望郷の憂さを飲んで(未成年ですが何か?地球じゃ無いんだし・・・)忘れながら、考えて見たら普通にギルドで初めて依頼を受け・・・後日ギルド長がコッチ来る辺りVIP待遇で普通じゃ無いよね?
お客様が来た時用にスターシップにも酒類も数本は積んで有るのだが、如何やら誰かがコッソリ飲んでるらしい・・・5本買っといた筈のボトルが3本しか無かった。
「全くコソコソ飲まなくたって言ってくれれば・・・・・」
「解かって無いねぇ、盗んだ酒をコソコソ隠れて飲むのが美味いんじゃ無いか?」
婆ちゃんに後ろから声を掛けられた。
「解らない訳じゃ無いけど・・・」
「自分じゃ飲め無いクセに随分美味い酒揃えてるじゃ無いか♪」
そう言って婆ちゃんは自分のグラスを突き出した。
「って言う事は盗んでたの婆ちゃんだな?」
「そう言わずに年寄りは大切に扱うモノだよ、もう生い先も長く無いんだし・・・・・」
何を言っとるんだ・・・自分でノーダー操縦して戦闘に殴り込んだり、朝は艦内で一緒にランニングしてボクやミューズを追い抜いてくし、自分の酒を勝手に飲んだ爺さまの胸倉掴んで吊るし上げてたし・・・絶対ボクより長生きするぞ!
「随分な言い様だねぇ♪」
と楽しそうに笑ってた。
「それにしても随分グラスを・・・・・」
「一人で飲む訳じゃ無いからね」
それを聞いて何か察したらしい。
「今日は遠慮しとこう、ご馳走は次回に・・・」
「別に今日だって良いさ、ボクの友人は賑やかな事が好きな奴しか居無いんだから!」
先程のビデオレターに映ってた親友達その人数分プラス、ボクと婆ちゃんの二つを合わせ全部で25のグラスに少しづつ・・・いや一つだけ並々と注いで婆ちゃんに渡した。
「ボクの大切な23人の友達に・・・望みは無いのは解っているけどボクも諦め無い、いつか必ず地球に帰って皆と騒ぐんだ!」
実は来年には隣に会った学校と併合される事に成っており、ボクのクラスのと言うよりは少子化の影響で全学年1クラスづつしか無かった。
それでもほゞ満席だったクラスの、殆どの奴とは男女関係無く本当に仲が良かった・・・まあ不良気取りの一部とは仲良く成れ無かったけどね!
そんな親友達の貌一人一人を思い出してから・・・・・
「乾杯・・・」
と言ってボクはグラスを一息に飲み干した。
「良い飲みっぷりだねぇ(笑)」
「味わってたら飲み切れないから一息で飲み込んだの!」
婆ちゃんもグラスの淵ギリギリまで注いだグラスを一口で、それも正に放り込んだと言う感じで飲み干した。
その空いたグラスに再び注ぎながら、
「でもね・・・」
「望みが無いって事は解かってる、それも「殆ど」じゃあ無く「全く」無いって事もね・・・それでもボクは諦めたく無い、いやボクは諦め無い!ただソレだけの話しなんだ・・・・・」
もう一杯グラスを飲み干してから婆ちゃんは、
「そうか・・・なら、もう何も言わないさ。ところでお友達の分のグラスは如何する積りだい?」
婆ちゃんチョッとイヤしいぞ!
