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ゴールします・・・迷った時は思った通りに行動するが吉だと思う。

 正直これで良いのかと疑問に思って仕舞う・・・何せ大気圏を突破してからボクのトップ独走状態、スリリングなトップ争いや末尾からの追い上げなど一切無いのだ。


「そ・・・そんな事は無いんじゃないかな?」


「何で?」


 ジョシュア・・・いやオシオキは十分した事だし年長者ナンだから❝さん❞付けで呼ぶとしよう。

 でジョシュアさんに聞いて見ると・・・・・


「だってアンタ・・・」


「アンタ?」


 ジョシュアさんが首を(すく)める、この人もチョッと抜けてる所が有るから少し厳しく締めとかなくちゃ!


「いえイリーナお姉さまが思ってる様には成って無いかと思います」


 ええい、その揉み手は止めろ!


「それ如何言う意味?」


「だって雲霞の如く群がって来る殺し屋化したレーサー、それを千切っては投げ千切っては投げの大活躍・・・思いっ切り目立ちながら爆走してるんだもん!もうお腹いっぱい満腹ですって皆言ってる位ですよ、しかもイリーナお姉さまの活躍で変な方向に目覚めた運営委員会が何か新しいレースを考え付いた様で・・・・・」


 絶対にカープロレスみたいなモノだ・・・間違っても参加しないからな!


 そう誓いながらスターライダーを疾走させてると正面を横切る何本ものラインで構成された光の壁、如何やらアレがゴールらしく念の為にセンサーでチェックしたが危険性は一切無い・・・そしてその壁に頭から突っ込んで突破すると宇宙空間が数多の光に彩られる。


「コイツは・・・チョッとしたモノだな?」


 すると運営委員会から通信が入り、


「イリーナ・グレイバー選手、優勝おめでとう御座います。そのままF205-997に進路を、ネメシス・コロニーにて表彰式典と祝賀パーティーが・・・・・」


「その前にスターライダーがガタガタで航行不能よ・・・サポーターのトレーラーシップが来てるから、応急修理してからネメシスに向かうわ」


 そうオペレーターに言ってからカチューシャにスターライダーのバッテリーを直結、する迄も無く状況を察したミューズがトレーラーシップに偽装したスターシップで接近して来る。




 まあジョシュアさんが根っからの悪人じゃ無いと言うのは、くまでボクの勘に過ぎず、それだけで信じるほどボクは甘くも愚かでも無い・・・牽引型貨物船(トレーラーシップ)(それも個人商人が使う様な小さめの奴)に偽装したスターシップに、入ると爺さまが寄越したミューズの護衛役が銃器を構えて彼女を歓迎した。


「彼等はボクより荒っぽい・・・ハチの巣みたいに穴だらけに成りたく無かったら、下手な真似はし無い方が良いよ?」


 まさかレースのサポートシップと思ってたのに、訓練された武装兵に囲まれてジョシュアさんが蒼褪めてる。

 だが指揮してたダーグとイメンケさんに、


「自覚が無いのか?それとも惚けてるのか?お前より私達が荒っぽい何て、そんな筈は無いだろう?」


「少なくともキッド君に関して、みんな狂犬とか人喰いザメのイメージ持ってるんじゃ無いかな?」


 と失礼なコト言われて仕舞った。

 取り敢えずオケツが丸焼けに成った侭じゃ可哀想、箱入り娘だったミューズも艦内の事を一通り熟せる様に成ってるんで彼女のオシリの治療を任せ治療室(メディカルルーム)に送り込んで見たが!


「うわあぁぁぁ~~~~~っ!」


「ひぃぃぃぃ~~~~~っ!」


「きゃあぁぁぁ~~~~~っ!」


 とジョシュアさんは盛大な悲鳴を何度も上げさせられて、仕方無いのでボクはメディカルルームに助けに入る事にしたんだけど・・・


「おいミューズ、オマエ何して・・・・・」


 中の状況を視認しボクは言葉が紡げ無い・・・治療台の上で四つん這いに成りお尻を突き出したジョシュアさん、そのオシリにミューズったら一番強烈なナノマシン治療薬を直接スプレーしてる!

