あまりの展開に驚かされる!
脅したり騙したり口先で行使出来る全ての技術を動員して、国中から搔き集められるだけの艦船を搔き集めたと言う話だ。
それで集まった艦隊は僅か数万、この少なさはヴァイラシアン皇帝の人望の少なさを物語っていた。
それに残った艦隊を合わせれば10万程度の艦隊が整った。
先のファルデウス内戦でも、何だかんだ言って最終的には同じ程度以上の艦船が反乱軍に動員されている。
それも皇帝に嫌われ国民にも蔑まれ、衰退している国の主流では無い貴族達がだ・・・一帝国の国主が檄を飛ばし、更に脅迫や甘言を駆使して数万と言うのは情けない数値と言わざるを得ない。
ヴァイラシアン皇帝は決して認めようとしないだろうが、ファルディウス皇帝が檄を飛ばせば最低でも百数十万の艦船が簡単に集まるだろう。
マアそんな事は如何でも良いが・・・・・
「丸腰で駆け付けたって何も出来んだろう?すぐにキッドを呼び戻すべきです!」
「必要無いから放って置け、それよりもう少し静かにしてろ!」
臣下に対し言い放つファルディウス皇帝だった。
「孫バカのオマエさんが、危険地帯に丸腰で向かってる孫を放置するなんて意外だね・・・・・」
そう言われて面白く無さそうに皇帝陛下は呟いた。
「勝てる算段も無しにミューズを引き連れ、死地に赴くほど馬鹿な奴じゃ無いでしょう?あのチビスケは・・・下手したら我ら以上に冷静で計算高く、そして必要なら冷酷に成る男ですよ・・・少なくとも戦う事に関し、実年齢と同じ範疇に入れて考えるべきでは無い」
自分の師匠にそう言い放った。
「その10万がヴァイラシアン最後の軍勢だろう・・・ジェリス至急艦隊を整えよ、10時間以内に出撃する」
「難しいでしょうが最善を尽くします」
関係各所に通信を送りつつ、集結地点に急行する。
「何とか我等が着く迄・・・・・」
「そうじゃな・・・」
ジェリスと皇帝の会話に文官の一人が口を挟んだ。
「そうですねジュリア様が、生き延びてくれると良いので・・・す・・・が・・・・・」
ブリッジに居た全員の冷たい視線を浴びてる事に気が付いた文官は言葉を詰まらせた。
「今のは・・・私が言った「何とか我等が付く迄に」に「生き延びてくれると良いのですが」と付け足したかったのか?」
「ち・・・違うのですか?」
「全然違うだろうな」
ジェリス艦長が否定する。
「生き延びて・・・では無く、私はだね「我々の分が残ってると良いんだが」と付け足したかったんだ」
「我々がジュリアの元に掛け付けるまで、移動時間だけで3時間は掛かるだろうが・・・キッドは30分で駆け付ける」
ジェリスから言葉のジャブに皇帝陛下が追い打ちをかける。
「そしたら我等が戦う分など残って無いかも知れんぞ?」
「丸腰の航宙船1隻でですか?」
文官は言い返すが、
「あの船も持ち主も、我等の定規じゃ図れ無いさ♪握らないかい?私達が駆け付けるまでに、キッドちゃんは最低でも敵を3割削ってると思うんだけどね・・・・・」
ジェイナスが笑いながら賭けを持ちかける。
単船相手に3割沈めば、降伏してるかも知れない。
「流石に無理では無いでしょうか?1割5分に帝国金貨一枚!」
「乗った!丸腰では流石に今までみたいに戦えないと考えて・・・1割未満5分以上に金貨一枚!」
「何か隠し玉を用意してるかも知れない・・・4割減に金貨一枚」
「ハインツ・・・オマエは如何する」
師匠の声に皇帝は親指で金貨を一枚弾いた。
「我等が駆け付けるまでに3割以上減らして、敵を降伏させるか蹴散らしとるに金貨一枚!」
イケない大人の悪い遊びにブリッジの中は盛り上がる。
ジュリアやキッドそれに皇女の安否を気にしてる者は文官だけだった。
「ジュリアが危機に陥ってるんだ・・・多分奴は本気に成ってるし、内心焦っても居るだろう。何だかんだ言ってキッドはジュリアを姉の様に慕ってるからな・・・だが本気に成ったキッドなら敵の全滅も可能だが、あ奴は軍人でも無いし冷酷に成れても普段は優い少年さ。冷静に計算して効果的に撃沈し、それでいて必要以上に殺す事は避けるだろう」
