邪魔なモノは片付ける♪
「ずっと小競り合い程度の戦闘は続いてる・・・ヴァルマーは往生際の悪い手合いだし、無条件降伏だけは絶対にしない事に金貨を3枚までなら賭けても良い」
健全な未成年者を賭け事に引き込まない様に!
んっ・・・やってる事はエロオヤジのクソガキが何て言ってる奴は誰だ?
「物資はガストンから軌道エレベーター経由で搬入出来るし、防衛自体も層が厚く艦隊はガストン周辺に展開済みだ・・・何とか打開出来ないかな?」
と言っても簡単に打開策が出て来るなら誰も苦労しない。
「面倒な事に本国から自発的な増援も来る様だし・・・・・」
「なにそれ・・・自発的って、そんな事出来るの?」
いや艦隊が本国の命令も無く自発的に動く、そんな筈無いでしょう?
ジェリス艦長は笑いながら言った。
「キッド君の齎したテクノロジーをベースに、ジェイナス技師やミューズ様の設計した新型軍用艦・・・これを主体にしてロイヤル・フェンサーおよびディフェンサー艦隊を設立したが、最終的に両艦隊を15から20まで増やす予定なんだ」
まだコーヒーに口を付けず、香りを楽しみながら言う。
「選ばれた者は正しくエリート、出世街道まっしぐらさ!もちろん既存の艦隊からも相応しければ昇格させるが、大小 数千ある帝国艦隊の中には勝手に動いたらマイナス評価なのも判らない馬鹿なのも居てね・・・・・」
「まさか手柄立てようと許可も得ずに?ヴァイラシアンを笑ってられ無い馬鹿さ加減ですよね」
呆れてモノも言えないが、こう言うバカはファルディウス・ヴァイラシアン問わず一定数出る害虫の様なモノらしい。
「まあ手柄を立てたら如何にか成ると考えてるんだろうが、星間国家など如何しても成り上がりや辺境出の ならず者みたいなのは一定数含まれちゃうんだよ。そう言う奴等にとって自分より活躍しそうなキッド君は眼の上の瘤、絡まれない様に気を付けて欲しい」
そこまで行って漸くコーヒーに口を付けた。
「で話を戻すが艦隊は強制的に寄せ集められたので、ヴァルマーさえ殺せれば間違い無く降伏する。むしろ各艦隊の頭を張ってる貴族を除けば、本当に戦いたい奴なんか要る筈は無いんだ」
そりゃ言われなくても解って居る。
「その為にガスターを破壊したいが、出来る事なら被害は最小限に・・・・・」
「でも如何やって?」
ガスターの解析データも表示される。
「ガスターの根幹部からシャフト部、もちろんガスター本体まで強力なバリアシールドを展開している。対処するにはアンチシールド・ブラスターを搭載した、艦で内部に侵入するか、同装備をした魚雷かミサイルで攻撃するしかないが・・・」
「どちらで攻撃しても、大して効果は望めないでしょうね」
魚雷かミサイルは対宙防御弾幕で撃墜され、艦で特攻は自殺行為なんで実行した馬鹿は居ない。
ボクだってアレを躱すのは無理だよ・・・
「キッドさま、一寸よろしいですか?」
アリスが声を掛けて来た。
「敵艦隊が動きを見せてる様です。ジェリス艦隊に至急戻る様にラグナレクから・・・・」
「忙しいね全く♪」
彼は残ってるコーヒーを飲み干した。
ジェリス艦長からはボクまで動く必要が無いと言われた。
また小競り合いが始まるのだろう・・・さてジェリス艦長がラグナレクに帰ってからは仕方無いので、ボクはサンティアラや幽霊団地から得た知識をチェックする。
封印しなくては成らない情報は少ない、すぐに概要だけチェックして封印する様に指示をだす。
そして公開する情報・・・つまり技術は公開の順序とタイミングを、アリスがスケジュールを組んで皇帝に伝える事に成っていた。
「技術は得る順序が重要なのです・・・その技術で問題が発生した場合、中和する技術が必ず必要に成りますから」
それが出来ないから公害問題とか発生する。
「これは・・・お兄さま、この情報を貰っても良いですか?」
ミューズが言って来たのは、ある種のエネルギーを吸着・貯蓄する生物の情報だ。
「この甲虫の鞘翅を再現できれば、スターシップのシールドを高出力かつ低燃費に・・・・・」
鞘翅とはカブト虫とかの背中で翅を守ってる堅い開閉式の甲羅、アレは昆虫の左右に2枚づつある翅の内、前の方の翅が進化したモノだったそうな・・・知らなかった!