「極上の酒なんだろ?なら捨てる何て失礼な事出来無い、だけど婆ちゃんに飲ませる訳にゃ行かないよ!」
幸い少しづつしか注いで無い、ボクは友人の分のグラスを一つ取り煽った。
「23個全部?」
「アイツ等の分は全部ボクが、注いで上げてるんだからコッチに色目を使わないの!」
ボクは軽く婆ちゃんを叱り付け、翌日の二日酔いを覚悟しながら24個のグラスを全て空けたのだった。
その翌々日・・・惑星ミリネラの船乗りギルドから連絡が入り、向こうの方からスターシップに来訪者が現れた。
「船乗りギルド・ミリネラ支部長のワッケインと申します。船長キッドとミューズ殿下に、面談を許可いただけた事を感謝します」
支部長さんは出来るタイプと言う感じの女性だった。
「ミューズは兎も角ボクは一回の船乗りでしかない、そんな畏まった挨拶は・・・・・」
「そう言われると有難いのですが、さすが姫様相手に初回からくだけるのも」
まあ流石に難しいかも知れないね。
「まぁミューズも皇室で❝お姫様❞してた訳じゃ無いし、そんな硬い対応じゃ疲れちゃうよ♪」
「では少しだけ崩させて頂きますね?」
彼女が相好を崩す。
「キッドさんに依頼したい案件が御座います。ただしキッドさんに内情を説明する前に依頼主の許可が必要だったので・・・」
よほど気を使う相手の様だ。
「でワッケインさんが乗ってきた車の中で、その依頼主さんが待機してると言う事ですか?」
「流石ですね・・・あの車にはスキャン防止設備が有るのに、まぁ隠れてたと言うよりはキッドさんの許可を貰ってから来てもらおうと・・・・・」
ボクは依頼主の乗船を許可すると、ハリウッドで走ってる様なストレッチ・リムジンみたいな車からゾロゾロ人が下りて来る。
「車は満席だったんですね・・・あの車は16人乗りでワッケインさんと運転手さんと秘書さん、そして残りの13人分は依頼主と12人のボディーガード・・・違う依頼主と娘それに11人のボディーガードか?」
身形の良い気品がある中年男性の手を取り、最後に降りて来たのはボクと同じ年位の女の子だった。
ボクは何気無く聞いて見る。
「何か貴族然とした感じがする・・・この星系を治めてる領主様ですか?」
「外れです・・・まぁ全くと言う訳じゃ無いですが、元々この星系は重要な地なので陛下の信用のある方が辺境伯として治めてました。ですが先の内乱で・・・・・」
成程・・・ボクは想像が付いた。
「反乱軍側に・・・」
「またしても外れです」
今日は調子が悪い。
「キッドさん程じゃ無いけど手柄を立て過ぎちゃってヴァイラシアンの総督として赴任されたんです・・・ヴァイラシアンが完全にファルデウスに組み込まれた後もアチラで今より大きな領星系を、そう言う訳でココは直轄地に彼が代官であり総督の・・・・・」
「帝国で伯爵位を賜ってるグレイバーと申す・・・初めまして小さな英雄、そしてミューズ殿下の御帰還を心から・・・・・」
スターシップの展望ルームで会談してたので行き成り現れた彼等に驚かされ、スターシップの甲板上面に有るドーム状の展望ルームは扉と言うモノが無かったのだ。
「この星系の総督が自ら乗り込んで来るとは少々厄介な依頼みたいだね?」
「ハイ少々どころか可成り難しい依頼かと・・・・・」
ワッケインさんが告げボクの左にあるソファに腰掛け、そしてボクと対峙してるソファにグレイバー伯爵と娘さんが座った。
「では早速だけど依頼内容を伺いたい・・・・・」
「キッド君と呼ばせて貰って良いかね?」
と伯爵が聞いて来た。
「いえ寧ろ呼び捨てで構いませんよ?」
「なら小さな英雄へ敬意を込め君付けで呼ばせて貰おう・・・と言うより私はキミのファンでね、それに娘も・・・・・」
「そりゃアリガトウ御座います」
チョッと間の抜けた返答に成って仕舞ったが、ボクはアイギスさんが用意してくれた茶を一口飲みながら対応・・・しかし!
「うちの娘は美しかろ?」
「ぶふっ!」
思いっ切り噴出して仕舞い、慌ててミューズがハンカチをポケットから出す。
そんなボク達を見て伯爵は笑ってる・・・最初はボクに娘を近付け様としてるのかとも思ったけど、こいつボクと同じく相当の悪戯好きだな?
「やってくれましたね伯爵、(タイミング)狙ってやったでしょ?」
「スマン・・・まさかコンナに見事に嵌るとは、しかし娘の美しさが今回の事件の原因なんだ」
ボクは自然と貌が引き締まるのを感じた。
彼女の名前はヘレナさんと言いボクよりチョッと年上で高校生くらい、そしてグレイバー伯爵の娘の名前はイリーナと言う・・・つまり?