 イヤこれチョッと可成り・・・治療だけど正規の病院でやったら確実に裁判沙汰に成るって位の拷問行為、その事は勿論ミューズだって知ってる筈の屈強な男だって泣いちゃう酷い治療の仕方であった。

 現にジョシュアさんはオシリをフルフルと震わせながら、その大きな瞳からボロボロと大粒の涙を溢し捲って可愛い泣き顔を晒してる。


「ジョシュアさんでしたっけ・・・私の大事なお兄さまの、それも恥ずかしいアソコを事も有ろうか2度も鷲掴みにしましたね?さらに危険なラフプレイで・・・・・」


「ゴメンなさいっ、ミューズお姉さまっ!二度とし無いから如何か御許しを(ブシュゥゥ・・・)ひぃぃぃぃ~~~~~っ!」


「あれは・・・」


 とダーグが呆れた様に、


「如何見ても個人的な・・・・・」


 とポップさん、


「いやソレ以外に何が有るってんだい!ただ少なくとも見た目だけはスグに治療し、この後の優勝祝賀レセプションに出られる様に出来る・・・手っ取り早いね」


 とジェイナス婆ちゃん・・・確かに一番早く、そして完全に治療が出来るらしいんだけどね!

 その代わりに大気圏突破の時に焙られたのと同じ位に尻が酷い眼に会ってる筈、アレはもう一種の拷問って位の代物だった!


「ジョシュアさん、また私の大事なお兄さまに下手な気を起こしたら・・・・・」


「はひ、はひぃ・・・」


 もう真面(マトモ)な言葉は喋れなく成ってるが、ミューズは彼女の天敵と化しているらしく素直に首を縦に振っていた。

 ちなみに他にも彼女の仕掛けたスターライダー同士の当たり合いや、飛んで来たスターライダーの破片での切り傷も負ってるのでボクはミューズと皆にジョシュアを任せると工作室に向かう。




 それほど時間は掛からなかったけどボクは工作室で作ったモノを持って治療室(メディカルルーム)に戻ったのだが、いまだにジョシュアさんは治療台の上で四つん這いに成ったままグスグスと泣き続けていた。


「うっ・・・うぐっ、うぅ・・・グスッ・・・・・」


「ミューズ・・・やり過ぎ!」


「だって・・・」


 まあミューズが怒ってるのはセクハラでは無くラフプレイの方だろう。


「さてと・・・チョッと可哀想だけど先ずは武装解除、着てるモノを全て脱いで全裸に成って貰う」


「うぅ・・・」


 別にHな事してる訳じゃ無い、マァ(はた)から見たら可成りHだけどさ・・・現にボクも楽しんでやってるし♪

 それでも通信機でも隠し持っててトランサッドへ報告されてちゃ堪ったモノじゃ無い、泣きべそを掻きながら服を脱ぎ全裸に成るのを待って・・・両手で双乳を隠してる彼女をアリスにスキャンさせた。

 ちなみにボクたち男性陣は隣の部屋に移動してるけどね、さすがに異性のボク達がジロジロ見るのは可哀そう・・・嘘ですボディチェックが終ったら追い出された、ミューズが許してくれ無かったんだ。

 リザーダーのダーグまで外に出てる・・・彼等はボクたち霊長類型人類に欲情したりせんだろうに、ただダーグはエチケットとして心得てるのでミューズに言われる前に自発的に退室した。


