準備を整える♪
明るいが熱を感じない照明に照らされアルカディア皇帝とダーグが手を握り合い、その周囲をカメラマンが囲み明日の朝刊のトップを飾る写真を撮影してる。
見出しは先古代文明人復活に成るだろう・・・戦争中だと言うのに暢気な話だが、敵に余裕を見せ付ける事に成る。
当初の予定通り先古代文明時代の悍ましい人体改造工場の存在は闇に葬られ、コールドスリープに掛けられてたダーグを、軍事作戦中に見付けたボクが連れて来た事に成っている。
まあ本当は先古代文明の遺跡が有った事自体、隠す予定だったのだが・・・・・
「ダーグさんの姿を外科的に改造するか、永遠に隠すなら公表の必要は無いかも知れませんが・・・でも今後ダーグさんの御仲間が大量に救出され、我等と一緒に暮らす事に成るなら無駄な事、今の内に公表した方が良いでしょう?」
ミューズの言う通りかも知れなかった。
この世界では知的で対話可能な友好的生命体を総じて人類と定義されており、つまりコッチではハリウッド大作映画「インデペンデ・・・・・・」の地球外知的生命体は人類には定義されない。
その中は細身で耳長のエルフっぽいのとか、チビでホビットやドワーフっぽいのが居るが、それ等を含んだ霊長類型人類が実は一番多い。
他にも少数だが犬や猫などから進化した人類や鳥から進化した人類(飛ぶ事は出来ない)も居て、さらに極少数ながら魚類型人類(ただし地球の人魚伝説と違い半魚人っぽい外見)や甲殻類・軟体動物っぽい外見の人類も居る。
だが今の所は爬虫類・両生類型の人類と遭遇が無く、初めての爬虫類型人類❝リザーダー❞との遭遇は大ニュース・・・ヴァイラシアン帝国から見ればトンビに油揚げ攫われた形だ。
さて写真撮影の後はインタビューが有り、ほぼ事実を多少湾曲させたけど公開した♪
更に希望してる学者たちが彼に面談を申し込まれ・・・彼等は先古代文明のテクノロジーを欲してたが、ダーグは武人でドチラかと言うと勉学が得意な方では無かったので、彼等はガッカリして帰る事に成った。
それでも彼が齎す当時の情報は、貴重な事この上ないのだ。
そして面倒事を(強制的に)全て片付けると、スターシップのリビングに全員集合する。
「行き成り天体が艦隊を蹴散らしながら動いたんだ・・・最終的に、どの位の被害が出た?」
「流石に天体じゃ大した速度はだせん、精々数千隻ってトコロじゃな♪だが未完天体の補給基地は完全に破壊され、最早補給の望みがない・・・最早雌雄は決したな」
「それを踏んで降伏勧告したのですが敵側の皇帝がレプトン通信で、降伏を進めてくる位だから敵も内情は厳しい筈だと力説し初めまして・・・・・」
「馬鹿か?」
「馬鹿だよ!」
まあ演説でもしてカラ元気でも見せ付けて無いと兵士達も着いて来ない、現にヴァイラシアン側から現場の兵士達が脱走し捲くっています♪
「で今後オマエ等の予定は?」
皇帝陛下に聞かれたので正直に答えた。
「クソジジイの断末魔の叫びを聞いてから、次の目的地に進みますよ♪その前にスターシップ完成させないとだけど、行く先も一緒だしダーグを誘っても良いかな?」
陛下の後ろに控えている文官らしき連中が露骨に嫌そうな貌をしている。
ダーグが武人で知識を提供出来無くても、彼からもたらされる情報は学術的価値が高い。
がコッチの知った事では無い。
「では先に面倒事を片付けて行くか・・・先ずはヴァイラシアン皇帝にトドメを刺す事だな?」
「ここは精々苦しむ様に、完全に包囲して兵糧攻め何て面白いかもね♪」
「反対です!苦しむのは末端の人間から、彼等に何の罪が有ると言うのです?」
「確かに奴等は最後まで贅沢出来るし、そうなれば当然だけど苦しむ時間も少なそうだ・・・・・」
ミューズは優しいな♪
「しかし正面切って戦っても末端から死ぬものさ、それもコッチの兵士もね・・・もうオレはファルディウス側の人間と思って言ってるけど、味方の被害を最低限に抑えるなら、包囲して敵の数を減らしながら兵糧責めにする方が・・・・・」
