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手が詰まる?

 エクソ恒星系は先も言った通り全体が暗礁空域、隠れるのに苦労しないからヴァイラシアンの残党が集結するかと思っていた。

 だが「エクソ恒星系は呪われている」と言う流言を恐れ、自分の調査隊も遭難した事も有り先にあるデスト恒星系にヴァルマー公爵は落ち延びている。


 後で判った事だがヴァルマーは遭難した艦船の集合体に、先古代文明の艦船が混じってる事に気が付かなかったらしい。


「先古代文明の船さえ見付けて無いなら、ただのスクラップの集合体だからねえ・・・利用するにしても時間も技術も無いなら執着する気に成れんかったんだろうね」


 ジェイナス婆ちゃんが言った。


「それよりデスト恒星系にはヴァイラシアンの軍事基地コロニーが有るんです。ソコへ逃げ込んだ方が安心だと思ったのでしょう」


 ハリネズミの様に武装したコロニーが恒星デストを周回している。


「正直かなり手強い相手だと思いますよ・・・デスト恒星系で唯一居住可能な惑星❝ガストンを❞中心に、その衛星軌道上に巨大な軍事拠点型コロニー❝ガスター❞を周回させてます」


 スターシップのリビングに皆が集まり相談中です♪


「ガスターは2基有るんだね・・・でもガストンと紐付き?」


「軌道エレベーターだよ・・・・・」


 ミューズが呆れる様に言う。


「ガストンの赤道上に軌道エレベーターが対蹠点上に建設されました。まあ軌道エレベーターと連結された以上コロニーと呼ぶのが正しいのかは疑問ですが・・・どちらも強力な軍事拠点ですね」


「さあ如何言う風に攻め落とそうか・・・・・」


 皇帝から小遣い稼ぎに如何でしょうかと渡されていたヴァイラシアン残党リスト、そのトップにヴァルマー公爵の名が記載されていた。


「ヴァルマーが単体では一番大きな勢力だからね・・・でも気位が高くて協調性が無いから誰も付いて無く、むしろ戦力としては小さい方よ。他の奴等は共闘ぐらい出来るオツムは有るみたいだから」


 相変わらずヴァイラシアンに対してジュリアさんは辛辣だ。


「でも如何に貴族で最大勢力と言っても、何時までも国家相手に単独で戦う事は出来ない。ヤバく成ったら誰かに縋り付いたり脅かして組もうとするだろう。その前に叩き潰しといた方が良いよ」


 パインさんもキツい事を言う、ジュリアさんだけで無かった様で皆が辛辣だ。


 さて取り合えずボクも準備としてスターシップに5機積んであったイーグルの内3基を組み上げ、残り2機のパーツと未組み立ての2基のエクセリオン、更に幽霊団地から引き揚げた物資を足して・・・新たにポップさんと使い易く改良したパワーノーダー❝エクセリオン・カブリヌス(以下カブリヌス)❞を5機を組み上げる!

 実は最近までイーグルもエクセリオンも用意して有ったけど殆ど組んで無かったんだけど、先の戦いでダーグやジュリアさんに組み上げたエクセリオン使わせたら高性能だが使い難いと評価を受けていた。

 イーグルの方は航宙戦闘機として問題無かったそうだがエクセリオンの方は、


「反応速度に付いて行けないんだ・・・判断より先に反射的に機体が反応してしまう」


「それに操作性が機敏過ぎる。言うなれば羽先で撫でただけで反応する様な・・・もう少しソフトに出来ないかしら?」


 と言われたのでポップさんと組み直したんだけど、正直言うとカブリヌスはエクセリオンと殆ど同じ機体をダウングレードしリミッターを付けただけの物だ。

 使い慣れたら順次リミッターを段階的に解除させる予定なんだが、取り合えず「簡単に操作出来る様にした新型なんだよ♪」と思い込ませる為に細部のデザインを一寸変えた。

 ところが肝心のパイロット予定者が・・・・・


「貴女は艦長としての役目が有るでしょう!いい加減にして下さい(怒)」


「ヤダ~ッ、私もエクセリオンのパイロットに成るの~~~っ!」


 とボクの脚に縋り付いて、駄々を捏ねるジュリアさんがミントさんに引き戻される!

