それでも女の子(孫娘)と疑われる!
人間じゃ無いと言われ「ハイそうですか」とは流石に言えない。
ファーレンのステーションでは、街の医療機関でチェックされたが?
「如何言う意味なの?」
正直怖いが聞くしかない。
「アナタの身体は人間と同じ構成をしてますが、人間より圧倒的に優れてます。記憶力・運動能力・耐久力・回復力・・・そして何より、アナタの身体は自己改造能力を有しています」
その能力って何なの?
「文字通りアナタの身体を自分の望み通りに改造する能力です。現在アナタは男性ですが性転換したり、外見を全く変えたりする事が出来ます。眼や髪・肌の色なら瞬時に変更出来、完全な体型の変更もモノの数十秒で改造する事が出来ます」
いや嘘だろ?
「試して見ますか?」
モニターが消えると鏡の様に成り、自分の姿が映し出される。
「念じるだけで可能です」
バカバカしい気もするが髪の色を濃く成る様に念じると・・・どんどん濃く成りやがて黒髪に成った。
正直、驚愕する自分・・・次に眼も変えてみるが、金色にしたり緑・青・赤・黄・・・思いの侭だった。
「これは一体・・・つまりボクは?」
「アナタは作られた存在です。12歳相当の身体をしてますが、コールドスリープで眠ってた期間を除くと生後・僅か3か月です」
その場に脱力して座り込んだ。
コクピットの後方に出入り口が有り、そこは休憩室っぽい作りに成っていた。
ソファの上でボンヤリする・・・流石に人間で無かったと言うのはショックだった。
「記憶・・・無い筈だよな・・・元から無かったんだから」
自分でもかなり楽天的な性格だと思っていた。
その内に思い出すと考えてた。
だが・・・思い出そうにも無いんじゃ話に成らないよね?
「スミマセン・・・急激にショッキングな事を知らせ過ぎました」
アリスに謝られるが、
「気にしないで、本当の事なんだから仕方ないさ。ボクの中に有ったのは、記憶で無く記録だったんだろう」
多分・・・地球とか言う星も、日本と言う国も存在したんだろう。
その情報を植え付けられたって事なんじゃ無いかな?
この世界でも人工授精や新生クローンなど、人工的に生み出された人間はいるらしい。
だけど生み出された以上は人権を持ち、造った責任者は人として育てる義務を負う。
でもボクは違う・・・生まれて3か月で放り出されたんだ。
「おなか空いたな・・・何か作ってくれてたんだろ?自動調理器から良い匂いがしている」
「それは・・・」
「ボクなら大丈夫さ、出すよ?」
クッカーの扉を開くと・・・美味しそうなヌードルが入っている。
「ああっ、これ大好物だったんだ・・・いや、そう言う風に思う様にプログラムされてるのか・・・・・」
熱い丼ぶりを持ち、テーブルに移動した。
「五目餡かけラーメン・・・いや広東麺って言うんだっけ?」
おどけた調子で言ってみるが、駄目だった・・・明るく振舞う事が出来ない・・・流石に悲しくて涙が出て来る。
「マスター・・・・・」
泣きながら温かいラーメンを啜った。
確かに美味しい・・・・・だが、
「このお店・・・お婆ちゃんに連れてって貰ったんだ!」
薄っすらとしか顔は出て来ない!
だけど家族の思い出が・・・・・
「お母さんも亡くなる時、最後にコレが食べたいって言ったから病院に運んだ。お店の兄ちゃんが車で送ってくれたんだ!間に合わなかったけど・・・お父さんは居ない・・・覚えて無い頃に死んぢゃったから。明日は霊聖中学校に・・・入学式だから・・・・・」
もどかしい、何かが繋がりそうで繋がらない。
でも・・・確かに記録でなく、ボクの中に記憶が有った!
