一応準備は整ったかな?
「アンタ等ね・・・全く父様も、こんな非常識な子を迎えに寄越して・・・・・」
忌々しそうにイリーナ嬢は言うけど、
「訪ねて来た相手を確認もしないで無視した方が悪いでしょう?お父上からの救援が来るケースも想定して無かったの?」
と言い返す!
「父上の救援が来る事より、ゼニスゲイターの追手から逃れる方が優先だと思ったのよ・・・それに救援が来る可能性は少ないと思ってたし」
まあ友好国と言え隣国の貴族が武装して救援に来るのはチョッと無理、だからボクみたいなの雇ったんだろうし!
「さてと・・・イリーナさんの計画ってオーバーブレイクのレースでスタート直前にレーサーと入れ代わって大気圏を突破、その後ゴールであるフリーステーションで小型の低出力船で慣性航行だけで離れてから加速し離脱する・・・そんな所で良いかな?」
「流石ね・・・」
彼女が面白くも無さそうに言ったのは、ボクの推察が結構良い所まで当たってたからだろうけど・・・・・
「そんな穴だらけの計画、良く実行する気に成ったね?」
「う・・・五月蝿いわね!」
顔を真っ赤にして怒っているけど、言い返さない当り無謀である事は自覚してたみたいだ。
「いくら出力弱いからって見逃される可能性は高くは無いでしょ?」
「それでもレース直後ならデブリの中に紛れ込めるかと・・・一斉に数百機のスターライダーが大気圏を突破するのよ、その勢いに巻き込まれたスペースデブリが一斉に・・・・・」
とは言っても監視の眼だって有るし最悪デブリとゴッツンコする可能性だって、それにトランサッド財団に雇われたチンピラや鼻薬が効いてる司法関係者や軍にだって見付かるかも!
「その時の覚悟位は・・・ね♪」
コイツ最後の手段も用意してやがるな?
「自爆装置でも用意してるんでしょ?出しなさい!」
彼女は不貞腐れた感じでセカンドバッグを差し出し、中には携帯型の投擲弾が8発入っていた。
「民生品と言え良く8発も入手出来たね?」
この世界では恐ろしい事に護身用の銃器だけで無く手榴弾や機関銃その他諸々の火器まで購入可能、と言っても個人で戦闘艦を所有してるボクが言っても説得力が無い。
「いえ軍用品よ?ジョンブルソンじゃ結構普通に流通してるし・・・・・」
訂正しよう・・・ファルデウスの事を物騒だと思ってたけど、ジョンブルソンよりはマシだったのかも知れない。
「これはボクが有効に使わせて頂きます・・・さてとミューズにはイリーナ嬢のエスコートをして、スターシップと合流しファルデウスに帰還して貰いたいんだけど」
「流石に簡単には逃がして貰え無いみたいよ?」
ミューズに言われる迄も無く、廃工場を取り囲む黒服のエージェントが視界の隅に表示されている。
その数は18名・・・ボク一人でも十分対処出来る人数だけど、ミューズが正式にボクの相棒と成った以上はソロソロ実戦を経験させる必要が有るだろう。
その為のトレーニングは十分積ませて来た!
「ミューズ・・・これが初の実戦に成る、出来るか?」
「勿論♪」
そう言って再びホルスターから銃を抜いた・・・彼女の銃はベレッタ・モデル92で俗に言うベレッタM92FS、小さい彼女の手には少し余る大型拳銃だが戦闘実用品としてはココ等辺が妥協点だ。
勿論だが本当に実用を求めるなら拡散ビームガンやパルスレーザーそれにブラスターの方が実用的・・・と思われるかも知れないけど隠し持って携帯する拳銃に限っては、コッチの世界に来て実戦を重ねると骨董品とも言える地球産の炸薬実弾拳銃が意外と実用的だった事に気が付いた。
先ずビームやレーザー等の光学兵器は反射し易く、そして熱線銃は耐熱コーティング装備で無力化し易い・・・実弾なら直撃したら貫通しなくても相手にダメージを与えられ、そしたら2発目を冷静に頭へ打ち込む事も容易なのだ!