「私は勢いで5割くらい消しちゃうんじゃ無いかと思うのですが・・・それに金貨一枚♪」
クランキー大尉が意見を述べるが、
「もしジュリアが殺されてれば最初の一撃で、そう成るだろうなwだがジュリアも中々強か・・・キッドが駆け付けるまでは全艦で耐え抜くだろうし、生き残ってれば彼女だって無駄な殺戮は止めるさ」
皇帝の分析に一同納得する。
「我等が着く頃には敵は逃げるか降伏しとるよ。それだと駆け付けた時に兵共が腐るから、我等の戦う分も残しといて欲しいんだが・・・・・」
皇帝が言う、するとジェリスが溜息交じりに言った。
「無理でしょうね・・・そう言う点では全く気遣いの出来ずに、最大限ヤリ過ぎてしまう残念な子です」
付き合いが浅くても、結構人柄を読まれているキッド君だった。
その頃スターシップでは、
「こんな事、良く考え付きますね?」
呆れる様なミューズの声がしていた。
一方ジュリアは自分を取り囲もうとする大群の中を、まるで誰かさんの真似でもして縫う様に駆け回った。
「キャア!キャア♪キャア♡」
悲鳴を上げながら的確に指揮し、20隻ほどの艦を率いて敵の中を掻き回している。
「私達の上官は、誰かさんの悪い影響をモロに受けてますね?」
「そうかしら?」
楽しそうにジュリアは言った。
「それにしても分散してて良かったわ♪これ以上大く引き連れてたら、こんな調子で逃げ廻れない物ね」
「この数でも普通出来ませんよ・・・・・」
副官のミント大尉が言い返した。
既に高速レプトン通信で救援要請は送って有る。
この規模から言って間違いなくヴァイラシアン帝国の最後の戦力・・・ここを勝ち抜けば戦争が終わる。
勿論ヴァイラシアン全ての艦船が集まった訳じゃ無い・・・そう成れば150万前後は艦船が集まる筈だ。
だが辺境の警備や近隣諸国に対する防衛と、国中の全ての艦船を集められる筈も無く、そもそも既に皇帝は首都星から逃げ出してるのだ。
すでに見限ってる貴族も殆どで、ファルディウス帝国に併合されたら芽の出ない貴族が最後の希望を掛けて駆け付けたくらいなのだ。
だだ援軍の到達には準備には恐らく15時間、直後に出立して3時間の移動に掛かるだろう。
その18時間中マダ1時間しか経っておらず、今の所撃沈された艦はいないが何時まで持つだろうか?
「シールドのエネルギーが尽きた時が問題ですね」
エルミスには4基のジェネレーターが搭載され、航行・移動用動力として2基と攻撃用に1基そして防御用に1基使用されている。
勿論ほかの用途に回せない事は無いのだが、仮にシールド用のジェネレーターが追い付かなくなった場合、戦闘用のエネルギーを回せば弾幕が薄く成り打撃力が落ちる。
かと言って動力用を回せば推力が落ちて狙い撃ちにされ、最終的には落とされる事に成るだろう。
「出来る限りシールドに負担を掛けぬ様、着弾を回避しながら着いて来て下さい!」
「そりゃ無茶な事を・・・・・」
言いながらも必死で直撃だけは避ける。
此の侭17時間逃げられるとは思えない。
「何とか半分でも生き残れたら良いんだけど、この調子じゃシールドの限界は5時間後かしら・・・全員に合法ドーピング剤を配布して有るよね?」
「大丈夫です」
合法と言えスポーツや勝負事での使用は禁止されているが、それでも体力や気力それに集中力を保ち続けられる「習慣性の無い麻薬の様な薬」が存在した。
それを4錠配布して有り、全て使用すれば最大48時間は戦い続ける事が出来るが・・・効果が切れた後は副作用が有り、倦怠感と脱力感で1週間は使い物に成らなくなる。
「何とか打開策無いかな?」
皆の緊張をほぐす為にワザとお道化た感じで話しているが、実際状況は危機的である事を極めている。
さて如何し様かと思った瞬間・・・左舷に行き成り太陽が現れたと思う位に明るく成って!