「危険物や通信機の類は一切身に着けておりません・・・αトライシクルはフラットで嘘や誘導をしてる可能性も無しです」


 ボクはドアから手だけ突っ込んで、持ってた大判湿布2枚と新しいドラビュリティスーツをミューズに渡して貰った。

 いや中で渡す気だったんだけど、その前にミューズに追い出されたんだ。


「まあ確かに完全に治ってはいないけど・・・・・」


 ワザワザ湿布を張る必要あるかなと言う感じでミューズが呟いた。

 そして暫くしミューズの許しが出てボク達が再度入室、市販品と言え真新しいドラビュリティスーツを着たジョシュアは(いま)だに治療台の上にチョコンと座っていた。


「さてジョシュアさんや・・・」


 ボクは壁際に立ちながら言った。


「君には今少し協力して貰いたいんだけど、殺し屋に加わって無いと言え簡単に信用は出来無いだろ?それに口では加わって無いと言いながら、実はチャンスが有ったらボクを殺してトランサッドから報酬を・・・と考えてた可能性は残ってる」


「それは・・・そう思われても仕方無いけど・・・・・」


 ちょっと悲しそうな顔をする彼女、まあコレばかりは仕方が無い事だろう。


「そこで保険を掛けたんだ♪君のオシリに張って貰った湿布ナンだけど・・・・・」


 同じ物をポケットから出して壁に貼る。


「ボクに逆らったり不利益な行動を取ると・・・・・」


 カチューシャに指令するとバシュッと音を立て、


「こう成るよ♪」


 湿布の貼ってあった壁が黒焦げに成った。


「それでも良いなら・・・」


「ふざけんなっ、そんな物騒なモノをケツに・・・」


 大急ぎでドラビュリティスーツを脱ぎだす彼女、エチケット守って回れ右をしながらボクはカチューシャに指令を出せと念じながら舌を出す。


「ひゃんっ!」


 ジョシュアが可愛らしい声を上げた。

 まあ湿布がオシリに吸い付いたからね!


「無理矢理剥がそうとすると如何成るか想像出来無いのかなぁ?」


「そんな・・・畜生、それ以前に痛いぐらいに張り付いてるじゃ無いか!」


 絶望したげのジョシュアにボクは優しく声をかける。


「今晩のパーティーが終わるまでボクの指示に従って貰う、パーティーが終ったら爆弾湿布も剥がしてあげるから、それまで良い子にしてて頂戴ね♪」


「ア・・・アンタは鬼だっ!」


 と叫ぶ彼女をミューズ達に任せてボクはリビングに移動する。


「さてと・・・」


 軍用回線にに侵入して呼び出した相手は・・・・・




 ファルデウス帝国軍ロイヤルフェンサー第一宇宙艦隊司令官ジュリア・バーカンディ中佐は、モニターの向こうで顔面蒼白に成りシートの上で正座し冷や汗をダラダラ垂らしている。

 その背後では部下の人達がクスクスと笑っており、時折ジュリアさんが振り返ってキッと睨むと一時的に黙るけどスグに苦笑が再開するのだった。


「さてとジュリアさん・・・何か言い訳は有りませんか?」


「有りません・・・」


 彼女はプルプル震えながら小声で言った。


「こんな所でジュリアさんに会うなんてボクも思って無かった・・・だけどジュリアさんが人をオシリで見分けてた何て更に思って無かった!何度も可愛いだの小さいだの連呼しちゃって」


「ヤメてぇぇぇ~~~~~っ!」


 ジュリアさんの悲鳴が木霊する。


「ジュリアさんのスケベッ!しかもそのセリフ公共放送の最中に、一体何て事してくれたんですか?」


 今回の一件は今後確実に大ニュースに成る・・・当然ボクが絡んでる事や、その場に関係者のジュリアさんが居た事も!


 そうしたら如何成るか?

 当然ボクの女性説がマタ再燃しかも補強されるしかないだろう?


