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まだ女の子に間違われる!

 何故かボクはアイスコフィンの艦橋で、イスに座ったまま周囲を大人に囲まれていた。

 彼等の眼付が厳しいが、臆する事無く正直に心情を吐露する。


「ボクは悪く無い!」


 当然である。

 確かに三個艦隊沈めたら、アイスコフィンで補給を受ける手筈に成っていた。

 だがアイスコフィンに合流する前に、敵が現れたら戦わざるを得ないだろう?


 と言う事で5連戦した挙句、更に敵艦隊に囲まれていたジュリア大尉の救援に向かった。

 結局7連戦してからアイスコフィンに戻ったのだ。


「あのですねキッド君・・・そりゃあ世の中は必ず予定通りに成らないし、連戦するケースも出る事はありますよ。でも7連戦は無いでしょう?ちなみに記録で残ってる宇宙艦隊戦の最高連戦記録は4連戦で記録更新ですよ!たまには逃げ様とか考えませんか?」


「必要なら考えます!必要じゃないから考えませんでした♪」


 1・4・5回目の戦いは敵の旗艦や有力者を沈めたら、降伏したので殆ど消耗して無かったのだ。

 実際もう2~3戦くらいする余裕も有った。


「そう言う事じゃ無いでしょ?ジュリア大尉だってアナタが助けに行かなくても・・・・・」


「何でですか?」


「何でって・・・」


「美女のピンチに駆け付ける、男の花道・当然の行為でしょう?」


 ヴェラニ大尉は頭が痛そうにしている・・・がボクが悪い訳じゃ無い。


「ボクが皇帝に気に入られてるからって、ボクの安全マージンだけ余裕持たせるのは止めて下さいね♪そんな事は陛下だって望んで無いでしょうし、そんな事考える位ならボクに戦闘を依頼すべきじゃ無い。ドンパチを依頼された以上、ソレがボクの仕事です」


 彼は深々と溜息を吐いた。


「ところでキッドさんのスターシップ、エンジン方式は如何成ってるんです?正直言って形式が分からないのですが・・・・・」


「ノーコメント♪」


 一応帝国の艦船と同じイオンエンジンだが、推力発生プロセスが違うので解り難いのだろう。

 補給が必要なモノはリストアップして提出済みで、極力規格を合わせて改造して使うよう配慮している。

 整備まで頼んでる訳でも無いし、船の仕組みまで教える必要ないだろう。


「ジュリア大尉が接舷します・・・フリッパ-はイオンエンジンを派手にやられてますから、最悪廃艦ですね・・・・・」


 救援に間に合ったが、直後にエンジンブロックにレーザーを被弾した。

 誘爆しなかったのは、偏に彼女とクルーの緊急対応の手腕だ。


「もう4隻、入艦します」


 彼女の艦隊の損耗数は計5隻の様だ。

 フリッパー以外はあまり派手にやられて無い様に見える。


「シールドを飽和させられ、張り直す瞬間を狙われました。任官から使っているのと、運動性能が良いので気に入ってたのに・・・・・」


 軽巡洋艦フリッパーは見た目以上に内部がヤラれてるそうだ。

 爆発を遅延させクルーを前部に避難させ、内部爆発する前に隔壁を下したらしい。

 軽巡洋艦のクルー55名は全員無事、人的損耗が皆無なのは誇れる内容だろう。


「技術士官ストラベリー中尉です」


 モニターに神経質そうな青年が映し出される。


「ざっとチェックしましたが、エンジンブロック消失で廃艦するしか有りません。解体し使えるモノを確保、残った艦体は精錬し直し新造する事を提案します」


 ジュリア大尉がガックリと首を垂れた。

 この世界はリサイクル技術が非常に優れている。

 新造艦を造るのに旧式艦を材料に出来るそうだ。


「使えるモノは何でも使いますよ♪でジュリア大尉は如何します?」


「鹵獲した艦の中に機動性と脚の長さに長けた艦は在りますか?」


 新造するにしても待ってる暇はない。

 ストラベリー中尉はモニタの向こうで、リストらしいモノをチェックしてる。


「今残ってる機動性に特化した艦は無いですね・・・装甲と武装に特化したモノばかりです。キッドさんが沈めた巡洋艦が、何隻か曳航されてますが・・・もちろん修理する時間は無いですね」


