逃げ場も無いので奥に進む。
ファルデウスの区分から言えば対人戦闘ポッドと呼称するそうだが、ボクには見た目から❝戦闘用ドローン❞と呼ぶ方が正しく思えてしまう。
大きさは直径50㎝ほどの円盤型、その下部にH&K MP5K位の光学兵器が懸下されている・・・装備されてるのはブラスターらしい。
「クソッ!反射塗料が塗られているから光学兵器の利きが悪い・・・・・」
「こっちは衣類に塗布してるだけだから反射効率が・・・何とかしないと、この侭では先にコッチの戦闘服が焦げ始めます」
ジェリス艦長の連れて来た兵隊さんが苦言を呈す・・・凹凸の少ない機械の表面よりボク達が来ている衣類の方が反射効率が悪く、同じ反射塗料が塗布されててもコッチの方が先に限界を迎えるのだ!
「最悪・・・キッド君と若手だけでも・・・・・」
ジェリスさんが何か目配せをした・・・実はジェリス艦長達は隠してる積りだろうけどボク達、と言うよりボクを心配した爺さまに頼まれて護衛として来てる。
最悪の場合ボクを守る為の壁に成る積りで・・・最もAD通信でソレを相談してちゃ、あのトリックスター・オブ・トリックスターのミューズの目を誤魔化せ無い!
ラグナレクのジェネレータレベルが爆上がりしたと同時に、艦内のエネルギーレベルが下がった所でミューズに察知され盗聴されいる。
ところで「どの口で人をトリックスターと呼ぶ?」とか、「お前が人のコトをトリックスターと呼ぶな!」と思った人・・・全くその通りだと自分でも思ってるけど五月蝿いから黙っててね!
まぁ早速トリックスター気質を発揮してるけど♪
「ボクは父親の顔すら覚えて無いので、ジェリス艦長みたいな父親が居たら理想的だと思うのですが・・・だからこそ簡単に死んで欲しく無い!ボクと部下を逃がす為、此処で壁に等なろうとしないで下さいね」
一瞬ビクッとしたジェリス艦長、顔を赤らめながら・・・・・
「昨晩の陛下との会話を聞かれたのか・・・プライバシーの侵害だと思うのだけどね」
「だったらミューズに暴露る様な通信方法を選ばないで下さいね」
照れ隠しにお道化るジェリス艦長、しかしコノ侭じゃ本当に圧し潰されそうだ。
「応援部隊が間に合うと良いのだが、もう少し兵員を連れて来た方が良かったな・・・実体弾の兵装を充実させて!」
いや実際にボクとダーグとイメンケさんの3人とノーダーに乗って来た2人、それにジェリス艦長が一個小隊16名の宇宙海兵隊を連れて来たけど、皆も携帯型のレールガンくらい装備していた。
装備の選択と言うより敵が耐光学兵器に全振りした装備の上、敵が4800機もの兵力を大量投入出来たのがコッチの不利に成ってる。
「応援の仲間は格納庫で足止めされてます。我々が囲まれて動けない状況なのも彼等の足枷に、何とか合流する方法を見付けないと・・・・・」
と言ってもボク達は敵のポッドに囲まれて動け無い、この侭じゃ合流するのは至難の業だと思う。
「その割にはキッドは余裕じゃ無いか?」
ダーグが溜息を吐きながら言った。
「まあキッド君の場合、余裕が無く成っても態度は変わらなそうだけど・・・それでも今は何かを企んでる様に見えるのは私の気の所為でしょうか?」
「鋭いなイメンケさんは・・・ただボクは何も企んでません、振動音が近付いて来るだけ」
「振動音?」
皆が耳を澄ませると確かに何か振動音が近付いて来る・・・それも爆発音や破壊音を伴って!