「ジュリアさんのセリフがクローズアップされたら、またボクの女性説が補完されちゃうでしょ!」


「そんなにコトに成るとは限らないんじゃ・・・・・」


 ボクは思いっきり低い声で


「甘いっ!」


「ひゃいっ!」


 ジュリアさんを叱り付ける。


「このレースはジョンブルソンだけじゃ無くファルデウスでも放送されてるんじゃ無いの、ジュリアさんもやってた位スターライダーのレースって世界中で人気だそうじゃないか!」


 そうオーバーブレイクだけで無くサーキット?の様な決められた場所でスピードを競うレースや耐久レース、そしてラリーやラリーレイドの様に自然の地形の中を飛ぶレースもあれば、今回のオーバーブレイクの様にオプション(今回は大気圏突破)が入るレースもある。

 ちなみに大気圏突破・突入は宇宙船とかの運航に欠かせない技術で、オーバーブレイクみたいなレースには企業の協賛が集まりやすい・・・つまり賞金の高い大掛かりのレースに成る♪


「たしか公共の放送に・・・・・」


「その通りです・・・」


 彼女が小さく成って答えた。


「これ・・・やらかしたのがミューズだったら確実に手加減無しで、お尻100叩きにする案件なんですけど?」


 まぁ他所(よそ)様の娘を簡単にオシリ叩きには出来無いけど、


「あ~んキッド君!私も素直にオシリ叩きされるから部下の前でだけは許して、威厳が無く成っちゃうよ~~~~~っ!」


 思わず頭の中で「そんなモノ最初から無ぇわっ!」と突っ込んで仕舞った。


「それに今回の発言ジェリスさんや爺ちゃんに報告して叱って貰わ無いと・・・・・」


「そんな事しないでよぅ、叱られたりしないけど一生揶揄(からか)うネタにされちゃう!」


 甘いなジュリアさんは・・・ファルデウスでも放送されてたんだから直接見られたか、さもなくば見られて無くとも誰かが耳打ちするだろう。

 でもパニクってるジュリアさんは気が付いて無いらしい。


「ジュリアお姉ちゃん♪」


「ハイ何でしょう?」


 上目使いでコッチの様子を見てるジュリアさん可愛い♪


「ボクの❝お願い❞聞いてくれるよね?」


「こ・・・公務や法律に差し支えない限りは、最大限に努力させて頂きますぅ~~~~~っ!」


 ふっふっふっ・・・良い手駒が手に入った♪




 数時間後・・・職権乱用じゃ無いかと言う部下を(懐柔・脅迫込みで)必死で説き伏せ とある人物のスケジュールを割り出し、その対象者が参加してる会議の終る時刻を見越し現場であるホテルの玄関を潜った。

 会議を終えゾロゾロと出てくる参列者は大勢は誰も彼もボディーガードに囲まれてるが、中でも一際厳重に警護されてる恰幅の良い紳士に向かって正面から軍服を着て近付いて行く。


 その紳士は内心焦っただろう・・・その一団が着てる軍服は友好国である隣国の物、そしてその国の貴族令嬢に不肖の息子がチョッカイを出し頭を悩ませていたからだ。

 だが何度も犯罪者引き渡し要請をした後なら未だしも、行き成り隣国の軍人が自分を捕らえに来るなど少し考えられ無い事だ。

 それはコチラに非が有っても国に喧嘩を売る行為、それに捕らえに来たにしては全員女性と言うのも違和感がある。


 だがソレでも当事国の軍人が自分の前に来る?

 それは流石にタイミングが良過ぎるだろう・・・ファルデウスに誠意を表そうと、大統領が捕縛の許可を出したのだろうか?


