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ムカつく奴は消す♪

 既に残ってる船の数は50に満たず、しかも大きな船は2隻だけ・・・イヤ船が1隻とコロニーが1基だ。


「あの中に何が潜んでいるにしろ、ゾンビ化ウイルスが大気中で生存出来ない以上は・・・・・」


 ダーグが突撃艇の中で唸った。

 先古代文明・・・ダーグの文明が滅んで数千万年から数億年経っており中も経年劣化で痛んでる、ならウイルスを保管してたケースや容器が破損して漏れたとしても不思議じゃ無い。

 だが漏れたウイルスは乾燥や熱や冷気に弱く、大気中や真空では生きてられない・・・だから感染母体(キャリア)の中に潜み、キャリアが犠牲者を攻撃する事で感染し勢力範囲を伸ばすのだ。


 それを考えると・・・あくまでコレはボクの推理だが先古代文明が滅び、この船がこの場所で擱座して数千万年から数億年前、そしてヴァイラシアンでエクソ恒星系の怪談が始まった1000年前、だけど一番古い船はミューズとジェイナス婆ちゃんの見立てでは2000年ほど前のモノだ。

 その2000年前の船が何時(いつ)まで就航してたのかは判らないが、仮に2000年前に幽霊船を発見し、その時に船乗りがウイルスを保管してたモノを壊すか解放したとする。


 だが100年も持たないゾンビが都合良く滅ぶ前に次の犠牲者が来ると言うリレーを続けられるのか?

 答えは否だ!

 この幽霊団地に連なってた艦船は殆ど近世つまり1000年以内のモノで、その前の1000年間に100年以上の時間が空く事は1回や2回は有った筈だ。

 その間にゾンビが滅んでいたら、次の探索者はゾンビ化する必要が無い。


 突撃艇が取り敢えずコロニーにドッキングする。

 強制的に穴を開け突入する装備も有るが、何が有るか解らない先古代文明の船に直接乗り込む事は避けたかった。


「補完する施設化設備が幾つかに分かれてるんじゃ無いのか?それをゾンビが滅んだ後に辿り着いた探索者が、次々開いて行くとか・・・・・」


「ヴァイラシアンの貴族ならやりそうですよ?」


 パインさんとヴァッサー大尉が言った。


「ヴァイラシアン貴族の馬鹿さ加減は2人から聞いてるから理解してるけど、それでも前の探索でナニをドウ調査したとか記録くらい漁るんじゃ無いかな?仮にウイルスがタンクやカプセルに封じ込められてるなら、それを分解・破壊した後が有れば警戒するとか・・・そもそもヴァイラシアン貴族や官僚なんかは馬鹿でも、一般人まで馬鹿じゃ無いでしょ?こう言う現場で働く人達は・・・・・」


「確かに奴等は現場に来ないよな・・・・・」


 マルガ少尉もボクの推理を支持してくれる。


「不可解なのは分かるけど、それでキッドは何が言いたいんだ?」


 パインさんが首を傾げる。


「ヴァイラシアンの探索隊いやファルデウスも何隻か来てるけど、彼等が毎回毎回ミスし続けるのは流石にオカシイだろ?ついでに経年劣化でウイルスの貯蔵施設が壊れ漏れるとしても、先古代文明が滅んで数千万年から数億年も経ってる、この2000年で都合良く壊れるかな?もっと早く壊れて消失して無い?」


「意図的に管理され保守されてると?」


 ダーグが顔を(しか)める。


「誰がだ?」


 ウェルム少将が搾り出す様に言った。


「人間は先古代文明人でも冷凍冬眠(コールドスリープ)させて持つのは1500年、誰かさんは冷凍冬眠じゃ無く冷凍保存(コールドチャージ)させられてたから何とか持ったらしいけど」