「仮説ですが聞いて見ますか?」
アリスが言ったので頷いた。
「マスターの肉体は造られた物でも、心は元々存在してた人間のモノなのかも知れません。つまり何か事故でもあって身体を破損し、今の身体に移し替えた・・・・・」
強引かも知れないが、辻褄は合ってる・・・気がする。
「人格や記憶を移す事って可能なの?」
「この世界では無理です。当船の装備でも・・・でも知識を脳に移す事は可能なので、記憶や人格が移せ無いとは限りません?それに痕跡は見られませんが、頭脳自体を移植した可能性も・・・・・」
そうなるとボクはコピーでオリジナルが存在する可能性も出て来る。
しかし造られて放り出されたより、マシな状況だと思えた。
「ヤッパリ・・・思い出を探すしか無いんかな」
このままではケツの座りが悪い!
大人しく潜んでれば暫く持つかと思ったら、3日目にファルディウス帝国の艦隊が近郊にワープアウトした。
あまり障害物の近くにはワープアウトしない・・・事故が怖いからね♪
ジリジリ周囲を取り囲み、そのまま包囲網を狭めて来る。
艦隊戦に詳しく無いけど、宇宙空間で海賊を封殺する常套手段らしい。
「帝国艦体が小惑星群の中に突入して来ました。逃げ出した海賊を掃討する為、外にも艦隊が待機しています」
アリが這い出る隙間も無いとは、この事だよね正に♪
「見つかる可能性は低いですが、警戒する事は必要かと思います」
こんな隠れ方してるなんて、まあ誰も思わないだろう。
偶然穴の開いた小惑星を発見し、そこに船体を隠した。
しかも小惑星もう一つドローンで引っ張って来て、その穴を塞いで仕舞ったのだ。
「普通こんな事考えませんよ!出る時は如何するんです?小惑星を移動してる間に攻撃を・・・・・」
「そのまま蓋に成ってる小惑星を、リニア・ランチャーで吹き飛ばす!」
大質量を持つターゲットを吹き飛ばすに、大口径レールガンは最適な選択だ。
「今回海賊退治に来てる帝国軍に、ジェリス艦長の政敵は居るの?」
「居ませんね、ジェリス艦長の政敵は血眼に成ってマスターを探してます。アナタの持つスターシップは、それだけ価値が有るのです・・・ただ」
「ただ?」
「世論が恐ろしい勢いで、腐敗した貴族や軍人をバッシングしてますよ。アナタさえ手に入れれば、市民を黙らせる事が可能と考えてるようですが・・・・・」
「そう簡単には捕まって上げない♡」
「市民だけでなくマスコミや学会も、もろ手を挙げてアナタを応援してます。帝都では❝悲劇の美少女を救う会❞とか❝英雄美女を取り戻す会❞とか発足して・・・これはファンクラブの様ですね?」
「アイツ等まだボクの事を男だと公表して無いの!?」
頭痛がしてきたけど、目下の問題はボクの性別では無く敵の動向だ。
「アナタの技術を奪い手に入れる事で・・・腐敗貴族達は自分の権力を強化したい様ですね?元々ファルディウス帝国は帝政でも民主主義が浸透し、一応議会が機能しています。それに対してヴァイラシアンの方は完全な貴族社会の様です。腐敗貴族はヴァイラシアン寄りの政治形態にしたがってます」
頭来る奴等だなァ・・・ただの盗人のクセしてさ!
「こんな事に成って、ジェリス艦長も大変なのでしょう」
「彼等の狙い通りだろね」
しばらく沈黙の時間が流れた。
「如何言う意味でしょう?」
「アリス気付かなかったの?これはジェリス艦長いやジェリス伯爵と、多分ファルディウス皇帝の策略なんだよ。邪魔な奴等を一掃する気だ・・・・・」
アリスは困惑している様だ・・・機械のクセに!