「そう言えば・・・・・」


 思い出したボクにヴェラニ大尉が警戒する。


「アイスコフィンの後部で、何か造ってるでしょ?」


 途端にヴェラニ大尉の発汗量が眼に見えて増した。

 それはもう滝の様に流れている。

 ボクとジュリア大尉の声が重なった。


「「ヴェ~ラ~ニ~大~尉~っ♪」」


 今度はヴェラニ大尉の首がガックリする。




 何度も言うがアイスコフィンの船体は、マカロニ状に鉄骨を組み上げて出来た骨組みにしか見えない。

 その壁に中に艦船が係留され、修理や整備が受けられる様に成っている。

 規格外に大きな艦はアイスコフィンの中心の空洞で整備する事も可能だ。


「コレは趣味で造ったんですが・・・・・」


「軍の設備と資材で、勝手に趣味に走って良いのかな?」


 増設と改造が進み住環境が整いつつある、アイスコフィンの通路を歩きながら言った。

 ボクが造った時は小型艦の操舵室程度のスペースしか無かったんだ。


「そんな事無いでしょう、良い船が出来たら軍が使うんですから♪今では50人近い運航クルーと、500人以上の整備クルーが乗り込んでますが技術屋達は開戦時は手持ち無沙汰で、それで休憩時に収集した残骸や廃船を利用して新造艦を作ってたんです」


 艦内移動用の上下だけでなく、水平も移動出来るエレベータに乗った。


「しかし、たった一か月で造れる物なの?」


「おかしいですかね?・・・設計や新技術のテストから入るなら兎も角、既成技術から造るならソンなモノでしょう?」


 そうか・・・この世界なら、そんなモノか・・・・・


『スターシップの技術なら一週間以内に造れます』


 カチューシャから脳内にアリスの言葉が届く。

 何気に張り合っている様だ。


「キッドさんが元帝国艦や海賊船を、潰してくれるので材料には事欠きません」


 ボクを破壊者呼ばわりしないで欲しい。


「こちらです」


 係留されてるのは流線型の美しいフォルムをした船だった。

 ボクの船を再現してる様に見えるが、曲線を多用しスターシップより丸っこい。


「これってボクの船、いやエルミスをモデルにしたんですか?」


「正解♪」


 彼が得意げに言った。


「私がアイスコフィンを任された時、すぐスターシップを参考に造り始めたんだ。だけど陛下がエルミスの設計図をアイスコフィンに置いてったから、そっちも参考にしてね・・・おかげで半分バラして造り直したよ」


 楽しそうに語る。


「今は忙しいが開戦直後の私達はヒマだったから・・・キミ達は優秀で艦を壊さないからね♪装備はしてないが3日有れば武装出来るよ」


「武装出来るの?」


「もともと戦闘艦として造ったんだし・・・・・」


 ヒマ潰しと趣味で戦艦を造るとは・・・・・


「その前に試運転させて貰っても良いですか?」


「内部は帝国規格の巡洋艦だから、再訓練無しでもイケると思うよ」


 ジュリア大尉はフリッパーのクルーを、アイスコフィンの後部に集める。




 ジュリア大尉の部隊に限らず、帝国宇宙軍のクルーは皆スポーツタイプ・サングラスの様な❝バイザ-❞を掛けている。

 これは各種情報などを表示するモノで、ボクのカチューシャにも同じ機能が付いている。

 ただしバイザーはシールド内部に直接投影するのに対し、ボクのカチューシャは脳内に直接作用し視界に表示したり頭の中で聴覚を再現する優れモノだ。


 コレが有るので基本構造が同じなら、「アレはドコに仕舞って有るんだ?」とか「このスイッチは何のスイッチ?」って事に成らず、訓練無しでも初めての艦も動かす事が出来る。