「皮肉な話だよな・・・・・」


 ダーグの表情が歪む。


「だけど有機素材すら確保出来たら?」


「有機AIか?!」


 パインさんが気が付いた。


「コロニーの生きてる区画が有るのか確認しろっ!それが有れば農産物から有機素材が・・・」


「そんな事しなくても、有機素材は入手可能さ・・・・・」


 コロニーの捜査を指示し様とするウェルム少将はボクの言葉に静止した。


「探査に来た人間を使えば良いんだ!」


 その言葉の(おぞ)ましさに全員が顔色を失った。




 念の為ウェルム少将が部下にコロニーを調査させる。

 予想通り生きてる区画は無く、最後まで動いていた区画も数百年前に止まっていた。


「このコロニーは比較的新しいみたいね?」


「それでも来たのは1500年前だな・・・・・」


 近距離銃撃戦に成る公算が高いのでジュリアさんも合流し、部隊は分散せず二手にのみ別れ探索を開始した。


「今迄の攻勢が嘘の様に静かだ・・・キッド、Dブロック異常無し」


「了解、続けてCブロックをヨロシクお願いします」


 ボクはパインさんに報告して次の指示を受ける。

 ボクには部隊を指示する能力は無い、こう言う場合はプロの指示に従うのが吉だ。

 ちなみに2つの班はウェルム少将とジュリア中佐が指示し、パインさんが副官でボクはウェルム班に入っている。


 ゴパァ~~~ッ、ブファッ!


 耳を(つんざ)く火炎放射の音がして、コロニーの中を通る通路から炎が上がった。

 ジュリアさんの班は片っ端から焼いて消毒しながら進んでる様だ。


「ミントさんの言った通りだ・・・チャンと確認してから焼いてるんだろうな?」


「失礼ねっ、当たり前じゃない!」


「これキッド、そう言う事は無線機切ってから言えよ!」


「イッケネ♪」


 離れてはいるが通信機の感度は良好で、ジュリアさんやウェルム少将からもツッコミが入った。

 さてボク等はコロニー内の調査、ジュリアさんは焼却を終えて2班は合流する。

 いよいよ幽霊船・・・先古代文明人の艦船に突入、ちなみにリザーダーの呼び名はダーグとチビトカゲ達にのみ適用してる呼称だ。


「コチラはウェルム6班・・・異常無し・・・・・」


 周囲を索敵しながら進む。

 ウェルム少将とジュリアさんの部隊は、再び分かれて幽霊船の中を進んだ。




 あんまり固まっても危険だし動きを制限されるから、数人づつ班を組んで先古代文明の船の中を捜索している。

 先古代文明の艦内は繋ぎ目やビス止めなどの固定具も一切見当たらない、非常にシンプルな内装に成っているのだが・・・経年劣化等で天井や壁が剥がれ落ち酷い様に成っていた。


「流石に崩壊が酷いな・・・隠れる場所なんて幾らでもある」


「でも天井裏や配管はシンプル、これなら内部の捜索には支障無いでしょう。で・・・出て来るなら・・・・・」


 ダーグが銃を引き寄せながら声を搾り出す。


「ここ等辺からだな」


 隔壁が開くと向こうからゾンビの上位種が・・・溢れる前にプラズマで焼き尽くした!

 態々ゾンビしかも高機動型の上位種と同じスペースで戦う必要はなく、コチラに入って来る前に継続的に燃やし続けた。


「なるほど・・・こう言う事だったのか・・・・・」


 ボクは溢れるゾンビ達の姿を見ていると自然に奥歯からギリィッと音がする・・・先頭を切る溢れ出たゾンビが昨日と同じく幼児だったからだ!

 ヴァルマーに連れて来られた子供は8人だけじゃ無かったらしい。

 しかも続くのは若い女や子供、コチラが発砲し難い相手を厳選してるらしい!


「ダーグ・・・この船は・・・・・」


「信じたく無いが自由銀河同盟軍側の艦だ・・・アルビアスtype7・・・・・」


 皆でブラスターを乱射しながら確認する。


「だけど話聞いてた分にゃ、この手のヤリ口はA級市民が取りそうな手段だぜ!失礼を承知で聞くが・・・・・」


「自由銀河同盟軍全ての軍人が高潔だったなんて言わないさ!ただオレ達の文明が滅んで何千万年も何億年も経過してるし、そんな長い時間放置されたら最初は高潔だった奴だって狂うかも知れない。そもそも精神を有機AIに移したからって永遠に存在出来る訳じゃ無い、その差は幅広くて断定出来無いが・・・ある時プツッと切れた様に消滅するんだ。」


「チョッと待て、じゃあアリスやサンティーさんは・・・・・」


「ワシ等は大丈夫じゃ・・・定期的に知識を残して不要な記憶をリセットするから、実質的に生まれ変わってる様なモノだよ」


「同じ人格や性格でリセットする事も可能ですから全くの別人って訳でも無いですしね・・・それに不要な思い出に押し潰されて自分の存在意義に疑問を持ち出す事を❝精神汚染❞と言いますが、この度合いは簡単なチェックで数値化出来るので危険領域に入る前にリセットすれば・・・・・」


 まあ確かに有機AIに成っただけで人格が維持出来るなら、考え様に因っては死を超越する事に成る。

 でも人格設定されてる有機AIも、やっぱり❝精神❞であると定義づけられてるんだ?