「さ・・・左舷9時から11時にかけて、敵影が一気にしょうめ・・・つ・・・・・」
オペレーターが驚愕した声をあげる。
「い・・・一体何が・・・・・」
とある戦艦の艦長が呟いた。
一気に1万隻近い艦船が消失したのじゃ無いだろうか?
いやソレ以上の被害かも知れない。
「民間から軍事レベルまで、全周波数で降伏勧告を受信しました。「全艦 直ちにジェネレーターを停止して降伏せよ、さもなければ艦隊全てが消失する。当方の兵器は起動するジェネレーターを攻撃するように設定されており、近くに起動させた艦が一隻でもいれば・・・如何成るか解るよね?その時に被害について例え停止艦が巻き込まれたにしても、当方は一切関知しない・・・・・」だそうですが?」
「フザケルな張ったり・・・」
その台詞を言い終わる前に、その艦隊の側面に眩しい光が満ちて、大音量で❝ゴパッ!❞と音が真空なのに聞こえた。
何の不思議もない音を立ててるのは自分の艦だ・・・衝撃波が自分の艦にぶち当たって音を立てていた。
そして・・・同僚艦が埋め尽くしていた宙域が、今度は残骸で埋め尽くされる!
「全機関全て緊急停止っ!いや起動中の艦から距離を取ってから緊急停止だっ!!早くしろモタモタするなっ!!!」
艦長は泡と一緒に怒声を吐き出した。
ちなみに・・・そのガラ空きになった残骸しか無い宙域を、一隻に航宙船が超光速で駆け抜けてる事に誰も気に留める余裕は無かった。
必死で逃げ惑うヴァイラシアン艦隊の最後尾に、最後の攻撃を撃ち込んで多少の損害を出した。
その事でヴァイラシアン側は「ファルディウスの新兵器は移動は鈍重で攻撃可能範囲は広くない」と誤解した・・・いや誤解する様にキッドが仕向けたのだ。
おかげで逃げられると思って敗走し始めてるのだが、中心に居る船をキッドは苦々しく思いながら見送っている。
「まともな武器を積んでりゃ、アソコに突っ込んで皇帝(ヴァイラシアンのね♪)の御首頂戴仕るんだが、如何せん今アソコに攻撃仕掛けたら流石に大量虐殺の汚名は免れないよな・・・・・」
本当に悔しくて言ってるんだが、
「お兄さまの言い回しは、私には難し過ぎますね・・・随分芝居がかってるみたいですけど?」
「そうなんですか?」
ミューズがボクの事を語り出す。
「お兄さまは地球では身体を使う事もオタク文化も愛好する少年で、イベント等には参加しないタイプでしたがゲームにアニメ・コミックと・・・ただソレだけじゃ無く同じ位かソレ以上に、小説やテレビドラマや映画も好んでるオタクでした。それこそ現代ミステリーから歴史モノまで幅広く愛好し、特に好きなモノは和製ハードボイルドや時代物と言うジャンルで・・・其方の影響も大きいかと♪」
「流石に古典のハードボイルドは、ボクには古過ぎて付いて行けない所も有るからね♪ネットで語ると古典オタクがハードボイルド名乗って良いのはチャンドラーやガードナ辺りに限定するけど、ソモソモその人達だって自分から名乗ってた訳じゃ無いだろうし・・・下手すりゃ存命中には呼ばれて無かったかも知れないし・・・・・」
降らない話をしながら、遠ざかる敵艦隊に途方もない距離を取って付いて行く・・・・・
「敵の索敵範囲外から、コチラの索敵範囲ギリギリで突いて行くなんて曲芸、良く考え付くし出来ますよね?」
「コチラのスキャナーと向うのソレの性能差が大きいからね・・・それほど難しいモンじゃ無いよ♪」
ところが暫く追跡すると、敵が落ち着いたのか斥候の艦隊を周囲に放ち始める。
「ジェノサイドの誹りを覚悟で殺すべきだろうか?」
「でもソノ後で元ヴァイラシアン帝国領を収めるのに軋轢が生じますよ・・・お兄さまだってソレを警戒してるんでしょう?」
軍人で無いけど気に入った人達を守るなら、敵に回った奴等に情容赦を掛ける積りは無い。
地球いや叔父一家から学んだ事、敵に情を掛けたら自分や家族・仲間の足元を掬われる。
でもだからと言って大量虐殺は・・・するのは良いけど禍根が残るよな?
