思わず引き金に掛けた指が止まる・・・
「私には戦闘は危険だから参加するなと言いながら、お兄さまは随分危険を犯してらっしゃいますね!」
「好きでやってる訳でも、狙ってやってる訳でも無い!不可抗力だ・・・・・」
カチューシャ経由の通信でミューズに文句を言われながらも狭い通路に陣取り、迫ってくるゾンビに向かって発砲し続ける。
今相手にしてるのは1978年度オリジナル版のユッタリ動くゾンビで無く、飛んだり跳ねたり走ったりする2004年度リメイク版のゾンビだ。
機動性の良いゾンビが現れたので対応してる間に味方と逸れ、いや逸れたと言うより敵を引き付けたかな?
機動性が高い敵を相手には・・・それ以上の高い機動性を持って戦うか、火力と防御を高めて集中砲火を浴びせるか、犠牲を無視して数でゴリ押しするかが定石・・・だけど最後のは無いよね♪
まあボクは最初の案が即採用出来るので時間稼ぎをしてる間、後退したウェルム少将が二番目の案に対応出来る応援を引き連れ戻って来る手筈に成ってる。
「先に進むにつれて敵が強く成るは、敵影が濃く成るは・・・ホントどっかのゲームみたい」
敵が見え無く成ったので艦内の端末を操作、バッテリーをチャージして置いた。
現在の主兵装は短めのパルスレーザー砲のアサルトライフルにグレネードランチャーの様な熱線ブラスターを装備している。
本当は荷電粒子砲や中性子ビーム砲を携帯出来るレベルまで小さく出来れば良いのだが、小型化は技術的に難しくマダ実現されて無い。
❝彼❞の技術なら可能だろうって?
ナ・イ・ショ♪
ブラスターは地球では火炎放射器って意味だけど、こっちの世界でのブラスターはプラズマ兵器で敵を撃ち抜く以外にも、着弾と同時に広範囲を焼き尽くしたりも出来る熱兵器だ。
ただし必要以上に艦を壊さない様にする為、温度の上限を1000度に設定して有る。
ちなみにメイン兵装のレーザー銃の方も比較的小口径の銃弾タイプと広範囲攻撃出来る散弾タイプに切り替え出来、その光線の広がり方からビームスプレー・・・パクリと言われるのヤダから止めといて散弾の名前を定着させる事にする!
仕方ないだろ?ボクが名付ける前に既にそう言う名前が付いてたんだから!
「ピッ!」
機械がチャージ終了を知らせる電子音を立てる。
ボクは銃のエネルギーマガジンと交換し、今度は使ってたマガジンをチャージし始めた。
「キッド様何を考えてるんですか?」
アリスにも通信で聞かれた。
ボクの態度から感じてたのだろう。
当然ミューズも感付いてるが、彼女はボクが言い出さない場合は聞きたくても我慢する娘だ。
「この程度で・・・1000隻以上の船に200万人以上の乗員、全て全滅させられると思う?」
しばし沈黙される・・・
この手のストーリーは後付けで理由付けされるだろうが、そもそも「ゾンビに食い殺され世界はゾンビに埋め尽くされる」と言う筋書きには無理がある。
ゾンビは増え続ける事は有り得ないからだ!
一定以上にゾンビが増えた段階でゾンビの数に対し食料である人類は絶対に少なく成るし、食い殺された人間の身体が残るほど人体の数は無く成って行く。
その段階でゾンビに襲われた人間が残る事は無く、その人体を全て食い尽くしたとしても足りないから襲い続ける事に成るんだろ?
つまり食い残した人体が動けるゾンビに成れる程、身体が残ってるとは思えないんだが・・・・・
「それに関しては簡単な話でA級市民共が、そう言う風に造ったからだよ!これは完成された生物兵器で、何処かのゲームの様に事故で流出した訳じゃ無い」
ダーグが横から口を挟んだ。
コイツ、ボクの持って来たゲームやってるな?