 考えたら彼女を専任でパイロットにする事など出来る筈無かったんだw

 一方その横でポップさんも、


「やっぱり対艦打撃力がもう少し・・・・・」


 と呟きながら唸っていた。


「とにかくこの後、如何するか考え様と思うんだけど・・・・・」


 言った途端にジュリアさんも駄々を止めて席に着く。

 ふざけた人だ・・・・・


「そろそろ向こうもコッチの動きをキャッチするでしょう。今回はロイヤルフェンサー第一艦隊を中心に200近い艦体、向こうも確実にコチラを認識しています」


 ミントさんが3Dで宙域図を表示する。


「ガスターは自転に振り回されて若干傾いてますが、ほぼ垂直に地表から伸びています。この軌道エレベーターを残したまま、ガスターを破壊すると地表ではチョットした天変地異が・・・・・」


「出来るならしたく無いね・・・出来るならだけど!」


 やらなきゃ成らないなら覚悟を決めるしかない。

 だけど他に手が無いなら兎も角、何もしない内から最終手段執る訳じゃ無い。


「肝心のヴァルマーって公爵は?」


「どちらかのガスターに居るでしょう・・・地表に降りたらイザと言う時逃げるのに時間が掛かりますから」


 軌道エレベーターが付いてる星なら宇宙空間に出る事は比較的早く出来る、それでも最初から宇宙に居る方が早いから戦争中の軍人や貴族は必要の無い限りは地表に降りない。


「と言うより、もう少し近付けば出て来るんじゃないかしら?」


 とジュリアさん、


「こちらの力量何て測れて無いだろうし、たった200の艦隊だもの・・・ヴァルマーって確か10000以上の艦隊率いてたよね?」


「12000は有るかと・・・それに確かにヴァルマーの性格なら、侮って出て来ると思います。相手が弱かったり地位が低ければ、楽しんで嬲り殺しにするタイプの奴です」


「典型的なヴァイラシアン貴族、控え目に言ってもクズ中のクズってトコだね」


 ジュリアさんの問い掛けに答えたのはパイン・ヴァッサーの両大尉だ。


「幽霊団地を解体する時まではボクが司令官にだってたけど、ボクは艦隊を指揮する素養は持って無いしココは指揮権をジュリアさんに渡すべきだと思うんだ」


 と言うが皆が首を横に振る。


「それ以上にキッド君が頭に居た方が皆の士気が上がると思う、それに別に指揮官が直接指揮取らなくても良いしね♪」


「そうですよ現に艦隊は副官が指揮を任せて、指揮官が赤いのに乗って切り込むのが・・・・・・」


「オマエ等・・・ボクの秘蔵データ勝手に見てるだろ?それにソイツは()()までは指揮して無かったじゃないか?」


 一気にリビングが空気がギャグパートに傾いた。


「とにかくマトモな話し合いを進めるっ!200の艦隊で10000に攻め掛かるんは良いけど、正面から打ち合いする気なの?取り敢えずボクを司令官に留めるにしても、実際に指揮取るのはジュリアさんなんだから・・・・・」


「エルミスの改修が済んでればやっても良かったけど、その前に陛下から幽霊団地に出張させられたからなァ・・・この辺りは隠れたり盾になるモノも無いし、流石に正面からブチ当たるのは如何かと思うんだけど」


 ジュリアさんは正攻法での艦隊戦は控えたい意向の様だ。


「まあ当然だろうね・・・艦の性能は高くても50倍の敵と戦うのは無謀過ぎる」


「艦の性能差が大き過ぎるから機動力を駆使してヒットアンドウェイを繰り返せば最終的には勝てるけど、私に言わせれば犠牲が出過ぎる悪手だわ!最終的に2~3割はやられると思う」