「だけど何らかの理由が有って危険領域まで精神汚染してるのにリセット出来なければ・・・だから艦長が有機AIに自分を移し替えてた場合、万が一生き残ってたら狂っていたとしても不思議じゃないんだよ」


「それだってキッド君の推理が当たってら・・・でしょ?このまま艦橋まで突き進むめば、そこに答えが待ってる筈なんだから結論はソレ見てからでも良いんじゃない!」


 沈んでるダーグさんを別動隊のジュリアさんが叱り付ける。

 まあ自分の仲間だった奴が、こんな非道な戦い方する何て考えたくも無いだろう。


「ブラスターのバッテリーを交換するから代わって!」


 バッテリーを蹲みながら交換すると、背の高い兄ちゃんがボクの頭の上で発砲する。

 交換が終わると蹲んだままボクも発砲し、10分弱でゾンビが出て来なくなった。


「ゾンビには流石に知能は無いが本能だけは生前以上に働く、隠れてて飛び掛かる奴も居るから気を付けろよ」


 大型の火砲を持ちながらウェルム少将が言った。

 途端に梁の様に突き出た天井裏の鋼材から、ゾンビが一人飛び降りて来る!


「!!!」


 何も言わずに転がりながら、その身体にパルスレーザーを打ち込む。

 他の人も発砲しながら、天井裏に隠れてた数体を撃ち落して行った。


「油断も隙も無いね♪」


「全くだ!」


 周囲を警戒しながら先を進み、やがてブリッジに到達する。


 コチラの世界でも当然だろうが人類が一つの惑星で暮らしてた時期が有り、艦船とは海を航行するモノでしか無かった時代が有った。

 当時の艦船は御多分に漏れず地球と似た様なモノで艦船には立派な艦橋(ブリッジ)が設えられていたが、その名残で現在も宇宙を航行する艦船の操舵室や操縦室を艦橋(ブリッジ)と言う。

 しかし実際に海上航行艦の様に上部に突き出してる訳で無く、下手すると艦体の中心部最奥に設える場合もあった。


 そして先古代文明の船もブリッジは、ほゞ艦の中心に近い場所に有った。


「しかし・・・期待を裏切られた気分だな・・・・・」


 ウェルム少将が呟いた。

 艦橋には何も無く、朽ちた設備が鎮座するのみだったのだ。


「ここに来れば有機生体AIのラスボスに出会って最終決戦に・・・と成ると思ったんだけど」


 パイン大尉も隠れられそうな場所を引っ繰り返している。


「私はキッドの推理が外れて安心してるわ♪ダーグの同僚が黒幕だったなんて悲しいじゃない・・・・・」


 ジュリアさんがホッとした様に言った。

 だがダーグは顔を曇らせた侭だ。


「そう思うのは早い・・・もし狂った上で生き残ってるのだったら、私がケリを付けなければ成らないからな」


 何か思い詰めた様に言っている。


「正直言ってさ・・・・・」


 ボクはブリッジのコントロールパネルを操作し、特に現在でも電力を消費してるブロックを中心に艦内の情報をチェックしていた。


「あの推理が当たってる可能性、実は然程高く無いんだ・・・この船が自由銀河同盟側の艦で、最後に艦をコントロールしてたのが艦長だったってだけ何だもん」


 該当する情報がモニターに表示される。


「艦長が生き残ってゾンビを無力化・・・航行不能に成った艦内でゾンビどもを制圧し、制圧したゾンビからウイルスを抽出する。そして自分の精神を有機AIに移して生き延びてたけど・・・いつまでも救出に来ないので狂って仕舞った。その可能性が一番考え易かったんだけど・・・・・」