「良いけどミューズ、鼻の穴が広げて興奮しないの!」
ミューズは慌てて鼻を抑えて隠したが、小鼻がチョッと膨らんでたけど鼻の穴を広げてた訳じゃ無い。
ゴメンなさい冗談だったんだ・・・でもボクの上腕をポカポカ叩きながら、恥ずかしがるミューズは最高にカワイイのだ♪
ところが・・・・・
「その技術は先古代文明では確立されてますね・・・先古代文明の滅亡寸前に確立されたので、実用化されてませんが・・・・・」
途端に新発見をしたと思ってたミューズが明らかに落胆した。
「装甲材か塗料に仕込めれば・・・シールドの強化と低燃費化に繋がるかと・・・・・・」
バリアシールドとは文字通り、艦船を圧縮されたエネルギー粒子の盾で守る防衛機構だ。
船に対して任意方向に対して張る事も、全方位に展開して艦船を包む事も可能で、そのまま敵にぶち当たり破壊したり、事故で友軍艦と衝突した時のクッション代わりにも成る。
ただ2重3重にシールドを張って、外側が破られたら次々内側に展開出来るのはスターシップのみである・・・マアそれでも無茶やり過ぎて艦に年中穴開けられてるんだけどw
ところで圧縮エネルギー粒子であるバリアシールドは常に霧散し続けており、展開し続けるには延々とエネルギーを供給し続けなければ成らない。
霧散したエネルギーは宇宙空間に放出され続けるが、金属性の艦体に引き寄せられるので集めて再利用されている。
これは既存の技術でファルディウス・ヴァイラシアンだけで無く、この世界の戦闘艦では殆ど全てに使われている技術だ。
まあスターシップのが一番高性能だけどね♪
で効率良く吸着・貯蓄出来れば、それだけエネルギーを有効的に再利用出来るのだ。
「現在使われてる素材より明らかに効率が良く吸収出来、尚且つ取り込んだエネルギーを、そのままの状態で貯蓄・再利用する事が可能です!こんな良いモノが出たなら何で早く教えてくれなかったんですか?」
ミューズがアリスに噛み付いた。
「まだ私も整理し切っておりません!全部整理してからで無いと報告も纏まらないんですよ・・・誰かさん達が出た情報を、その場で全て閲覧し様とするから・・・・・・」
「ミューズ・・・程々にしなさい♪過ぎるとオシリが痛い事に成るよ!」
「ひゃ・・・ひゃい!」
怯えるミューズちゃんもカワイイ♪
「ポップさんにも言っておくよ、ボクが今読んでるのも・・・・・」
「それは整理済みです」
ボクはミューズが引っこ抜いたデータを再確認した。
「成る程・・・これはバリアシールド様に圧縮粒子化したエネルギーを、そのままの状態で吸収・貯蓄出来るのか!」
「だから そのままシールドにロスレスで使用出来るの!今までは艦体の装甲材で吸収したエネルギーを極電化して、またシールド発生装置で変換し直してたから・・・・・」
この世界の艦艇の装甲材に革命が起きる!
んっ?
「チョッと待てよ・・・バリアシールドとはシールド発生装置で発生させた圧縮エネルギー粒子を、指向性を持たせて艦体周囲に展開させるもの・・・だよな?」
「そうだよ?」
ミューズが不思議そうにボクの貌を覗き込んでいる。
「そしてミューズが見付けた甲虫由来の新技術は、エネルギーをバリアシールド化したままで吸着・・・または保存・・・・・・・」
頭の中で何かが繋がった!