「影武者って事?」
「そうだ・・・この娘は姪御でなイリーナと昔から瓜二つ、なので並ばれると私でも化粧された時とか見分けの付かん時が有る・・・まあ話せば一発で判るのだが」
イリーナさんは可成り活発な人柄らしい。
「アレは活発とは言わない・・・じゃじゃ馬、お転婆、そう言う方の言葉の方がシックリ来る」
「叔父さまっ!」
ヘレナさんに叱られて黙る辺りが人の好さを感じさせる。
「で本物の娘さんイリーナさんはドチラに?」
「それがちと面倒な場所にいてな・・・・・」
とまあグレイバー伯爵の話を要約すると・・・隣国ジョンブルソンは民主主義そして資本主義の共和国、象徴的な立場で王家は残ってるけど政治には口を出さないらしい。
そして全ての国家形態に欠点がある様に資本主義の民主国家にだって、資本を持ってる者の力が強く成り過ぎると言う欠点がある。
とある財閥当主のドラ息子がジョンブルソンに留学中だったイリーナ嬢を見初め、そして強引に囲おうとして誘拐し様とした・・・しかし前出の通り相当のジャジャ馬娘でドラ息子が雇った破落戸どもを薙倒し逃走したらしい。
でグレイバー伯爵はジョンブルソンに対しスグに娘を無事帰国させる様に抗議、しかしジョンブルソン側も逃げ回ってるイリーナ嬢の捕捉もドラ息子の悪事の証拠も掴めていないそうだ。
「依頼内容は手段を問わ無いから娘の奪還、娘さえ帰国すれば自白剤を飲んで証言する事で自らの潔白を証明出来る・・・だがイリーナはゼニスゲイターから受けた脅迫などの映像データも持ってるので出来るモノなら持ち帰って欲しい」
この世界にはナノマシンを用いた安全な自白剤も有り、それを公の場で摂取して証言し自らの正しさを証明すると言う手を取る事が出来る。
ボクの進呈した真偽解析機の方が手っ取り早いけどマダあれは実用性が立証されておらず、これからガンガン使って貰ってアレが有効な事を証明して貰わ無いと裁判とかでは証拠に出来無い。
それに自白剤は安全では有るけど身体への負担は非常に大きく早々何度も使えるモノでも無い、だから使用は任意と成るので犯罪捜査には使い難い・・・だからボクの真偽解析機を欲しがったのだ。
だけどもし片方が自白剤を飲んで相手を訴え出れば?
「公開しながらナノマシンの自白剤を飲んで証言すれば、少なくとも此方の正当性は証明出来る・・・・・」
当然ながら先に信用出来る状態で摂取し証言した者が優位だろうし、摂取しなかった者は逃げた・・・と断じられても仕方の無い事だろう。
「それでも他の証拠がある事に越した事は無いが、問題は・・・・・」
「そう成ったら拙いとイリーナ嬢の口を塞ぐ暴挙に出られる事か・・・」
まあ腐った奴等が考えそうな事だろうね!
「ヘレナを公の場に出す事で奴等が浮足立ってる間に何とかイリーナを帰国させたい、しかしゼニスの父親ガネスゲイターは財団当主だけ有って判断能力は高い様だ・・・トランサッド財団がダークな組織と接触した形跡がある」
時間的余裕は無さそうだな。
「で何か方法は・・・無さそうですね、なら上手く行くか如何か分かん無いけどボクのやり方で掻き回して見様かな?」
まぁ他の方法は無いだろう・・・こんな前例は中々無いだろうし、公的機関の介入を待ってれば明らかに手遅れに成るだろう。
「イリーナ嬢の潜伏先は?」
「全く判らん・・・だが、あのジャジャ馬は意外だが脳筋のクセに頭が切れる!コチラの想定を裏切って何処かに潜んでる可能性も・・・・・」
つまり何処に居るのかも全く分かって無いと言う事だ!