アップルトン大尉は美人のクセに言う事がエグいなw
「今回キッドが未完天体に潜入した事で、向こうは病的にまで警備を強化してる。早々侵入出来無いんじゃないか?」
「それが如何侵入されたのか分かって無い様で、艦隊の密度を濃くして目視による有視界監視が・・・・・」
まあコッチだって逆の立場に成っても、それ以上の手立てがファルディウス軍に出来るとは思えない。
プラズマ反応炉の戦闘機はドチラにも無いし、外部から侵入出来るほどウォーターロケットは脚が早くも長くも無い。
「ワンチャン狙ってイーグルで、ヴァイラシアン皇帝の座乗艦に奇襲かけ・・・痛ッ!」
ミューズにオシリ抓り上げられた。
「冗談だよ!」
「イエ今の眼は本気で言ってました!」
陛下やジェリス艦長がクスクス笑ってやがる。
「そう言えばヒュンケルズは如何成ってる?」
「あそこに基地が有った事が解らない位に破壊され、完全にクレーターと化しました。天体貫通エレベーターも完全に溶かされ周囲の岩石と混じり、基地の名残はヴァイラシアンの補給基地周辺にしか確認出来ません。また補給基地も報告の通り完全に機能停止してます」
ダーグが満足げに鼻を鳴らした。
忌まわしい施設は完全に闇に葬られる。
「ただ未完天体が破壊される事は無いでしょうが、内部で高圧化した事が原因なのか自転速度とコアの温度が若干上昇してます。それに因り少々軌道が狂い始めており・・・・・」
ヒュンケルズの在った未完天体は、恒星の軌道に捕らえられたアステロイドベルトの中に有った。
アステロイドは地球の有った太陽系より濃い密度の小惑星群で構成されており、それ等や岩石を避けないと軍艦では航行出来ない程度の密度だった。
「航宙戦闘機を出すまでも無いが、艦船だと少し難儀するな・・・・・」
「それを巻き込みながら軌道を外れてます・・・このままでは恒星より少し外周に外れ、アステロイドから出て仕舞うでしょう」
「そうしたら鉱山衛星として利用出来るし併合後が楽しみだ♪」
陛下達は楽しそうに皮算用を始める。
先古代文明時代に軍事基地が造られた金属の塊の様な天体、恐らくだが鉱山資源も豊富だと思える。
「とにかく敵もスグには動けまい・・・今の内にスターシップを仕上げるとしよう」
スターシップは既にアイスコフィンの中で眠っている。
活字に直すと・・・少し縁起が悪いねw
三日後・・・スターシップの武装や荷物の積み込みが終了した。
ついでにアイスコフィンに忘れてた荷物コンテナも引き取った・・・地球から持って来たボクやミューズの衣類も入っている。
「そ・・・その服は何だミューズ!」
皇帝陛下が金切り声を上げるが船のチェックで忙しいボクはスルー、火器のテストに出なければ成らないので猫の手も借りたいのに!
「お兄さまの生まれた惑星❝地球❞の民族衣装で、チャイナドレスとか言われて・・・・・」
「そんな事は如何でも良い、すぐに着替えなさい!」
まあ爺さんが怒るのも解る。
ネットで買えるパチ物では無く丈は結構有るが、それでも横に大胆なスリットの入ったハイカラ―のマンダリンドレスだ。
胸の谷間は完全に隠されてるが、それ以上にサイドの切れ込みは際どく編み上げでチラチラと素肌が見える。
「お断りします!お兄さまを悩殺する為に、態々引っ張り出したんですから♪」
「うんカワイイよ・・・カワイイけど・・・・・」
五月蝿くて作業が捗ら無いから、不本意だけど仕方無いから爺さんに少し助け舟を出してやろう。
「そう言うのは、もっと成長してからじゃ無いとね・・・ミューズが着てもカワイイの方向性が別の方に向かってるよ」
ミューズが機能停止した。
「ココさん後は、お願いしますね♪」
「キッド君・・・幾等ナンでもコレは酷いよ」
同じ女としてココさんはミューズに同情して仕舞った様だが、そんな事してる場合じゃ無いだろ今は!