また実弾兵器ならレールガンが有ると言う意見も出るだろうけど、弾丸以外にも電源を持ち歩かなければ成らないレールガンは重過ぎる。
アサルトライフルや機関銃のポジションに転用するなら相応しいけど、|隠し持って携帯する拳銃には不釣り合い・・・これなら炸薬式の拳銃弾の方が軽く取り廻しも携帯もし易かった。
さてミューズに与えたM92FSだが地球産オリジナルの単純コピーでは無く、❝彼❞の技術を総動員したカスタム品で銃の性能も耐久力もオリジナルとは比較に成ら無い代物・・・その割には刻印までオリジナルを模してる辺り自分のマニアさ加減を自覚させられた。
そしてバックアップにはパルスレーザーガンとワルサーPPK/Sを、このPPKも外見だけはオリジナルに寄せたカスタム銃だがオリジナルより圧倒的に高性能な未来銃だ!
「ミューズはイリーナさんに張り付いてろ、解かってるだろうけど・・・・・」
「銃を向けて来た相手に手加減はしません!」
そう言ってイリーナ嬢を背に隠す。
その姿を勇ましく思いながらボクは何時もの愛銃では無く、45口径仕様のシグ・ザウエルP220カスタムモデルを引き抜いた。
ガバメントを持って来なかったのは今回は対人戦で護衛対象が居る以上、確実に敵を沈黙させる必要が有るから・・・今回は最初から相手を殺す積りで銃を手にしてる。
細身で握り易いグリップ形状のガバメントは抜き打ちには最高だけど、そのスマートな外見に反し意外と重く1㎏以上あり、またグリップは銃の反動を殺し切るには少し細身過ぎて手に響くのだ。
まぁ飽くまでボク個人的な感想だけどね・・・その点P220は若干太めのグリップ形状と軽めの重さが楽だし、戦闘が長時間に成っても疲労を軽減してくれる!
「さてと・・・」
外に出て敵の数を減らす前に先ずはワザと敵を見逃しミューズに撃たせて見る・・・彼女がマトモな銃撃戦を繰り広げられるか、まぁ正直言って余り心配していない。
なにせ光学兵器の重機銃もってボクを助けに駆け付けた娘だから、ただし拳銃で至近距離での打ち合いは初めてなのでチャンと戦えるか見届けてから・・・・・
スパンッ!
どすっ!
ゴロンと転がった敵を見てボクは安心して外に出る・・・ミューズもスターシップのコクピットから砲撃したり遠距離から撃ち合った事は有るけど、至近距離で撃ち合い自分で殺した死体を見るのは初めてだった。
だけど転がった2人の敵兵を一瞬見下ろし着弾個所を見て死亡確認すると、すぐに次の敵に対して警戒し始めた・・・ボクが余計な心配をする必要は無かったのだ。
ボクは安心して屋外の敵を掃討し始め、イリーナ嬢の持ってた手榴弾を有効に使わせて貰った。
ミューズが4人程片付けた所で残りはボクが、手榴弾も3発使い残りは5発ある。
イリーナを匿ってた連中(学友さん達)に連れられて次のセーフハウスに移動したが、連れて来られたのは海沿いの岸壁に空いた洞穴・・・残った学友さん達はスグに警察に連絡したけど襲撃者の正体に辿り着く事は無いと思われる。
「せめて宇宙に上がれば何とか出来るかとも思ったけど、地面にへばり付いてる内は何にも出来無いわ・・・腹が立つ!」
彼女の言葉遣いが貴族らしく無いのは幼少の頃より❝家出魔❞だったから、市井で遊んでる方が余っ程楽しかったらしい・・・グレイバー伯爵の言った通り相当の暴れ馬だね?