「ゾンビ化ウイルスはキャリアに噛まれると被害者が死んでても急速に遺体内で増殖、そしてウイルスが廻り数分で動かなくてもゾンビの仲間に成るんだ。そして動き出し生者を襲う、敵兵や国民が尽きるまでね」
虫唾が走る事を考える奴等だ。
ダーグには悪いけど滅んで良かったよ。
「安心しろ私もそう思っている・・・ゾンビは身体の燃費効率が良い、食物を摂取しなくても数十年は持つ。でもソレが過ぎると身体が崩壊し始め、数日で動け無く成り腐って消える。そしてウイルスは母体の外で生きられない・・・・・」
つまりウイルスは母体の外での生存や増殖つまり生き残る事は不可能だ。
だから空気感染もしない、その事がハッキリしないのにボクだって中に入る気は無かった。
「スターシップの工房でゾンビ化ウイルスのワクチンを製作してますが、お願いだから噛まれ無い様に気を付けて下さいね♪お兄さまが成ったゾンビ何て、私だって見たくありませんから・・・・・」
ウン、ボクも痛いの嫌いだから噛まれたく無いよ♪
「それにしても私が同行しても問題無かったんじゃ無いですか?少なくとも外輪部の新しい艦船はゾンビが隠れられる場所少なそうだし・・・・・」
距離を取っての七面鳥撃ちなら私だって出来ると言いたいのだろうが、
「オマエさんの同行を許さなかったのは、ロクに戦闘訓練も受けて無い素人を引き連れて背中から撃たれたく無いからだよ!ミューズったら射撃練習はしてるけど本格的な戦闘訓練一切受けて無いだろ?それにマダ撃つ瞬間に眼を瞑ちゃう事や後ろに飛ばされたりする事有るし、そんなの実戦の現場に連れて来られますか」
「う~~~っ!」
「これに反省して実戦訓練くらい受けとけ、いつ必要に成るか解んないんだから・・・この作業が終了したら暫く時間出来るだろうから、ジュリアさんに誰か先生を紹介して貰え」
「あら私が教えてあげるわよ♪これでも銃撃戦の評価Aよ、まあ本当はA-だけど・・・・・」
確かにジュリアさんって直接格闘戦も上手そうだよな。
「アレ・・・でもジュリアさん、前に実質全評価オールA+って言って無かった?」
「だから実質なんですよw」
ジュリアさんの副官ミントさんが笑いながら答えた。
「過剰攻撃に戦略不必要行動、それでA+から2段階小減点されて・・・・・」
「余計な事は言わなく良いの!」
ジュリアさんが怒ってるが、
「やっぱりジュリアさんにミューズの先生を頼みたいな」
多分ミントさんは意外そうな顔をして、ジュリアさんは間違い無く喜色満面でいるだろう。
「やっぱり私の事を評価してくれてるのね♡」
「いえ行動パターンが同じ者同士、ミューズにも最適な行動を伝授して頂けるかと・・・すぐ調子に乗って暴走する辺りソックリだもん」
「オイコラ、キッド、帰って来たら話があるからね!いつ私が暴走してたのよ?」
珍しくジュリアさんが怒った様子だが、
「此間のミューズと二人でスターシップ乗ってくれた時とか・・・アリス、あの時の映像マダとって有るよな?」
「ハイ勿論です!あんな面白い映像、勿体無くて消去なんて出来ませんよ!」
有機生体AIのアリスは非常に人間臭いが、彼女が有機生体AIと言う事を考慮しても人間臭過ぎる・・・まあアリスはAIと言え長い間人格宿してた所為と言うが、ボクは下手すると彼女は生体ボディでも持ってた時期が有ったんじゃ無いかと思ってる。
まあソレは置いといて、ボク達の言葉に凍り付いた人が2人いた。
「お・・・お兄さま、今なんて・・・・・」
「キッドちゃん冗談よね?」
挙動不審な二人♪
「アリスちょっと再・・・・・」
「「ウワ~~~ッ!」」
2人は大声を出して遮ろうとする。
「お兄さまっ!お願いヤメテ、お願いだってば!」
「キ・・・キッド様っ!後生ですからソレだけは・・・・・」
愉快な事に成って仕舞った♪
勿論再生する積りは無いが、あえて一言だけ釘を刺して置く。
「本当に❝ヒャッハ~~~ッ!❞何て言う人が居るなんて思わなかった」
「「お願いだからヤメテェ~~~ッ!」」
いじめっ子気分を満喫した所で、丁度バッテリーのチャージが終わる。
「オマエ達なに漫才してるんだい!ホラ次の船の切り離し準備が出来上がったよ」
ジェイナス婆ちゃんに言われ2人は渋々作業に戻った。
本当はボクにもっと口止めしたかっただろう。
「何だ片付いたのか?あと15分ほどで合流出来るぞ!」
ウェルム少将が通信に割り込んで来る。
「別に急がなくても良いのに・・・そもそも将官にも成って現場出て来なくても・・・・・」
普通は将官まで昇進すれば現場にゃ出んだろ?