「ミューズ♪」
「な・・・何かな?」
ボクが機嫌良さそうに呼ぶ時は、逆に怒っててオシオキの前触れでも有る事をミューズは知っている。
だから警戒しているが今回は全く逆だった。
「御褒美だ!」
正面からミューズの唇を奪った。
当然舌は入れ無いよ、ボクにだってマダ早いし♪
ところが暫くして唇を離したら、ミューズの奴はキョトンとして嬉しく無さそうだ。
「何だヨ・・・普段は御褒美に何が欲しいと聞けば、キスを要求して来るくせに!」
「だって行き成りだったんだもん!驚いて全然たのしめ・・・お兄さま、わんもあぷりーず!」
ここで素直にオカワリを出して上げ無いのがボクと言う人間だ。
御褒美タイムは終わりと告げて踵を返すと、ミューズがケチと言いながら腕に縋り付いて来る。
そこで抱き締め、もう一度唇を合わせると・・・ミューズはトロンとした貌に成ってボクに言った。
「ケチは撤回しますけど、お兄さまは天邪鬼です!少しは素直に成って下さい」
と叱られて仕舞った♪
「ミューズ、エルミスⅡAにスターシップの船首と、同じ位の大出力レールガンって搭載出来るかな?」
「スターシップほど大きいと成ると、ちょっと無理かな・・・そもそもレールを設置する場所が無いし、精々半分くらいの大きさなら積めると思うけど」
使えるなら大出力のレールガンが理想的だったが・・・・・
「他の艦じゃ余計に無理だな・・・大気圏内で亜光速出す訳には行かないし、出来たら別動隊を一つ・・・・・」
「お兄さま、何を考えてらっしゃるんです?」
ミューズが怪訝そうにボクの貌を覗き込む。
ジェリス艦長に頼んで秘密裏に、ジュリアさんのフリッパーにスターシップへ接舷して貰った。
そしてスターシップの工房で作り上げたレールガンを、ドローンでフリッパーに搭載し始める。
「お兄さまも少しは勉強して下さい・・・あの計画にスターシップの船首レールガンでは過剰破壊力、正にオーバーキルですよ!そもそもフルパワーで発砲した事、今まで一度も無かったですよね?」
ミューズに非常識だと叱られている。
「フリッパーに積む為に2分の1にスケールダウンして造ったレールガンだって十分以上に大出力です!そもそもスターシップのレールガンを、地表で最大出力で水平発射なんかしたら、それだけで大災害と言っても過言じゃ無いんですからね!まして地面に向けて撃ったら・・・・・」
くそ・・・コロニー落とし発言の時、散々非常識だと揶揄った仕返ししてやがる!
後で見てろよ♪
「で自発的増援艦隊の奴等は・・・・・」
コクピットに来てダーグが言った。
「思ってた以上にクソ野郎共でした!弾は前から飛んで来るばかりじゃ無い事、教えてやろうかな・・・・・」
「曲りなりにも友軍を、後ろから撃たないで下さいね♪」
覚えて置く値打ちも無いから、名前は敢えて忘れた。
数人の中級貴族が連合的な艦隊12000を組んで増援として現れたのだ。
陛下の命も得ずに勝手に・・・彼等がロイヤルフェンサー・ディフェンサーを名乗る事は絶対に無いだろう。
「ジュリアさんやパインさんにも噛み付いてたし、アイツら自分達だけで戦争出来ると思ってるのか?」
と憤ってたら、
「悪い見本として一人で戦争した人が居るから・・・ゴメンなさいっ!冗談です!冗談ですからゲンコツでコメカミをグリグリしないでェ~~~ッ!」
よし立場が入れ替わった♪
コッチのターンだ虐めてやるぞ!
「オマエ等、イチャ付くのも良いけどな・・・その自発的増援艦隊が動き出した。如何やらガスターを攻撃する積りらしいが良いのか?ガスターが落ちたら」
ダーグに言われるが、
「落とせるモノなら、やって見なって感じなんだ♪」
自発的増援艦隊は数の少なさを補う為、密集艦隊でガスターに攻め掛かり、ヴァルマーの首を上げる積りだった。
そう先の軍議でも主張してたから、その手段を取ると思われる。
確かにヴァルマーの首級さえ取れたら戦いが終わるから、あながち間違ってる戦術とは言えないのだが・・・コイツ等やっぱ馬鹿の集まりだ!