 其れには同感、身内の犠牲は出来る限り出したくない。


「じゃあ如何する?」


「出来るならウェルム少将に来て欲しかったのよ・・・彼に壁に成って貰って敵にプレッシャーを掛けながら、同時に私達が敵を削り取って行く!でも幽霊団地を解体した後、それ等を移送する護衛も必要だったし・・・こんな忙しい時に、お爺ちゃん何で態々来るかな・・・・・」


 とうとうジュリアさんまで皇帝を爺ちゃん呼ばわり始めたw

 まあ皇帝陛下が来ると言うなら、ウェルム少将は警護の為に残さない訳には行かなかった。


「そこまで考えて無い程、あの爺さまもボケてはいないさ♪」


 そこへジェリス艦長がリビングに入って来る。

 先程アリスからランチが接続したと言われてたが、ジェリス艦長が来てたとは思わなかった。


「コッチに来られたんですか?」


 予定に無かった来訪に皆が目を丸くする。


「私とビスタが陛下の護衛に付いてたんだが、ウェルムの爺さまからキッド君達が逃げたと言われてね・・・態々()()()()()と言われた事に陛下が異変を感じたんだ」


 如何言う意味だ?


「キッド君とミューズ様はワンセット、ドチラかが出立したなら片方が残る筈無いだろ?態々❝()❞って言ったのは、誰が同行したと言う意味だとね・・・・・」


 意外と鋭い爺さまだ♪


「でロイヤルフェンサー第一艦隊とヴァイラシアンからの合流組を同行させたと聞いてね・・・ウェルム少将はミューズ様の警護と言って誤魔化したが、報告書の類をレプトンで送らせたら・・・・・」


 性行為目的に幼い少女を巻き込んだクソ野郎の話に気が付いちゃった訳だ?


「そんな外道をキッドが見逃す筈が無い。ドチラかが応援に行ってやれと言われてね・・・でコイントスで私が勝った♪」


「お父さん、マダあの金貨持ってるの?」


 ジェリス艦長はポケットから一枚の金貨を出す。


「エラーコインだ♪ドチラも裏だから、裏に賭ければ必ず勝つ!」


「「「キ・・・汚ネェ・・・・・」」」


 リビングに居た全員が呆れ果てた。


「このコインはビスタにしか使って無いんだ♪頼むから他言無用だよ?」


 これからも使う積りらしい。


「で話を戻すが私が壁役を託されよう」


「お父さんも私と同じ、バリバリの高速打撃戦タイプじゃない?」


 ジュリアさんが疑問を呈するが、


「腰を据えた防御迎撃だって得意さ、伊達に歳は取って無いよ♪」


「そう言えば乗艦のラグナレクも防御に厚いタイプでしたよね?確かプラティナム級に改修される筈、もう済んでるんですか・・・・・」


 そう言うとジェリス艦長はニヤリと笑う。


「その予定だったが計画に変更が出来てね、プラティナム級にはロイヤル()()フェンサーの艦が改修される事に成ったんだ。と言うのも私達ロイヤルフェンサーには機動力も必要で、プラティナム級は防御を重視し過ぎてると思うんだ」


 アリスが外の光景を壁に映写する。

 そこにはスターシップやエルミスとは違い、角ばらせた様な直線で構成された感じの黒い艦船が映し出されている。


「ジュリアを見れば判る通り、私も基本的には飛び込んで戦う戦法の方が得意なんだ。だが娘と違い機動性より防御性を重視してるけどね、ただコレからの戦いを考えるに機動性も重視した方が良いと言うミューズ様の指摘でラグナレクとアルマゲドン・アーマゲドンの改修は一時取りやめる事に成ったんだ」


 そう言えばヴァイラシアン皇帝と決着付ける前に、ジェイナス婆ちゃんと二人で何かやってたな?


