降った筈の将に良い様に使われる!
アイスコフィンから出立すると、ボクは帝国領の外れ辺境部へ向かった。
外部から内側へボクとジュリア大尉などの遊撃隊で反乱軍を狩り取って行き、同時に帝都から外に向けてジェリス艦長を含む多数の帝国軍が侵攻する。
挟み撃ちでは無く早い者勝ちの各個撃破で、勿論囲まれたりしない様に敵の規模には気を付けるのだろう。
帝国正規軍の皆さんは・・・ボクは逆に囲んで貰った方が殺り易い!
敵の懐に飛び込んで暴れまわるのが得意技だ♪
さてジュリア大尉も48隻からなる艦隊を陛下から下賜された。
ただし気に入ってるから、そのまま軽巡洋艦であるフリッパーを旗艦に使うらしい。
彼女も機動性を生かして、敵を掻き回す戦術が得意の様だ。
「ドック艦アイスコフィンは、今後は僕ヴェラニ大尉が艦長に就任します。コチラのルートで移動する予定です」
好青年と言う感じのお兄さんだ。
「つまりコノ航路で補給出来る様に、戦って立ち寄れと言う意味ですね?」
「正解♪」
冗談の分かる人だ。
「解りました。では行って来ます」
「ハイ、行ってらっしゃい」
戦争に行くには緊迫感の無い挨拶である。
「取り合えずクーパー星域でベノン中将を潰そう♪そしてレーズかマイセルを経由して・・・・・」
「そこで補給しましょう。おそらく荷電粒子砲に使う、金属微粒子が心許なく成って来ると思います」
もう2戦くらい行けそうだけどな。
「あのね・・・普通は一回艦隊戦したら補給に戻るモノよ!連戦する事が標準って、キミだから出来る事だからね?」
ジュリア大尉にもツッコミを食らった。
何故だ?
「また暫しのお別れですね?父上に御会いしたら「約束の美味しいモノは如何した」とボクが言ってたと伝えて下さい」
「了解♪それでは、また逢う日まで・・・」
通信が途切れ、ジュリア大尉の艦隊と別れる。
「そんじゃ行きますか!」
ボクは18000ベッセル先のクーパー星域を目指した。
元帝国軍ベノン中将・・・ボクを捕まえてスターシップを奪おうと考えた奴等の筆頭だ。
元の階級から言っても影響力は低くなかった様で、140隻からなる大艦隊を率いていた。
と言っても反乱軍に堕ちたトコロで離脱され元々は200近く居た様だが・・・巨大な戦艦を艦隊の先頭に並べ、その中心で指揮を執るのが標準戦術らしい。
「オッハヨウ御座います!」
レプトン通信で挨拶を送ってから、背後から堂々と奇襲をかける。
敵艦隊の中を縫って先頭の大型艦に肉薄した。
「何をしてるっ!早く打ち落とせ」
ベノン中将の怒鳴り声が通信から聞こえる。
自分じゃ何もしないクセに良く言うね?
ボクは敵艦隊と擦れ違いながら、後方を少し掻き回してからY軸上に舵を取る。
そしてベノン中将の乗る旗艦に対し、上方から急降下する様に突撃する。
宇宙空間で上方・急降下を使う事が、文法上正しいかは判んないけど♪
「上かっ?」
「遅いよっ!」
ビームキャノンで戦艦4隻の艦橋を、ほぼ同時に吹き飛ばす。
そのまま擦れ違ってから急上昇し、今度は下面からエンジン部を狙撃した。
流石に装甲が厚く、4隻中2隻しか爆発しない。
「今度は下か?」
間の抜けた通信が聞こえて来る。
ボクが溜息を吐くと、聞く必要も無いと判断したアリスが通信を遮断する。
その間に落としそこなった2隻も、ビームキャノンで吹き飛ばす。
更に逃げ遅れた数隻に、レーザーを照射して赤熱化させる。
ジジッ・・・
宇宙空間だから聞こえては来ないが、敵艦の艦体が焙られて赤熱化する音が聞こえてくる気がする。
ゴパッ!
照射されてた部分が溶け落ちて大穴が開いた。
そして次の瞬間、穴から火を噴きながら大きな艦が轟沈する。
「シールドの質は良い様で、ダメージ発生まで2.5秒も掛かって仕舞いました。でもこの程度なら、高速機動戦闘でも照射角の追従が間に合います」
敵がシールド張る前なら、即溶断する事が出来るんだけど・・・・・
「通信にて敵艦隊から、降伏の意志が表明されました」
「承認、X597R7にて艦列を整え待機、妙な動きを見せたら遠慮なく落とすからね!」
次の開戦で最前列で最初に戦って貰う。
反乱軍に発砲する事で、決意表明を見せて貰う訳だ。
その背後からスターシップで後を尾ける。
反抗した場合は、即撃沈する為だ。
「降伏した艦No38がコチラに副砲を向けてます。エネルギー・チャージ済みです」
降伏した感には便宜上のナンバーが付けられ、相手にもソレを通知される。
「副砲がコチラに向いている事を問い合わせて!」
「No38、応答しません」
コチラが撃たないと思い、舐めて掛かっての悪戯だ。
降伏した事が面白く無いと、挑発的な態度を取ってるらしい。
「レーザーキャノン、照射っ!」
レーザーを発砲された途端、No38から通信が来た様だ。
だが戦闘直後にフザケてるアイツ等が悪い!