「2つ有るガスターのドッチにヴァルマーが要るのか解って居るのか?」
「解る筈が無い。だから・・・」
彼等は艦体を2つに割って、それぞれガスターに同時に攻撃を仕掛け始める積りらしい。
そう先程の軍議で主張していた・・・この宙域に先に展開してたのはジェリスさんの率いるボク達の艦体だが、数が500にも満たないので舐め腐っている。
こちらの言う事を聞く気が無いとも言っていた。
「間違い無く馬鹿だな・・・我々よりは多いが奴等からすれば半分、なんで態々分散して少なくする?」
ダーグが呆れた様に言う。
「普通に考えたら各個撃破でしょ、あんなのが同じファルディウス軍人とは情けなく成っちゃう・・・・・」
ジュリアさんが面白く無さそうに言った。
「ところでジュリアさん、なんでコッチ来てるのですか?フリッパーは今レールガンの換装で大忙しなのでは・・・・・」
「だ・か・ら・よ!さあキッド君、白状して貰いましょうか?あんなデカいレールガンをフリッパーに載せて、一体ナニを私にさせる気なの♪」
笑顔で迫るジュリアさんが少々怖い。
「もちろん良いコトさ♪チョッとコレを見てくれる?」
ボクはガスターの立面図を映写させる。
そして・・・
「折角だから応援も来た所で、まとめて盛大にブッ潰そう!良い考えが有る、丁度ボクも大量虐殺に食傷気味だったんだ!」
不謹慎この上ないセリフだが、出来るなら死者など少ない方が良い♪
コッチは総数500ほど、ジュリアさんのロイヤルフェンサー第一艦隊は全て来たが、ジェリス艦隊は半分ほどしか来て無かったからだ。
それでも敵の応援が来たら80倍の敵に当たる所、50倍位の比率で済むのだから楽なモノだが・・・ちなみに自発的に来た彼等は最初から数に入っていない。
「艦隊戦する事に成ると思ったのに・・・・・」
「わざわざ消耗戦する事も無いだろう?」
ジュリアさんは艦隊戦を御希望だったらしい。
「希望してた訳じゃ無いけど艦隊で睨み合ったら、普通そう成るんじゃ無いかしら?」
「まあ正論だが・・・・・」
前に聞いていた性格通り、ヴァルマーの方も増援艦隊と合流してから進軍を始め様とする。
最も互いに睨み合ってるんで行動はバレバレ、むしろ見てる分にゃ鈍足に感じるんだけど・・・コッチの自称増援と言う邪魔者達と正対している。
「ではミント君、パイン君、予定通りに作戦を開始する」
「了解、指揮下に入ります!」
「コッチも続くよっ!」
二つの艦隊がジェリス艦長の後に続き、自発的なお邪魔虫の背後に廻ると距離を取り始める。
すでにガストン近宙で戦端が切られ、砲火が互いを撃ち合い始めた途端に!
そしてコッチの阿呆共は公言通り艦隊を二つに割って、みるみる内に数を減らしていく。
「キッド君、先に行くよっ!」
「了解コチラも・・・」
自分の艦隊を殆どミントに預けて10隻ほどで行動するジュリアと単艦のキッド、2人に気を配る者は少なくともヴァルマー側には居なかった。
「しかし毎度毎度、こんな非常識な手段を良く考え付くよね!」
「それに乗っといてナニ言ってるんですか!」
高速で敵艦隊と大馬鹿者共の傍らを擦り抜けると、ガスターを掠めてガストンへの大気圏突入コースを強引に取る。
「後方からのミサイルに注意、同時にシールド出力最大にして・・・・・」
ジュリアさんの声が通信越しに響く。
「ミューズッ、敵の攻撃はアリスのファランクスとシールドに任せれば良い!オマエは対艦攻撃に集中、攻撃してくる奴等を片っ端から沈めろ」
「了解っ!」
互いの戦法を取りながらボク等はガストンの影に入り、ジュリアさんの声が途切れて行く。
まあレーザーやレプトンじゃ無くニュートリノ通信なら通信出来なくも無いが、そんな事をしている余裕は無かった。
そろそろ・・・余程の馬鹿で無いならボクの狙いも理解する筈だ。
そのころ・・・ガスター1の指揮所に居るヴァルマー公爵は・・・・・
「大気圏突破だと?防空飛行隊と対空砲兵隊にに攻撃させろ・・・大気圏に入ったら航宙艦など、ただのデカイ的に過ぎん。さっさと撃ち落させろ!」
全く気が付か無かった。
スターシップとエルミスⅡAフリッパーが大気圏突入する少し前・・・・・
「ジェリス伯爵・・・どうせ暇なのだから手を貸して貰えないかね?」
確かコイツは侯爵だったなとジェリスは思う。
がファルディウス爵位より実力がモノを言う!