「でも合法・非合法問わず奴等に見付からず脱出する方法は無い、この際もう強行突破で外洋旅客宇宙船でもハイジャックするしか・・・・・」
と彼女の学友が言ったが、
「これでもファルデウス貴族の一員、そんな犯罪を犯す訳には・・・・・」
妙な所でプライドか倫理観が高いよね?
「ねぇ、ここに居る皆はイリーナさんの学友なんでしょ?サークルも一緒なの?」
皆が顔を見渡し最後にイリーナさんを見やってから、
「そうだ・・・オレ達は全員フェンツ大の学生で、オーバーブレイクのサークルに所属してる」
「ここの正式なレーサーは?」
ボクに答えたリーダーっぽい男の人が、
「そこに居るウェッセルとオレそれにイリーナの3人が正式なレーサーだったが、何故か今まで優勝歴が複数あるサークルやクラブは最高3人まで出場出来たのに今年から各団体1名づつに成った・・・まぁトランサッド財団が手を廻したのは間違い無く地味な嫌がらせだよ。で最初はイリーナが出場する事に成ってたけど例の騒ぎだろ、イリーナは失踪した事にして身を隠したから出場者は俺に、それでレース中にイリーナを逃がす計画を思い付いたんだ。オレはイリーナと体格が余り変わら無いから、イリーナが厚着すれば誤魔化せると思って・・・・・」
確かに筋肉質だけど細身の体をしてる。
「身長はボクより5㎝高いかな?でも高いのはイリーナさんも一緒、後は顔だな・・・・・」
ボクはイリーナさんが座ってる前に椅子を持ってき、正面に座って彼女の顔を覗き込んだ・・・しばらく眺めていると彼女が照れて頬を染め出し所在無げにモゾモゾし始める。
「ちょっとキミ何をして・・・」
「照れて可愛く成ってるイリーナさんを楽しんで(バシィッ!)・・・冗談だったら!」
後ろからミューズに後頭部をお盆で叩かれた。
「兎に角その侭で・・・大丈夫自信を持って良いですよ、グレイバー伯爵も言ってたけど中々の美人で自慢の娘だって♪ただ性格に難有りとも伯爵は言ってたけど・・・いやボクじゃ無い、アンタの父親が言ってたんだって!」
腕捲りして迫って来るイリーナさんを牽制しながら、
「イリーナさんはボクより身長が3㎝ほど高め、胸は平均に比べて控えめだから詰め物で誤魔化せる・・・チョッとイリーナさん、痛いっ!痛いったら!?」
今度は行き成り詰め寄って来て思いっ切り上腕の内側を抓り上げられた。
「体重もボクの方が7㎏程・・・いえ何でもアリマセン、と言う事で変装は可能だけど問題は顔だな!ボクの顔じゃ変装だけじゃ少し心許無い、その後の事を考えたら体型も少し絞って置いた方が良いな」
そう言ってボクは彼女の両肩を正面から掴んで対峙する・・・何をするのか解かっているからミューズもツッコミを入れて来無い、そしてボクは自分の身体に変化するよう念じかけると・・・・・・
「あっ!」
「えっ?」
ボクの眼と髪そして肌の色が変化し始める・・・黒髪は色素の薄い金髪に、黒い瞳はブルーに、肌の色はボクより少し濃いかな?
「如何かなミューズ?」
「髪は合格、でも瞳はアースアイじゃ無いよ!それに肌の色はもう少し白い・・・・・」
おっと黒くて目立た無いから良く忘れちゃうけどボクの瞳はアースアイと言われるタイプ、ほゞ黒に見得るほど濃い茶色ベースに黒と茶そして緑が惑星の模様の様に混ざっている。
「自分で変えられるの?」
「父さんがカメレオンだったんだ♪」
ちなみにアースアイもカメレオンもコッチの言葉や近似種を変換させて会話してるよ♪
「後は痩せる事だけ、それも顔を優先的に・・・・・」
「ハイ♪」
ミューズの奴が横から強力な下剤を差し出した。
「オマエこんな物を何で持ってる?」
「ゼニスゲイターって話を聞くだけでイヤな奴じゃ無いですか、チャンスが有ったら盛ってやろうかと・・・・・」
コイツ・・・意外と怖いぞ!