『これで私も終わりか・・・・・』


 そう思いながらも顔を上げ前を向きながら胸を張り堂々と歩み続ける・・・だが軍服の一団は楽しそうに談笑しながら紳士の一団とすれ違う、思い過ごしだったのかと胸を撫で下ろした瞬間・・・・・


「失礼します・・・そちらにいらっしゃるのはトランサッド財団頭首、ガネスゲイター・トランサッド殿では有りませんか?」


 紳士は紳士らしい態度で振り返り答えた。


「いかにも・・・私はトランサッド財閥のガネスだが?お嬢さんは何方(ドチラ)様で・・・ファルデウス帝国軍人なのは解るが顔に見覚えが無い、失念してるなら大変に申し訳無いが・・・・・」


「初対面ですので御安心を・・・私はファルデウス帝国伯爵ジェリス・バーカンディが娘ジュリアと申します。御覧の通り帝国軍に所属しファルデウス・ロイヤルフェンサー第一艦隊司令官を拝命しております」


 昨日のレースで実況してた娘かとガネスは思った・・・あの放送は見てはいなかったが街中で流され声は聞こえてたし、彼女の経歴は目覚ましいモノがあってガネスの記憶に残っている。


「これはこれは・・・ファルデウスの英雄である女傑に、それもこんな美人に会えるとは光栄の至り・・・・・」


 地球でも見かける挨拶だけどガネスは片膝をついてジュリアの手を取り甲にキスをする、するとジュリアも嬉しそうに答え。


「まぁ・・・ジョンブルソン4大財閥の頭首に名前を覚えられてたなんて光栄です」


「そちらこそ良く隣国の財団ごときの顔を・・・・・」


 するとジュリアはニッコリ微笑んで、


「我が父ジェリスに子は私だけ、つまり私が次期バーカンディ伯なのです・・・そしてバーカンディ伯爵領はジョンブルソンの国境に隣り合ってます。ジョンブルソンは友好国ですし軍事的警戒をしてる訳じゃ有りませんが、それでも隣の領地の貴族頭首や周辺の有力者の顔位は覚えてますよ♪ましてトランサッド財閥とは我がバーカンディ領とも貿易してるじゃありませんか」


 笑顔のジュリアにガネスは警戒を・・・解く事無く強める!

 それは勤勉な貴族もいるだろうし顔を覚える事もあろう、だがアノ名高いロイヤルフェンサーの司令官がココにいる理由は何なのだ?


「して・・・ジュリア様は何用でコチラに?」


「先の反乱で敗れた反逆者の内、ジョンブルソンに逃げ込んで捕らえられた者を引き取りに来ました・・・我が国と貴国は反乱罪を含む犯罪者引き渡し条約を結んでますから」


 その事はニュースに流れたから知ってるが、ジュリア程の者が派遣される案件とはとても思え無かった。


「失礼ながらロイヤルフェンサーの貴女が出て來るほどの事では・・・」


「まあ訳あり何ですよw」


 ジュリアは朗らかに苦笑いをしながら、


「先程終わったフェンツ・オーバーブレイクレースの運営委員長は、私の学友の御父君なんです・・・その繋がりで私に実況ゲストを友好事業の一環として依頼されまして」


 これは事実で後ろ暗い事は何も無い。


「でも少し問題が発生してまして、まだ帰る訳には・・・・・」


「ほう・・・」


 彼は眉を顰める。




 道路を疾走する黒塗りの高級車の中には(あるじ)と執事それに運転手の3人しか乗っていない、彼等は皆額に皺を寄せ特に主人は眼を固く瞑りながら難しそうな顔をして何かを考え込んでいた。