「軍人さんにも家族や友人が居ますし・・・だからと言って、丸腰でこれ以上の追跡は難しいのでは?」
「その割には派手に殺し捲くってますよね?」
艦艇を大体2万隻沈めた・・・1隻辺り100人乗ってたとして200万の大量虐殺だが、悪いけど文句はソッチの皇帝と、付き従うと判断した自分達の上官に言ってくれ!
「まあソレでも出来る範囲で殺さない様にしてるさ・・・アッチだってジュリアさんを殺そうとしてたんだ。文句を言われる筋合いは無い・・・・・」
「それが解ってるなら何も言いません♪」
何かアリスが先生染みて来てる。
「で如何し様かな・・・・・」
此の侭では流石に偵察部隊に見付る可能性が高い。
「流石に隠密性に優れた小型船と言え、軽巡洋艦並みの質量は持ってますからね。しかもイオンエンジンやフォトンエンジンは、外部に発散するエネルギーも大きいですし、しかもジェネレーターが起動してるなら流石に見付かるかと・・・・・」
「プラズマ反応炉なら、誤魔化せるんだけど・・・・・」
「せめてジェネレーターじゃ無く、予備動力としてでも反応炉も搭載して置けば・・・・・」
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
「そう言えば・・・」
「プラズマ反応炉・・・」
「積んで有りましたね・・・」
そう言えばスターシップにはプラズマ反応炉5台ほど積んで有ったんだ!
この世界の軍艦は無温核分裂反応炉、通称ジェネレーターを積載しその動力で動いている。
勿論スターシップも例外では無いが、他の艦船に比べエネルギーの発生量が半端じゃ無い・・・彼の技術の恩恵だ。
さて無温核分裂式の動力炉は、この世界では現在 最も普及している動力源だった。
その為ジェネレーターと言えば取り合えず無温核分裂反応炉を指すのだが、これだけ無温核分裂反応炉が栄えたのには理由が有った。
主戦場が宇宙空間に成り、戦争の主流が艦隊戦に移行したからだ。
その為に多少スペースが塞がれ様が低燃費で大出力を得られ、艦艇の動力源に最適な無温核分裂反応炉が持て囃されているのだが、全ての動力源として使える訳では無い。
無温核分裂反応炉は小型化が難しく、小型化出来ても出力が大幅に比例して下がり、航空機や車両・その他小型化が必要な動力源としては全く向いてい無かったのだ!
そうして様々な動力源が考えられ艦艇や要塞・軍事基地それに発電所や人工衛星・コロニーの動力には無温核分裂反応炉を、そして家庭用携帯動力源や自動車やバイクなど自家用車には液体燃料が使用されている。
この液体燃料はハイドロ・オキシジェン・コンポジット通称HOCと呼ばれ、燃料として水素と酸化剤としての酸素を反応させる事無く(つまり水にしないで)均一に常温で混合させた上で液状化させたモノだ。
それを内燃機関や燃料電池の燃料に使っている。
そしてファルディウスもヴァイラシアンも、軍事・民間に関わらず車両や船舶そして航空・航宙機にはHOCを使用してるのだが、如何せんHOCには熱量に対し質量が多いと言う大きな欠点が有った!
HOCは地球の化石燃料より圧倒的に優れている。
民間規格のモノでも1ℓでバイクで120㎞以上・大型の高級4ドア乗用車でも7~80㎞以上走らせる事が出来る。
しかもお値段は100クレジット以下、つまり100円以下なのだ。
これが軍用規格に成ると、それなりに高価に成るが性能も跳ね上がり、もちろん航空燃料にも使えるレベルに成る。
だが幾ら高性能化しても限界が有り、そもそも広大な宇宙空間で移動し捲くる航宙戦闘機には「燃料を幾ら積んでも足りない」って事に成るんだ!