「武装は変更無いけど船の形や構造自体が変わったんだ、ドコで不具合や干渉するモノが出るか解らない。取り合えず使ってみるしか無いんだからな・・・・・」
「お兄さまだって、こう言うの好きだと思って着て来たのに・・・・・」
ミューズが向こうで拗ねている。
「それは否定しないけど、本格的な戦闘が何時始まるか解らないのに楽しんでられますか!ヴァイラシアン皇帝の首を取ってからじゃ無いと、ユックリする事だって出来やしない」
ボクはシートの座り心地を確かめる。
少しリクライニング気味に傾いてるシートは、身体に負担を与えなかった。
悪く無い・・・どころか非常に良い座り心地だ。
「如何だい新しいコクピットは?」
ジェイナス婆ちゃんが声を掛けて来る。
「戦闘して見ないと何とも言え無いけど凄く良さそうだ・・・長球のまま後ろは切り落として平らにしたの?」
「わずかと言えデッドスペース造る必要は無いだろ?壁面は全てディスプレイの侭、その分だけ背後のリビングは広く成るしね」
コクピットは前と同じ長球状のまま背後を切り落とした・・・もっとも床も平らなので完全にでは無いが、それでも砲弾っぽい形状に成っている。
メインのパイロットシートを中心から前よりの位置に設置し、宙にアームで持ち上げられ半球状の操縦室の中心に設置されている。
「実際には長球を横に倒して床に当たる下部と背後を切り落とした様な形をしているが、操縦中は前後上下左右360度・全周囲展望モニターに成っている」
ジェイナス婆ちゃんが横から操作パネルに手を伸ばし操作すると、周囲の壁に宇宙空間が映し出されて宙に浮いてる様な気分になる。
スターシップのコクピットは船の操縦室か操舵室だから広々してるが、狭いなら幾つかのロボットアニメのコクピットと同じ感じに成るだろう。
「予備用シートは直接床に設置されるが、サブシートはメインパイロットシートの背後で同じ様に浮き上がらせられる。これは周囲のモニターを良く見える様にする為、使わないなら下ろして置けば良い」
婆ちゃんが操作するとメインのパイロットシートの背後で、お盆が持ち上げられる様に四角く切り取られた床が浮上する。
「キッドちゃんは優秀だから何でも自分で出来るけど、やらなくても良いトコロを他の人に任せれば、その優秀な部分を集中させたり、他にも効率的に使えるんじゃ無いかな?無理強いはしないけど、少し考えて見てくれないかね?」
「そうだね・・・ミューズがコ・パイロットに成ったら、撃墜数が2倍近く成ったし・・・・・」
パイロットとコ・パイロットって言い方は航空機それも旅客機での言い分け方らしいが、ボクはスターシップを軍艦だと思って無いからスターシップでも使わせて貰ってる。
やりたい様に戦闘込みで使ってるけど、ボクはスターシップを飽くまで❝船❞だと定義している・・・まあ戦闘能力が高過ぎるんで❝戦闘艦❞と呼ばれても仕方無いし、自分で名乗っちゃう事も有るけどねw
まあ何に拘ってるんだと言われれば、ボクは飽くまで民間人で、軍人に成る積りも国家に所属する積りもと毛頭無いと言う事さ♪
それ故にスターシップは戦闘能力を保有する船舶であっても、国家や軍隊に所属する❝軍艦❞では無いと言う訳さ!
