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取り合えず・・・本体のみ出来上がる。

 マアこう言う風に成る何て、ボクもミューズも思っていなかった。

 あの日から三日後・・・ヴァイラシアンの周囲で残敵の掃討や首都星への降下作戦を警護してたスターシップに、乗り込んで来た皇帝陛下はジェイナス婆ちゃんを見て、


「な・・・なんで貴女がココに!」


 と大層驚いて硬直していた。


 するとジェイナスはエルミスとソノ後継機であるエルミスⅡの作者である皇帝とヴェラニ大尉、更に補佐をしたストラベリー中尉等()()を集めて正座させ大音量の説教を始めた。


「航空機じゃ無くても、上部面積に対し下部面積の・・・」


「船首と船尾のバランスが・・・・・」


「そもそも総容積に対する・・・」


 エルミスシリーズとスターシップのデザインに、欠陥と言う程で無いにしろ彼女には不満が有った様だ。

 如何やら性能より見た眼を重視した点が有ったらしい・・・ちなみに4人目はジュリア中佐、彼女が陛下と一緒に成ってクリッパーのデザインを耐弾性を犠牲にして迄シャープにし様とした事が漏れて仕舞ったそうだ。

 おかげで陛下と一緒に成って罵声を浴びながら説教される事に成って仕舞った!


「性能を突き詰めてきゃ、美は勝手について来るんだっ!その程度の事も判らぬくせに・・・ちょっとキッドちゃん、何でアンタ迄そこで正座してるんだい?」


「いやボクもスターシップの作者だし・・・・・」


 彼女の説教を聞いていると彼女の指摘する欠点は、初代エルミスを模倣したスターシップにも引き継がれていた。

 ならボクも怒られなくては成らないかと思ったんだが・・・・・


「ド素人だったアンタが眼の前に在った船を参考に作っちまったんだから仕方無いだろ・・・ホラ見ろハインツッ、アンタが中途半端な船造るから、若い子が見習って間違った船造っち・・・・・」


 ・・・

 ・・・・・・

 ・・・・・・・・・


 途中まで怒鳴ってジェイナス婆ちゃんの怒鳴り声がフェードアウトした。


「チョッと待ちなさい!キッドちゃん・・・アンタ・・・エルミスをベースに改造したり再生したんじゃ無く、一からスターシップ造ったのかい?」


 絞り出す様に彼女に聞かれる。


「エルミスは地球を出て❝彼❞の元に着くまでに限界を超えちゃって・・・覚悟の上で大気圏を突破したら案の定エルミスは耐えられずアラーム鳴りっぱなし、最後は空中分解しながら何とか不時着して擱座すると言う御定まりの結果に・・・結局バラして素材にして一から造ったけど」


「いやハインツの造った出来損無いは良いんだ・・・要はアンタ、幾ら知識が有ったからって初めてで最初から船を一隻作り上げたのかい?」


 そう言われるとそうなるけど但し・・・その準備は全て彼が用意してくれていた。




 彼の元に着いた時点でミューズの身体は限界スレスレの状況だった。

 ミューズは一刻も早い治療が必要で、即ボクは自分の身体を使う事に同意した・・・彼はミューズの為に命を捧げてくれ、対するボクが身体だけなんて負担の内には入らなかったさ!


 ただ色々と不備や準備が不足しており、ボクの魂と言うか精神をクリーチャー(ボディ)に移してる間、彼は今後の事を色々考えててくれたのだ。

 それに従って船を造り、ミューズの居た世界に生き残ってる❝遺跡❞を探しに戻る様にと・・・同時にスターシップのAIであるアリスに搭載された知識を、有効利用出来る世界に広める様にとね♪




 でもジェイナス婆ちゃんが気に成ってたのは、ソコのトコロじゃ無かった様だ。


「幾ら欠陥船だったからって、初めて造ってハインツのより上等な船を?」


「婆ちゃん許してやって・・・陛下の爺ちゃん、眼が死んじゃってる」


 ボロクソに言われてる陛下の眼が死んでいた。




 その後・・・ボクが造船に関する知識で危険で無いと判断した範囲に限り、ワイズマンズ・ライブラリーの閲覧を許可した。

 そのデータを触りだけ読み取ると、彼女は陛下の首根っこを引っ張りアトロペルスからスターシップに拉致して来た。


「アンタの造った欠陥船の責任を取るんだ、さっさと来なっ!」


 そして国境からコッチに向かってる、アイスコフィンに強制的に向かわされた。


「私達で設計を練り直すまで新造してるエルミスⅡタイプは建造を一時停止、就航してるエルミスも搔き集めて全て再建造するよっ!こんな欠陥船を私の弟子が造ったなんて絶対許さないわ!!!」


 偉い事に成って仕舞ったが、皇帝とも有ろう者が師匠に詰め寄られて何も言えないのが面白い。


「オマエが余計な災厄引き連れて来たんだ!」


 と呟く陛下の後頭部に設計に使ってるタブレット端末が飛んで来る!