おかげで設計者は戦闘機や攻撃機など燃料タンクのスペースに頭を悩ます事に成っていた。
さて・・・そこら辺は先古代文明でも同じジレンマを抱えていたらしいが、彼等は現在この世界よりは文明が進んでいた。
彼等は航空機や航宙機・レジャー用船舶など中途半端な大きさの動力源として、第3の動力源である簡易型反応炉❝電離気体式反応炉❞を造り出したのだ!
同程度の出力を維持したまま小型化が可能で、これに因り燃料槽のスペースは大幅に圧縮出来、小型化や軽量化・積載量増加に役立つ・・・が、ボクはマダこの技術を世間に放出していなかった。
そしてもう一つ「大出力のエネルギーを発生させても外部に漏らさない」と言う御利益が有った。
簡単に言えば・・・たとえスターシップでも偵察部隊の探知圏内に入れば、ジェネレーターが起動してれば探知されて仕舞う。
ところがプラズマ反応炉なら目視されない限り発見する事は難しい・・・この世界は小惑星や岩石にも金属が多量に含まれており、基本的に地球と同じ電波で探知する機能は使用してもあまり意味が無かった。
実際・・・艦隊戦でも敵の位置や規模は、ジェネレーターの反応で感知するモノだった。
そしてボクはプラズマ反応炉を再現し、アイアンイーグルの動力に使っている。
そのアイアンイーグルは、スターシップに5機(と言っても4基は組み立てて無いバラバラ状態だけど)搭載されていた。
「まあスターシップを敵に感知され駆け付けられたら、その小ささに「絶対、罠だ!」と考えるでしょうけど・・・・・」
スターシップの(攻撃された時の為)分散配置してある3基のジェネレーター、その出力は超弩級戦艦以上だ・・・その1基辺りの出力がね♪
「どうせ帰れと言っても聞かないだろうから言わないけど、それでも敵から距離を取って絶対に付いて来よう何てしない事・・・もし言い付けを聞か無かったら・・・・・」
ボクはリラックス時に穿いている皮革製のスリッパを手に取った。
踵に留めベルトがあるチョッと重厚なデザインのスリッパだ。
「これでオシリ叩き100発ね♪これでオシリペンペンされるのは、相当辛いと思うけど・・・・・」
「お言い付けには絶対に背きませんっ!」
ミューズはジンジン・ズキズキと痛み続けるオシリを跳ね上げ、飛び上がって直立不動に姿勢を取ると高らかに宣言する。
実はジュリア救援に駆け付ける間30分ほど有ったので、その時間に「今晩は時間が取れ無いかも知れない」と皇帝陛下御依頼のオシオキを済ませていたのだ。
もちろん皇帝陛下の注文通り手加減せず・・・ハードなオシオキに割と本気で泣かしたのだった。
「アリス、兵装の作成は?」
「工作機械やドローンは積んで有りましたが、当然ながら材料に成るモノが全く積み込まれてませんでした。造れる物は可成り限られてます。ただキッド様から簡易型で良いからと言われてるので、中性子ビーム砲と高イオンレーザーを2台づつは4時間ほどで製作出来るでしょう」
「大急ぎで製作し搭載しといて♪」
そう言うとヘルメットを片手にハンガーに向かった。
「お兄さま・・・」
ミューズが心配そうな顔をして・・・抱き寄せてオデコにキスをする。
「オシオキがイヤなら良い娘で待ってろよ・・・お土産ナンか見繕って来るから♪」