「このサークルのメンバーは今回のレースをイリーナさんの為に捨てても良いのですか?」
皆が黙って首肯した。
「今から選手の交代って可能?」
「あぁ・・・だけど誰に変えると言うんだ?」
ボクは成るべくイヤらしそうな笑いを貌に張り付けて、
「勿論イリーナさんに決まってるじゃ無いですか、そうしたら奴ら間違い無くコッチに注目する」
何言ってるんだと言う顔をして言い返すと、皆が変な表情を浮かべて苦笑いしている。
チョッとした苦行もとい修行の日々が始まった・・・お腹の中を下剤を何度も飲んで空にしたボクは毎日朝昼晩とランニングとトレーニング、5日で顔を痩せさせるには他の方法が無かった。
ただ体力を落とす訳には行か無かったのでボクはナノマシン入り栄養剤の錠剤を服用し様としたんだけど・・・
「スタート直前の運営管理下での摂取以外、ナノマシンの服用は違反行為に該当する。だから普通の栄養剤だけにしといてくれ・・・ナノマシンは駄目だ!」
そう言われて止むを得ず自力で何とか維持して見る事にした!
「しかしシュミレーターは完璧だけど・・・実際ぶっつけ本番で素人をレースに出して良い物か、本職の戦闘機乗りだってなら話は解るけど」
「ボク・・・本職の戦闘機乗りですよ、と言うより外宇宙航行船スターシップのオーナーでパイロット何ですけど・・・・・」
資格は十二分に持っていた・・・ちなみに戦歴や飛行記録のデータを彼・部長さんに提示したらアイアンイーグルの分だけで音を上げる、スターシップの戦果データなら圧縮してても数十倍は有ったのに!
そんな事してるとサークルの女の子が来て、
「出場者をイリーナに変更して来たよ!凄い大騒ぎに成ってる・・・・・」
「何で?」
トランサッド財団との確執そんなに有名なのか・・・なら民意で司法を動かせ無いか?
「違うよイリーナはスターライダーの星間レースや大気圏内レースで優勝経験が何度も有る位のレーサーなのよ!今まで様々なレースで3度のチャンピオンに輝いてて、次の大気圏突破レース制覇でグランドスラム達成だったのに・・・・・」
「まあ次のチャンスが有るわよ♪」
彼女はあまり気にしてない、何でもゼニスが差し向けたチンピラとやった時に足首を痛め万全の調子では無いそうだ。
だが・・・
「ウチのサークルとしては初の優勝を狙えたんだけど・・・・・」
他の部員が呟く・・・このサークルとして優勝経験が無く、しかも予選では部長さんとイリーナさんのコンビでファステストラップに該当する記録を立ててたらしい。
「部長さんは?」
「イリーナが襲われた時に庇って腰をね、だからこそレースを捨ててもイリーナの逃亡に・・・・・」
皆が悔しそうな顔をしてるけど、
「ねえ・・・フェンツ大のサークルとしては、レーサーがフェンツ大の学生じゃ無いと成らないの?」
すると・・・
「いや他校や学生以外との合同チームなんて当たり前だし、フェンツ大のサークルに所属してる選手で出場してる限りは何の問題も無いよ。まあ現役で在校してる奴からチャンピオンを出したいと言うのは確かに有るけど・・・」
「イリーナさんは?」
「どんなに良い成績が出ても私は賞とポイントを辞退するし、抑々途中で離脱する積りだったから自然と失格に成ると思ってた・・・まぁ私はファルデウスに帰還してもレースは続けるしグランドスラムは次の大会までお預けにするよ」
何かボクの旧友みたいに気持ちの良い仲間だと思う・・・これはチョッと肩入れしたくなる奴等だ!