「と言うのもミューズ様とジェイナス技師が、エルミスとプラティナムの両特性を兼用させた新型艦を設計してたからね。ヴィダーシュペンスティガー級・戦艦ラグナレクだ・・・・・」


 ボクは思いっ切りミューズの頭を撫で廻した!


「凄くカッコイイ!ミューズには造船作家の才能が有るぞ!」


 ミューズが気持ち良さそうに眼を細めている。


「これのデザインはミューズ一人で作り上げたんだ!私は中身しか手を出して無いが大したモノだよ・・・確かにエルミスほど機動性も高く無いし、プラティナム級ほど堅牢でも無い。しかし高いレベルで2つの艦の特製を混合する事に成功してる」


 ジェイナスの婆ちゃんも満足そうだ。


「ところでラグナレクの改修が済んだって事は・・・・・」


「アルマゲドンも済んでますし、今頃アーマゲドンもアイスコフィンで移動しながら改修し始めてるかと。ただしアーマゲドンはウェルム少将の希望通り、更に防御力を重視したプランB・ヴィダーシュペンスティガー改級に・・・・・」


 ところでヴィダーシュペンスティガーって如何言う意味だろう。


「❝じゃじゃ馬❞だよ、陛下が名付けた」


 それを聞いたミューズの表情が消える。


「私の設計した船に❝じゃじゃ馬❞ですか?私そんなイメージでしょうか・・・・・」


「陛下は山野に咲く野花の様なミューズはドコに行ったのかと言っておられ・・・・・」


「コラッ!」


 行き成り壁一面に皇帝の顔が映し出される!

 レプトン通信で会話聞いてやがったな?


「そんな事まで言わんでも良いだろう!」


「お爺さま・・・言い訳が有るなら聞きますが・・・・・」


「だって最近・・・どんどんオマエ逞しく成って来たし」


 ミューズはニッコリ笑って皇帝に言った。


「しっかり後でお話を・・・・・」


「クックックッ・・・・・」


「ジェリスッ、キッドッ、オマエ等何を笑っとる!」


 あんまりボクを笑わせないで欲しい。


「良いだろうオマエ達がその気なら・・・ジェリスッ、オマエも確か言ったよな?それじゃ長過ぎるから❝ジュリア級❞にしましょうと・・・・・」


「お父さん、本当?」


 ジュリアさんの表情も消え、ジェリス艦長の肩を掴む。


「本当だが・・・否定出来るのか?」


 ジュリアさん怖いから、ニコやかに指を鳴らすの止めて下さい。


「お父さん、久し振りに親子げんかする?」


「ヤダよ、オマエ強いもん」


 正面からソレ言えるだけ大したモノだが、


「お父さん、領都の屋敷で生まれた白馬の子供・・・・・」


「分かった、オマエにやるから許せ!」


「アッチの爺さまも情けないけど、コッチの父親も情けないな・・・・・」


「「五月蝿い!」」


 ジェリス艦長と皇帝陛下にハモって怒られる。


「そもそもジェリスが余計な事を言うから・・・」


「陛下だって一言多いでしょうに!それにアトロペルスもヴィダーシュペンスティガー級にするとか駄々を捏ねるし・・・・・」


「悪いかっ!オリハルコン級は殆ど師匠の設計だし、私だってかわいい孫が設計した船を使いたいっ!」


「陛下の座乗船には積まなきゃ成らないモンが多過ぎるでしょ!ヴィダーシュペンスティガーじゃ積載量が・・・・・」


 呆れながらボクが止めに入る。


「なあ・・・アンタら戦時軍用回線で喧嘩せんでも・・・・・」


「そうじゃ・・・こんな事をやってる場合じゃない!」


 皇帝陛下が真面目な顔に成った。


「先日ミューズが半嬲り殺しにしたヴァイラシアン皇帝、ヴァルマー公爵はその弟で王族である自分に呼応して侵略者を打てと檄を飛ばしてる。がまあヴァイラシアンの貴族や軍人は、無視するか見限るか自分の事で手が一杯だ」


 ロクでも無い国だな・・・・・


「それでも今後、自分達だけで我等に立ち向かうのは不可能と思った奴等が合流し始めてる」


 宙域図が立体で表示される。


「元々ヴァルマーは自分の領星をビスタに攻められ敗走したんだ」


「敗走させる時、もう少し減らしてくれてたらコッチも殺り易かったかな?」


 まあ元が大きかったんだろうけど、公爵と言え一貴族が10000が逃げるのはチョッと多いかも?