No38は爆散し、降伏した他の艦船からも抗議の通信が雨の様に降って来る。
「降伏した全艦に告ぐ・・・チャージした砲を向けて、撃つ気は無かったなどバカな事は言わせ無いよ?コレに付いて一切文句は受け付けない。文句が有るなら戦後、軍事法廷に持ち込むんだね!今後コチラの指示無く、エネルギー兵器のチャージとミサイル・魚雷の射出設備への装填を禁止します。それを破るなら・・・分かってるよね?現在キミ達の立場が投降した反乱軍でしかない事を お忘れなく」
レプトン通信では音声だけでなく映像も送る事が出来るが、舐められるのでボクは姿を見せていない。
ただ散々報道された後なので、外見と声から子供と既に舐められている。
「ベノン中将の第8機動艦隊は隊列を整え終わりました。このままX29-87へ移動し、2回戦を始めます」
「了解、スターシップは艦隊の背後に・・・いつでも撃てるようにしてね♪」
投降した敵を簡単に信用する訳には行かない。
ベノン中将の子飼いの艦長もマダ居る筈だ。
いつでも対処出来るよう艦隊の後に付いた。
「ネエ、アリスも皇帝との会話を聞いてたでしょ?あの話、如何思う・・・・・」
「マスターの言葉を借りるなら、ご都合主義も極まったりと言った所でしょうね」
ヤッパリそう思うよね!
ジェリス艦長達を助けたのは、間違いなく偶然だった。
その後に腐敗した帝国の改革を手伝わされたのも、まあ偶然じゃ無く皇帝達やジェリス艦長が企んだんだけど。
でも帝国を助けたボクが皇帝の孫娘に瓜二つで、しかもミューズ姫が乗り出した船のソックリさんで現れた。
偶然で片付けるには少々どころか大分出来過ぎだ。
ボクは来訪したのでなく、帰って来たんじゃないだろうか?
「アリス・・・ボクがミューズ姫だった・・・何て可能性は無いかな?」
「その線は現状では薄いかと思いますよ・・・先ずマスターがミューズ姫であると仮定するなら、マスターに地球・日本の記憶が有る事、ミューズ姫の記憶が無い事、五目餡かけラーメンを食べて郷愁を覚える等、不可解な点が多過ぎます。また皇帝の造った船の設計図を見ましたが、似通っているのは事実ですがモノが違い過ぎます。この世界では突出した性能の外洋探査船ですが、スターシップに全く追い付いてません」
「じゃあ可能性は無い?」
アリスは暫く間を置いて言った。
「と言うには・・・ご都合主義が・・・・・」
「フィクションなら、ご都合主義で文句あるかって言えるんだけどねェ・・・・・」
この肉体が造られた物なので、外見や身体から手掛かりを得るのは難しい。
それでも仮説を立てると、実は虐待されてたミューズ姫は逞しい男に成りたい願望が有ったかも知れない。
そこで宇宙へ飛び出して、死期が近い身体を捨て男の身体を造って魂を移植する。
つまりボクは記憶は失ってるが、ミューズ姫本人だった・・・やっぱりボクの正体は女の子だったとか、何か自分で自分の予想に凹むよな!
これが事実だったら可愛い孫娘の性転換だ何て、皇帝の爺さん聞いたら卒倒するぞ!
「あの方の性格まで判りませんが、可愛い孫が帰って来るのです。仮に孫娘が孫に成ってても喜ぶのでは?」
「そうかな~っ?」
だが正直言うと、あの皇帝陛下の爺さんは少し気に入っている。
為政者である以上は冷酷な判断を下す時は有るだろうが、本質的には優しい善人に思えた。
まあ苛烈な所もあるけどね・・・実の息子を見捨てるとか!
出来るなら爺さんには悲しい思いをして欲しく無いと思う。
「そう言えば皇帝の跡目って、如何成ってるの?」
「ファルディウス皇帝の直系子孫は廃嫡された息子だけです。しかし皇帝の弟が存命し、その息子と孫が大勢居ます。あのジュリア大尉の母上が皇弟殿下の娘で本人も第4位、いえ嫡男の皇太子が廃嫡されたので第三位継承権を持ってますよ」
「何気にお姫様で次期皇帝の可能性も高いじゃない?」
「息子の件も有り、皇帝が本人の資質で順位を決めてます」
うっわ~っ、スパルタンな皇室!