「諄い様だけどイリーナさんの名前で出場した選手が別人だったって場合、サークルに迷惑が掛かったりペナルティを科せられたりしないよね?」
「入れ替わってるのがプロレーサーや無免許で無い限り、所属してる選手の中なら後で申告すれば問題は無いよ・・・それにイリーナが自国に逃げ切れれば、イリーナの実家もトランサッド財団相手に訴訟を起こすだろ?そうすればオレ達の正当性も立証されるし・・・・・」
この世界では大学のサークルでも学生以外の所属は可能らしい・・・なら話は簡単だ。
「部長さんボクを学外の選手として登録して、そしてボクを正式にレギュラーのレーサーとして・・・・・」
色々な事を指示してから、
「じゃあボクは後1時間くらい走って来るから、皆は手続きの方お願い・・・部長さん如何したの?」
何か部長さんが椅子の上で器用に膝を抱えてイジケてる。
「だってキッドが来てから、ずっとオマエが取り仕切ってるし・・・これでも部長なのに急にモブ扱いされて(ドスッ!)痛ぇっ!」
椅子は背凭れの無いストールタイプだったんで背後から部長の尻を爪先で蹴り上げた!
「なに下らないコト言ってるの、イリーナさん助けたく無いの?部長はオーバーブレイクの事に関しては専門家でも、戦闘や策謀の専門家じゃ無いでしょうに・・・これでもボクは自慢じゃ無いけどソッチに関して一家言は持ってる!ボクの船の戦闘履歴を見たでしょ?近接での肉体格闘戦の履歴も説明し様か?」
殺した数じゃチョッと誰にも負けない自信が有る・・・まあ自慢出来るコッチャ無いけど。
「そんなコト言ったてオマエみたいなチビがヴァイラシアンを滅亡させた❝シロアリのキッド❞だなんて・・・・・」
「その仇名は何だよっ!」
随分イヤな仇名付けられてるな・・・
すると部長さんがチョッと自慢げに、
「これでも俺は軍人の家系でフェンツ大学じゃ近代戦略研究科と近代軍事史科を取ってるんだ・・・大学はジョンブルソンの国立大学のトップで軍関係の科も、親は士官学校に行かせたかったみたいだけどボクは堅苦しくって好きじゃ無くてね。でドッチの科でも1人で戦局を引っ繰り返した君の事で持ち切りで専門に研究してる奴やファンも居る」
「ボク一人でファルデウスを勝たせた訳じゃ無い、戦局動かしたって偶々だよ・・・・・」
「それは謙虚が過ぎるかと・・・・・」
横からミューズが余計な事を言うので、
「ミューズさんや、お尻・・・久し振りに叩かれたい?」
「暴力とHは反対です・・・」
と小さな声で抗議するミューズが可愛かったw
さて
「で・・・ドコからシロアリ何て表現が?」
「お兄さま解かりません?」
またしてもミューズが口を突っ込み、
「敵艦隊の中に飛び込んで中から食い荒らす様に敵艦を、あれ見たらシロアリ以外の表現は出て来ないかと・・・分かった、分かりましたっ!もう言いませんっ、余計な事は言いません!!だからオシリ撫で廻すのヤメてェ~~~~~ッ!」
とっ捕まえたミューズのウエストを抱え、叩きはし無いけど思いっ切りオシリを撫で廻す!
「まぁその通り何だけど、あまりにも高い戦績に眉唾だとか捏造だとかの意見も多い・・・あ~キッド君、そろそろミューズちゃんが可哀想だから止めて上げなさい」
「羨ましいな・・・私も恋人作ってHなオシオキを・・・・・」
このサークル何か怖いお姉さんが居るな?