 だが主はユックリと眼を開けると徐に・・・・・


「お前は如何思う?」


 そう執事に問掛ける・・・執事は彼の長年のパートナーで裏の仕事も携わっており、その執事は主人に向かって強い口調で言った。


「今からでも遅くありません・・・あの男を切り捨てるんです!それともマダあの男に肉親としての情が?」


「そんな物アイツになぞ残しておらんよ・・・だが今更アイツを切り捨てた所で事態は好転しない、むしろ更に悪い方へ転がるだろうよ」


 と悔し気に声を絞り出す。


「こんな事に成る前、せめてイリーナ嬢の学友に危害を加える前なら・・・彼の容体は?」


 息子ではなく父親が雇った殺し屋の凶弾に倒れた学生の事を聞く。


「今の所まだ生きています・・・しかし時間の問題、明日までは持た無いでしょう」


 彼は本当に悔しそうに、そして憎々しげに・・・・・・


「こんな事に成るなら、もっと早く あの男を・・・その事だけが今更ながら悔やまれるよ。そうしてたら()の手で あの男を・・・・・」


「何とか孫を助けろ、何とか財団のメンツを保てと5分おきに連絡が・・・もう面倒臭いので秘書に止めさせてます」


 ガネスは溜息を吐く。


「あのクソ親父は状況を理解しておらぬのだな・・・次期財団頭首が欲望のままに隣国の伯爵令嬢に手を出して、トランサッドなど跡形も無く消し飛ぶだろうと言う事が何故解からぬのだ?財力で何とか出来ると本当に思っているのか?」


 この件が明るみに出ればトランサッドの名誉は地に落ちるどころか、地中を掘り抜いて地獄の底まで突き抜けるだろう・・・ジョンブルソンの全国民だけで無く周辺諸国にまで笑われ、特にファルデウスからは関係者の逮捕と莫大な賠償が求められる筈だ。

 いやそれ以前に同国人であるフェンツ大の学生が撃たれてるのだ・・・あのバカ息子はこの手で絞め殺して詫びるべき、いや簡単に殺されるのは奴の罪には全く足り無いだろう。


「息子独り満足に育てられぬとはジョンブルソンの4大財閥頭首は馬鹿でも務まると証明出来たなw」


 皮肉気に笑う彼に・・・・・


「ガネス・・・これは君の執事で無く友人として言わせて貰うが、確かに罪を犯したのはオマエの息子で率先して隠そうとしたのは父親・・・だがお前が一体何の罪を犯したと言うのだ?」


「無理矢理と言えトランサッド財閥頭首の椅子に座ったのは私だ・・・当然この責任も私が取らなくては成らない」


 執事は主人の胸倉を掴むと、


「もう十分オマエは息子としての義理も父親としての義務も果たした、これ以上あのクズ共に・・・・・」


 執事に胸倉を掴まれてる頭首は、それでも嬉しそうに笑いながら・・・・・


「いや良いんだよ♪死に際に際し私の為に泣いてくれる友がいる・・・それだけで私のイヤ俺の人生も満更じゃ無いと思ってる、これでもキミには感謝してるんだ」


 そう言うと、


「あのバカ息子やクソ爺が雇ったチンピラでマダ警察に逮捕されて無い者は・・・・・」


「言われた通り宇宙港に留めてあるオマエの船に集めておいた・・・・・」


 執事が悲痛な面持ちで呟いた。


「済まない・・・車を止めてくれ」


 運転手が車を止めるとガネスは執事を車から追い出した。


「残念だがキミは今日付けで頸だ・・・今まで御苦労だった、これからは奥さんとユックリ船旅でも楽しむと良い」


 そう言って懐から出した携帯端末で自分の隠し口座を2分したモノを執事の口座に振り込んだ。


「こんな物を貰って私が喜ぶとでも?」


「そうは思わ無いが俺にはもう、これ位しか君に報いる(すべ)が無いんだ」


 彼に笑顔を向け、


「最後に・・・君を悲しませて済まない。おい車を出してくれ・・・・・・」


 車が動き出す直前に執事が自分の名前を叫んだのをガネスは聞いた・・・そして宇宙港に着くと再び端末を操作し、隠し口座の残り半分を全て運転手の口座に振り込んだ。


「申し訳無いがキミも頸だ・・・今日まで御苦労だった。ほかの人間に渡したく無かったから、この車の名義も君に書き換えてあるが持余(もてあま)す様なら売り払って・・・・・」