「そんな事より、ご無事でお帰り下さい」
もう一度ボクはキスするとハンガーに向かった。
「今回 姫様はゴネませんでしたね?」
アイアンイーグルのコクピットで不思議そうにアリスが言った。
「ヴァイラシアン皇帝を早目に片付けなくちゃ成らない事が解っているからね」
ホント迷惑なジジイだ・・・早目に消してやろう。
「出来る事なら座乗艦に潜入して暗殺したい・・・・・」
「たとえキッド様でも難しいかと・・・肉体は強靭でスペック的に問題有りませんが、その手の訓練をアナタは一切受けておられません。それに流石に皇帝の座乗艦なら、そこそこ警備は厳重かと・・・それにプラズマ反応炉と言え、全く外部にエネルギーを漏らして無い訳では有りません。そこまで近付けば流石に感知されるのでは・・・・・」
「だよね・・・」
アームで外部に摘まみ出して貰い、エンジンを機動して出力を上げる。
「ギブソンさんの船に忍び込んだ時みたいに、圧縮空気でも噴出させる様な移動法なら見付からないかな?」
「アレはアナタが単騎で飛び込んだから、アッチも気が付か無かっただけで・・・そもそも普通は携行武器だけ持って、それも敵艦隊の旗艦に侵入するなんて思う奴が居るなんて思いませんよ!正直ギブソン氏の部隊の兵士を責めるのも可哀想かと・・・マアそれは置いといても流石に未確認機が着艦したり外壁に取り付いたら一発で暴露るでしょう?フリじゃ無いですから絶対にしないで下さいね」
「船に乗り込んで白兵戦なんて有りそうだけどな?」
心底呆れた様な溜息を吐くアリス、機械のクセに生意気な・・・・・
「地球の大航海時代の海戦ならそうでしょうね・・・でもキッド様が発つ時の地球の海戦でも、乗り込んで行う白兵戦って有りました?」
「そう言えば聞かないな・・・」
タンカーを乗り込んだ海賊に乗っ取られる話は聞いた事有るし、そう言うの奪還するのに銃撃戦ってケースは有るだろう。
だけど湾岸戦争など最近の海戦では、敵の船は乗り込んで破壊するモノで無く、基本的には戦闘機や攻撃機によるミサイル攻撃で沈めるモノだったと思う。
まあ実際には如何成るってるのか知らないけど、乗り込んで白兵戦ってアンマリ今(の地球)では聞かないよね?
「ましてココは無重力の真空、宇宙空間ですよ?ソレが理解出来たら、例えノーダーに乗ってても敵艦に乗り込まないで下さいね!」
「出来そうな気がするんだけど・・・」
「ヤラナイで下さいね!」
割と本気で凄みながらアリスに言われて仕舞った。
ただ今後ファルディウスにノーダーの技術を提供すれば、乗り込んで白兵戦ってパターンも出るのでは無いだろうか?
敵が加速して無いならコチラも動力を切って慣性だけで飛んで行く、敵の技術力から言えば感付かれる事は無いが念の為だった。
アリスのサポートも受けられないが通信も同時に通信も遮断し、探知される可能性は・・・少ないが気を付けるに越した事は無いだろう。
現にスターシップなら探知は出来る事なのだから・・・・・
「10時+25度・・・敵艦隊の哨戒部隊が掠めます」
「やり過ごそう!ステルスモード起動・・・」
全ての発光物を切り、機体表面を無反射モードにする。
地球のレーダー波を反射しないステルスで無く、まあレーダーを含む探知機能の阻害は当然してるんだけどね!