「とにかく敵に対する嫌がらせ・・・じゃ無かった陽動や戦略関係はボクの方が専門、きっちりイリーナさんをファルデウスに届けてたげるから協力してよ!」
「まぁ信じましょう・・・俺はキッド君をサークルの学生外メンバーとして登録して来るから、キャンディはキッド君の選手登録を・・・・・」
「了解♪」
部長さんと女の人が出掛け様と立ち上がったので、
「じゃあボクも少し走って来よう・・・もう体重はボクの方が軽いけど、顔を削げさせないとイリーナさんに変装した時に違和感・・・」
イリーナさんがボクを睨んだので外へ逃げ出す。
「オマエ・・・ワザとイリーナ揶揄って楽しんでるだろ?」
部長に言われた。
レーサーのメディカルチェックは簡単だ・・・一々注射で血を取ら無くても、検査用のタブレットみたいなパネルの上に手を翳すだけで違法な薬物やナノマシンを飲んで無いかチェック出来る。
いや今の状況だと医者に触れられるのは成るべく避けたい、まして診察なんか受けたら確実にイリーナさんとボクが入れ替わってる事がバレるだろう・・・どんな藪医者だって男か女か位は解るだろうしね♪
「しかし化けたモンだな・・・メイクしただけなのにイリーナにしか見得無い、お前ホントにオトコ何だろうな?」
そう言ったウェッセルさんの脇腹を突いて息を詰まらせる。
計画通りボクのダイエットは成功、頬が削げたと迄は言わ無いけどシャープなフェイスラインに成った。
まぁクリーチャー体のボクは自分の身体を任意で変身・調整する能力が有り、実際 顔だけなら10秒くらいで変身出来る・・・でも自分でイメージ操作するので下手に使うと元に戻るのが大変なので特に顔の変形は極力しない事にしてた。
「こうして見ると先古代文明の先進技術も完璧って訳じゃ無いな」
「それでも凄いぜ・・・初めてキッドの変身見た時、魔法かと思った」
そう言えば誰か「進歩し過ぎた化学は魔法と同じ」みたいなコト言ってたな?
「まぁイリーナが逃げ切ってトランサッドを訴え出たら・・・下手すりゃトランサッドなんて潰れちまう、そうすりゃ来年は俺と部長でワンツーフィニッシュ・・・いやイリーナも戻って来れたらワンツースリーフィニッシュだ!」
と楽しそうに言ってた。
「部外者のボクにレーサーの席を譲る事に蟠りは無いの?ウェッセルさんってフェンツ大オーバーブレイク・サークルのエースなんでしょ?」
彼もレーサーの一人だったし、腕は部長さんより上だったそうだ。
「別に・・・俺も部長も2年だから来年も再来年も有るし、出来るなら来年でも構わないから部長と一緒に飛びたい。部長は幼馴染で俺に兄貴みたいな人なんだ、それに出来たらイリーナとも・・・」
ボクは自分で言うのも何だけど目敏く彼の耳が赤く成ったのを見逃さ無かった。
「フ~~~ン、ウェッセルさんはイリーナさんのコト好きなんでしょ?」
今度は耳だけじゃ無く顔まで真っ赤に成るウェッセルさん、こう言うラブコメみたいな展開好きだな揶揄い易くて♪
と思ったら意外と素直で照れながら、
「余計な事を言うなよ・・・イリーナがトランサッドと決着付けたら告白する積りなんだから」
「口止め料はバイロールで良いよ♪」
バイロールと言うのはコッチの世界のホットドッグみたいな物・・・ただしパンで挟むんじゃ無くブリトーのトルティーヤみたいなので包んで有り、極太腸詰と一緒にチーズやペシャメルやサルサみたいなソースが一緒に包んである。
「手続きは全部済んだし昼飯にするか・・・イリーナの方は大丈夫なのか?」
「何でイリーナさんは此処に居るじゃない?と冗談は置いといて上手く行ってるみたいだね・・・」