「お断りします・・・倍以上の艦隊に対し正面からぶち当たる何て、何を考えてるんですか?」
「その程度の戦力差なら用兵で・・・・・」
そんなモノがオマエ等に有るのか?
「じゃあ私の助けなど要らんでしょう?そもそも先の軍議に乱入し、私達の話を一切聞かないで強行する宣言をしたのはドナタですか?」
コイツ等のは強行では無く❝狂行❞だ。
自殺行為でしかない・・・戦力差は艦隊の数のみであって、ガスターは含まれていなかった。
宇宙要塞ガスターは、それ一つで10000隻の艦隊程度のポテンシャルを持っていた。
つまり彼等は2倍どころか4倍の敵に正面からぶち当たって行ったのだ。
「もし我等に何か有ったら・・・・・」
「コッチには何の関係も有りません。そうだ陛下から言伝が有りますよ」
奴等の頬を冷や汗が伝う。
「自殺志願者など放って置いて良いとの事です・・・・・」
ジェリスはスッキリした・・・と思っている♪
その後も喚き散らす奴等を相手に、悪い事は言わないから撤退する様に言った。
だが命令を待たずに万を超える艦隊を動かし、何も手柄を上げられずに敗走すれば確実に降爵させられる程度の事が分かる知能は持ってるらしい。
それが悲劇を生んだ・・・彼等は徹底抗戦する気だ。
だがソレを許してやれるほど、私は彼等に親しくはない・・・早々に兵を巻き添えにする前に退場して頂こうか♪
「キッド君とジュリアちゃ・・・失礼しました。ジュリア中佐が大気圏に突入を開始・・・・・・」
互いに軍人だし職務に当たってる時は注意してるが、うちの娘とココ君は親しいので油断するとちゃん付で読んでしまう・・・まあ注意する程の事では無い。
「しかし・・・かなりタイトな作戦ですが、予定通り上手く行くでしょうか?」
「大丈夫だよ・・・実は一番・・・・・」
冷酷に怒ってるのはキッド君だから・・・と頭の中だけで呟いた。
後方からレーザーが飛んで来るが、シールドに阻まれて着弾して無い。
ボク等の方は良いけどジュリアさん達の方は・・・・・
「向こうは軍用艦でコチラより後方への攻撃力は充実してます。心配する必要はないでしょう・・・・・」
「そんな事より航空機の攻撃が激しい、何とか成らないのか?」
ダーグが文句を言った。
マルチブラスターにビームカノンやファランクスで応戦してるが、敵の数が随分多く、しかも次から次へと湧いて来る。
「いっそ速度上げて、さっさと・・・・・」
「ジェリス艦長からの注文を御忘れですか?」
それが有るから速度を出せない。
さっさと離脱出来る方のガスターは、良いカッコしてジュリアさん達に譲って仕舞ったのだ。
それでも3分もすれば最高速でブッチ切れる!
「成層圏上から敵艦の攻撃・・・・・」
「データをリンク・・・躱すよ!」
「躱しながら注視して下さい!前方11時30分に目標視認!」
前方に天まで伸びる一本の線がっ見えて来た。
「まだまだ遠いね・・・・・」
「流石に奴等も理解した筈だが・・・・・」
ダーグは敵の攻撃が緩い事に疑問を感じている。
またしてもガスターの中の出来事である。
「ガスターの根幹部を狙ってるだと・・・愚かな奴等だ、さっさと撃墜しろ」
「しかし一応避難した方が・・・・・」
ヴァルマーが煩そうに家臣を見る。
「キサマ正気か?たかが軽巡洋艦2隻でガスターの根幹を破壊出来ると?」
「それを向こうも理解した上で行動してるでしょう?何か策が有るのでは?」
その家臣をヴァルマーは追い払いながら言った。
「有り得んわ・・・どうせ自棄に成って飛び込んだのだろう」
「しかし・・・」
ヴァルマーは煩わしそうにしてたが、
「ならさっさと撃沈しろ!片方の艦は同じく軽巡洋艦を2隻随伴してるな・・・単騎の方の撃沈を優先だ」
何だかんだ言いながら自分の脚元に来る敵を優先させている。
シールドが肉眼で見えるほど発光し、相当エネルギーを高く注ぎ込んでいるのが分かる。
軌道エレベーターと言っても数十の柱が束ねられた様な構造で、その間には大分隙間が有る。
「30秒で有効射程距離、24本の柱の内6本破壊すれば崩壊が始まります」
と言っても柱の太さは数十mあり、普通に考えたら擦れ違うまでに破壊は不可能だ。
でも柱は円形に並んでるから、両サイドを狙えば一発で数本撃ち抜ける!