「そう言えばノーダー戦なら戦闘も良しって言っちゃったんだよな、言葉の選択 誤った・・・・・」
「ミューズか?しかしノーダーが入って来れる通路でも・・・・・」
そりゃノーダーが歩けるほど広い通路じゃ無いけど、這って入って来れない程も狭い通路と言う訳では無い。
ノーダーの身長は大体5~6mで人の3倍くらいだし、資材搬入や整備の為に多少は広い経路も確保されてる・・・そこを無理矢理通ろうとすれば来れない程でも無いのだ。
で現に振動は破壊音を伴い近付いて来て、仕舞には眼の前の隔壁を引き千切って大きな手が突っ込まれて来る!
「なんか無茶苦茶するね、キミは・・・・・」
「だって・・・ここまで白兵戦しながら私が来たら、お兄さま確実に私のオシリを叩きに来るでしょ!」
ハッキリ言ってココ迄やる発想はボクには無かったな・・・ピンクと白をメインにしたカラーリングのエクセリオンが、通路を破壊し広げながら近付いて来る。
「これミューズ、白兵戦し無くてもオシリ叩きだ!マタそんなに視認性の良い色を選んで・・・・・」
「この艦に突入する迄はロービジカラーのブルーグレーの侭だったよ、艦内に突入してからなら目立っても良いじゃ無いですか、お兄さま達に見付けて貰わなくては成らないんだから」
ミューズはエクセリオンの中からスピーカーで抗議して来た。
でも確かに言う通りで外で戦うなら目立つ事は駄目だけど、屋内戦に移行してからなら多少目立って問題無く・・・と言うより如何あってもノーダーの方が目立つんだから派手な色で仲間に見付けて貰った方が良いかも知れない。
なんと言ってもボク達以外、敵はゾンビとポッドしか居無いんだから・・・・・
「一応武器も持ってきました・・・実弾系のレールガンと、お兄さまには炸薬兵器を・・・・・」
ミューズはノーダーの脇の下に懸下されてるコンテナを切り離し、ジェリスさん達が大喜びでコンテナの中を広げて配る。
「この先は今まで以上に狭くなる・・・流石にノーダーでは無理だから、ここで引き返しなさい」
「そうですね設備も詰まって来たし、エクセリオンと言え無理矢理広げながら進むのも限界かと・・・素直に引き返します」
そう言うとエクセリオンを無理させながら方向転換してる。
「チョッと待てミューズ」
ボクはミューズを呼び止めて、
「正直助かったよ、御褒美だ♪」
ミューズの操縦するエクセリオンの胸部に飛び乗ると、コクピットハッチを開けさせて彼女のホッペにキスをする。
ミューズが嬉しそうに微笑みながら「お兄さまも」と言ってキスすると「きゃっ♡」と声を上げ眼に見えて浮かれ出した!
「では艦の戻ってますのでまた助けが必要な時には・・・・・」
コクピットハッチを閉じて来た方に方向転換するが、前倒姿勢に成って何かし様としたので皆が慌て出す。
「キッド君・・・チョッと!」
「解ってますっ!おいっミューズ浮かれるなっ、艦内でバーニアを・・・・・」
「お兄さま私のコト馬鹿だと思ってます?お兄さまを焼く積りは有りませんよ、大分離れたしチャンとエアプレッシャーで・・・・・」
「密閉された屋内でか?」
ダーグが呆れた様に言うと同時に空圧で何人か吹っ飛んだ・・・ノーダー浮かせるのにドノ程度の力が必要だと思ってる?
「あっ・・・」
勿論コッチもムザムザ飛ばされるほど鈍間じゃ無いけどさ、皆さんも熟練の軍人さんだし遮蔽物や開いてる小部屋に飛び込んだり!
それでもジェリス艦長の部下が数人吹き飛ばされ、ボクも髪の毛が育ち過ぎのアロエみたいになってる・・・本当は髪の毛を短くしたいんだけどミューズを始め皆許してくれ無いんだ!
「オイこらミューズ・・・・・」
「ひゃ・・・ひゃい・・・・・」
ジェリスさんを始め皆がボクの斬新なヘアスタイルを大笑い、おいイメンケ・・・お前は笑いながら写真を撮ってるんじゃ無い!