「血が疼くんじゃよ!本来現場の方が合ってるんだ」
そう言えばオルキュロスとかでも陣頭指揮取ってたな。
「じゃあもう1ブロック進んでますから、そこで合流しましょう」
「了解した」
タクティカルマップで互いの位置を確認し、単独でも少しだけ進んどいた方が良いと判断する。
ウェルム少将達はチームと言え4ブロック先なのだ。
「このブロックは数こそ少ないモノの、機動性に富んだ上位個体が存在します。大多数は先の広い空間に居ますが1体だけ独自行動を・・・・・」
眼の前を影が過ぎったので警戒してるボクにアリスが教えてくれた。
ゾンビ物のゲームじゃ物陰や視界の外そして遮蔽物を打ち破ってゾンビが出てきて脅かされるけど、ほゞボク達はゾンビ個体の数と場所を知ってるから不意打ちだけは無かった。
マップに表示されてるからね♪
「10時半方向の崩れた設備の影・・・力を貯っ!飛び出して来ますよっ!!!」
とっさにボクはバク転し、更にバックステップで距離を取る。
影から飛び出したゾンビはボクの立ってた床に爪を立てる事に、とっさに銃を構えて撃とうとしたが・・・指が動かなかった。
ゾンビは幼い少女だったのだ!
更に襲い掛かって来る彼女を、後方へ跳びながら攻撃を躱わす!
「お兄さまっ!」
「キッド君!」
「アリス通信遮断っ!」
ボクの意図を汲んでアリスは従う。
集中したいから余計なノイズを遮断して貰ったのだ。
距離を取り後退しながら呼吸を整える。
「あの娘はもう人間には戻れません。既に人間では無いのです・・・・・」
「解っている」
ボクは呼吸を整え切ると、最大火力で少女の頭を一瞬にして消し飛ばす。
苦痛は感じない筈だが、それでも一思いに殺して上げたかった。
そして崩れ落ちる彼女の身体をブラスターで焼き尽くす・・・簡易の火葬である。
「アリス・・・無茶して急が無い様にウェルム少将に言伝、それとミューズ達にも心配いらないと・・・・・」
「既に連絡して有ります。それと戦闘に集中させたいので通信は繋げないと・・・・・」
「上出来♪」
ボクは一息ついて前に進んだ。
アリスが通信を未だに繋げてない・・・と言う事は、この先の敵もボクが集中を切らしかねない相手だ。
「あえて進言します・・・ウェルム少将達が2ブロック先に居ます。プロに任せても・・・・・」
「彼等だってやりたく無いんだ・・・なら都合の悪い時だけ押し付けないさ。このブロックはボクが片付ける・・・あと何体いる?」
「このブロックの敵は最初から8体しか居ませんでした・・・今ので残り7体、精密スキャン掛けましたが・・・・・」
「分かってるさ♪」
務めて明るく話しながら、敵が次のフロアの階下に居るのでボクは同フロアの上に回り込む。
体育館のキャットウォークの様な場所から、下を見下ろし残りの7体の位置を確認した・・・ゾンビは全て幼い少女達だった。
「先程から思ってたけど、彼女等の身体は殆ど腐敗して無い・・・つまり極最近ココに来させられたヴァイラシアン側の人間だよね?」
少女ゾンビ達は跳び上がるが流石にココには届かず、壁に爪を立て登って来ようとするもソレも叶わないらしい。
「こんな場所に何で幼い彼女等が?」
「見当は御付きでしょう?」
アリスも辛そうに言う。
「悪いけど間違い無い答えが欲しいからデータを漁って・・・この艦は比較的新しいみたいだけど?」
「この船は先の動乱でヴァイラシアン帝都から逃げ出したヴァルマー公爵の船団の一隻です。この子達は彼の身の回りを世話する為にと言う名目で乗船させられた一般市民です!」
そこまで分かれば上等、本当に身の回りの世話をさせる為なら・・・たとえ女を選ぶにしても、もう少し年上の貴族出身の人を乗船させる。
「パインさんにヴァルマー公爵について何か知って無いか聞いてくれ」
「既に確認しました幼女趣味の変態です!彼奴は緊急なので彼女等が載ってる船に、この幽霊団地の接収を命じましたが・・・この船との連絡が途絶えたので本人達は、この先の星系に落ち延びています」
「クズがっ!」
ボクは下のフロアに飛び降り、そしてパルスレーザーもブラスターも火力を最大まで引き上げた。
彼女等の背後に降り立ったボクに飛び掛かって来る・・・ボクは引き金に指を架け呟いた。
「ゴメンね・・・助けて上げられ無くて・・・・・」
ゾンビと化した身体を晒したく無いだろう。
そう思って彼女達の身体が残らぬ様に、最大火力で焼き尽くした。
イヤな事が有ったからと途中で仕事を投げ出す気は無かった。
そんなんなら最初から手を出すべきではない。
その後もボク達は数隻の船の内部でゾンビを掃討し、内部を焼却消毒出来る様に分離させてミューズ達に引き渡した。