 表示された情報を精査して必要な情報の詳細な内容を表示させる。


「艦長は・・・この艦を最後まで自爆させ様と足掻いていた、そして今ウェルム少将が座ってる椅子の上で息絶えました」


 ウェルム少将が飛び上がって尻を(はた)く。

 英雄と言え人が死んだ椅子は座り心地悪いだろう。


「彼はゾンビ化する事は無かった様ですね・・・噛まれてたけど、ゾンビ化する前に自分の頭を吹き飛ばしたんだ!ダーグ安心して良いよ、この事件の犯人は自由銀河同盟側の人間じゃ無い」


 内部の艦載機格納庫とジェネレーター部分で嫌な動きが見られた。


「一時撤退します!逃げたくない人は御自由に、でも命の保証は無いよ♪」


 ボクは銃を持って走り出した。


「如何したんだ?」


「高機動型の上位ゾンビが押し寄せて来ますよ!最短ルートを算出したから皆走って!!!」


 走りながら皆に怒鳴る。


「ここの黒幕はA級市民側の戦略兵器だ!敵兵をゾンビ化するウイルスまで装備してやがる」


 皆がボクの後に続いた。




「追って来る高機動型ゾンビは、およそ5000・・・隔壁を下ろして時間稼ごうと思ったけど、殆ど壊れてて動きません」


 マアそうだろうね・・・それに隔壁を下ろしても天井裏や床下など、通れる所を縫って追っかけて来るだろう。


「一番近い外部ハッチまで誘導します。皆さん送れないで・・・・・」


 ミューズが珍しく大声を上げる。


「ミューズ今スターシップに居るのなら、格闘戦装備Gでエクセリオンを射出しろ!その外部ハッチの周辺に叩き付けて良いから!」


「その前に一発ぶっ放します!」


 如何やら艦のコントロールは敵に奪われてるらしく、艦の兵装が動き出して味方の船に攻撃を始めたらしい。

 だがボク達がブリッジで情報を検索してても妨害しなかったし、突入後すぐに包囲戦を敷いて来なかった・・・それに兵装を操れる程コントロール出来るなら、ボク達の進路を隔壁下ろしたりして妨害出来る筈だ。

 如何やら頭が非常に悪く判断も遅い様だ。


「もう少し・・・後10m・・・出ます!」


 ボク達が辿り着いた途端に外部ハッチが開いて内部の空気ごと外へ吸い出し、その前にはファルディウス軍の突撃艇が待ち構えている。

 ジュリアさん達が突撃艇に収容される中ボクは周囲を確認すると、外部ハッチの横にG装備のエクセリオンとA装備のが2機立っていた。

 ボクは突撃艇を蹴飛ばしてG装備の方のエクセリオンに向かい、A装備の方にはダーグとジュリアさんが向かう。


「チョッとジュリアさん操縦出来るの?」


 それ忘れてる様だけどテレパスで動くんだよ?


「知らなかったのか?彼女は今回の同道者の中で第2位の適正保持者でシュミレーション訓練済みだ」


「で1位はボクと♪」


「違うぞ?」


 えっ?何で??ボクじゃ無いの???


「いやキッドが適正も能力も一番高いが、キミは既にノーダー乗りなんだから計算に入れて無いよ?キミと私以外で全員の適正をチェックした上で、一番能力が高かったのはミューズだ」


 エ~ッ!

 アイツはテレパス低過ぎて新造した有機ボディや有機AIに精神移せないって・・・・・


「ノーダーの適正は別物なんだよ・・・言うなれば彼女はキッドより弱いテレパスしか持って無いけど、鮮明で正確なテレパスが使えるんだ」


 ダーグの説明ではテレパスには3つの違った強さが有り、一つは遠くまで広範囲まで作用したり、妨害を跳ね除けたり、多数の受信者にメッセージを送れる出力の強さ!

 もう一つが正確な情報やメッセージ・意図・支持を送る為の鮮明さ、最後はソレを明確に相手に伝えられる正確さだ。

 二つ目と三つ目の違いが良く解らないが別のモノらしい。


「ノーダーの操縦には二つ目と三つ目の条件が必要なんだ。正直ノーダーの中に居れば、それほど強い出力を持たなくても操作は伝わる。同じ部屋に居て必要以上に大声で話さなくても良いのと同じ事さ」


 成る程・・・これでポップさんは余計にボクに同行し様としたがるな!