「お尻叩き50回、絶対許さんからなっ!」
「あ~~~ん、ゴメンなさ~~~~~いっ!」
そう言いながら狭い通路の中、ノーダーを前傾姿勢で滑空させながら逃げて行くミューズだった!
追い付いて来た後続部隊と合流して体制を整えてからブリッジを目指す事にした・・・艦橋とは言っても特に先古代文明時代に置いては艦の内部奥深くに設置される事が多く、その厳重に防御されてる場所に操舵室や操縦室そして司令室が一緒に成ったモノをブリッジと呼ぶ。
コッチの世界でも昔は地球の船舶と同じく海上の軍艦に立派な艦橋を有しており、その名残で宇宙船にも暫くは立派なブリッジを誇示する為に付けてたそうだ。
そしてブリッジには操舵室や司令室が有り、その名残で艦橋・・・そもそも艦橋とは甲板に立ってる塔の様な部分だが、それが無く成っても操艦や指示に関わる場所をブリッジと呼んでるらしい。
「有るなら有ったで見通しも良いし便利ですけど、実際ブリッジ何て狙われたら一巻の終わりですからね・・・客船なら未だしも軍艦のブリッジは戦闘中は露出してる方が狙われ易い」
「ですがマア艦隊戦の最中にブリッジを狙える様なキッドさんみたいな変た、いえ達人は中々いませんから♪」
「イメンケさん、今アンタ変態って言おうとしてただろ?」
ジェリスさんの言葉に被せて来るイメンケさん・・・まあ危ないから外に露出して無い方が良い、けど視認性や判断する時は目視してた方が良い場合もあるのでドッチが良いのかは微妙なトコロだ。
ちなみにスターシップや小型のエルミスは基本完全な内蔵型だが、大型のエルミスタイプやヴィダーシュペンスティガー級は出し入れ可能な収納式だ。
「さてと・・・どの程度の防衛戦力が敵に残ってるのか知りませんが、そろそろ出発して敵の中枢を目指すとしましょう」
「そうですね晩餐までには帰艦したいし・・・・・」
ミューズに持って来て貰った装備を感謝しながら身に着ける。
感謝してるならオシオキは勘弁してやれって?
冗談じゃ無いソレとコレは話が別さ!
「しかしキッド君・・・幾ら何でも正直言って、その装備は君には大き過ぎないかね?」
まあ本体だけでボクの身長を軽く超えてるからね!
しかもバックパックに関しては、これでもかって位に弾丸を詰め込んである超特大サイズ・・・当然ながら後ろからボクの姿が殆ど見え無い。
「バックパックを背負っているのか、バックパックに背負われているのか判断出来んな・・・・・」
「うっさいな!これ位は弾丸を持って無いと安心出来無いんだ・・・・・」
まあセーブしながら撃ってるけど全力で撃ったら毎分6600発も撃てる・・・それに回転速度等を調節する機能を付け、発射速度を手元で調節出来る様にして有った。
それにバッテリーやモーターの超小型化に成功してるので、ついでに冷却機能の強化と振動の抑制それに微々たるモノだが静穏性も高めて有る。
「そんなバカみたいな装備してて戦えるのか?」
「戦えますけど試して見ます?」
そう言ってボクはガトリング砲を構えた・・・残ってたゾンビ兵器が押し寄せて来るのが視界の隅に表示されてるから、そしてボクは大声で怒鳴った。
「そこの扉の前から退避しろっ、高機動型のゾンビ兵が押し寄せて来る!」
ボクはガトリングのモーターを回すと、その扉とボクの軸線上から味方が退避し確認と同時に銃口をソッチに向ける。
「戦えるのか見せてやろうじゃ無いか、本来コイツは戦闘機なんかに搭載されてるタイプの機関砲なんだ♪」
制御権はマダ向こうに有るのでゾンビ兵が到達した途端に扉が開くが、押し寄せるゾンビ兵を視認すると同時にボクの作ったM61A2機関砲が火を噴いた!