「逃げた時は1000切ってたんだ、途中で合流したり召集したり・・・・・」


 ジェリス艦長がビスタ艦長を擁護する。


「こんな負け戦、良く召集に応じたね?」


「無理矢理に決まっとるだろ!」


 まあ敵の総数は10000以上の敗走艦隊にガストンに居た駐留艦隊が数千、そしてその後方から10000程の応援が駆け付ける。

 急遽25000以上30000以下の艦隊を相手にする事に成った常識人達が暗い表情をする中で・・・ちなみに常識人とはファルディウス軍人さん達の事です。


「それ片付けたらヴァイラシアン制圧は終わった様なモンだな♪」


「予想外に早く終わりそうですね♪」


 とボクとミューズ♪


「これでやっと子供達を全員孵化(かえ)してやれる♪」


「喜べミントッ、バカンスが見えて来た!」


 ダーグにジュリアさん♪


「ジェリス・・・オマエの娘は大分キッドに毒されてるぞ!」


「今更でしょう?そう言うミューズ様だって・・・・・」


 二人の女の子が親と祖父を睨み付ける。


「敵の艦体が動き始めました!こちらを迎撃する積りの様です」


 アリスが言った。


「取り合えず一度軽く当たって見ましょう!ジェリス艦長に艦隊司令官を、お願いします」


「心得た!」


 各自が自分の船に戻ると、艦隊が隊列を整え始める。




 本来は艦隊司令官何て最初から決まってるモノだが、この世界がそうなのかボク達がそうなのか・・・現場でジェリス艦長に押し付けて仕舞った。


「現場で決めるなんて普通は無いわよ・・・私達もヴァイラシアンも特殊なケースだっただけで・・・・・」


 国境紛争の時から寄せ集めたヴァイラシアンでも、迎え撃つファルディウスでも最高司令官は不在だった。

 ヴァイラシアンは如何だったのか知らないが、ファルディウス側は陛下に御伺いを立てた所・・・そんなの自分達で決めろ、その位で無駄なエネルギー(AD通信使ったそうだ)を使うんじゃない!と爺さまに怒られたらしい。