「最初は偶然ボク達に助けられたんだろうさ・・・でも都合良くボクの情報が流れて偶像化し、都合良くボクの船が彼等にとって宝の山だと知れ渡り、都合良くステーションで登録とか物資の購入や搬入が終わってて、都合良くジェリス艦長から計画を打ち明けられて、都合良く襲撃されて逃げる事に成り、都合良く「コイツ等は敵だから消しといて」ってリストまで用意してある・・・こんなに御都合主義なのフィクションにだって無いだろ?」
最初っから計画が立てられてたんだ。
「おそらくファーレン迄の航海中に計画建ててたんだろう。そもそも「最終的に皇帝の御墨付き貰えれば誰も手が出せ無く成る」って、そんな物を皇帝が出すって何で言い切れるんだ?伯爵って爵位の中じゃ中間くらいだけど、本来は皇帝にすぐ連絡とって話付けられる立場じゃ無いだろ・・・多分パイプが有って皇帝と密約が済んでるんだよ。マッチポンプって奴で最初から筋書きが出来てるんだ。彼も言ってただろ「自分が書いた三文小説」って!」
マアその筋書きに沿って踊ると決めたのはボクだけどね!
「海賊は・・・大分減って来てる様ですね?注意して下さい、近くで大型艦が爆発・・・」
言い切る前に衝撃が来た。
「大丈夫です。小惑星が多少ダメージを受けましたが、係留フックが緩んだので巻き上げる様に指示します」
フックを操作してるのは、艦外で作業中のドローンだ。
周囲を索敵する・・・あまり近付かれると蓋代りの小惑星を吹き飛ばす時、巻き込んでしまう可能性が有る。
「戦闘は終了した様です・・・残っていた海賊は、降伏しました」
よしよし♪
「残念ながら帝国艦隊が、隠れている海賊が居ないか小惑星を一つ一つチェックし始めました。このままでは見付かりますよ」
だよね~確認しない筈は無いよね~~~♪
「まだ離れてますから出航しますか?」
「短い平和だった・・・ドローンとワイヤーフックのリール回収して」
数分で回収が終わったと告げられる。
「ジェネレーター再起動、リニアランチャー充電開始!」
「帝国軍に気付かれました。コッチに戦艦が向かってきますが、充電終了いつでも撃てます!」
「射角に帝国艦は?」
「居ません!」
「じゃあ、吹っ飛んじゃえ!」
操縦桿のトリガーを引くと、眼の前の小惑星が粉々に成って吹き飛んだ。
「シールド全開!発進」
シールドに触れた岩石が光を放ちながら弾け飛ぶ。
「最大船速まで加速っ!目標・・・特に無し、けど一応ヴァイラシアン方面に!」
帝国艦隊が呼び掛け続けてる様だが無視する。
スターシップは全力で宙域を離脱した。
「で・・・如何するのだ?」
眠たそうな眼をした白髪の老人が、高い位置から見下ろしている。
そこには拘束されてる訳では無いが、兵士らしき者に囲まれて青い顔をしてる男達が居る。
誰もが如何にも貴族と言う服装をしているが、顔は恐怖に引き攣っていた。
「ジェリス伯爵・・・彼の技術がヴァイラシアンに渡った場合、コチラに勝ち目は在ると思うか?」
艦長は即座に応える。
「彼の技術が拡散する前に開戦しても不可能ですね・・・彼は先の脱出行で先ず簡易工房とドローンを量産し、必要な工業能力を確保しましたよ。あの船が有るからこその手法ですが、敵に回ったら彼も動員せざるを得ないでしょう」
宰相も手を上げると発言した。
「アイスコフィンを5日で仕立てたのですよ?彼が本気で艦隊を建造する事にのみ集中したら、ゴキブリが繁殖するより早く新世代艦を大量に量産出来るでしょうね」
欲の皮を突っ張らせて、マンハントに興じた対価はデカい。
「全員牢へ入れて置け・・・家族も自宅へ軟禁させろ!」
許しを乞う貴族達が連行されて行った。
そして広間が静かに成ると、今度は皇帝達の笑い声で騒がしく成った。
「コイツは愉快だ・・・今まで散々逆らった奴等を纏めて片付ける事が出来た」
「陛下を諫める意味は無く、自分の利益を追及する為の反抗でしたからね!」
「これで風通りも良く成ります。腐敗貴族を一掃出来ますね!」
皆が愉快そうに笑っていた・・・が、
「腐敗した貴族の頭を一掃出来た・・・次は残りの貴族と軍人だ!」
「しかも貴族独自の私軍も有りますからね。今捕らえた貴族の親や子息達も、逆らって軍を上げるでしょう」
皆が貌を引き締めて言った。
するとジェリス艦長いやジェリス伯爵は、暫く考え込んでから言った。
「確か・・・ギルドにはシークレット・オーダーと言う制度が有りましたよね?」
「完全に秘密で仕事を依頼出来る奴じゃな?」
ジェリス伯爵は貴族の貌に成って言った。
「キャプテン・キッドはギルドに登録しました。彼に反乱軍の討伐依頼を・・・・・」
彼等は為政者・貴族の中では善良な方である。
清廉潔白と言えなくても、道理は通し義理は果たす。
しかし今日の彼等は、最高に黒くて悪い貌をしている!