「さようなら~~~っ♪もう死んでるんだから、オヤスミなさいしなさいね!」
溢れ出るゾンビ兵が次々と挽肉にされて行く。
他の兵士さん達は・・・いや司令官のジェリスさんやコッチ陣営のダーグやイメンケさんも、あんぐりと口を開けて言葉を失っている。
十数分でゾンビは打ち止めに成り、その後はバックパックを満タンなモノと交換して先に進もうとする・・・しかし今度は室内用では大型な方の戦闘ポッドが接近して来る。
しかもゾンビ兵のオマケ付きで・・・・・
「ゾンビを簡単に全滅させ過ぎたかな・・・それで全戦力を一挙に投入して来たんじゃ無いですか?」
ダチョウみたいな形と大きさの戦闘ポッドとゾンビ兵が再び現れるが・・・・・
「ハイハ~~~イ、お掃除しますから前から退いて下さいね?」
またしても秒単位で挽肉と金属片に変わる敵、みんなが引いてるけどボクは気にしない。
「アリス、ドローンを飛ばせるか?こっちにガトリングの弾を届けて貰いたいんだけど・・・・・」
「携帯用ガトリング砲の弾など、そんなに沢山造っていませんよ・・・戦闘が終わったら造りますから届けた弾丸で遣り繰りして下さい」
と言われて仕舞う・・・・・
「先に言ってよ・・・20ミリ弾入りバックパックは・・・・・」
「幾つかあるけど出番はもう無いでしょ?取り敢えずゾンビ兵器と戦闘ポッドは打ち止めみたいだし・・・・・」
バックパックはマダ2~3セット有るけど、今の襲撃で戦闘ポッドの大半と全てのゾンビ兵は潰せた様・・・後は戦闘ポッドが、どの位残ってるか?
「ミューズが大半のカプセルを潰してくれたからな・・・カプセル1機でこの騒ぎなら、複数ドッキングされてたら?」
「眼も当てられませんね」
良しソレならオシリ叩きは手加減してやろう・・・決行はするけどね!
「キッドさんって歳の割にはスケベ中年の様な・・・」
「言うなっ!」
ボクはイメンケさんを黙らせてからジェリスさんの元へ・・・ダーグと部下の人と一緒に成ってシステムにアクセス、内部情報を検索しているが険しい貌をしてる。
「諸君・・・悪いニュースと凄く悪いニュースが」
良いニュースは無いのかよ!
「先ず悪いニュースはミューズ様に撃墜して貰ったのと別型のカプセルが、この艦に接触しない程度の距離で3機も隣接してた・・・既にドッキング済みで内部に侵入してる」
おいおい・・・今の戦闘の3倍かよ!
それに隣接してるだけで一緒に空間相異シールドに包まれる筈、なら中身も劣化する事に・・・・・
「シールドに包まれないギリギリの所で隣接してた様だ・・・お蔭で中の兵器は新鮮なまま、ただしゾンビは入って無いらしく・・・・・」
「いや良いニュースもあるな・・・取り敢えずゾンビ兵は収納して無かったらしい、それに大きさも小さいので内容量は先程の5割強だ」
つまり戦闘用ポッドが先程の1.5倍から2倍は詰まってる・・・と言う事はゾンビの相手はせんで良いと言う事、アイツ等の相手は精神的に辛いからね!
「じゃあもっと悪いニュースは?」
「この艦が何に操られているのか知らないけど、そいつが何かし様としてるって事さ・・・艦内のエネルギーレベルが低下している」
つまりエネルギーを何かに廻している?
それに思い付いたボクはカチューシャの通信機能を起動し、
「ミューズッ!」
ボクは怒鳴った。
「すぐに他の艦を連れコノ艦から距離を取れっ、今後コッチから連絡有るまで近付く事を禁止する!」
行き成りボクが越権行為な台詞を吐いたのでジェリスさん達も驚いてるが、ボクは説明を求めるミューズに再度怒鳴る!
