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12 惑星連盟の復讐

巨大な神殿にあるバルコニーの説教から数日が経った。

今日も大神官は巨大な神殿に信者を集めて女神教の教えを説いている。



大神官が人々に教えを説いている時、私は彼の人生を称えて女神教の賛美歌を歌おうとした。


息を吸い込み、口を開いて、いざ歌おうとした……その瞬間だった。


<緊急事態発生! 緊急事態発生!>


……人工島に緊急事態を知らせるメッセージが響き渡ったのだ。




結局、賛美歌を歌えなかった私の目の前に巨大な立体映像が映し出された。

そこには、太陽系を覆うように赤い点が表示されている。

赤い点の数は尋常ではなく、まるで太陽系を赤いバリヤーが覆っているようだ。


(この赤い点は一体なんだろうか?)


私が不思議に思っていると、人工知能が疑問に答えた。


<照合が終了しました>


人工知能は報告を続ける。


<敵味方信号を照合した結果、現在太陽系を包囲しつつあるのは地球軍所属の宇宙艦隊である事が判明しました>


その瞬間「敵」を意味する赤点は「味方」を意味する青色に変化した。


しかし、


「……え?」


私は、その場で立ち尽くしてしまうのだった。




時間を大分巻き戻そう。

所謂「黄昏の時代」という地球人が宇宙から姿を消し始めた時代まで話は遡る。


その時代、宇宙の覇者は地球人だった。

既に宇宙のほぼ全てが地球の支配下にあり、抵抗勢力の大半が駆逐されていたのだ。


しかし、そんな時代においても僅かながら地球に抵抗する勢力が居た。

それが「惑星連盟」である。

彼らは地球に侵略された星々が集まり生まれた抵抗勢力だ。


そんな惑星連盟軍は母星開放の為に必死になって地球軍と戦っていたのだが、彼らがどんなに必死に戦おうとも地球軍に勝つ事は出来なかった。

一度だけ、地球軍に多大な被害をもたらした強敵も居るには居るが、それも長続きすることはなかった。


日に日に地球軍の戦力は強化されていく。

しかし、絶望的なまでの戦力差に苦しめられながらも、惑星連盟は戦い続けた。

戦っては撤退し、戦っては撤退しを繰り返したところ、終に彼らは宇宙の端まで追い詰められる……。


(……これが、旧人類の把握していた惑星連盟の最後である。

てっきり私も、この時点で惑星連盟は消滅したのだと思っていた。


しかし、そうでは無かった。

彼らは生き残っていたのだ)