「この車をアナタが他人に渡したく無いと思うのと同様に、私も運転させたく無いし旦那様以外を乗せたくありませんね・・・・・」


 ガネスは苦笑しながら・・・


「じゃあ君に任せるよ・・・今日まで本当に御苦労様だった」


 そう言うと宇宙港の警備ゲートに向かって歩いて行った。

 運転手は見え無く成るまで主人を見送ると、


「こうしちゃ居られ無い、執事さんは・・・・・」


 主人を乗せては絶対しない真似、タイヤを軋ませながら車を出すのだった。




「参ったな・・・・・」


 ジュリアさんに頼んでトランサッド財閥頭首ガネスゲイターに接触して貰い、コッチの望んでる情報をリークして貰って来た・・・だけどボクもジュリアさんも海千山千のガネスを騙せたと思うほど楽観して無いと言うより騙す気は無いのだ。

 当事加害者の父親に被害者の国の軍人が話しかける、これが脅迫か揺さぶりと気付かない馬鹿は早々居無いだろう。

 むしろコッチの陽動だって事くらいアッチだって分っているだろうし、まあ其処ら辺は最初から織り込み済みだったのだけど・・・後は誘き寄せられてるの承知で奴が来るか如何かと言う話なのだ。


「あんなクソ野郎の父親ナンだからロクでも無い奴だと思ってたんだけど、ほんと先入観って怖いな・・・・・」


「でも私の見た彼の姿が本当のガネスだと思う事もまた、まあキッド君なら解ってるだろうけど」


 そりゃそうだけど他にも色々情報を漁ってあるし何より・・・・・


「私の言う事を信じて下さるなら、キッド様はガネスを殺せば相当後味の悪い思いをする事に成りますよ・・・そう成らない為にも私の情報を、少々お高いですが期待を裏切らない・・・・・」


「500出す」


 低く短く口笛を吹くジョルジュ・ダビド・アノン・・・再びイメンケさん経由で接触して来て、良い情報が有るけど300万で買わないかと言って来た。


「このタイミングで来たなら、アンタはボクの望むモノを確実に持って来た筈だ・・・時間が無い、口頭で良いからセッセと話して・・・・・」


 するとアノンいや歳上だからな・・・アノンさんは丸で教養番組の司会者が喋る様に、ガネスゲイターと言う人物を語り始めた。


「本名ガーネスゲイター・ルドルム・トランサッド、先代トランサッド財閥頭首のキムセン・ノドム・トランサッドの息子です・・・秘書だった女性と結婚しゼニスを儲けましたが、妻は産後の肥立ちが悪くスグに亡くなってます」


 親子三代ゼニスだけクズだったのか?


「いえガネスだけマトモな人物で、父親がクズでゼニスはその影響を・・・・・」


「それでも息子をクズに仕上げた責任は・・・」


「無いですよ」


 いや親がどんなに愛情を注いだって、その愛情の注ぎ方を間違えて無くったって、その他周囲の影響から子供がクズに育つ事くらい有るだろうさ!

 でも生んだ以上は責任が無いとまで言って良いモノか如何か・・・・・


「まぁキムセンと言うのは俗物中の俗物で欲望を煮詰めて造った様なクソ野郎でしてね・・・その悪逆非道な手口を見続けたガネス氏は父親を早々に見限り成人前に出奔、その後キッドさんと同じくギルドに所属して船乗りに成りました。堅実にして先見の明があり彼はジョンブルソンじゃ名の知れた船会社に成長させたのですが・・・・・」


「親父が横槍を?会社を買収したとか?」


 ボクはキムセンと言う人物を知ら無いけど、その辺の事情を知ってるジュリアさんやアノンさんは貌を顰めて苦々し気に・・・・・


「思い出した・・・そんな良いモノじゃ無いのよ、彼の会社の従業員その息子や奥さんを人身販売組織に拉致させたのよ!証拠は無いけど、そう言う事だったと推測されてたは・・・当時からね!」


 モニターの中のジュリアさんが言った。


「お父さんも言ってた・・・隣国の事で手は出せなかったんだけど、たぶん間違いは無いと思うよ。誘拐犯は全員逃げおおせたし・・・・・」


 新進気鋭の船会社の社員がそろって家族を誘拐されたのは、当時としても大騒ぎに成ってファルデウスにまで届いたらしい!