「で副操縦士のシート何だけど、ミューズの希望を聞いてたら・・・こんな感じに成って仕舞ったんだけど・・・・・」
副パイロットシートはメインのパイロットシート、つまりボクのシートの前方の少しと言うか一段下がった所に在った。
そのシートの形はバイクの様に跨って背後にオシリを突き出す様な形に成っている。
「何でこんな形に?」
「操船をする時はコッチの方が動かし易いんです。勿論お兄さまが操船し艦砲しか操作しない場合は・・・・・」
シートが変形し背後にも垂れ掛かる様な、ボクのと同じタイプのシートに変形した。
「こう言う風に変形します」
「バイクシート状に成るのは、オシリ突き出してボクを誘惑する積り?」
陛下が背後で睨んでる気がするが、コッチは空中に来てるんで気にしない・・・と思ったら陛下がボクの所まで飛んで来る。
人工重力を切ってたの忘れていた。
「私の前でイチャイチャするな!せめて見て無いトコロでやれ」
「ヤメろとは言わないの?」
「言った所で聞かんだろ!それに言ったらミューズに嫌われそうだし・・・・・」
「情っさけない皇帝だなァ~~~ッ!」
「喧しい!」
背後で漫才をしながら、ミューズもチェックに余念が無い。
「この体勢の方が操縦桿に全体重を掛けられ、咄嗟の時は特に機敏に反応し操作しやすいのです」
ホントかなァ・・・昔アニメで戦闘用ロボットの操縦席がバイクシート状に成ってるのが有ったが、体重移動で操作するバイクやスノーモービルと違い、ロボットに跨るシートは無意味でしか無いって話を論じてた奴が居た。
マアそうなのかも知れないけどロボットアニメはフィクションでファンタジー、リアルさを出す為に現実的な設定を組み込んでも、そこまでリアルに騒いで拘る必要無いだろ?
ボクはバイクタイプのコクピットって、カッコ良いと思うんだけどな・・・・・
「私はコッチの方が使い易いが・・・・・」
ダーグがシュミレーションで使ってる操縦デバイスは、眼の前に設置されたコンソールパネルでの操作だ。
固定された大き目のタブレットの様な物で器用に操作してるのが、ゴツいダーグには全く似合って居なかった。
「私はコッチね♪」
ジュリアさんが試してるのは、如何見てもゲーム用のコントローラーだ。
それでシュミレーションでトレーニングをしてるが、如何見ても遊んでる様にしか見え無い。
「まあスターシップは各々好きなデバイスで操縦すれば良いと思う。けどミューズはコッチにも慣れさせといた方が・・・要らないか、そっちをメインに切り替えれば良いだけだし」
「切り替えられる様にして無いけど、ミューズのシートもメインに切り替え出来る様にするんだね?15分も有れば出来るよ・・・・・」
ジェイナス婆ちゃんがタブレットでドローンに改造を指示してる。
「実際に戦闘に成る時には、態々乗り出さない奴の顔は見え無いからね」
ミューズのシートの背後に有る背凭れや、後ろのサブシート前に付属してる風防状のシールド、予備用シートの背後に外部の風景が映写される。
カチューシャ経由で視覚情報まで詰め込まれると、酔った様な感じに成るんで嫌だったんだ。
「ミューズや・・・悪いけどジュリアの奴に連絡して、戦争が終わったらフリッパーから再建造するって伝えといてくれ」
「ハ~イ♡」
ミューズは完全にジェイナス婆ちゃんの弟子に成っている。
「キッドもそうだけど、ミューズも筋が良いね・・・どこぞの性能より見てくれ重視し様とする奴等よりもね♪」
するとミューズが繋げた通信先からジュリアさんの声が聞こえた。
「こちら巡洋艦クリッ・・・何だろう?背筋に冷たいモノが・・・・・」
思わず吹き出して仕舞う。
説教を喰らった陛下も居心地が悪そうだ。
「ミューズも外見を気にし過ぎてるんじゃ無いかって気にしてたけど?」
「まあハインツの孫だけ有って、見てくれを気にする所はソックリだね。でも自覚した上で性能を突き詰めてからやってるから、あたしゃ文句無いよ・・・そう言う点はジュリア嬢ちゃんの方がハインツに似てるかもね?」
そう言えばジュリアさんと陛下は、デザイン重視して耐弾性を犠牲にし様として、ミューズに叱られた事が有ったな?
「それよりも実弾テストは如何するんだい?まさかとは思うけど・・・・・」
「実弾テストは実戦で、ヴァイラシアン皇帝の首狩りにするよ♪」
ボクの非常識さを知ってる皇帝陛下とジェリス艦長がクスクス笑い、ジェイナス婆ちゃんは眼を覆って天を仰いだ。
まあ普通やらないよねw