「ボクが慌ててるの解から無いのっ!お尻叩き50追加っ、そしてコレ以上モタモタするなら・・・・・」
最後のカードを切らせて貰う。
「ボクの相棒失格と見做してスターシップから下船して貰・・・・・」
次の瞬間ミューズは大慌てでラグナレクを呼び出し、この艦から離れながら緊急事態を継げる・・・そして渋る副官のクランキー大尉に怒鳴りながらラグナレクにも距離を離させた。
と言うより再起動したジェリス艦長がラグナレクに通信してミューズに従うよう指示したのだ。
「この脅迫が一番効くね♪危険の回避に関する事には、疑問を覚える前に反射的に行動して貰わ無いと・・・・・」
「意地の悪い子だ・・・それより僚艦も離れた事だし説明位は・・・・・」
ボクは艦が胃カメラの映像をハッキングさせモニターに表示させる。
「自分で見て下さい・・・そうすれば説明の、必要は無いでしょうね」
モニターの中では輝く紫電が宇宙空間に充満している。
「この広がり方だと多分この艦を包む様に放電してるんだな・・・忘れてたよコイツにはコレが有った事を、成程この艦を中心にして広げる様に展開させるんだな?」
「そうか・・・こいつが電磁波嵐発生装置か・・・・・」
ダーグが呻く様に言った。
取り敢えずボク達はアサルト・ノーダーを置いてある格納庫まで後退し仕切り直す事に、だけど仲間の艦隊と分断されたけどコチラの状況は切羽詰まったモノでは無かった。
ボク達が突入時に乗って来たノーダー以外にも、ジェリスさん達と後続部隊の乗って来た突撃揚陸艇・・・それには物資がタップリ積んであるし、ミューズが来た時にも大分置いて言ったらしい。
「しかしキッドさんが炸薬火器を愛好するのは知ってたけど、それって随分エゲツナイ武器だよね・・・・・」
ミューズが持って来たのはアーマゲドンから預かって来た実弾兵器群と、スターシップから持ち出したボクの趣味の火器類だった。
その中で彼等が言ってるのはM134ミニガン・・・では無くM134ミニガンの形を参考にしてるけど、個人携帯型に改良されたM61A2ガトリング砲だった!
非常識な武器を携帯型に改造して造るんじゃ無いって?
だってモーターやバッテリーの軽量小型化に成功し、携帯出来るサイズにリビルド出来ちゃったんだもん!
まあ❝彼❞の特製ミュータントボディを持ってるボクだから軽く使えるけど、普通の人間じゃチョッと取り廻すのに苦労するかも知れない・・・いや現実無理なんだけどw
「それってノーダーに搭載されてた機関砲だよね?」
「ウン・・・地球のを小型化・高威力化する事が出来たから、携帯可能かと思ってね・・・でも弾が重くて取り回し難いや」
弾丸はベルト糾弾方式に変更されており、その弾丸は背負っているコンテナ・バックパックに収納されている。
それをシュワちゃんに成った気分で派手にブッ放し捲ってたんだけど、五月蝿いのと跳弾や薬莢が飛び散るので撃つ時は皆が距離を取っている。
「スターシップでもラグナレクでも良い・・・通信は?」
「ボクの方では通信出来ません・・・そう言われると言う事はジェリス艦長の方も・・・・・」
まあ電磁場嵐が通信阻害を起こす事は知れてる事だった。
「外の電磁場嵐は?」
「元気で弾け捲ってますよ」
忌々しそうにジェリス艦長の部下が言いながらモニターを指差し、そこには元気に紫電が弾け捲ってる外の風景を映し出されていた。
こいつは機体にダメージを与えるだけでなく通信を阻害する・・・これで完全に外と分断されてる訳だが、電磁場嵐ってどの位の威力が有るのだろう?