「充電完了、出力20%・・・で十分ですからね♡」
「ハイハイ」
先ず左を狙う・・・敵はバリアシールドを過信してるのか。あんまり防衛に熱意が伝わってこない。
「有効射程距離に入ります!攻撃開始して下さい」
引き金を引いてレールガンを発射、24本の柱の内5本を撃ち抜いた!
バリアシールドごと撃ち抜いて、途端に敵が狼狽えるのが分かる。
「崩壊が始まりました!これ以上の攻撃は不要です」
「離脱を・・・・・」
ミューズとアリスに言われて船首を巡らした。
軌道エレベーターに背を向けて逃げ出すと、後部警戒カメラが軌道エレベーターを映し出す。
レールガンで破壊したのは5本だけだが、その隣の柱がガスターに引き千切られて行くのが見えた。
「凄い・・・」
大作映画の様な迫力にミューズが呟いた。
敵の防衛隊も我先にと逃げ出している。
「ジェリス艦長より入電、ジュリアさんの方も成功した様です」
時間が無いのでレールガンはフリッパーにしか積まなかったけど、見事に2連射して両サイドを吹き飛ばしたらしい。
それで8本破壊したら、コチラと同じくガスターの重さに引き千切られたらしい。
「さあ面白くなるぞ♪」
この後の展開が楽しみである。
ガストンをハンマー投げの選手と考える。
その選手はハンマーを左右に持って振り回し、そのハンマーの本体がガスターだ。
しかしハンマー投げの選手の両腕が根元からちぎれたら?
それが今の状況なのだ♪
「ガスターが・・・飛んで来ます!」
自称・自発的増援艦体に向かってガスターが飛んで来るのは、悪夢以外の何物でも無かっただろう。
艦隊中央を打ち抜きながら、ふたつのガスターは無重力の宇宙空間に投げ出される。
何隻ものファルディウス艦を巻き添えにしながら・・・・・
こう言うと味方の艦隊を巻き込んで凶悪な作戦を強行した様に見えるが、コチラの作戦内容やチャンスがったら決行するので時機が判らない事は言って有る。
後から来といて此方の作戦を害される必要はない、馬鹿な貴族出軍人の方へガスターが飛んで行ったとしてもだ。
「回避しろっ!回避・・・」
「相手が大き過ぎま・・・無理ぃ・・・・・・」
ガスターの表面に軍艦が突き刺さって行く。
その中ではヴァルマーの配下の貴族が大慌てで、
「緊急用バーニア点火、何としても止めろっ!」
「無理ですっ、質量が大き過ぎますっ!」
「エレベーター部を切り離せっ!」
「パージ・イグニッション点火っ!・・・駄目です反応しません!!!」
「それどころかエレベーター部分の質量が・・・ガスターの構造材が耐えられません!」
暫くすると軌道エレベーターのシャフトが、ガスターを貫く様にして飛び出して来る。
「何としても止めろっ、何としても止めるんだ!逃げる事は許さなっ?ウ・・・ゲ・・・・・」
発砲してでも軍人や職員を止めると言っていた軍人、多分貴族ナンだろうが・・・ソイツの胸をオペレーターが発砲した銃弾が貫いた。
そして自動で制御するプログラムを起動し時間を稼ぐと、自らも職場を放棄する。
その頃もう片方のガスターでは・・・・・
「馬鹿なっ!大規模ジェネレーターを直結した、バリアシールドを一撃で貫いたと言うのか?」
「その様です・・・このガスターは現在、ガストン地表から垂直に上昇しております・・・・・」
ヴァルマーは真っ青な顔をしながら配下の者に怒鳴った。
「何としてもガスターを止めるのだ!」
ここで配下に任せて仕舞った分だけ、もう片方のガスターを任されてた息子よりは機転が利いている。
いや自分で指揮する能力が無かっただけか・・・・・
数分後・・・・・
「爆発・・・は、し無いかな?」
「そうそう大爆発する様な艦や要塞は、軍人だって怖いぞ?」
ボクとダーグは暢気な会話をして居る。
「ジュリアさん達が合流します。それと後5分ほどでジェリスさん達も・・・・・」
ミューズもモニター越しにガスターを見物する。