 マアぎこち無いのは仕方ないが・・・と言う訳で出航してから30分ほどで、ジュリア大尉はアイスコフィンに戻って来た。


「この船を至急武装して下さい!」


 もの凄い喰い付き様である。


「戦争中に臨時造艦や現地改修した船は、乗り込んで武功を建てた艦長とその部隊に優先権が与えられるんだ。気に入ってくれた様で何よりだ・・・・・」


 ヴェラニ大尉は少し寂しそうに言った。


「この船の名は何です?」


「エルミスⅡ」


 ボクの船を参考に一か月で造った船をベースに、一回解体してから半月で組み直した巡洋艦エルミスⅡは、この世界の技術なら急造と言うほどのモノでも無いらしい。

 すぐに隣にフリッパーが横付けされ、早速武装を取り外したり改造が始まった。


「このレーザーは古いな・・・最新型が廃戦艦に乗せて在っただろう?」


「ミサイル・魚雷の装填システム有ったか?」


「シールドユニットの電力が230%も余裕が有る。もっと良いシールドを搭載しなさい!」


「ジェネレーターの余裕も有るな・・・エンジン大きくするより機動性を高めよう!」


「戦闘艦にピーキーさ出すなよ!」


 大騒ぎしながら方向性を検討し合う技師達は、ボク等の事など見ていなかった。

 数分もすると改造が始まって、火花が散り装備が搬入される。


「ちょっと手間取りそうだ・・・5日だな」


 ヴェラニ大尉が言うとアイスコフィンに設えられたシュミレーターに、クルーを押し込むジュリア艦長だった。


「5日か・・・ボク、先に出るかな?」


 スターシップの補給は終わっている。


「近所の散らばった艦隊潰す程度なら、後学の為に同行させて貰っても良いかしら?」


「拒否し・・・無くても良いか?」


 全てが清廉潔白でなくても、あの皇帝とバーカンディ親娘は信用出来ると考えている。

 もちろん他の人達も、今後も仲良くやってく積りだから少しは胸襟を開いても良いだろう。


「何人ですか?」


「私と部下2人の計3人で・・・・・」


「僕も志願したい!」


「いや私が先だろう?」


 ストラベリー中尉とヴェラニ大尉が声を上げる。


「無理です!お二人はエルミスⅡの改修が有るじゃないですか」


 ジュリア大尉に言われたが、ストラベリー中尉は嬉しそうに言った。


「大丈夫です♪僕はエルミスⅡに関わってませんから・・・誰かさんが開いてるドッグを独り占めして、アレを造り始めちゃったんで・・・・・」


「ぐぎぎ・・・」


 ヴェラニ大尉は悔しそうにしている。


「本当は僕が先に、スターシップを参考にして新型艦造ろうとしたんです。そしたら後から来た上官が。階級を盾にドックを奪いまして・・・まあ誰とは言いませんが「オレが先だ!」と煩い事・・・と言う事で、スターシップには僕が同行しますが文句無いですよね!」


「覚えてろよ~~~っ!」


 得意げなストラベリー中尉に向かってヴェラニ大尉が吠える。




 簡易シートを用意して貰い、お客様はコクピット後部で大人しくして貰う。

 積りだったが、コクピットに入った途端に皆が騒ぎ始めた。


「これは一体・・・」


「こんな船有り得んぞ・・・」


 まあそうだろうね・・・外宇宙を航行出来る戦闘艦にしては、コクピットの内部がシンプル過ぎた。

 360°上下とも無反射モニター(通電してれば鏡の様に映す事も可能)に囲まれ、操作機器らしきものはコクピットシートにしか付いていない。

 コンソール一つ無いのだ。


「アリス、お出かけだ。3日ほど近辺の残存艦隊を掃除する」


 すると無反射モニターに色が入り、周囲の星空を映し出した。


「オハヨウ御座います。オーダー承りました・・・この近辺には現在、小規模な艦隊が26存在します。反帝室派が19、帰順したいけどタイミングを逃したのが7・・・・・」


「ジュリア大尉が一緒なら話し易いかな?」


「間違いなくアナタが話した方が早いわよ」


 ボクは怪訝そうな表情をしただろう。

 ジュリア大尉は、このボクに交渉能力が有ると思うのかな?


「交渉能力は不要じゃない?試しに2~3タイミングを逃した不運な人から回って見ましょう」


 まあ・・・そう言うなら良いけど?




「投降する・・・私の首を差し出すから、部下の命だけは助けてやってくれ!」


「イヤだ・・・オレはマダ死にたくない!」


「ヒィ、死神が・・・幾ら美少女でも死神は嫌だ!」


「ミューズ姫の亡霊が・・・ミューズ姫が死神に成って帰って来た!」


 ・・・

 ・・・・・・

 ・・・・・・・・・


「キッド君、トリガーから指を外しなさい♪」


 にこやかに微笑むジュリア大尉が憎らしく見えた!