「少なくともスターシップのバリアシールドで対抗出来るなら、とっくにミューズがオシリ叩き覚悟で突入して来ますよ。しないって事はスターシップでも航行に支障が出る様な、深刻なダメージを与える程威力が有る筈です。と言う事は・・・・・」
「遼艦からの救援は期待出来無いな・・・・・・」
皆の表情が暗く成った。
「さてと諸君・・・先ずは状況は把握できてると思う、何か意見や質問が有るなら言ってくれ」
ジェリス艦長が言ったが先程情報の擦り合わせは終わってた・・・それで目新しい情報が有る訳でも無く、如何したら良いのか皆も決めかねてるのだろう。
ただボクの方舟はコノ艦と一緒にバリアで守られてる・・・だから電磁波嵐でダメージは受け無いし、かと言って切り離したり近付く事も出来無い。
「ジェリス艦長は如何する御積りで?」
「皆目見当も付かないが最悪この艦から脱出出来たら、方舟の❝お宝❞は諦めて一緒に撃沈とも考えてる・・・如何したら良いか意見が有るなら出して貰え無いかな?」
ボクは少し考えてから、
「最悪方舟についてはボクも賛成、人の命より優先する程のモノではありません・・・ただし残念ながら現在のトコロ脱出の方法は有りませんし、ボク達は切羽詰まっては無くともジリジリ追い詰められてる事は確かです」
皆から溜息が漏れる。
「食料は節約せず皆が十分摂っても一か月持ちます・・・ですが一か月も居たら皆がダレるし、同時に精神的にも可笑しく成って仕舞うのでは?それは食糧等を節約し長引かせれば更に顕著に出る筈、そして奴等の兵器で起こされた電磁波嵐も何時まで続かせられるのか・・・なら!」
ボクは一呼吸置いてから、
「なら皆がダレる前、コンディションが良い内に・・・敵の中枢を叩く事を提案します!可及的速やかに敵の中枢を襲撃、その上でこの艦を爆破するか接収するか考えても・・・・・」
するとダーグも
「幸いな事に敵の残りは数こそ多いが戦闘ポッドだけ、しかもコッチにはキッドの用意した非常識な火器も有る♪」
「非常識と言うな!」
途端に周囲から笑い声が、
「なら早い方が良い・・・決行は今夜だ!」
そうジェリス艦長が言った。
交代で十二分に休憩を取ったボク達は装備を整え、ほゞ全員で艦の中枢部を目指し移動を開始する・・・ノーダーや突撃艇に見張りが必要だしね♪
まさか数時間休憩しただけで全兵力で押し寄せて来るとは敵も思わなかったらしい・・・すぐに敵の戦闘ポッドが押し寄せて来るが、分散してたのが急遽集められたような現れ方で如何も押っ取り刀で来た感が拭え無い。
「敵の機影は薄い・・・キッドは一歩後退して待機」
「アイアイサー」
ボクは後退してジェリスさんと部下達に戦闘を任せる・・・暫くするとポッドは沈黙しボク達は更に奥へ進む、それを2~3度繰り返した。
「この先で・・・ポッドが3方向から取り囲む様に待ち構えてます」
ボクは艦内の端末から敵の情報を割り出しながら海兵さんに言った・・・ボクのツールは❝彼❞の技術から造り出された特別製、敵から誤った情報を押し付けられ騙される心配は無いだろう。
「如何する?」
「ボク一人なら敢えて突入を・・・・・」
ジェリスさんとダーグそしてイメンケさんは苦笑いし、大半の海兵さんは呆れた顔をしていた。
「この先に資材搬入経路を兼ねた大きな通路が十字路上に・・・この広さって判ってたならノーダーで乗り込んだんですが、3方向は狭い通路に途中を阻まれてたから・・・・・」
流石に格納庫からは敵の艦内情報全を部吸い出せ無かったからね!