「取り合えずシナリオの変更が必要です。私が直接出向きましょう」
「それなのだがジェリス・・・私も同行させて欲しい!」
皇帝の言葉に、その場にいた全員が絶句した。
一番早く回復したのは宰相だった。
だが彼が何かを言う前に、皇帝は手で制した。
「悪いがコレは決定事項だ!私は・・・・・」
そう言ってハンディモニタ・・・タブレットの様な物を手に呟いた。
透明のガラス板の様な物の中には、キッドの姿が投影されている。
「絶対に確認しなくては成らない事が有る!」
ファーレン近くの小惑星群から逃げ出したキッドだが、その後に3度ほど帝国軍と交戦した。
いや帝国軍でなく元帝国軍だ・・・これがジェリス艦長の本当の狙い、帝国を離反し反乱軍と成っている。
彼等が総力を結集しても帝国軍と互角に成らない、そのため是が非でもスターシップが欲しいのだろう。
「さてと・・・この侭じゃヴァイラシアン領に入ってしまうな。何か言い訳を考えて転進しないと・・・・・」
「前方より帝国軍が接近中、通信を求めています。艦名アイスコフィン、艦長ジュリア大尉です」
如何やら漸く説得役が来た様だ♪
「お久し振りです」
「コチラこそ♪」
レプトン通信が繋がり互いに挨拶を交わす。
「ご無事で何よりです。今日は父より言伝を預かって来ました。内容は「シナリオを一部変更したい。ジュリアに同行させた人物と会談してくれ」と言う事なんですが・・・・・」
ジュリア大尉の口調が変だ。
「ボクに何か都合の悪い人ですか?」
「多分・・・都合を悪くする人でしょう」
つまり厄介ごと何だろう。
「アナタ達親娘に裏切られると思ってません。ジェリス艦長が仰ったなら逢いましょう」
通信を切り、アイスコフィンに向かう。
外見から見るとアイスコフィンは、まだ大した改修されて無かった。
ジェリス艦長の話では補強してから移動ドッグ船に使うと聞いていたが、相変わらずマカロニ型の骨組みにエンジンが付いている様にしか見えなかった。
だが船体が回転し、恐らくそれで人口重力を作っているのだろう。
その中にジュリア大尉の船フリッパーと、見た事が無い大型艦が入っている。
戦艦にしても大きい800~900mクラスの戦艦か重巡洋艦だ。
この世界で宇宙船の戦艦と重巡洋艦の違いは、武装と防御を重視した戦艦に対し、重巡洋艦は機動性と航続距離に重きを置いている事だ。
「ファルディウス帝国で一番大型の艦は、全長3500m以上有るんだっけ?」
「イイエ一番大きな艦は、移動式ドック艦アイスコフィン、全長5025.3mです。もっと大きな移動出来る建造物は有りますが、艦として航行する事を前提に造られた物ではアイスコフィンが最大です」
イヤだ何時の間にか記録を塗り替えちゃったらしい。
「ドッキングアーム接続・・・完了、所定位置に移動・・・係留フック接続。お疲れ様でした・・・・・」
フリッパーのオペレーターらしいお姉さんに言われた。
ココさんを思い出す、別れて半月しか経って無いが元気かな?