以下の記述は、今回の事件の後に惑星連盟から提供されたデータを元に私が編集したものである。

一方的な視点で記録されたデータなので誇張表現もあるかもしれないが、それはそれで歴史の一部だと私は思う。


では、話を惑星連盟に戻そう。




地球軍によって宇宙の端の小さな基地に追い詰められた惑星連盟は、そこで戦力を整える。

しかしその時、惑星連盟にはまともな戦力がほとんど残って居なかった。


博物館に送られた方がいいような旧式の戦艦を整備し、無理やり動かした。

半壊状態の旧式戦闘ロボットに、未熟な腕のパイロットが乗り込んだ。

補給艦に武装を施し、最前線に送り込む事にした

民間船に爆薬を満載し、自爆攻撃の準備も進められていた。

宇宙を漂う巨大なデブリにエンジンを取り付け、ミサイルの代用とした。


「満身創痍」という言葉が似合う決戦艦隊は、外からはデブリにしか見えない様に偽装された基地から出撃する。

彼らの目標はこの近辺を支配している地球軍の辺境基地だった。


まさしく無数に存在する辺境基地であったが、そんな辺境基地すらも惑星連盟は一度も攻略に成功した事が無い。

「まともな」装備を持っていた時ですら勝てなかった相手だ。

こんなボロボロな艦隊では、基地に辿り着く前に全滅してしまうだろう。


しかし、彼らは勇気を持って進んだ。

彼らの瞳には、決して絶望する事の無い闘志が宿っていたのだ。

力強くこぶしを握り締め、歯を食いしばり、彼らは強敵が待ち構えるであろう戦場へ向けて突き進んでいった。


そんな彼らの思惑とは裏腹に、艦隊は物理的な悲鳴をあげ続ける。


動かすだけでも艦の装甲が剥がれた。

部品の補給すら出来ていない傷ついたエンジンが赤熱し、船体がギシリギシリと不協和音を奏でる。

まともに飛ぶ事も出来ない戦闘ロボットが、行軍の最中に何機も脱落した。

数少ない戦艦の主砲は、故障し動かなくなった。


そんなボロボロな艦隊であったが、彼らは進み続けた。

勇ましく、誇らしく、一切の後悔もなく、彼らは進み続けたのだ。


各艦の艦首には、地球軍との戦いで穴だらけになった連盟軍旗が高らかに掲げられている。

それは彼らの決意を地球に見せるための行為だった。

脆弱な装備しか持たない彼らの、必死の抵抗だった。


そして数日後、彼らは予想接敵地点に到着する。

既に連盟艦隊の存在は地球軍に知れ渡っている筈だ。

直ぐにでも地球軍は猛烈な攻撃を仕掛けてくるだろう……。


惑星連盟の軍人達は覚悟を決め、来るであろう地球軍の予測進路に砲撃を開始する。


数少ない「撃てる主砲」からビームが放たれた。

旧式の戦闘ロボット達は銃を構え、地球軍の攻撃に備える。

もしかしたら爆発するかもしれない貴重なミサイルが数発放たれる。

唯一、信頼出来る武装であるデブリミサイルが次々に発射されるが、そのほとんどは途中でエンジンが故障してあらぬ方向に飛んでいった。

自爆攻撃部隊も出撃を開始するが、燃料が不足により目標まで辿り着かなかったり、エンジンが故障して目標に辿り着く前に爆発する機体まで居た。


そして軍人達は地球軍からの反撃を待った。

この日のために綺麗に洗濯した軍服を彼らは着ているのだ。


これが己の死に装束になるであろうと考え、貴重な洗剤を使って洗濯しておいた。

彼らは全員が死を覚悟していた。


……しかし、いくら待っても地球軍からの反撃はなかった。

誰も、何もしゃべらない時間が過ぎていく。

壊れかけたレーダーは何も反応を示さず、旧式の無線傍受機も地球軍の無線に反応する事は無かった。


そんな時間が数時間続き、艦隊司令は前進の指示を出すと、連盟艦隊は静かに宇宙空間を進んで行く。


それから数日後、彼らは地球軍の辺境基地に辿り着いたのだが、そこまで接近しても地球軍からの攻撃は無かった。

艦隊は基地に降下を始め、陸戦装備をした軍人達が基地に突入を開始する。

そして、ようやく反撃が来なかった理由が判明した。


基地は無人だったのだ。


最新式の戦艦がずらりと並ぶ格納庫に人は居なかった。

宇宙全域を調べることが出来る高性能なレーダーは誰も管理していなかった。

全体的に青色で塗装され、丸みを帯びた形状をした地球軍の戦闘ロボット達は完全武装状態で放棄されていた。


辺境の巨大基地に、地球人は一人も居なかったのだ。


(これが「黄昏の時代」が始まった瞬間であった。

地球人は広大な宇宙を放棄し始めていたのだ)


しかし、そんな事を知らない連盟軍人達は、


「これは何かの罠では無いか?」


と警戒を怠る事は無かった。

しかし、次々に無人の基地を攻略していった惑星連盟は宇宙全域で地球人が姿を消した事を知ったのだ。

それを知った時、惑星連盟は歓喜する。


「やっと! やっと! 地球の支配から開放されたんだ!!」

「これからは俺達の時代は俺達の力で作り出すんだ!!」

「もう自由を諦める必要はない!!」

「もう地球に怯えて暮らす必要は無い!!」

「俺達は独立したんだ!!」


その後、地球に支配されていた星々にも惑星連盟から情報がもたらされる。

すると、星々では地球に協力的だった人々が弾圧され、大半が処刑された。


それと平行して惑星連盟の学者達が集まり、地球の残した様々な技術の解析が開始される。

そして、解析された地球の高度な技術力に人々は驚愕するしかなかった。

今まで敵対していた連中がどれほど恐ろしい力を持っていたのか、その時、彼らは再度認識したのだ。


そして長い長い時間をかけて細部まで技術を解析し、彼らは地球の残した様々な機械類を自分達で使えるように改造していった。

流石に人工知能等の複雑すぎる技術までは改造出来なかったが、それでも他の使えそうな機械類は改造出来た。


その結果、地球が残した宇宙艦隊は現在では惑星連盟軍が所有、運用している。

もちろん軍事技術以外の様々な技術や、星々に残されていた地球製の機械は様々な場面で復興の役に立った。

人々はこの平和な時代に酔いしれる。

この時代はまさしく「宇宙の春」が訪れた時代だった。


しかし、時代が進むにつれて、人々は一つの共通した想いを持つようになる。

それは、


「地球に復讐したい」


という想いだった。


当初はこの考えは否定されていた。

地球軍が宇宙から消え去ったとはいえ、地球が圧倒的な力を持っている事に変わりは無い。

眠るトラを起こすような真似を人々はしたがらなかったのだ。


しかし人々の想いは強くなっていく一方だった。

長い時間が経ち、地球と戦った事の無い世代が星々を運営するようになると歯止めが効かなくなる。


徐々に「地球に対する恐怖の記憶」は「歴史上存在した過去の記録」に変化し、「歴史上存在した過去の記録」は「単なる文字の羅列」に変化し、最終的に「単なる文字の羅列」は「新しく生み出された文字の羅列」によって葬り去られた。


しかし、「地球に対する恐怖」は忘れ去られたが、「地球に対する憎しみ」だけは時間が経つにつれて成長を続ける。

そして人々は連盟軍が誇る大艦隊を見るたびに、


(この戦力があれば、地球に復讐できるのだ!)


と目を輝かせた。

そんな人々の思いは集まり、議会を動かし、星々を動かし、最終的に連盟軍を動かした。

そして連盟軍が地球に対する復讐的侵略を決定するまで、それほど時間はかからなかったのだ。


惑星連盟軍は動き出し、次々と地球目指して進撃を開始する。

人々は歓喜の声を持って艦隊を送り出し、戦艦を操る軍人達は力強く拳を突き上げて答える。

彼らの憎しみは、まさしく頂点に達していたのだ。


そして終に、惑星連盟艦隊は太陽系外縁に到着する。


(あと少し、あと少しで地球に辿り着ける!

あと少しで屈辱の歴史を終える事が出来る!!

地球を吹き飛ばし! 惑星系を吹き飛ばし! 地球人の痕跡を宇宙から消し飛ばすのだ!)


そんな燃えるような想いを胸に、連盟艦隊は前進を続けた。

しかし、そんな彼らの前に大量の地球軍戦艦が目の前に現れるのだった。

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[一言] レジスタンス(仮)の事すっかり忘れてた……不覚。
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