「お喋りしてる間に次の敵が見えて来ました。降軍の艦長達より指示を求める通信が来てます」
「ボクには艦隊戦の指揮能力は無いよ・・・先程のNo38撃沈にNo2は文句を言って来なかったよね?彼等は文句を言う前に、38がチャージした砲等向けてた事は・・・・・」
「勿論知ってましたし、止める様に通信で言ってましたよ」
「No2に艦隊戦の指揮を執る様に伝えて、ボク達は暫くは後ろで様子見だ」
敵艦は122隻、コチラとほぼ同数だ。
このベノン中将の別動隊を潰せば、この星域での戦闘は終わる。
「No2のライデーン艦長より、降伏を呼びかけても良いかと問い合わせが有りました」
「良きに計らえ♡」
すると警報が鳴り響き、スターシップに急制動が掛かった!
「ナニが有った!?」
ボクは怒鳴る。
「No2より至急70ベッセル後退するよう要請が来ました。如何致しますか?」
「何か企んでるのか・・・まあ良い、乗ってやろう!」
ボクはスターシップを70ベッセル後退させる。
「降軍の艦体はNo2を含んで過半数が50ベッセル後退・・・ただ殆ど小型艦で大型艦は前進し続けてます。同時に対峙艦隊も小型艦を中心に艦隊から離脱・・・No2の動きに追従してる模様です」
何を企んでいる?
「ライディーン艦長より通信が入ってます。向こうは映像付きですが、コチラは如何します?」
「礼儀を持って同じにしようか?」
モニターにイケオジの貌が浮かび上がった。
ジェリス艦長とは違ったタイプだが、コチラも中々渋くてカッコイイ♪
「失礼します。重巡洋艦サンダーバード艦長、ライディーン・ストラクラウドです」
「こちらキャプテン・キッド、コレは如何言う状態ですか?」
彼はニッコリ笑いながら言った。
「我等は皇帝に弓を引く事を良しとしない本当の降軍です。ベノン中将の甥が指揮する残りの軍は、一旦降伏しながら、お嬢様に弓引く積りです。今後は誠心誠意お嬢様に仕えますので、今回だけは隊列を整える時間を頂けないかと・・・・・」
「と言いながら、同じ釜の飯を食った仲間に発砲したくないのかな?」
「想像にお任せします。ちなみにコチラがベノン中将の子飼いの将官・近親者のリストです」
コノヤロー!
「次の海戦ではコキ使うからね!」
「それはもう♪」
「ところで言っとくけど・・・ボクは男だからね!」
「エッ?」
驚愕する彼の貌が消えて通信が切れた。
「やりますね・・・中々のタヌキです」
「ファルディウス帝国はコンナ奴ばっかり!」
ボクはスターシップのバーニアを吹かす。
大型の戦艦・重巡洋艦が24隻・・・航行不能に成って曳航されている。
その全てが艦橋を吹き飛ばされていた。
ボクの攻撃だ・・・これで残りは降伏する。
「先程は失礼致しました!まさか男の子とは・・・謝罪します。でもこれで中将の取り巻きは全て死亡または拘禁しました。巻き添えの犠牲者には可哀想な事をしましたが、そもそも戦争でコノ程度の犠牲で済んだのは奇跡に近いでしょう」
「ライディーン艦長、アンタ何時から企んでた?」
彼は済まなそうな顔をして言った。
「最初からです・・・誰だって皇室に弓など引きたくない、しかし指示に従わなければベノン中将と子飼いの連中に殺される。此度の戦いで対敵した奴等だって、本音で陛下に刃を向けたくは無かったのです」
そりゃ判らないでも無いけどさ、帝国って裏で何か企む人が多過ぎないか?
「それに付いては指導者の薫陶の賜物です。クレームはアチラに・・・次の相手はクリーガーかバイエンセルですか?ならガチガチの貴族派ですから、コチラも遠慮なく戦えます」
ああ、そうですね・・・今回キミ達は殆ど戦わず片が付きましたモンね!
「それも狙ってました・・・今回は頭のみが戦いたがってる連中だったのでね。我々が直接対敵したら、恐らくドチラも半数が沈んだでしょう」
ファルディウス帝国は軍人が黒い!貴族も黒い!
「次の戦いでお詫びしますよ・・・今回降った艦を最前列に、開戦前に離脱した艦をその後ろに付けます。最後尾はお任せしますから、裏切った艦は遠慮なく沈めて下さい」
通信が切れる・・・なんとなく良い様に操られてる気がする。