そうボクは今イリーナさんに変装し堂々とレースにエントリー、まぁ奴等の狙いはイリーナさんの誘拐か暗殺だから来てくれたら目立たぬ様にボクが黙らせれば良いだけだ。
それにもうどうせ実力行使する様なのは送り込まれて来無いと思われる・・・先の戦いで片付けた18人は多分子飼い、それも間違い無く一流の下くらいの実力は有った筈だ。
学生ばかりと舐めて堂々と白昼に襲わせたんだろうけど簡単に片付けられたんで警戒してる筈・・・本当は何人か捕らえて情報を引き出したかったけどボクとミューズやフェンツの学生さんが拷問出来る筈が無く、イメンケさんに来て貰うまで捕らえて置く事も危険過ぎる。
「そろそろミューズはスターシップに合流したかな?」
そう言うとウェッセルさんと並んでベンチに座り屋台で買ったバイロールにカブリ付いた。
「この船の船主でパイロット、そしてギルドにも登録してるボクが何で自分の船に乗るのにオマエ等の許可が居る?何か違法行為の嫌疑でも掛けられているのか?」
そう偉そうに言った美丈夫が対峙する税関職員を威圧していた。
退引いでる税関職員は偽物と言う訳では無いだろうが、多分トランサッド財団から鼻薬を嗅がされている・・・こんな田舎の農村に降下した宇宙船にまで税関職員が確認に来る何て聞いた事が無く、間違い無くトランサッドの意を受けてて誠に御苦労な事である。
「お兄さま何か有りまして?」
ヒョコンと顔を出したミューズは、お兄さまと呼んだ相手では無く税関職員を見詰め。
「私達はフェンツのリベル名産品のワインと特産のチーズを仕入れに来ただけ、チャンとジョンブルソンの入国管理局には許可を貰ってます・・・アナタ方は一体何の権限で私達の船を臨検させろと?」
「横柄な態度で乗務員を全員訊問させろとは・・・貴様らはドコの所属だ?」
「いや何も無いなら見せても問題は・・・・・」
まだ居丈高な態度の税関職員に、
「お兄さま、この方々お兄さまの事を知らないみたいですよ?」
「面白い・・・ヴァイラシアンは全く手応えが無かった、ジョンブルソンなら少しはボクを楽しませて・・・・・」
それを聞いた税関職員は・・・
「キャ・・・キャプテン・キッドッ!あの❝殺戮天使❞か?」
「見た目は究極の美少女だけど中身は悪魔と言う?」
これをキッドに聞かせたら面白い事に成るとミューズは必死で笑いを堪えてる。
「ではアチラも皇女ミューズ・・・」
「ま・・・不味いんじゃ?」
税関職員たちの顔から血の気が引いてる。
「別に協力しないと言ってる訳じゃ無い、ただ今まで荷積みに関し地上に降りてもフリーパスだったのに何で今回に限り臨検を・・・おいコラ待てっ!」
恥も外聞も無く背中を見せて逃げる税関職員、するとミューズが笑いながら手を振って見送り・・・・・
「では農家の皆さんとワイナリーの方は、ウチの職員に従って搬入を御願いしますね?アイギスさん、お婆様、お願いします」
「年寄を使うねぇ・・・」
ミューズはアイギスとジェイナスに荷物の搬入を指示させながら、
「お疲れ様でしたイリーナさん、お兄さまを完璧に演じ切ってましたよ。でも❝今まで・・・❞の件は余計だったかも、お兄さまが交易仕事するの今回が初めてで・・・」
「アドリブだから仕方が無いよ、私は寿命が10年くらい縮んだ・・・こんな事は二度としたくない」
そうイリーナがキッドに成りすましてる。
そんなイリーナに、
「残念ながら今から税関に殴り込みを・・・」
「何でコッチから危険を犯しに!」
そう言って抗議するがミューズに引き摺られ隣に在る島の税関に・・・ちなみにリベルは島国である。