「通信は一切遮断して有るね・・・自発的な彼等は?」
「首魁を始め有力貴族をかなり巻き込みましたが、若干名が生き残っております。ですが統率する能力が無いので、組織立って邪魔出来ないと思われます」
満足の行く結果が出たらしい。
「それにしても本職なら兎も角・・・こんな戦法を良く考え付いたもんだ」
ダーグが褒めてくれた。
ミューズが見付けた新素材のニュース、あの素材は艦船のシールドに使って防御力を高めるより、更に有用な利用法が有ったのだ。
クエスチョン「この素材の利点は?」
アンサー「そのままの状態でエネルギーを吸着・保持出来る事です」
クエスチョン「ガスターを繋げてる軌道エレベーターを破壊出来なかった理由は?」
アンサー「地上に設置されたから大型ジェネレーターから膨大なエネルギーを提供され、コロニーとは比較に成らない強力なバリアシールドで守られていたからです。光学兵器・エネルギー兵器・実体弾・・・ほとんど効果が望めず、アンチバリアシールドを使って艦船を突入させても鉄壁の防御で返り討ちにされるでしょう」
クエスチョン「アンチバリアシールドとは?」
アンサー「バリアシールドと同じ圧縮エネルギー粒子を展開し、押し付ける事でバリアシールドを中和させる技術です。対艦ミサイルや対艦魚雷にも装備されバリアの内側を攻撃出来ますが、速度が遅いのでシールドと攻撃対象の間に距離が有ると撃墜されます」
つまりだ・・・もし亜光速で射出出来るレールガンやマルチブラスターの弾丸を、アンチバリアシールドを展開させて射出出来ればどうなるだろう?
「弾頭に仕込めるほど、アンチバリアシールド・システムは小型化出来ませんでした」
「それに仕込めても射出のショックで壊れちゃうよ!」
アリスとミューズの言う事は最もだった。
だが・・・この新素材で出来た弾丸に射出前に艦内でアンチバリアシールドを纏わせ、それが切れる前に射出させる事が出来たなら如何だろうか?
その結果がこの戦果なのだ!
「でも新技術で行き成りテストも無く攻撃し様とするのは・・・・・」
「あんだよアリスも弾丸として使うのに、強度も構成も問題無いと太鼓判押しただろ?」
「お兄さまの非常識がアリスにも伝染して・・・お兄さまっ、冗談です!冗談ですからスカート捲らないで!お尻叩きは嫌ぁ~~~~~っ!」
今日もスターシップは騒々しい♪
これで憂いは無く成ったから、後はヴァルマーの奴が・・・・・
「しかし宙間に放り出したからって、ガスターの砲撃力は侮れないだろう?元々軍事要塞だったんだし、2つも在ったんじゃ脅威で・・・」
「一つだよ」
ミューズとダーグが頭の上に?マークを浮かべてる。
「ボク達が放り出して串刺しに成った方のガスターは気にする必要無い、後十数分の命だから・・・脱出が間に合うかな?」
「一応間に合うと計算に出てますが、それより合流する皆さんから怒涛の通信が・・・・・」
「「キッド君っ!」」
「キッド!」
「キッドちゃん!」
皆が一斉に通信を繋げて来た!
「キッドちゃん、アンタ最初からコレ企んでたのかい?」
ジェイナス婆ちゃんが入れ歯を飛ばしそうな勢いで詰問する。
「婆ちゃん、入れ歯が飛んじゃうよ?」
「これでも私の歯は全部オリジナルだよ!」
「いやそんな事は如何でも良い、ガスターが吹っ飛ぶ方向は計算尽くだったのか?」
ジェイナス婆ちゃんの声を遮ってジェリス艦長が言った。
「勿論・・・と言うより、作戦概要書 読んで無かったの?」
「「「「「月に突っ込ませるなんてドコにも書いて無いだろう!」」」」」
ボクは口を尖らせる。
「破壊タイミングは書いて有ったんだから、それ位は読んでくれないと・・・」
「「「「「キミのトコみたいにアリスは搭載されて無いんだ!」」」」」
あっ、そうだよね♪
ゴメン気が付かなかった・・・で済む筈は無かった。