 何で未だにボクの事が美少女で通ってるんだ?


「ボクが男だって報道したんだよね?」


「多分・・・でも私すぐ勅命を受けて、辺境に出て来てしまったし」


 ボクがフルフル震えていると、怒り具合が分かったジュリア大尉がフォローを入れる。


「私はキッド君が「男の子だって公表しろ」と言ってたって、ちゃんと伝えたからね!」


 フォローじゃなく言い訳だった。


「報告してませんでしたが、報道はチェックしていました。ファーレンの英雄キャプテン・キッドが、皇帝陛下の孫娘ミューズ姫に瓜二つだった事は報道されましたが、性別の勘違いを修正する内容は一切有りません。むしろミューズ姫と瓜二つの話から、女性である事を更に補強し助長させながら・・・・・」


「この戦争片付いたら・・・帝国の報道責任者、一発ぶん殴るからね!どんなに高い地位に居たって、皇族だって遠慮しないから」


 涙目に成って訴えるボクを、ジュリア大尉が困った様な貌で見る。


 さて敵の中を縫って5つの艦隊を説得した。

 あと2つもすぐに合流出来、説得する予定だ・・・が残った艦隊は好戦的な様である。


「反帝室派ベノンの残党は、X108-7847に集結しています。その数は現在の所12ですが、もう2~3は集まるでしょう。残りが如何成るか判りませんが、集まった所を叩く積りですね?」


「その為に反意の無い艦隊を説得して回ってます。鎮圧した後の艦隊を管理させる為にね」


 今後降った将兵は、ライディーン艦長の様にスグ使う訳には行かないだろう。

 下手に反抗されては堪らない。

 先ずは搔き集めて、監視する番犬を付けてやる必要が有った。


「最後は纏めてライディーン艦長に押し付けてやる」


「その為には先に集結してる艦隊を叩かざるを得ない様です。残った艦隊は全てX108-7847の向こうに居ますから」


 アリスは説明しながら宙域図を展開した。

 コチラが降伏を促してるのを、取り囲んで邪魔する気だよね。


「良いじゃないか・・・明日は鴨狩だね」


 この程度の敵ならボクにとってはカモでしかない。




「エゲツない戦いだな・・・」


「これでも遠慮してるんですよ?」


 ボクの放ったレーザーキャノンが、突撃してくる戦艦の艦橋を穿った。

 エンジン部には直撃させないから、誘爆の危険は少ないだろう。


「こちら皇帝勅命・反乱軍討伐隊キャプテン・キッド!命が欲しいなら停船し、砲塔にチャージしたエネルギーを放電させ、ジェネレーターを落とせ!その上で指示が有るまで待機せよ」


 と言った途端に敵が唸りを上げながら、コッチに向かって突進して来た。


「そりゃ・・・この艦隊に向かって、単艦で降伏勧告されちゃ怒るよね♪」


「喜んでる場合!?」


 ジュリア大尉に怒られる。

 それほど数は多く無いが、それでも100隻以上いる。


「先程マスターに艦橋を貫かれた4隻の他は残り118隻、その内36隻がコチラに向かって全速力で突進して来ます。残りも続いて来るも様です」


「ブラスターだ」


 艦体の上下6門が横一文字に並んだプラズマブラスターが左右に並んでいる。

 それが一斉に火を噴くと、直撃した船は一瞬置いて誘爆する。

 プラズマ熱線を収束した球体が直撃と同時に解放され、一瞬で艦内を焼き尽くしてから動力部を熱暴走させ誘爆に至る。

 乗組員が苦しむ事は無かっただろう。

 何が起こったかも分らなかった筈だ。


「あんだ今のは・・・・・」


 途端に敵の動きが乱れる。

 一発の攻撃で情けない艦隊と思うなかれ!

