟艦隊から返信はない。

だが、私は懇切丁寧に地球の現状を説明し続けた。


既に地球人は私を残して死滅していること。

地球上には新しい人類が生まれており、地球を攻撃したら彼ら彼女らが犠牲になってしまうこと。

そして可能な限りの謝罪と賠償をするので、どうか攻撃を中止して欲しいこと。


そんな通信を続けていると、連盟艦隊から返信が届く。

てっきり私は自身の想いが彼らに届き、攻撃を中止してくれるのだとばかり思っていた。

しかし、連盟からの通信にはたった一言、


「許さん」


と書かれていた。

その瞬間、立体映像に表示されていた青点は赤点に変わるのだった。



(連盟が完全に敵対姿勢をとってしまい、戦う以外に選択肢が無くなってしまった……。

……仕方ない、ここは王道的な作戦で行こう。


そもそも、戦争の経験が無い私に複雑な作戦を考える事など不可能だ。

やはり一番現実的なのは、圧倒的な物量で反撃する事だろう)


そして私は、人工島の生産システムを使って宇宙戦艦の量産を開始した。

量産に必要な大量の物資は、ご先祖様が遺しているので問題は無い。

私は異空間に存在する倉庫に積み上げられた大量の物資を見上げながら呟く。


「……まあ、これだけ大量の物資を宇宙全域から略奪すれば、恨みが積もるのも当然かもしれない……。

この物資のせいで恨みを買い、この物資を使って彼らと戦うのか……」


ため息を吐き出しつつも、私は今後の計画を立て続ける。


(……だが、戦わなければ地球は破壊され、地球上の生き物は死に絶えてしまう。


とりあえず、最初は図面通りの戦艦を量産すれば良いだろう。

実際戦ってから相手の戦力を調べて、その度、図面を更新していけばいい。

一応、生産する数は相手の10倍程度でいいだろうか?


……正直さっぱり分からない。

まあ、この戦いは勝利する必要性は全く無い戦いだ。

いっそ連盟艦隊がこちらの数に驚いて撤退してくれるならば、それはそれで良い。

別に私は彼らを殺したいわけではないのだから。


……しかし……、こんな旧式戦艦で本当に良いのだろうか?

本当にさっぱり分からないが、地球を見捨てる事も出来ない。

可能な限り、準備を進めるしかないか)


その後、私の指示に従って人工島は大量の戦艦を建造していく。

そして建造された宇宙戦艦は、次々と戦場へ転送されて行った。


(……ああ、そうだ。

連盟艦隊にもドローンを飛ばしておこう。

ステルス状態のドローンであれば、気が付かれる事も無いだろう。


いっそ、ドローンを使って敵の将校を暗殺するべきか?

……いや、それは違う。


そもそも私は彼らと積極的に戦いたいわけではないし、こちらの数に連盟艦隊が驚いて撤退してくれればそれでいい。

まあ、暗殺をしないにしても彼らの思考や作戦を知るには丁度いいだろう)


そして私は、不可視化した大量のドローンを連盟艦隊に転送する。


(本当なら美しい真珠が宇宙を飛ぶ姿を見たかったのだが……。

……まあ、贅沢を言っていられる状況ではないか)