「取り合えず話が有るので艦橋にどうぞ。ファーレン手前でアナタが撃沈した、傭兵の使ってた戦艦の艦橋を移植したから前よりずっと快適に成りました♪」
誰と会談させられるんだろ?
都合を悪くする人・・・おそらく軍人か貴族だな。
「コンニチワ」
貴族に対する礼儀なんて知らないから、操舵室に入って普通に挨拶をしておく。
中には見るからに偉そうなオジサマが並んでいたが、ボクの挨拶を聞いて微笑んでくれた。
良かった・・・悪い人は居ない見たい・・・と思ったら、一番偉そうな人が怖い顔でボクを睨み付けている。
「エッと・・・」
どう反応すべきか考えていたら、行き成り両肩を掴まれて大きな声で言われた。
「ミューズ!ミューズなのか?ミューズじゃ無いのか?」
エッ?エッ?何っ?何の事?ミューズって人の名前?
「陛下、落ち着いて下さいっ!」
周囲のオジサン達が止めてくれた。
ええっ!陛下って、この人が皇帝?
「陛下、ミューズ様とは確か・・・・・」
「ミューズ様って女の子でしょう?陛下・・・申し訳ありませんが、この子は男の子ですよ」
そうジュリアさんが言うと皇帝陛下は崩れ落ち、床に膝を突いて震えていた。
その顔には汗が浮かんでいるが、大きく呼吸を繰り返し落ち着くと立ち上がって言った。
「すまんな・・・死んだ孫娘に瓜二つなのだ。そうだな生きていれば24に成る、キミがミューズの筈は無いのだ。男の子だし・・・すまん」
そう力無く言った。
「ワシの息子は碌でもない奴でな・・・皇太子である事を良い事に、そこら中の女に手を出しとった。そのうち一人が妊娠してな、そんな事が公に成れば立場が無いと子供である事を認めなかったのだ。そして母親の方もウチの息子に引っ掛かる程度の愚かな女だった・・・子供を認知させようと働いてたのに、子供を家族と使用人の総出で虐待してたのだよ!」
今からブッ飛ばしに行っても良いですか?
「もう出来ぬよ・・・奴等は何処に居るか判らんし多分死んでいる。間抜けにもワシは孫の存在に気が付かなかった・・・言い訳では有るがドラ息子が隠蔽しててな!だが孫の・・・ミューズの乳母だった者が、命がけで皇居に侵入し訴え出てくれたんだ。あの子が10歳の時に・・・すぐに軍を差し向け救助した。だが救出した時は手遅れだった、いやワシがソノ存在を知った時は既に余命幾許も無かったんだ!」
最悪だ・・・
「息子は最後まで認知しなかったが、私が孫の皇位継承権を認め息子を廃嫡した・・・奴だけはワシが死んでも絶対皇帝の座に付かせない。奴がやった事は国中に大々的に報じたしな、そして虐待していた母親とその一族・使用人も、爵位を取り上げ国を追放した。皇帝に連なるモノを害したのだ・・・死刑でも軽い位だがミューズの母親と一族、殺す事は出来なかった」
そう言うとボクの頭を優しく撫でる。
「キミの画像を見た時、ワシはミューズが帰って来たのだと思えたんだ。容姿だけでなく赤紫の瞳、強い青味がかった銀髪、白い肌・・・あの子と生き写しだったんだ」
泣いている皇帝陛下をボクは抱き締めた。
「スミマセン・・・アナタに嘘は吐くたく無い。ボクは記憶喪失で出自も怪しいですが、それでも残念ながら・・・陛下のお孫さんでは有りません」
「そうだな・・・男の子だしな・・・・・」
ファルディウス帝国皇帝ハインツ・ヴェル・ファルディウス陛下は、鎮静剤を投与し別室で休んで貰う事にした。
陛下には3人の従者が付いていて、それ以外の人物はアイスコフィンの操舵室に残った。
「ジュリアさんやジェリス艦長も、ミューズ姫の貌を知らなかったの?」
ボクが英雄に祭り上げられた時も、姫様に瓜二つの話は出なかった筈だ。
「それどころか帝国でも、知ってる人は10人も居ないのよ・・・あのスキャンダルの時も、事実は公表されたけど、姫様の貌は公開されなかったから。ただ今後トラブルに発展させない為、アナタの容姿が姫様と瓜二つである事は公表する予定だから」
「その時に男である事も必ず公開する事!」
クギを刺して置く!