トランサッド財団の動きから見るに留学先の惑星フェンツから、ファルデウスとの玄関口である惑星マリンダに逃げたと判断して捜索してる風に見得る。
と成ればマリンダを捜索しと単純に考える訳には行か無いけど、念の為にマリンダの宇宙港とステーションコロニーの警備システムにハッキングさせて監視カメラにイリーナ嬢が映らないか確認させたけど・・・まあ10中8~9彼女が現れる事は無いだろう。
「そもそも伯爵の言う通り頭が切れる人なら、権力者から逃亡するのに公的交通機関は使わ無いんじゃないかな?でも幾ら伯爵令嬢とは言え、密輸業者や個人で大気圏を脱出出来る様な宇宙船を持ってる様な人物に繋がりが有るとは思え無い」
ボクはリビングで銃を磨きながら呟いた。
スターシップの操縦は自動と言うかアリスに任せ、取り敢えずはジョンブルソンに入国する手筈に成っていた。
入国理由は逃亡・・・と言うか家出と言うか、ファルデウスの英雄キャプテンキッドとファルデウス皇帝の孫であるミューズが家出してジョンブルソンに逃げ込んだと言う筋書きである。
まぁギルドに登録して有る船乗りならギルドを受け入れてる以上、国家だろうと犯罪を犯して無い宇宙船乗りを止める権限無い、ボクはスターシップに牽引コンテナを引かせグレイバー伯爵領産の生鮮食品・・・しかも高級な果実などを中心に運んで一応は交易に来てる風を装っている。
流石に家出が原因じゃ国境を跨ぎ難いからデッチ上げでも理由が無いとね・・・ただし観光じゃ動きが制限されそうだから行商を装う、最も真面目に公益もやって副次的利益も上げとくけどね!
「カモフラージュとは言え結構良い稼ぎに成るもんな・・・」
「それに幾らギルドに加盟してる船と言え、何の理由も無しに国境を越えたら怪しまれますからね」
ボクの呟きにイメンケさんが答えてくれた。
「まぁジェリスさん家の高級フルーツ等やウェルムさん所の海産品を輸送して来たと言ってジョンブルソンに入国、それを売り払ってファルデウスで高く売れそうな物産品を買い込んで置きますよ♪実際そう言う行商をしてる船も結構多いし怪しまれる事は無いでしょう」
「そこら辺はヨロシクね、ところでアリス・・・マリンダの監視カメラの映像は解析・・・・・」
マリンダはフェンツの首都的都市だ。
「済んでますがイリーナ嬢らしき人物は映ってません。と言うより変装しててもカメラに写ったら見破られ即アウトに成るんだから、彼女がカメラの有る様な公的交通機関に近付く可能性は可成り低いかと・・・・・」
ボクは銃に弾や弾倉は込めずにケースに戻し、
「そうボクも思うけど念の為さ・・・彼女がトランサッド財団に捕捉されたら、すぐ助けに行かないと成らないしね」
実際ボクやアリスだけで無く、スターシップの皆が彼女が公共の交通機関を使うとは思え無かったりしてた。
「でもだからと言って・・・他の移動方法が有るとは思えないんだよな?」
「見付から無かったらイリーナ嬢が潜んで居そうな所を虱潰しにし始める・・・そう成ったら見付かっちゃうのは時間の問題よ?」
実際ここまで彼女が隠れ通し続けられてるのは奇跡的に近い確率、ならソレを可能にしてる彼女のアドヴァンテージは一体何なんだろう?