「ここからは推測も入りますが先ず間違い無いでしょうね・・・部下の家族を無事返して欲しくば、ママゴト等を止めて財閥の後継者に成れとか」


 うんクソ野郎だ・・・遠慮無くブッ殺せる!


「そしてイヤイヤながら後継者にされ、無理矢理に後継者を作らされたとか・・・・・」


「いや奥さんとは後継者にされてから出会った恋愛結婚で・・・・・」


 なんだ幸せも手に入れられたんじゃ・・・・・


「息子を生んだ直後に奥さんは・・・そして息子は父親に奪われ、手元に帰って来た頃にはクズに成り果てて・・・・・」


 お腹いっぱいだよ!


「でも・・・その情報ドコまで正確?だいぶ推測が混じってた様に聞こえるけど・・・・・」


「任せて下さい♪証拠の品もチャンと・・・・・」


 ダイニングのテーブルから見事なテーブルクロス引きを披露すると、クロスの下からはテーブルでは無くあり得ない存在が・・・・・


「これが証拠の品です」


 そう言ってアノンさんが引いたクロスの下には・・・ボクはアノンさんの見事な手品の腕に感心しながら、そのアノンさんの後頭部を全力でド突き大声で怒鳴り付けた。


「これは証拠でも品では無いっ!そもそも船長であるボクの許可も得ず、こんな物をスターシップに持ち込まない・・・ってオマエの乗船許可も出して無いぞ?」


 皆がエッと言う顔をしてる。


「あまりにも堂々と入って来たので、お兄様が許可出したのかと・・・てっきり思ってました」


「おいアリスッ、お前が見逃す何て事が有るのか?」


 するとアリスは・・・


「いやキッドさんを脅かす良い悪戯が・・・いえイベントが有ると言われまして♪」


 さすがのボクも怒った!


「ふざけるなよコイツ現役の・・・・・」


 くそっ・・・だが何人殺したのか知らないけど、ジュリアさんの前で正体暴露(バレ)すのは可哀想に思える。

 それにボクを狙うまでアノンさんは闇の世界の住人しか相手にして無いらしい・・・まあ裏社会の人間同士が殺し合うの何か告発する義理は無い、その辺はイメンケさんが十分以上に調べてくれている。

 それに殺した数ならボクこそ比べ物に成らない正真正銘の虐殺者だし、イメンケさんもエージェント時代に任務で殺した人間の数はアノンさんより多いそうだ。


「まぁまぁそんな硬い事言わ無いで、ボクの情報は・・・・・」


「質が良い事は認めるけどね・・・」


 ボクは不貞腐れたアピールをしながら考える。


「ゼニスに関してガネスは・・・・・」


「すでに身内の情など残って無いそうで、マァそれは親であるキムセンに対してもですが・・・」


「本人は・・・」


「父親と息子が逮捕されれば、おそらく有罪に持ち込める十分な証拠を用意してるのでしょう・・・二人を片付け自分が死ねば・・・・・」


 ボクはトランサッドが空中分解か消滅すると思ったけど、そうならない様に国が接収し運営する制度があるそう・・・そして内部の犯罪を十分絞り出した上で売却される。

 ちなみに犯罪を犯した分に関し十二分なペナルティを背負わせたうえ、残っている部分が有れば親族が相続出来る可能性も・・・そう相続だ立件され有罪に成ったら確実にキムセンとゼニスは死刑か一生出て来れない。


「殺し屋を雇っちゃったからなぁ・・・しかも隣国の貴族を狙って、イリーナさんは如何考えてる?やっぱ責任者と言えガネスにも・・・・・」


「ゼニスには・・・絶対この手で襤褸切れにしてやるけど父親には何の責任も無い、まして()っきの話を聞いたら責める気には成れ無いわ」


 そう言った彼女の横顔をボクは奇麗だと思った。

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