「余命の事もあり姫様のお世話をさせて頂いた、必要最低限の者しか彼女の容姿を知らないのです。もう片方の・・・母親の家の者は虐待に加担した使用人含めて国外追放しましたから」
それで知ってる人少ないのね。
「でもだからって死んだんでしょ、ボクをお孫さんかも何て思うとは少しオカシク無いかな?」
すると全員の貌が曇った。
「正確には生死不明なんですよ」
どうゆう事なの?
「それはワシから話そうか・・・・・」
皇帝陛下が戻って来た。
周囲の者が注意しようとする所を、陛下自ら制止する。
「ミューズの面影を持つキミと、もう少し話がしたかった・・・すまんねプライドを傷付けるなら謝るよ。男の子のキミに孫娘の面影を見るなんて・・・・・」
「全く気にしてませんよ♪」
陛下が微かに微笑んだ。
「キミは優しい子だな・・・さて、その後ミューズは余命一年少々と言われ、首都星のステーション・コロニーでワシと1年ほど暮らした。ステーションに移ったのは重力が軽い方が、ミューズの身体の負担が少ないからだ。殿医も優秀で頑張ってくれたが、それでも限界が近付いて来るのは誰の眼にも明らかだった。虐待されてた期間が長過ぎたんだよ・・・・・」
ボクが用意したお茶を飲むと一息入れる。
「その一年の間に、ワシはミューズにせがまれ宇宙船の操縦を教えた。ミューズに出会うまでワシは趣味で宇宙船の建造をしててな・・・ステーションにワシの工房が有って最後の作品が係留してあった。その船をミューズは気に入ってくれ、だから彼女にプレゼントしたんだ。そしたら・・・」
皇帝の眼から涙が溢れる。
「いよいよ最後の時が来た時、彼女は最後の力を振り絞って別荘から脱出し、その船で宇宙へと旅立った。何も言わずに・・・何を考えてのコト何だろうな?」
「ひょっとしたら・・・自分の死に眼に会った貴方に、悲しんで欲しく無かったのかも知れない」
当時11歳の少女だ・・・その行為が反って陛下を苦しめる事まで、考えが回らなかった可能性が有る。
「優しい娘だったんだ・・・本当に・・・あんな酷い眼に会っても」
悲しそうに呟く様に彼は言った。
「それで記憶喪失のボクが御孫さんだと・・・・・」
「いや、もう一つ理由がある」
陛下はコンソールを操作して、船の外観図を表示した。
「コレは・・・ミューズ姫が乗って旅立たれた船ですか?」
「そうだ・・・エルミスと言う名だ」
成程・・・スターシップに良く似ている。
スターシップもエルミスも基本3角形をベースにしたデザインをしている。
地球で世界的にヒットしたSF超大作に出て来た敵の宇宙戦艦、それの後発作品に出て来た更に鋭角な後継機が在ったが、エルミスはソレの艦橋を取り去った様な形、スターシップは更にソレを縦に割り間に何か挟んだ様な形をしている。
いや日本で続編を造られ続けたシューティングゲームの戦闘機にも似てるか?
まあ内輪ネタは置いといて、スターシップに乗って現れたのが疑われた本当の理由だった様だ。