「ボク達は艦隊戦する何て、想定して無かっただけだからね・・・・・」


 ジェリス艦長の指揮は的確らしく、主力の艦隊は堅陣を敷いてヴァルマー側の攻撃を躱している。


「流石に正面から受けたら耐えられ無いか・・・ミューズ、左側面を!」


「了解!」


 側面から迫る数隻の艦を、中性子ビーム砲が薙いで行く。


「ビームとレーザー両方制御するのは難しく無いか?」


「まだ慣れたと言えないけど、慣れれば行けると思います。この船の砲撃手の席は私のモノですよ♪」


 迫る艦船を次々と撃ち抜いて行くミューズ、正直言って艦砲制御はボクの技量を超えている。


「艦載機が取り囲んで来ている・・・一度引き離さないか?」


「分かった!」


 ダーグの指摘でブースターを吹かした。

 彼はブラスターなどの実体弾等を担当、そして対空・・・じゃ無かった対宙防御はアリスが制御していた。

 ボクは操船と大型ブラスター等で進路上の敵に集中している。


「艦影が濃いな・・・対艦魚雷を掃射用意します!」


「全弾ブッ込んで良いよ!」


 正面の一番艦影の濃い部分に飛び込みながら、装填して有った魚雷を全弾叩き出す。

 8本の魚雷はそれぞれ4隻の大型戦艦に2発づつ命中した。


「2隻は沈んだが・・・2隻は残ったね?」


「それでも航行不能だよ」


 魚雷とミサイルの兼用発射管は少し増設したいな。


「結構余裕を持って武装してあるから大丈夫ですよ」


「軍艦じゃ無いからね」


 するとアリスが設計図を開き、


「船首左右と艦底の8門は増やす余裕が無いですが、左右の張り出した部分に予備の武装ハッチが・・・改造すれば上下左右に3門ずつ計12門の増設を・・・・」


「オマエ等、戦闘中って事忘れて無いか?」


 ダーグが心配に成ったのか声を掛けて来るが、


「忘れちゃいませんよ♪」


 飛んで来た魚雷を躱して、擦れ違いざまにビーム砲を叩き込む。




 敵が後退したのでコチラも引いた・・・撃沈数から言えばコチラの勝ちだが、損耗率を考えると喜んでも居られない。

 なにせ分母が違い過ぎる。


「何よ、ファルディウス首都星での防衛線の方が・・・痛っ!」


 上官でも有る娘の頭をトレイの端で軽く叩く父親、


「あの時は総力艦隊戦では無かっただろう?オマエは敵を掻き回し時間を稼げばよかったんだから・・・違いますか上官殿?」


「パパの意地悪」


 拗ねる娘が少々カワイイ、それを見る父親の眼も優し気だ。


 さて・・・確かにアイツ等の場合、狭いアステロイドの空白地帯を一気に全艦隊で押し入って来たから・・・正直規模は同じでもケースが違う。

 コッチは身動きの取り難い敵の中で暴れたんだから、でも今回は遮蔽物も無い宙域でマトモに当たるなら数の力は絶対だ。


「それに・・・」


「問題はガスターですね?」


 そうあの衛星が邪魔だった。


 ガスター自体が強力な軍事要塞で有る上、中に艦隊まで内包している。

 こちらが近付こうとすれば中からウジャウジャ敵艦が・・・・・


「いっそ・・・ガスターを攻撃目標に設定すべきでは?」


 ジェリス艦長が言ったが、ガスターを破壊すれば・・・落下した本体や軌道エレベーターのシャフトが地表に潰滅的な被害を起こす!


「ガストンの総人口・・・」


「1億3千万ほど、軍務関係者を除いて民間人だけでです」


 それを皆殺しにするのは躊躇われるな・・・・・


「キッド君、私に司令官を・・・・・」


「必要なら文句を言う筋合いは有りません。ですがマダ早過ぎるのでは?」


 まあ彼だって出来ればやりたく無いのだろう。

 だがジェリス艦長の場合、必要と判断したら躊躇わない人だと思う。


「取り敢えず今は各艦隊の整備と再編成を・・・敵もスグ出て来はしないでしょう」


 アリスの一言で各自が部隊の調整に入った。




 スターシップは一切ダメージを受けて無いので補給と休憩で用は済む。

 敵艦隊と要塞(この際ガスターは要塞で良いや)は動く様子が全く無かった。


「多分ですけど先の戦いで叩き潰す積りだった私達が、意外と手強かったので驚いているんだと思います。力尽くでは潰せない事を理解し始めているのでは?」


「じゃあ用心深く成って、やり難く成るかな?」


「そこは用兵で覆すモノじゃ・・・・・」


 アレッ?

 ダーグかと思ったら・・・・・


「ポップさん、この船に乗ってったの?」


「エッ、何かマズかったか?」


 驚いた顔をしてるポップさんにミューズが説明した。


「悪くは無いけど、乗った人から寿命が縮むと評判悪くて・・・・・」


「技術者と言え軍艦乗りの軍人、多少の事で音は上げないよ!まあ普段の乗り心地は最高なのに、戦闘が始まった途端に最悪に成るのは確かだけど・・・それでもンな情けない事言うの誰だい、ドコの軟弱者だよ!」