「残りの一方向は広いのかい?」
「そこが資材搬入口でしょう・・・でも流石にソコから入ろうとしたら、防御も厚いし隔壁も有るから・・・・・」
結局徒歩で突入するしか無かったんだ。
「キッド君ならドンナ作戦で行く?」
「全員で突入♪」
皆が呆れた様に溜息を吐くけど、
「そんなに非常識な作戦かな?ボクとダーグを先頭にして突入し通路の2方向をガトリング砲で清掃、その間ジェリスさん達に残り一方向を抑え込んで貰う・・・そして恐らくボク達が侵入して来た方からも敵が囲んで来るだろうから、その時はジェリスさん達に対応して貰い敵を片付けたボク達のドチラかが・・・・・」
「そんなに上手く行くかな?」
「楽観的過ぎないか?」
そう言われると思ったけど・・・
「良いんじゃ無いか?」
「その回転式・炸薬機関砲の威力なら・・・・・」
「イケると思うよ?」
皆が賛同してくれた・・・もっとも考えて見れば❝この機関砲❞も地球産の非合法コピーじゃ無い、ボクの造った銃器全般に言える事だけど❝彼❞の技術がふんだんに導入された非常識な異次元兵器だ!
モノによっては刻印まで忠実に再現してるのに、先ず材質から言って全然違う・・・某漫画で主人公の破壊された愛銃を旧式と言う友人にフレームを打ち鳴らせ、その音にガラスみたいな音だと驚愕するシーンが有ったけど、それ以上に地球では再現出来無いか出来ても商品化不可能な材質を使っている。
更に炸薬だって地球産の炸薬とは比べ物に成ら無い・・・しかし炸薬式の銃の場合は爆発力 = 銃弾の威力 = 反動!だから、ただ強い火薬を使えば良いって訳じゃ無いけどね!
「このガトリング砲は普通の人間に取り扱える代物じゃ無い・・・だけどボクかダーグなら使い熟せるから、予備の方をダーグに持って貰って・・・・・」
予備用の銃器や弾薬は追走してる武装兵員輸送車に積んであったので、予備のガトリング砲を引っ張り出しダーグに無理矢理背負わせると文句を言われた。
「こんなバカでかい銃器を私に使えるのだろうか?」
「ヒュンケルズで艦船の固定武装用のレーザーカノン、担いで撃ってた人が何言ってるの・・・ホラさっさと弾倉も担ぐ!」
弾倉用のバックパックを担がせベルトリンクで結ばれた弾帯をガトリングに導く、そして初弾をセットさせながらモーターを回らせて・・・・・
「じゃあボクは右の通路に・・・・・」
「私は左に飛び込めば良いのだな?」
ボクとダーグだけダッシュで走り出した。
十字路を右に飛び込むと銃を構え、だが敵影も無く周囲は静かなモノだった・・・でも何と言うか嫌な何かを感じる。
「そこっ!」
天井を張ってる配管や鉄骨の上に敵を確認、口より先に腕が動き敵に向かって20ミリ弾を盛大にバラ撒いた!
「シャァァッ!」
如何言う原理で飛んでるのか判らないけど円盤状のドローン、その大群に向かって20㎜をバラ撒く・・・まあ断続的にだけど15分も気前良く撃ち捲ってると敵影が薄く成り始め、そして弾の節約に今度は散弾銃に持ち帰る。
いやマーベリックだったかな・・・とにかく残ったドローンを片付けて放り出したガトリング砲を拾い、そしてダーグの方を見ると遠くでマダ敵を撃っていた。
コッチから敵が来る気配は無いので十字路に戻りボク達が来た方の道を確認、予想を裏切って背後から廻り込まれる事は無かったのでジェリスさん達の御手伝いを始める。
「ハイちょっと道を開けて・・・」
「ヤバイみんな耳を塞げっ!」
分隊長さんが叫ぶと同時にモーターを再回転させ、蜘蛛の子を散らす様に味方が退避するとガトリング砲が火を噴いた。
空薬莢と金属製ベルトリンクのパーツをバラ撒きながら、ボク達は残ってた敵兵をスクラップにして行く。
「コレ・・・気持ちが良いな♪」
「そうでしょ♪」
ボク達が楽しそうに撃ってる後ろで、
「こっちは五月蝿くて死にそうだよ!」
と皆から文句を言われる。