 彼等が恐れるのも仕方ない事だった。

 そもそも戦艦など、簡単に沈む代物では無い。

 しかも小型艦の搭載兵器で一撃の下に14隻が、一瞬で吹き飛んだのだ。


「可哀想だけど、突出して向かって来た奴等は見せしめに成って貰おう・・・・・」


 ボクはバーニアを吹かして、残りの艦隊に肉薄する。

 戦艦が集中砲火で、中小型艦で機動攻撃を分担する。

 艦隊戦の基本かも知れないが、戦艦より大きな火力と小型艦より優れた運動性を有するスターシップには下策でしかない。

 中に突っ込んで掻き回す必要は無いだろう。


「反皇室派リストの貴族や高級軍人は、例外なく大型の戦艦・重巡洋艦に乗っています。迫って来る大型艦に、この艦隊でのリスト登録者が乗船してる模様」


「居るのはブリッジだよね・・・個別に狙える?」


 加速しながらレーザーキャノンで狙いを付ける。

 高速で航行中に照準を点けるのはアリスの役目だ。


「コレはマタ無理難題を・・・」


 そう言いながらも軌道計算に入る。

 戦闘の戦艦に擦れ違いながら、レーザーが正確にブリッジを射抜いた。

 だが・・・


「チョッと待って・・・今8隻同時に墜とさなかった?」


「墜としましたが?」


 擦れ違いざま8隻の戦艦が火を噴いたのを確認した。


「個別に狙えと仰いましたよね?」


「言ったけどスターシップのレーザーキャノンは4門しか無いでしょ!」


「艦の諸元はチャンと把握して置いて下さい。レーザーキャノンは4門ですが、2連装砲です。1隻づつ個別に狙いました・・・・・」


「そんなの出来るか~~~っ!」


 思わず言ってしまった。


「X軸上に居る目標ならY軸だけ調節すれば・・・難しい注文でしたが、何とか熟せました」


「キミはボクの事を非常識だと言うけれど、キミだって十分非常識だと思うな・・・・・」


「心外です!」


 ボクとアリスの突っ込み合いが始まった。

 それを聞いていた背後の4人は、


「全然参考に成らないね・・・・・」


「ここまで非常識な奴等だったとは・・・・・」


「五十歩百歩と言う言葉を何処かで聞いた」


「結論・・・パイロットも船も非常識だ」


 散々な言われ様であり、全くもって不本意だった。

 まあ戦闘は継続中だ。

 後続の本体に突っ込まない様、手前で旋回し主力戦艦の背後を狙う。

 後続戦艦からの火砲、躱すと戦艦に当たって通信が乱れる。


「派手に掻き回しますね・・・・・」


「オレ達の船でやったら、旋回中に蜂の巣だよな!」


 戦艦の背部が迫るが奴等は大型艦、旋回する余裕は無い。

 後部の武装のみで砲火を吐き出すが、流石に前面より薄くて貧弱だ。


「前面の集中砲火で墜とせなかったのに、背部の武装で堕とせるの?ボクなら全ての動力をシールドとエンジンに回し、必死で逃げ捲くるけど!」


「普通の人では、そこまで思い切れないよ」


 ストラベリー中尉が言った。


「また8隻狙える?」


「X軸を共にする船が少な過ぎます。6隻までしか狙えません」


「それで上等だから♪」


 背面から通り過ぎる時、6隻のブリッジをレーザーが焼き払う。


「このまま余裕を取ってから旋回して・・・・」


「待って下さい!敵から通信・・・突出した艦の内、残った8隻は降伏するそうです。ただし後続艦隊の中に居る旗艦は、戦闘継続を指示しています」


「旗艦を特定出来る?」


「既に特定済みです」


 一際大きな艦が後続艦隊の更に一番奥の方で、厚い守りに囲まれている。


「如何にも貴族って感じ、偉そうに安全な場所で踏ん反り返っている♪」


「キッド君、ケンカ売ってる?」


 いけね、ジュリア大尉も伯爵令嬢だった。


「司令官はベノンの息子ね・・・ジェ、いや何でも無い」


 暗殺?リスト貰ってる事を口外しては拙いだろう。


「キッド君、大丈夫よ♪ここに居る全員が皇帝派で、内情知ってるから」


 そうですか♪


「なら遠慮は要らないですね?ですがアレだけの大型艦、ブリッジも人が多そうです」


「仕方ないわよ」


 ジュリア大尉も寂しそうに言った。