 後で釘刺して置こう♪


「よしコッチは準備良し♪お二人さんは?」


「私も行動可能だ」


「コッチは・・・チョッと待って・・・良しOK!何時でも出られるわよ」


「3人とも気を付けて下さいっ!動力部に居た何かが高速で艦内を移動中・・・整備用通路を通って艦載機格納庫へ到達しました!」


 ミューズの忠告を聞き、艦載機の射出口に3人で機銃を向ける。

 そのカタパルトハッチを破って出て来たのは、巨大な金属製の蜘蛛の様なノーダーだった!




「驚いたな・・・対艦戦闘用ノーダー❝バーテラノト❞だ!固有名詞だから過去の我々の発音と大して変わらん、かなり高音で話す事に成るがな・・・・・」


「チョッと対艦戦闘には、あんまりノーダーは使われて無かったんじゃ無いのか?」


 敵の脚による打突を避けながらダーグに聞いた。

 ボクとポップの会話を聞きながら、その様な事をダーグが言ってた筈だ。


「内外から火力で破壊する様な戦闘にはな!コイツの戦い方は敵の艦体に取り付き、内部にウイルスを注入して敵兵をゾンビ化する事だ!」


 ヤな戦い方だ!


「そりゃ道理で何隻も()られる筈ね、でもキャッ!」


 ジュリアさんの機体が脚に叩き飛ばされる。

 ちなみに蜘蛛の様なと言ったが足は10本も有り、蜘蛛の胸部に当たる部分だけで腹部は無し、そして胴体は直径10m程の円盤状だ。


 幽霊船の艦砲の様な部分に叩き付けられたジュリアさんのエクセリオンに、持ち上げた足を振り下ろそうとする。


「コンニャロッ!」


 エクセリオンで振り下ろされる肢に飛び蹴りを喰らわせ、奴の爪先はジュリア機から大きく逸れて甲板に叩き付けられた。

 何で?ボクの頭に?マークが浮かんだ。

 敵の肢はエクセリオンの胴部ほどもあるのに、咄嗟に勢いで出したボクの蹴りで明後日の方に振り下ろされ、しかも肢が❝く❞の字に曲がっている。


「コイツ、ボロいぞ?何で・・・そうか耐用年数だ!」


 ダーグがアサルトライフルをフルオートで乱射、こちらも副兵装の機銃を乱射すると、敵の機体が面白い様に穴だらけに成って行く。


「ウェハースより装甲ボロいよ、見掛け倒しだ!」


「一応有機AIも積まれてる様だが、知識と言う程の立派なモノは搭載されて無い!精々プログラム程度、機体は自己修復して来たんだろうが既に限界を超えている」


「キッド君、こいつを保存する必要性は?」


 ボクはバズーカーの様な形状のレールガンを構えながら、


「無い!」


 と言って引き金を引いた。




 真空中なので音は伝わらない筈だが、蜘蛛型ノーダーがキーキー音を立ててる様な気がした。

 コイツはボク達3人の攻撃で原形を留めてい無いほど破壊されたが、なんか悲しそうな声を上げてる気がするしプログラムでしか無いコイツに罪は無いのかも知れないが・・・それでも数多の人の命を奪って来たのは確かだった。

 生かして・・・いや残して置く事は出来ない。


「諦めろ・・・オマエを救うほど優しく無いんだ」


 ボクは全力でバーニアを吹かし、思いっ切り勢いを付けて飛び蹴った。

 奴の身体は甲板上から蹴り出され宇宙空間に放り出される・・・無重力空間で藻掻く奴は一直線にスターシップの後方に飛んで行き、真後ろに来た時スターシップがバーニアを吹かした。