今日の分が終わるとハンガーダッシュに帰艦し入艦スペースで、艦内に入る前にスペースギアを着たまま、そして装備を外してから二重にシャワーを浴びてからメディカルチェックを受ける。
ゾンビ化ウイルスが空気感染しない事が解ってても艦内に余計なモノを持ち込ませない為で、装備の方も洗浄・消毒・整備までしてくれる。
この世界では早く学業を終わらせられる為か社会に出る年齢が若い、まして学生任官何んて制度もあるもんだから10代の兵士も結構眼に付く。
それでも大半の兵士は20~40代で学生任官したにしても10代後半、この中で本当に子供と言うのはボクとミューズの2人とチビリザーダー達だけだった。
だから皆から可愛がられており食事や入浴時には悪戯でチョッカイ出されてばかりいるが、皆で情報を共有してるのだろう・・・今日は誰もチョッカイを出して来なかった。
当然シャワーは同性同士で共有・・・シャワールームでは人のケツを撫でたり叩いたりして来るスケベェ悪戯親父共が、今日に限って肩を軽く叩いたり頭を撫でてくれる。
ふとシャワールームで鏡を見ると、成るほど情報を共有してるだけじゃ無かったんだな。
凄く荒んだ眼をして居る・・・この顔を見て揶揄いには来ない、ボクは自分が思ってるほどメンタルは強く無かったらしい。
「キ・・・」
食堂でボクに声を掛けようとしたジュリアさんをミューズが引き留める。
彼女が一番ボクの事を分かってくれてる様だ。
「お疲れ様でした」
彼女が地球のラテ屋ででも出て来る様な、蓋付きの容器を差し出した。
黙って首を縦に振り受け取る・・・中身はガブ飲み出来る程度に温かいスープだった。
一息で飲み干す。
「お疲れでしょう・・・スターシップに戻らなくても、この艦の簡易ベッドで眠れますよ」
「そうする」
ボクは黙ってゲストスペースに移動した。
「流石にショックだったよね」
とジュリアさん。
「初めて人を殺した時、オレも一晩寝込んださ・・・」
パインさんも言った。
「キッド君大丈夫でしょうか?」
ミントさんも心配そうだ。
「このまま今日は休ませて上げて下さい。明日には復活すると思います・・・まあ外面だけでしょうけど」
皆がエッと言う顔をするのを、ミューズはニッコリ笑って答える。
「お兄さまは❝空元気も元気❞って言葉の意味を理解してます。大丈夫あれで結構タフなんです、無理矢理でも自分を動かし続けますよ」
そう言ってキッドが飲んだスープの容器を片付ける。
その夜・・・ゲストルームのベッドの上で、無表情のキッドはミューズの膝に顔を埋めていた。
涙を流してはいない・・・いないが一晩眠らず、その眼が爛々と獣の様に輝いている。
翌朝・・・何事も無かった様に起床してきたキッドは、何も無かった様に作業に加わった。
この1000隻以上の船の団地を、一刻も早く一隻ごとに切り離す・・・その様に思い定めているらしい。
キッド以外の班も彼に触発され、過半数を処理するのに半月は掛かるだろうと思われてた作業が1週間で終了した。
後はメインの幽霊船とソレに直接繋げられた発掘の前線基地コロニー、全長1500m程の先古代文明時代の船に四角柱のコロニーが並べられ接続され、それにオマケの艦船が何十隻か繋がっている程度だ。
「あれでも極めて古いですが自転してるコロニーで、長方体のボディの中でドラム状の居住区画が回転してます」
分離した船達は修繕や解体して小艦隊が同行しながら移動、流石に元敵地は完全に平定し切るまでは信用出来ず、取り敢えずファルデウス軍の集結してるヒュンケルズまで移動させ、その後ファルデウスまで航行・曳航する予定だ。
と言うよりヒュンケルズ自体が採掘基地と化す為、前線基地化して常に艦隊が駐留して艦船が航行しているらしい。
「まあ戦時直後で残党も狩り切って無いのに、鉱山衛星を放置出来無いだろうからね」
敵の資源にされちゃ眼も当てられない!
さて過半数はバラし終わったがメインの部分はマダ残っている。
ここでボクの疑問がマダ晴れて無い事を皆に相談した。
「これまでのゾンビ達で長い間、幽霊団地が持続させられたとは思えない。何か残ってる部分にデッカイ危険が残ってるんじゃないか?」
「もう団地と言えるほど残って無いが、確かにキッドの言う通りだ。そもそも残ってたゾンビなぞ、最近ココに来て犠牲に成った者達だろう?」
それは間違い無いし、その辺は皆も気に成っていたらしい。
分離した艦船は中を焼き尽くして消毒したが、それでもその前に徹底的に中を捜査して有った。
イヤ現在も捜査続行中で、順番待ちの艦船が作業空間で順番待ちをして居る。
「見落としは・・・分解した分に関しては無かったと断言出来るよ♪もしキッドちゃんの言う様なモノが存在するなら、それは残ってる部分に潜んでいるね」
ボクとダーグは鼻を鳴らして、装備を受け取り装着し始める。