「ミューズ・・・AD通信で皇帝陛下とラグナレクに居るジェイナス技師に・・・・・」


 途端にポップさんが慌て出す。


「ヤメてくれ私の人生を終わらせる気か?」


 そう言うと炭酸飲料のボトルを投げてくれた。


「ずっと工房ブロックの休憩所で大人しくしてたんだ。幽霊団地やサンティアラで得たデータを精査しながらな・・・だが誰かさんが閲覧制限をかけてるらしい」


 ハイ、それはボクです♪

 オーバーテクノロジーは出すべき時まで封印しておりますが、その為の選別をアリスが終わらせて無いのです。


「聞いてるよ・・・もうすぐ終わるってアリスが言うから、コチラで待ちながら待機してたんだ。まあ戦闘が始まったら、多少は驚かされたけどね・・・これ程の耐G中和システムが有るのに、こんなにも乗り心地が悪く成るだなんてある意味驚きだよ!」


 そう言いながらも降り様としない彼は中々タフな人の様だ。


「それでも許可された技術の中からノーダーに使えそうな技術が無いかと探してたんだよ。何が何でも・・・うっぷ!」


「如何やらポップ氏が苦しんでおられるのは車酔いの様なモノですね?Gで揺すられながらタブレットを見続けた所為で・・・・・」


 アリスは言うと医療用ドローンで薬らしき物を運んで来た。

 酔いの緩和薬らしいが、飲んだポップさんがスッキリした表情をしてる。


「じゃあ私は情報の精査に戻るんで戦闘の方は任せるよ♪」


 工房ブロックで陣取るらしい。


「ある意味あの方も病気ですね?」


 ミューズも中々毒を吐くな?




 敵と対峙した侭3日過ぎる・・・今は互いに動きは無いが、敵はボク達に後続艦隊が来る事を警戒して無いらしい。

 まあヴァルマー以外にもヴァイラシアン残党は居り、ファルディウス帝国軍も旧ヴァイラシアン領を開け廻っていた。

 万単位の艦隊が向かって来るなら嗅ぎつける事も可能、マアそんなモノは来ないのだけどねw


 昨晩も・・・と言ってもボク達スターシップ勢が夜として扱ってる時間帯だが、小競り合いが発生し少しばかり騒がしい夜を過ごしたので寝不足気味だ。


「最初のが良い牽制に成った様ですね、迂闊に手を出したら強めに噛まれると・・・・・」


 良い牽制・・・とは言えなかった。

 おかげで奴等はガスターから出て来ない。

 ジェリス艦長が強硬手段に出ると考えれば、立場上ボクは権利が有るけど口を出さない。

 自分が戦争の専門家でない事くらいは理解しているからね♪


「この間は私の立場を明確にする為に言ったが、数週間単位で籠城されたからって強硬手段には出ないよ?」


「そんな簡単に出られて堪りますか!」


 ボク達が購入した豆の方が好きだそうで、ジェリス艦長がスターシップにコーヒーをタカリに来ていた。


「補給課の奴は高ければ良いと思って買って来る・・・結局コーヒー(など)どれも同じだと思ってるんだろうな」


「そんな無能はクビにしなさい♪」


 ツボにハマったらしく、ジェリス艦長が噴き出した。


「ところでコーヒーをタカリに来たんですか?気に入ったんでしたら、500gまでなら持って行って良いですけど」


「そんな訳は無いだろう?」


 ジェリス艦長はガスターと軌道エレベーターの映像を出す様にアリスに言った。


「正直な話、コイツを何とかしないと話が進まないんだ。最後の手段としてはガストンを破壊せざるを得ないが、そう成ったら惑星上に居る民間人はほぼ全滅だろうね」


 まあ間違い無くそう成るだろう。


「ガスターは自重で振り回されるハンマーの様な物だ。ガストンからは遠心力で遠ざかってるが、先端部の質量を15%失うと重量が足りず地表に落下する。正直言うと増援が来ても状況が変わらない、降伏を迫ってもガスターに籠って交換条件を提示し続けるだろう」


 正しく膠着状態だった。

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