 圧縮された光の粒子が吐き出され、奴は一瞬で溶けて消え一切何も残ら無かった。


「まあオマエが悪かった訳じゃ無いんだろうけどな」


 奴は兵器として造られた。

 その務めを果たしただけ、どんな邪悪に見える事をしてたと言え責める気には成れない。

 むしろ・・・・・




 その翌日、全ての脅威が消滅したので作業は順調に進んでいる。

 後はバラして消毒して整備か解体して運ぶだけ、警備の為に一応艦隊を残して置くがボクとスターシップが居なくなっても問題は無かった。

 アイスコフィンを総動員して作業しているが、全ての艦船を処理してココを去るには1~2ヵ月は係るらしい。

 それに関しては最後まで付き合う積りは無い。


「あの蜘蛛型ノーダーとの戦闘中に、キッドさんに主砲を破壊して頂いたので助かりました。後は艦内に残った情報の消去と隠蔽工作、明後日には出立出来る見込みです」


 アリスがカチューシャで知らせて来る。


「他に何か?」


「あのA級市民側の蜘蛛型ノーダーには人格は設定されてませんでした。従って恐怖や苦痛を感じてはいませんので、気に為さる必要はないでしょう」


 そんな事まで考えちゃいない。


「補給は明日中に終わらせますよ」


「それより戦艦ダイワを回収した事の方が大ニュースですよ♪おかげで五月蝿い人が来る事に成ったそうで、明後日と言わず明日の晩には出立しましょう」


 その方が良さそうだなとボクも考えた。

 一応ジュリアさんとウェルム少将に出立の挨拶をする為、彼女等の元に向かって五月蝿い人が来るからと言う。

 二人とも「早く旅立つといい」と言ってくれ、ボクに休息が不足してるからと帰って寝る様に言われた。




 アイアンイーグルがアイスコフィンから離れる。

 アイスコフィンはアンティークの整備や不要艦の分解でフル稼働しており、スターシップやフリッパーは入渠させてる余裕は無いからだ。


「あの子・・・アレで誤魔化せてる積りなのでしょうか?」


 ジュリアが呟くとウェルム少将が笑いながら答える。


「オマエが言うな!2人とも演技も感情を隠すのも下手過ぎ、大根役者も良いトコロだ」


「言ってくれますね!」


 2人はテーブルを挟んで座ると、キッドがコッチの世界にもたらした❝UNO❞のカードを切り始める。

 コッチの世界にだって似た様なカードゲームは有るが、どの世界に行っても目新しい物は人に好まれる。


「500点先取(本来UNOの公式ルールは誰かが上がった段階で残った者のカードの種類と枚数で算出された点数が勝者の点と成り500点先取した方が勝つ)した方が勝ち!」


「3本勝負、待った無し!」


 白熱したゲームが繰り広げられた。




 翌日の夕方・・・


「何で、こう成るんだ?」


 艦隊を離脱するスターシップにロイヤルフェンサー第一艦隊とサンティーウェン・ハンガーダッシュを含めた新規混成艦隊・・・要するに元ヴァイラシアン軍人による部隊が追走する。

 明らかに戦闘を意識した艦隊だ。


「年端も行かない子供を巻き込み、助け様ともし無いで逃げ出したクソ野郎をボコしに行くんでしょう?」


 朗らかな声でジュリアさんが言った。


「ノーダー部隊化を実現させないと、首が掛かってるんだからね♪」


 ポップさんも付き合う積りらしい。


「慰み者にする為に幼子を軍艦に乗せといて、その船に危険な調査させた挙句に失敗すると見捨てるなんて・・・・・」


 パインさんも頭に来てるらしい。


「そう言うクズは早目に焼却処分にすべきだね!」


 ジェイナス婆ちゃんも声を上げた。

 如何やらボクが離脱して、奴の首を狙いに行く事に感付かれてたらしい。

 ミューズ達にも言われたけど、貌に出て仕舞ってたか?


「思いっ切り出てましたよ、あれで誤魔化せてると御思いでしたか?でも・・・」


 ミューズが一旦言葉を切ってから言った。


「幼児を性愛の対象にするなとは言いません。頭の中で妄想する分には実害は無いでしょうし、性癖は自分で選べないかも知れませんから・・・でも現実で幼児に手を出す事は問題が別です!まして強制的に連れて来た幼子を、あの男は無責任にも・・・あの方は地獄の炎で焼かれ苦しむ義務が有り、この世に神が居ない以上お兄さまが代行しても問題は無いと思います」


 ミューズにしては激しい意見だがボクも同じ考えで、あんな奴は生かしといて世の為に成らずと思っている。

 実はあの後の調査で幼児性愛のシュミのある奴が、領民の子供を強制的に艦に乗せたのが判明した・・・身の回りの世話をさせる為と言いながら、真っ赤の嘘で本当は下半身の世話をさせる為に連れ去ったのだ!

 そんな奴は絶対に生かしとく訳には行かない!


 こう成った以上、ボクも覚悟を決めようか・・・・・


「さあ嫌な仕事はトットと片付けて仕舞おう!」


 ボクは全艦にレーザー通信を発信する。


「目標デスト恒星系、獲物(ターゲット)はヴァルマー公爵の首だ!」


 スターシップのバーニアから光の粒子が溢れ出す!

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