機体表面が肉眼で判別出来ないほど、ほぼ完全に光を吸収し反射し無く成る・・・つまり全くの黒一色に染まり凹凸や形状すら全く分からなく成る。
宇宙空間でコレをやられると全く見えなく成るのだ。
左舷から数隻の艦隊がアイアンイーグルを掠めて消えて行く・・・やり過ごすとステルスモードを解除した。
長時間続けると宇宙空間を浮遊する粒子が、機体の表面に付着してステルスモードが効か無く成る。
「8割方残ってるんだ・・・ヴァイラシアン皇帝も、もうワンチャン間違い無く狙ってるだろう。何とか潰して終わりにしたいけど・・・おっ♪」
敵が減速を始め、こちらも速度を合わせ減速する。
「前方200ベッセルに小惑星群、ヴァイラシアン帝国シータ太陽系のアステロイドベルトです。ファルディウス首都星ミューズや地球の有る太陽系のアステロイドベルトと違い、シィーゲル小惑星群並みに密度の高い小惑星群です」
「って事はボクの描いてたイメージ通りのアステロイドって事か・・・・・」
SF系創作物の影響で、ボクは宇宙に実際出るまで勘違いしていた。
アステロイドベルトって小惑星を縫う様に避けながら飛ばなければ成らないほど、小惑星が密集してる地域だと思ってたのだ。
だけど地球やミューズの有る太陽系では、それこそ小惑星同士の間が何万・何十万kmと離れてたりする。
かと言って・・・そうゆうアステロイドベルトが一般的と言う訳じゃ無く、今回の様にスターシップでは縫う様に航行しなくては成らない狭いアステロイドベルトも有るのだ。
「アステロイドベルトの中に、惑星に成りかけで潰れて仕舞った天体の残骸が有ります」
アリスと遮断されると会話が無機質に感じられる。
「何か有るか?」
「その天体の陰に10万ほど艦隊が隠れています・・・それに逃走した艦隊が合流する模様、総勢19万の艦隊に成ります」
意外と集められた艦隊は多かった様だ。
「よし、もう少し近寄って・・・・・」
すると操縦桿がロックされコントロールが奪われる。
そして勝手にステルスモードに移行し、敵に背を向けて帰還のルートを辿った。
「如何言う事なんだ?」
まあ大体想像付くが・・・・・
アイアンイーグルのタクティカルモニターに、ミューズの顔が映写されメッセージが流れた。
「もしお兄さまが敵艦侵入など危険を犯しそうな時、勝手に帰還する様に保険を掛けさせて頂きました。もしお怒りなら、どの様な罰でも受ける覚悟です。ですから今回は大人しく御帰還下さい・・・・・」
いや単独潜入とか迄はする気は無かったんだけどな・・・もうチョッと近くで観察し様としただけで♪
まあ近付いてチャンスが有ったら、しなかったとは言い切れない。
今回は大人しく帰るとするし、勿論コレでオシリ叩き何てしない。
ただ勝手な真似をした、オシオキ自体を許す積りは無いけどね♪
「ひ~~~ん、お兄さまのHっ!」
ミューズが抗議の声を上げる。
流石にオシリ叩き迄はしなかったけど、代わりに膝の上でミューズを押さえ付け、勝手な真似をしたオシオキに❝オシリ撫で撫で♪❞の刑に処した♡
「もう少し近くで詳細な情報を集めたかったのに・・・まあでもボクが単独潜入しない様にって、気遣いだったんだろうから、痛い思いはさせないで上げる♪」
「セクハラも心への暴力です~~~っ!」
ジタバタ暴れるミューズを押さえ付け、ボクは彼女のオシリの感触を楽しんだ。
「キッド君って結構Hよね・・・まあムッツリスケベじゃ無いだけマシかも知れないけど」
「アケスケでもスケベはスケベだよ~~~っ!お兄さま、もう許して恥ずかしいってばァ」
ジュリアさんが呆れた様に言い、ミューズが半泣きに成って叫ぶ♪
スターシップのリビングにはジュリアさんと副官のミント大尉、それにパイン大尉やシナモン中尉にジェリス艦長やピスタ艦長その他もろもろ集まっていた。
ちなみにスターシップ・コクピット後方にある休憩室を、皆が集まり寛いでるので居間と呼んでいる。
「あんまりジタバタ暴れると、パンティ下ろして直接撫で廻すからね!」
「お兄さまのドH~~~ィ!」
ミューズが抵抗しなくなる。
オシリ叩きじゃ無くても皆が見てる前でオシオキなど我慢出来ないほど恥ずかしいのに、さらにパンティ迄を下ろされては堪らないと思って抵抗を止めたんだろう。
「如何やらヴァイラシアン皇帝が、秘密裏に組織してた艦隊らしいな・・・ヴァイラシアンにしては最新鋭艦で組織されている」
「外見から予測しても大した性能を持って無いね・・・あれが最新鋭の艦だって?笑わせるね♪」
パイン大尉の言葉にジェイナス婆ちゃんが続いた。
ボクの集めてきた情報を分析すると、艦隊構成しては異常なほど大型の戦闘艦で構成されている。
空母的役割や輸送艦の役目も全て大型艦で賄える様に・・・・・
「つまり本格的に人手が足りて無いのね?」
「良く解るねキッドちゃん、そう結局は戦争を維持するに一番大事なのは人さwいや戦争で無く国を動かすのにと言っても良いかも、もうヴァイラシアンは虫の息なんだ・・・・・」
地球と言う単体の惑星の規模からは考えられないほど殺して来たけど、宇宙に展開した帝国を窮地に追いやる程ボク一人だけで殺しちゃったのか?