「孫が消え落ち込んでたからって、ライフワークだった造船を放り出した惰弱なオマエが未熟者なんだ!ブツブツ言って無いでエルミスⅡの再設計しな!同じく中途半端な船造ったヴェラニとストラベリーも同罪、一緒に基礎設計を組み立て直すんだ・・・もし納得出来るデキじゃ無かったら・・・・・」


「「「勘弁して下さい師匠!」」」


 そう言いながらも陛下も、そしてヴェラニ大尉・ストラベリー中尉も非常に楽しそうだった。


 さて設計は某ロボットアニメ形式で行く事に成った!


 先ずはコスト度外視で制約一切無視の超高性能機を設計する。

 その案を全く制限を設けずにブラッシュアップし、只単に性能を追求して一隻造る・・・これが新生スターシップに成る!

 そして❝その案❞に軍艦であると言う事を縛りにして再設計・・・これは新生エルミスⅡA型艦クリッパーにする!


 その設計を更にディチューンしてB型(戦艦タイプ)・C型(標準巡洋艦タイプ)・C/H型(重巡洋艦タイプタイプ)・C/L型(軽巡洋艦タイプ)・D型(駆逐艦タイプ)の新生エルミスⅡ基礎プランを造り上げる。


「アイスコフィンまで三日、到着までに基礎プランは確立するよ!」


「「「いくら何でも無理だ(です)っ!」」」


 そんな事を言い争いながら国境から首都星に向かってるアイスコフィンに向かってスターシップは進み、その後を必死でアトロペルスが追って来た。

 ちなみにジュリアさんは御説教でジェイナスさんに苦手意識を持って仕舞ったらしく、早々に理由を付けてボク達一行から離脱した。


「設計が纏まったらアイスコフィンに伺いますから、それまではヴァイラシアン皇帝の行方を追わないと、おほほ・・・・」


 皇帝陛下は離脱するエルミスを見ながら、


「上手く逃げやがって・・・」


 と呟いた。


 さて有難い話だが今度の改装はスターシップを極限までバラし、基礎フレームから造り替える事に成る。

 その為ワイズマンズ・ライブラリーの警備は厳重にしなくては成らないが、まあ武装させたアサルト・ノーダーを並べてアリスに警備して貰えば、手を出す馬鹿は居ないだろう。


 先程ジュリアさんも言ったがヴァイラシアン皇帝が逃げた先も皆で探している。

 実際改装に着手するのは、戦争が片付いてからに成るかも知れない。


「お爺さま・・・何だか怒られながらも生き生きしてませんか?」


 そりゃそうだ!

 ミューズが居なく成って封じてた趣味が、また再燃して来たのだろうからw


「とにかく早いトコロ、荷物(陛下達)をアイスコフィンに届けて・・・いやボク達も設計に関わった方が良いな♪」


 実はボクも造船に一寸興味が有った♪




 それから2週間・・・ボク達はアイスコフィンに缶詰めに成り、そして一つの設計プランを書き上げたのがスターシップとエルミスⅡAの基本設計だ!

 ただしスターシップには「コッチの都合」で、一旦預かりボク達の方で修正する事に成っていた。

 公開出来ない技術を搭載するので仕方無いが、なんとジェイナス婆ちゃんはスターシップに乗り込んで来て、ボク達の話し合いに加えろと言い出した。


「私が黙ってれば問題無いだろ?素人だけで船の設計を弄る積りじゃ無いよね?」


 まあ確かに正論だけどさ・・・ワイズマンズ・ライブラリーの、未公開予定の知識までタップリ吸い上げられ、結局は設計に反映させ1ヵ月以上掛かって改良案は決定した。


 さて趣味人達が趣味に走る横でミューズが退屈するかと思いきや、何時(いつ)の間にかエルミスⅡを再設計する時に彼女も加わっていた。

 お茶汲みだけで無く設計助手としても活躍し、皇帝を大いに喜ばせてたみたいだった。

 しかもジェイナス婆ちゃんから「ハインツの奴より才能が有る」と言われ、皇帝陛下がマジで拗ね出してたけどねw


 結局ジェイナス婆ちゃんを筆頭に陛下達3人とボクとミューズにアリスが加わった7人で基礎設計を造り上げ、それを陛下達3人を除外した4人で最終的にブラッシュアップする。