「何でボクの船だけが臨検される事に?ボクが何か疑われる様な事を・・・・・」
とキッドに成りすまして抗議しに、ちなみにミューズは全てのルートをチェックし監視カメラの死角を突いてる。
すると押し掛けた先の税関事務所の長が平身低頭で・・・
「そ・・・その職員はスグに特定を、こんな事は今後起きない様に・・・・・」
何か因縁を付けて賄賂でも集ろうとしてたのではと散々文句を言い、定型文通りだろうが詫びを引き出したので怒ってるぞアピールをしながら撤収する。
そんなイリーナを見ながら税関の窓口の子達が黄色い歓声は上げ無かったけど、そう言う眼でイリーナに対し熱い視線を送り続けてるのでイリーナは居心地悪そうにしてた。
とにかく目的は果たした・・・税関職員の中に居るトランサッド財団の協力者を多少は牽制し、悪名高いファルデウスの英雄が来てる事を印象付けられた筈だ。
これで少なくとも税関関係者からは、スターシップに余計な茶々を入れる奴等が減るとイリーナは思ったが・・・
「まぁファルデウスから、しかも傭兵でも有るキミ達が来たんだ・・・私を救出に来たのではと調べに来たんだろうけど、散々目立ったしコレで私達が救出に来たとは思わないんじゃ無いかな?」
「それは流石に甘いのでは無いでしょう・・・でもイリーナさんを発見すれば、奴等はコッチに構ってなど居られませんよ」
そうイリーナに言ったミューズが該当の大型ビジョンを見上げると、そこにはイリーナに扮した本物のキャプテン・キッドが映っている。
『ミューズの奴お仕置き決定だな・・・久し振りに思いっ切り、お尻を引っ叩いてやる!』
とボクは心に決める・・・ミューズの奴は忘れてる様だけど、カチューシャに内蔵した通信機はオフにしないと会話がスターシップの通信システムを経由してチャット状態で駄々洩れだ。
お蔭でイリーナさんに「お兄ちゃんより男らしい!」とか「ズッとイリーナさんの方が凛々しいよ♪」とか言ってるのが丸聞こえ、しかもイリーナさんが巫山戯て自分に乗り換えないかと言ったら「お兄さまみたいに可愛い女の子みたいな男の子が一番好き!」と返答してた!
ボクが女顔にコンプレックスを持ってるの知ってながら後で覚えてろよ!
まあ冗談と言え浮気せず、しかもボクの顔の方が好みと言った点に付いては情状酌量してやっても良い♪
「それ位、大目に見てやれよ・・・可愛い妹分なんだろ?」
ボクの最終エントリーに付き合ってくれたウェッセルさんに言われるが、
「ヤダ・・・ミューズのオシリ叩きはボクの楽しみ、いや生き甲斐ナンだから奪わ無いで!」
「このエロガキが・・・」
そんな冗談みたいな事を言いながらも周囲に気を配り、
「右背後の車から何か突き出した・・・多分 収音マイクだから発言に気を付けて」
「やれやれ・・・」
ボク達が来るまで散々イリーナさんを追い回し拐かそうとしてたみたいだけど、ボク達に子飼いのチンピラ(それも結構腕利きの♪)を殲滅された所為で奴等は手を出さ無く成った。
その代わり遠巻きにして監視されてるのを揺さ振り挑発する為、ボクはイリーナさんの格好で街を歩き回ってるんだけど・・・当然ながらイリーナさんを装うなら女物の服を着なければ成ら無い。
イリーナさんがパンツルック派で良かった、またスカート何か穿かされちゃ堪ったモンじゃ無い・・・でも結局は女物なんだけどね!
「テイクオフは朝10時ね・・・今までのレコードをブッ千切って優勝してやる!」
「如何だろう・・・明日は途中で嵐を2回突破する必要が、多分今年のレコードは平均より低い」
コンディションは良く無いらしい、そしてソレは奴等に有利に成る・・・まあ普通の相手ならね!