「ねえ・・・あの旗艦のデータって貰って有る?内部が知りたいんだけど」


「ハイ、特注品と言え帝国規格の戦艦です。構造は大差無いでしょう」


 戦艦の外見と透視図が表示された。

 艦橋とは言っても地球の海上艦ほど、ハッキリと艦橋が屹立ってはいない。

 それでも大型の艦砲の使用や全体を目視して指揮する戦艦・巡洋艦は、比較的だが艦橋は判り易く出っ張っている。

 内部の奥深くに造っても強力な攻撃では一溜りも無く、またシールドの信頼性も高く成ってるからだ。


「と言うより戦闘速度でブッ飛びながら、艦橋を狙える奴は滅多に居ない。ましてブリッジを狙い撃ちなど・・・ここに一匹いるけど」


「でキッド君、何をするの?」


「こうするの♪」


 ボクはバーニアを吹かせながら、敵艦隊の中に突入する。


「レーザーキャノン1門の操作をボクに回して、片方殺して単装として使用する」


「了解!」


「皆はシートにしがみ付いてて!」


 流石に正面から、光学兵器が雨アラレと光線を放つ。


「旗艦のシールド強度は?」


「全力で張ってます」


「レーザーの焦点をマックスまで絞ったうえ最強出力に」


「了解!」


 敵旗艦が眼の前に迫る。


「ちょ・・・ちょっとキッド君、当たる・・・当たっちゃうってば!」


「いやチョッと洒落に成らんぞ!」


 ええい、外野が煩いな・・・・・


「ボクの操縦する船に乗る以上、この程度覚悟しときなさい!」


「無理だ~~~っ!」


 ストラベリー中尉が悲鳴を上げた。


「あっそ♪」


 敵艦の眼の前に踊り出すと、敵がシールド出力を上げた。

 だがその時には既にシールドの内側に入っており、ボクは艦橋に狙いを定める。


「大概お高く気取った貴族様は、馬鹿やサルや煙と同じく高い場所が好きなんだ!」


「キッド君っ、後でチョッとお話ししましょう!」


 ジュリア大尉が叫んだ瞬間、レーザーキャノンがブリッジの上部を横薙ぎにした。

 非常用バリアが降り気密が下がった艦橋を保護するが、このまま戦闘をするには危ないだろうね。


()れたかな?」


 敵旗艦のシールドを破って脱出すると、ボクは何気なく呟いた。

 自機にもシールドを張らせて突っ込めば、敵のシールドと中和させる事が出来る。

 まあ同じ位の出力が必要なため、普通の小型艦でやったら多少ダメージは喰らうけどね!


「敵の通信を傍受しました・・・指揮官であるベノンの息子とその取り巻きは、先程の攻撃で消滅しました。しかも設備を破壊され戦闘継続は不可能です」


「再度通信・・・降伏を勧告して。これが最後だと添えてね・・・・・」


 すると艦隊の方でも騒ぎが起こっている様だ。


「戦艦ブレスキン降伏します。艦長は不幸な事故で身罷りました」


「こちら戦艦ポムチョキン、降伏を希望します」


「戦艦エスカテリーナ、降伏を・・・何故放したっ!止むを得ん・・・・・失礼しました。エスカテリーナも降伏を希望」


 艦隊の戦艦が次々降伏を申し出る。


「各艦・・・光学兵器のエネルギーを放出し、順次ジェネレーターを停止しています。ミサイル・魚雷も発射位置から引き抜きました」


 OKこの宙域は、これで静かに成っただろう。


「帝国から艦隊が接近中・・・ウェルム少将、味方です。5分後にワープアウト予定・・・通信が入ってますが、当方の現状を知らせてあります」


 繋ぐように指示する。


「失礼する。帝国第75艦隊司令官ウェルムだ。おおっ君が救国の美少女船長さんか、噂通り美し・・・オイ何だ、何でレーザーの充電をしておる!」


 クスクス笑いながらジュリアさんが前に出た。


「少将閣下、お久し振りです」


「おおっ、ジュリア君か!スマンがソコのお嬢さんを怒らせて仕舞った様だ・・・チョッと仲裁してくれんか?」


 ジュリアさんは笑いを抑え切れなかった。


「この子、男の子ですよ♪」


「エッ!?そりゃ・・・失礼しました」


 ボクは溜息を吐きながら、トリガーから指を放した。

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