 その時に陛下達も遊んでた訳じゃ無く、基礎設計に軍艦である事を縛り付けエルミスⅡAのプランを纏め上げた。

 標準巡洋艦タイプだったA型だがジェイナス婆ちゃんの経験の恩恵が凄まじく、更に性能を上げた上で何と小型化に成功し、クリッパー君は軽巡洋艦サイズまでダイエットに成功する!


「キッドちゃんのアイディアは斬新で面白い、ファルデウスの宇宙軍が様変わりするわね♪」


 ジェイナス婆ちゃんが楽しそうに言った。


 さてスターシップやエルミスの設計は打撃力・機動性に優れているが、防御面は若干犠牲に成っている。

 それに対しウェルム少将が提案して来たのだが、ボクやジュリアさんの様に機動性にモノを言わせる戦い方をする者には向いてるモノの、ジックリ腰を据えて戦うタイプの軍人には機動力より防御力を優先したいらしい。

 そのリクエストに応えて、全くの別設計でボク達は新たに軍用艦の設計も始めた。

 重装甲に強力なシールドを装備したの防御力重視型の戦艦❝プラティナム❞と、それに艦載機搭載量や物資搭載量を増やした超大型艦❝オリハルコン❞が設計される。

 そしてアトロペルスがオリハルコン級一番艦に成り、それにラグナロク・アルマゲドン・アーマゲドンはプラティナム級の一~三番艦に成るのだそうな。


「普通・・・高性能艦が出来上がったからって、古い艦を鋳潰して新造しないよな?」


「キッド様の世界では考えられ無いでしょうが、コチラの世界では当たり前の事ですよ。リサイクル技術が高く、ネジ一本・壁紙一切れまで再利用して行きますからwそれに合金も元の完全純粋な単一金属にローコストで分解出来ますし・・・・・」


「地球の連中が聞いたら涎を垂れ流して欲しがる技術だよね」


 設計が一段落したボク達は取り合えずテストタイプを鋳潰しながら、そんな暢気な会話をし茶を啜っていた。

 テストタイプやアリスのシュミレーションで技術は立証済み、設計に不備が無いかも何重にもチェックした。


「って事で先ずはキッドちゃんのスターシップから造り直そうか?」


 思わず飲み掛けたお茶を噴き出した。


「せ・・・戦争中に不味いでしょ?」


 ボクは躊躇うが、


「一国の君主が必死に成って逃げ捲くってるんだから、早々簡単にゃ見付からないだろ?なら今の内にいじくっちまおう・・・それにジュリア嬢ちゃんのトコロこそ一個艦隊ほとんどエルミス、戦争中に艦隊を全ていじくる訳にゃ流石に行かないさ」