「アリス・・・イリーナ嬢の交友関係でフェンツ在住者、その中で大気圏を突破出来る宇宙船を個人で所有してる者を・・・・・」
「3人居ますね」
ジョンブルソンのゼニスでは無い富豪の令息で彼女の友人、ジョンブルソンで仕事をしてるファルデウスの貴族、ジョンブルソンの物産会社・・・
「コイツ等はリストから外しても良いだろう」
エッ?と言う顔をするミューズにアイギスさんが、
「そう言う人には真っ先にトランサッドの監視が付いたかと、そこに接触してるなら等に捕まってるでしょう」
するとイリスが皆にお茶を配りながら、
「でも大気圏を突破出来て星間移動出来る巡行外洋船でも持って無いなら、フェンツから脱出出来ても逃げ切れ無いですよね?」
そう言ってボクの隣に座り反対側のミューズとジャレあい始めた・・・この2人は本当に姉妹の様に仲が良く、いやミューズはアイギスさんの事も姉の様に慕っている。
仲が良い事は良い事である・・・まぁ下らないダジャレは置いといて、
「それも司法や軍の艦船から逃げられる足を持って無いと・・・子供が親から買って貰った玩具の様な船じゃ話に成らない、それに出来たら武装してる艦じゃ無いとね」
この話は既に盛大に騒がれてるスキャンダルでは無い・・・ゼニスゲイター・トランサッドは兎も角、父親のガネスゲイター・トランサッドは間違い無くイリーナ嬢の口封じに動いてる筈だ。
「でも必ず早くて強い船で逃げる必要は無いのでは?」
「イリスちゃん・・・敵は資本国家の中で隆盛を誇る財団、おそらく軍も抱き込んでいると思った方が良いわ」
そう成ったらイヤ確実にそう成ってるし、そんな奴等から逃げるのには最新鋭の高速巡洋艦が欲しい所・・・なにせ資本主義国家において金を持ってる上級国民は暴露無い限り何でもし放題だしね!
「でも見付かったらの話でしょ?見付から無かったらコッソリ逃げても・・・・・」
「いや大気圏を突破したら目立つし、そこから離脱したら無条件に追手が・・・・・」
するとミューズがハッとした様に、
「お兄さま、イリスちゃんの言う通りだよ!」
と声を張り上げる。
「大気圏さえ突破したら低出力でユックリ離脱、敵の目の届かない所に出てから加速すれば・・・・・」
「如何やって?シャトルや軌道エレベーターも監視されてるだろうし、抑々フェンツに居るとしても大気圏突破が一番難しいし目立つんじゃ・・・・・」
するとミューズがアリスに向かって、
「アリス、イリーナ嬢が所属してるサークルって判る?それとソノ競技に関わりのある大会は・・・・・」
それが如何したとボクは言え無い、まだボクはコッチの文明や風習を完全にマスターして無いからね。
程無くしてアリスが情報を拾い上げ・・・・・
「イリーナ嬢はオーバーブレイクのサークルに所属、来週に大きな大会がフェンツの都市バグネラで開催されます」
さてオーバーブレイクって何なのでしょうか?
こんな無謀な競技を良くも考え付いたモノだと思いボクは呆れながらも感心するのだった・・・オーバーブレイクとは惑星を周回し大気圏や成層圏を突破し宇宙空間に設置されたゴールを目指す競技、ただし搭乗する機体は極端に大きく成ったバイクの様にしか見得無い代物❝スターライーダー❞だった!
「これで大気圏を突破する何て無謀も良い所だろ?」
シートは剥き出しだから当然バイクと同じ搭乗者も外気に晒されてる・・・これで音速を超えて飛んだり大気圏を突破するのだからキチガイ沙汰も良い所、ただ正面の透明なアクリルかカーボンの様な固体シールドからエネルギー・バリアシールドが展開されており空圧や熱には対処出来る様に成っているらしい。
「それにしたって馬鹿げてる、事故ったら確実に❝あの世❞行きだよ?」
「もちろん特急で行く事に成りますね♪」
流石に突っ込め無いけど、この競技は凄い人気があるらしくスタートは週末だと言うのに凄い人だかりだ。
ボクは展示してある過去のチャンピオン機であるスターライダーや、チャンピオンの写真を見ながらミューズと一緒にデート気分で楽しんでいた・・・不真面目だって言うなよ?
ボクとミューズが手掛かりも無く歩き回ったって何の手掛かりに辿り着ける筈も無い、今アリスがボクの指示で情報を一生懸命分析してるから、それを見てから行動を決めたって良く元々コッチは後手に廻って遅過ぎる位なんだから!