こうして、私にとって人生で初めての戦闘が開始されたのだ。




「敵戦力が出現しました! 敵総数!! 我が方の約10倍!!」


惑星連盟艦隊で一番大きな戦艦の司令部に、レーダー担当者の悲鳴に似た声が響く。

その報告を受け、参謀や司令官達は苦虫を噛みしめたような顔をした。


「くっ……。地球は……、未だこれほどの戦力を持っていたのか……」

「あんな阿呆な通信を飛ばして来る奴だから、大した戦力など無いと思っていたが……」

「どういうことだ! 地球人は地球に引きこもっているから戦力は既に無かったはずではないのか!?」

「こうなっては最早どうにもならん! 攻撃を開始するべきだ!」

「待て! 相手の戦力が大きすぎる! 一度後退し、体勢を立て直すべきだ!!」

「そんな余裕がどこにある! 敵に背を向けた瞬間に全滅してしまうわ!!」


参謀や司令官達は怒鳴り声に近い言い争いを繰り返す。

当初の予想では、


「地球軍は貧弱であり、その戦力は惑星連盟軍にとって障害にはならない」


という物だった。


しかし目の前には予想をはるかに上回る戦力が展開されており、作戦の大前提が間違っているのは明白だった。

司令部は蜂の巣を突いたかのような騒ぎになってしまう。


一方で、その様子をじっと眺めていた総司令官は鶴の一声を発する。


「最早ここまできたら引き下がるわけにはいかない!! どうやら敵艦は全て改造されていないノーマル戦艦のようだ! 更に戦闘ロボットは確認されていない! 全軍一丸となってこれを突破する!!」


その言葉に全員が固まった。


未だ敵からの攻撃は無い。

司令部には、


(もしかしたら撤退出来るかもしれない)


という淡い期待があったのだ。

そんな期待も、今の命令で消し飛んだ。


艦隊は総司令の命令に従って全力で地球軍に攻撃を開始し、地球軍艦隊も呼応する様に反撃を開始する。

この時、大半の軍人は後悔していた。


(ああ、地球なんか来るんじゃなかった。

先祖の言っていた事は本当だったのだ。

眠るトラを起こすべきではなかった……。)


勇ましく攻撃を続ける連盟艦隊ではあったが、軍人達の殆どが己の行いを後悔し、死を覚悟していたのだ。

しかし、その覚悟は無駄になった。


戦闘が開始されるや否や、地球軍の戦艦は次々に撃破され、宇宙の塵となっていった。

そして惑星連盟艦隊に損失は未だ無い。

地球軍の攻撃を連盟戦艦は全てはじき返し、装甲には傷すらついていないのだ。

一方で連盟艦隊は、猛烈な攻撃を地球艦隊に浴びせかける。


大量のビームが地球軍の戦艦を次々に吹き飛ばしていく。

全体的に丸みを帯び、そして青色の塗装が施された連盟の戦闘ロボット達は、たった一機で何隻もの戦艦を切り裂いていく。

既に地球軍は壊滅寸前だった。


この現状に連盟軍人達は歓喜する。


「やはり!! 地球軍なんぞ恐れるに足らず!!」

「ずっと引きこもっているからこうなるんだ!! 我等の恨み! 思い知れ!」


「やった! また沈んだぞ!」

「今のは俺が当てたんだ! これで俺は英雄だ!!」


そして司令部にも、戦果に安堵する声が漏れ始める。


「やれやれ、どうなる事かと思ったが、大した事無かったな」

「やはり予想通りであったか。地球軍も弱体化しているようだ」


「流石は総司令だ。一瞬で敵戦力を見極めるとは」

「しっかし、あの陣形を見たか?あんな下手な陣形は初めて見るぞ」

「もし士官学校であんな艦隊機動をしたら、即追放だな」


司令部に集まっている参謀や司令官達はやっと柔らかい表情になった。

味方艦隊からは次々に戦果が報告され、その全てが敵艦撃沈という華々しい戦果だった。

そんな報告を受け、司令部では祝賀会の話題が持ち上がり始める。


「まさか、ここまで簡単に攻略できるとは思いませんでしたな」

「そうですな。これは祝いの席も盛大なものとなるでしょう」


「我が方は損害軽微……というよりも皆無。一方地球軍は一隻残らず撃沈。これは歴史に残る大勝利ですな」

「ということは総司令の名前も歴史に残るわけだ。ああ、俺が総司令だったなら一気に有名人だったのに」

「ははは、貴様が総司令では戦わずに撤退していたかも知れんぞ?」

「確かに! 俺が総司令だったら即座に撤退しているな! はははは!」


その時、彼らは勝利を確信していた。

その確信が判断を鈍らせてしまう。


そして、彼らは貴重な、己の命のように貴重な時間を浪費してしまったのだった。

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