 そう言いながら背後に陛下達を引き連れ迫って来る。


「オマエ等・・・退屈何で船を(いじ)りたいだけだろ?」


 ボクの発言に4人の眼が宙を泳いだが、溜息を吐きながら仕方なく再建造に同意した。

 この英断が・・・後のボクの大切なモノの一つを守る事に成るのだった。




 戦艦を1ヵ月で造り直すなんて地球じゃ考えられない事だが、コチラの世界では当然の事らしかった。

 人間より精密で不眠不休で動けるドローンが、スターシップの改造どころか個人の私物の整理までやってくれる。

 ましてスターシップのドローンはアイスコフィンのモノより高性能、ただドローンを監視し指示するオペレーターは必ず付いていなくては成らない。


「見事にキレイに成っちゃいましたね」


 スターシップ船内の備品はモノの30分で船外に運び出され、ミューズが呆れた様に呟いた。

 同時にアリスとワイズマンズ・ライブラリー、それに❝ブラックホールダウン❞だけは先に取り外した・・・これだけはジェイナス婆ちゃんにも見せる訳に行かない。

 ミューズが再生中の時と同じく何時(いつ)でも逃げ出せる様に、アイアンイーグルの予備燃料増槽(タンク)の中に設置した。


「これは武器の様だけど、そんなに秘密にしなくても・・・・・」


 ジェイナス婆ちゃんはブラックホールダウンが気に成るらしい。

 ところで今回は武装には手を付けない積りだったが、やっぱりジェイナス婆ちゃんには手を出したい部分が有ったらしい。

 魚雷ミサイル防御を考慮し8連ビームファランクスを4門増設し、コレを前部上下左右に4門と後部上下左右に後ろ向きで4門設置し全天周囲・全方向からの攻撃に対処する。


「モタモタするんじゃ無い、とにかく武装と外装を外しバラす事から始めるよ!」


 ボク達で人に見せられない部分を外した後、婆ちゃんの指示で作業が開始された。


 その後エンジンや装備を外しながらリサイクルしないで使う部品を部品を選別、本体が骨組みに成ると切断しながら分解炉の中に放り込まれる。


「まるで薪を切りながら、竈に放り込んでる様だ」


 ボクは正直な感想を言った。

 炉の中で溶かされながら成分ごとに分解されて行く金属に、ジェイナス婆ちゃんは成分の変更を申し付ける。


「氷晶鋼にはデトリウムは抜いて、代わりにビゾリウムを加えるんだ。それを無重力下で高圧生成する・・・これでフレームの剛性は大分上がる♪」


 この世界の宇宙船は地球の艦船の様にブロック工法では建造されず、工房内で一気に組み上げる様に造られる。

 骨組みの様なフレームを組み上げてから外装甲であるボディに収め、そうして造った各種パーツを合体させて艦船を造り上げるのだ。

 だから分解やパージが簡単で、最悪の場合は戦闘中でも被弾したりして爆発しそうなエンジンを投棄する事も出来る様に成っている。


「上下左右に突き出てるフォトンラダーって奴、付け根部は別の金属に変更しよう!あそこは負荷が掛かり過ぎる・・・・・」


「剛性が必要な部分はビゾリウムを少し多目に加えるんだ・・・同時にフェンシウム鋼で装甲は造る」


「ミットリウムも加えて見ては如何でしょう?実はマダ研究中の新素材で・・・・・」


 流石に解ら無い話が入って来るのでボクとミューズは一歩引くが、彼等は白熱した論争をしながら船の骨組みを組み立てて行った。




 分解が始まってから6週間で、新生スターシップの形が出来上がった。

 途中で素材の変更や再設計による変更が入ったので、予定より2週も余計にかかって仕舞ったのだ。

 一応武装はされて無かったが、その状態で試験航行をする様に言われた。


「あんまり好き勝手しないでよ・・・一応お兄さまの船ナンだよ!」


 ミューズが怒ってくれるが、正直ボクも一緒に成って造り替えてたから肩身が狭い。

 だが予想以上な高性能に生まれ変わって、試運転に付き合った皆が驚く事に成る。


「十分艦隊から離れたよね?」


「周囲に友軍艦・敵艦・共に見当たりません」


「機関正常、何時でもテスト開始出来ます」


 ボクの言葉にアリスとミューズの声が続いた。


「良し・・・動力機関80%まで60秒かけて上昇、同時にシールドを展開し適当な障害物にぶつかって見るよ!」


「「「「えっ?!」」」」


 試験航行について来たジェイナス婆ちゃんと愉快な皇帝達が変な声を上げる。


「了解、機関をアイドリングから平常起動します・・・・・」


「80まで上げたら戦闘航行に入るからね♪」


「「「「イヤ一寸待ちなさいっ!」」」」


 ボクとミューズの会話に婆ちゃん達が声を荒げるが、


「流石に新造艦だけ有って、お兄さま随分慎重ですね?こんなに安全運転なお兄さまは、久し振りに見た気がします」