『そう言いながらもキッド様の指示は的確過ぎて怖いですよ!予言かって位に言ってた通りの該当者が見付かります』
カチューシャ越しにアリスから連絡が、勿論お揃いのカチューシャを付けてるミューズにも聞こえてる。
『にしたって早いよね、アリス君は優秀だ・・・で?』
『本命1件に対抗が3件、アナが5件に大アナが2件・・・でも本命で間違い無いと思いますね』
『OKここから・・・チョッと待て!』
ボクはカチューシャでの会話を打ち切った・・・正面から歩いてくる4人組、その先頭を歩いて来る女は如何見ても胡乱な雰囲気を醸し出してる。
「お嬢ちゃん達もレースを見に来たのかい?珍しいね可愛らしい女の子なのに、こんな物騒なレースに興味を持ってるなんて・・・・・」
やはり先頭を歩いてた女がリーダー格らしい、引き連れてる3人の男も同じ様な雰囲気を纏っている。
「残念ながらボクは男なんだけど、まあ半分は当たりだよ・・・可愛らしい女の子の妹が、このレースのファンで付き合って来てるんだから」
このオーバーブレイクってレースに詳しく無いボクが進んで見に来たと言うと、何か質問された時とかにボロが出るからボクは興味が無い風を演じた。
「そりゃ残念・・・週末のレースには私も出るから、興味が有ってくれたら嬉しかったんだけど」
「まぁ妹からは熱心に布教を受けているんだけどね」
そう言うと彼女はボクの肩に手を廻し、
「アンタみたいな坊やは嫌いじゃ無いよ!この後 前祝に派手に騒ぐんだけど、良かったら一緒に・・・・・」
「妹の面倒を見なくちゃ成らないし、それに妹を連れて一緒に行くには教育に良く無さそうだ」
すると気分を害した様子も無く、逆に楽しそうに笑いながら・・・・・
「そんなコト言うなよ、お姉さんが楽しい事を教えて・・・・・」
そう言うとボクの股間に手を伸ばし、そこに在る男の象徴を握って来る・・・大きな声を上げるのも男として負けた様な気がするので、思いっ切り冷やかな眼で見降す様に言った。
「いくら何でもチョッと下品過ぎじゃない?大きな声を上げ様かと本気で思ってるんだけど?」
「ハハ・・・済まねぇな、チョッと冗談が過ぎた様だ」
そう言ってボク達から離れて行った。
怯えて動け無い風を装ってるミューズが心配しカチューシャごしに話し掛けて来る。
『あの女は何なのですか?私の お兄さまに何て真似を・・・・・』
『トランサッドの飼い犬さ♪』
ミューズがギョッとした貌をしてる。
『奴等がマダ見てるかも知れないからミューズもボロ出すなよ・・・アイツがボクの股間のモノを握って来たのはボクが本当の男か確認したかったから、イリーナ嬢の変装じゃ無いかって確認してたんだよ』
イリーナ嬢はボクと背格好が良く似ている、ただ顔はボクより面長でほっそり見得る顔をしていた。
『コリャうかうかしてられ無いな・・・アイツ等もイリーナ嬢がフェンツに留まってる可能性を視野に入れ出したらしい、アリス先ずは本命さんの住所を教えてくれ』
『了解しました』
ボクはアリスの指示した住所に向かって移動する。
バグネラ郊外に在る廃工場に来たボク達は早速扉をノックする・・・応答は無かったけど中から人の息を潜めてる気配がし、ボクはカチューシャの通信機能でアリスに連絡し中の様子をハッキング出来無いか尋ねる。
スターシップが近くか成層圏外でも真上に居るなら簡単にスキャン出来るけど、今スターシップはアリバイ作りの為フェンツ中をイメンケさんの指示で飛び廻って買い付けをしている・・・もっとも彼は仕事が好きならしく本気で楽しんで買い付けてる風も有るけど!
「中の管理システムに接続・・・十数名の男女が中にいますが、ここからでは中の人間を確定する迄は・・・・・」
ちょっと無理だったらしい。
「ミューズ・・・」
「解かってます」
ミューズが抜いて構えていた銃をホルスターに戻すのを確認し、ボクは扉を思いっ切り蹴飛ばして大声で怒鳴った。
「イリーナさんっ、お転婆も程々にして余り心配を掛けるんじゃ無いと、お父上から伝言です!」
そりゃ隠れ潜伏してるのに大声で名前を呼ばれたら慌てるだろう・・・次の瞬間には中から鉄パイプを握り締めたイリーナ嬢が、顔を真っ赤にして飛び出して来てボク達2人を睨み付けてる