それとも他でも死んでるのかしら・・・・・
「いや死者の数が多いんじゃ無く、ヴァイラシアン皇帝から愛想尽かして逃げたのが多いんだな・・・逃げた貴族だって過半数は、今後ファルディウスと戦争に成る。ここで消耗する気は無いんだろ・・・・・」
「まだ戦争は終わらない?」
「選民主義思想の貴族が多過ぎるからな・・・奴等はファルディウスの国家の中ではやって行けない。特権を維持して自治とか言い出すだろうが、そんなモノ絶対ウチの陛下は認めないだろう」
「その点は理想的な支配者です」
とジュリアさんが纏めた所で、
「そんな立派な物じゃ無い、国家を運営するのに常識的な事してるだけだ」
と言いながら陛下が入って来る。
そしてボクの膝の上でオシリを撫で撫でされてるミューズを見て溜息を吐きながら、
「キッドよ・・・程々にしとけよ」
と一言で済ませて仕舞った。
「お爺さまが冷たく成った!」
「ジジイ病気か?」
「やかましいっ!」
即ミューズとボクのツッコミに怒鳴り返す皇帝、なんだ元気じゃ無いか・・・病気じゃ無いなw
「オマエと言う奴は一国の元首に対してだな・・・・・」
「キッド君、気にしなくても良いよ。キミの戦果に対して皆で賭けをしたんだが、陛下が一人勝ちしたんで機嫌が良いだけなんだ」
ジェリス艦長が笑いながら言った。
すると皇帝はテーブルの上に、金貨の入った袋を引っ繰り返して中身を見せながら・・・
「帝国金貨24枚の儲けだ♪」
「アンタ皇帝陛下でしょ?そんな端金・・・・・」
「仲間との博打で勝った金で飲む酒は旨いんだぞ!今度オマエにも教え・・・」
「お兄さまには早過ぎます!」
ミューズが常識でツッコんで来た。
「いやファルディウス帝国発行の公式金貨24枚って、普通に大尉クラスの軍人の基礎給料4~5年分何だけど・・・・・」byパイン大尉
「そうか?我が国じゃ1~2年分だと思ったが・・・」ファルディウス皇帝
「間違い御座いません・・・正確には1年と3か月分で・・・・・」ミント大尉
するとパイン大尉が皇帝の胸倉を掴んで揺さぶりながら怒鳴った!
「何でモット早く親征しに来てくれなかったんですか~~~~~ッ!」
普通に考えたら即牢屋行の行為だが、大分彼女はファルディウス流の軍隊に馴染んで来ている。
編入されても仲良くやってけそうだ♪
「ドウドウ・・・私も一応皇帝なんだから、それ以上したら罰せざるを得なく成るぞ?安心せい、このまま良い子で居たら今の階級でファルディウス軍に編入させてやろう」
「本当ですね!約束ですよ?」
皇帝に頭を撫でられながら、子供の様に言い聞かされるパイン・アップルトン大尉・・・これで良いのか?
この世界の奴ってノリが良いよな・・・・・
『キッド様、チョッと・・・・・』
アリスが言い難そうにカチューシャから囁く。
ミューズも空気が変わった事に気が付いた。
『軍事上いや作戦上の問題?』
ボクは軍人じゃ無いから、陛下に従わない部分に限り軍事とは言えない。
『ハイ、かなり深刻な問題です』
如何やらシリアスパートに変わったらしい?
『あなたが持ち帰ったデータを精査した結果、敵の集結地点であるアステロイドベルト内の崩壊しかけた惑星がヒュンケルズ宇宙軍基地だった事が確認されました・・・・・』
「ご都合主義にも程が有るだろう!」
不覚にもボクは叫んで仕舞った・・・・・・