「そりゃ出来立てホヤホヤの船だもん・・・どこに欠陥が隠れてるか解らないし♪」


「「「「チョッと待て(怒)!」」」」


「それに何より新しい船を壊したく無いじゃない?だから安全運転で・・・」


「「「「いやドコが安全う・・・」」」」


 彼等の言葉をスターシップのレギュラー陣は遮った。


「機関80%、船内オールグリーン・・・これから如何します?」


「勿論全力(フルパワー)で戦闘行動!」


「「「「イヤだからチョッと待てェ~~~ッ!」」」」


 老人と中年2名づつの絶叫を、スターシップは内包したまま戦闘運動に入った。




 アイスコフィンでは無くラグナレクの艦橋で、4人の大人が伸びながら呻いている。

 試運転の冒頭だけ付き合い伸びて仕舞った4人を、仕方ないからラグナレクに降ろして面倒見て貰ってたのだ。

 それでもコンソールに映し出されたスターシップから眼を離さないのは、自分達の造り出した最高傑作の実力を見届けたい為だろう。


「11508沈黙・・・3482沈黙・・・・・」


 ココ・ナッシュ少尉がキッドが撃墜した艦を数え上げる。

 と言っても実際に艦船を潰してる訳で無く、スターシップを動かしながらもデータで作り上げたモニターとレーダーにだけ反応する幻影の敵を、同じくデータ上だけの攻撃で堕としているだけだ。

 ちなみに敵のデータはファルディウス帝国軍の能力に合わせて有る。


「ジェリスよ・・・コレ如何思う?」


「敵に回さなくて良かったと思います・・・彼がヴァイラシアンに付いたら、今頃消えてたのはファルデウスの方でした!幾らシュミレーションと言ったって、30000隻の艦隊を相手に有利に戦う単艦ナンて居て堪りますか」


 呆れ返る二人を前に、


「居るじゃ無いか、眼の前に!」


 ジェイナスが溜息を吐きながら答えた。


「オマエ達、絶対あの子を他国へ逃がすんじゃないよ!得に敵対国には・・・間違ってもソッチに亡命される様な下手(ヘマ)だけは、絶対にするんじゃ無い」


「心得てます」


 ファルデウス皇帝は鼻を鳴らしながら答えた。


「何とか我が国に縛り付けようと画策しております。此方としてはミューズを娶って皇帝の座について欲しいのですが、キッドの性格から言って無理強いすればヘソを曲げて他国へ亡命しかねません。成り行きに任せるしか無いでしょう」


「それが妥当なトコだろう・・・解ってるなら上出来だ♪」


 ビール缶のプルトップを引いてジェイナスが言った。


「あの二人は好き合っている・・・放って置けば自然にくっ付くし、時が来れば玉座に座る事も考えてくれるさ♪まあ本当に座ってくれるか如何かは解らんだけどね・・・・・」


「他に相応しい者が居れば絶対に座らないでしょう・・・でも逆に言えば、自分が一番相応しいと自覚してくれれば座ってくれるんじゃ無いかと・・・・・」


「その時に憂い無く座って貰う為、若い内は暴れさせとけば良いのです。無理に首輪を付けようとせず、好きな様に旅させておけば・・・・・」


 ジェリスの言葉は皇帝に突き刺さる。

 彼が言いたい事くらい、流石に皇帝でも解るのだった。


()じゃ・・・折角ミューズが帰って来たのに、キッドに独占させたくないわい!」


 途端にジェリスとジェイナスが手にしてたドリンクのカプセルが皇帝の後頭部に突き刺さった。

 人目が有るならやら無いが、気心知れた仲間内なら皇帝の扱いなどコンナ物である。


「あの二人は仲良くやってるんだ、好い加減に諦めな!娘や孫娘(まご)何て、結婚適齢期が来れば親や爺を捨てて消えちまうもんなんだから」


「そんな事言ってものう・・・・・」


「拗ねるな、気持ち悪い!」


 いくら師匠弟子の関係といえ、不敬罪と言うモノは存在する。

 ヴァイラシアンなら下手すれば首も飛びかねない・・・なのに皇帝相手でも、言いたい放題のジェイナス婆ちゃんであった。


「オマエ何歳に成ったと思ってるんだ!まったく子供の様に・・・ミューズは間違いなくオマエの孫だ!そのガキ見たいな所がソックリだよ」


「いえミューズ様は正真正銘子供でしょう」


 苦笑を漏らしながらジェリスが宣う。


「いくら子供でも立派な女だ!手のかかる妹ポジションをキープして、悪さして叱られながらもセックスアピールして甘えてる。叱られて尻引っ叩かれながら、何だかんだ言って甘えてるじゃ無いか」


「またキッドはソンナ事してるのか!」


 またキッドと陛下が喧嘩始めるなと思いながらジェリスは溜息を吐くが、


「ああジュリア嬢ちゃんが敵の増援が来たと緊急連絡入れたのに、ミューズの奴が握り潰して大目玉喰らってたよ♪100強くらい尻叩かれて流石に泣いてたな・・・いや100強じゃ無い200弱だったw」


「ナニィ・・・」


 怒気を孕んだ皇帝陛下の声に、ジェリスはジェイナスに「これ以上煽るな」と思ったが・・・・・


「師匠の救出時の話ですか?」


「そうだけど?」


 皇帝はココに命じてスターシップと通信を繋げる。


「こちらスターシップ、戦闘試験はもう終了しましたよ。帰りますからコチラに移って下さい・・・・・」


「そんな事は如何でも良い」


 皇帝の言葉にモニターに映ったキッドは怪訝な顔をする。


「またミューズの尻を引っ叩いたそうだが・・・・・」


「文句は受け付けないよ!悪い事したのは・・・・・」


 すると予想外の返答が帰って来る。


「文句を言う積りは無い」


 おや珍しい・・・キッドは思った。


「敵の増援が来たと言う報告を、ミューズが握り潰したそうだが・・・・・」


「自分で片付けて「私にも出来るでしょ♡」って言いたかったんでしょうけどね・・・・・」


「ミューズ、その通りなのか?」


 この時キッドはミューズの顔が青褪めてる事に気が付いた。

 実は皇帝陛下・・・兵士として従軍した経験は無かったが、それでも即位後に軍を率いてヴァイラシアンと戦いに明け暮れた歴戦の強者だった事を思い出したのだ!

 彼は戦争に置いて情報の重要さ、そして情報を握り潰す事の危険さは骨身に染みて知っている。


「馬っ鹿者~~~~~っ!」


 皇帝でなく祖父としての叱責に、ミューズがパイロットシートから飛び上がった。


「キッドに皇帝として依頼する、私の代りに今晩ミューズの尻を100発引っ叩いてくれ!勿論手加減無しじゃ・・・私じゃ如何しても手加減しちまうからな」


「そんなっ、もう一か月以上前の話じゃない」


 これを聞いた皇帝が怒鳴り声を上げる。


「時間など関係無い、戦闘中に敵の情報遮るオマエが悪いっ!お爺ちゃんからのオシオキじゃ、深く反省するが良い!」


「あ~んっ、ごめんなさ~~~い!」


 ミューズが鳴き声を上げる。




「キッドが帰って来たようだね・・・・・」


 ジェイナス達を拾いに来たので、接続アームでドッキングし様としている。


「近くにオマエが居てくれて助かった・・・キッドの試運転に最後まで付き合ったら、私達の寿命が尽きてたトコロだった」


「それにシュミレーションと言え、戦闘訓練にも付き合ってくれたからな・・・これで武装も考えて詰められる」


 ラグナレクに並んだスターシップは、外見が若干変わっていた。

 より鋭角的に成った本体のシルエットは、その代わりに付属するパーツが丸みを帯びている。

 何となくSF的な要素が加わってる様に見えた。


「さてとアイスコフィンに帰るとしよう・・・まあ出来る事なら戦争中なんだから、スターシップも早目に再武装しといた方が良いだ・・・」


 するとブリッジに警報が鳴り響いた。


「スターシップ、接続アームを強制的に切り離しました!エマージェンシーコールを鳴らしながら、離脱しています・・・」


「キッド君、如何した?スターシップに欠陥でも有ったのか?」


 オペレーターの声にクランキー大尉がスターシップに通信を繋ぎ、質問内容を聞いたジェイナス婆ちゃん達4人が一斉に抗議の声を上げた。


「「「「オマエ喧嘩売ってるの?」」」」」


 スターシップは艦首を巡らしながら、アイドリング中だったジェネレーターをフル回転させている。


「何ノンビリしてるのっ、緊急用周波数でレプトン通信入ってる・・・救助要請だよ!」


 そう言いながらスターシップはラグナレクから距離を取りつつある。


「ゴメンなさい、ジェリスさん・・・悪いんだけどアイスコフィンに、陛下達を届けて貰えませんか?」


「夕方までで良いなら、それより早く届けるのは難しいな・・・・・」


「アタシ等は荷物かい?」


「ジェリス何時からオマエ宅配業者に成った!」


 ジェリス艦長にジェイナス婆ちゃんと皇帝陛下が噛み付いた。


 この世界にも宅配便がある様だ♪

 ちなみに宇宙空間で艦船・コロニー・人工衛星等、人が生活する場所に置いて生活()()の指標を決める場合、その宙域を内包する国家の首都星首都の時間に合わせる慣例が有るそうだ。

 そりゃそうだな・・・一日の長さは星によって全て違う、だからジェリス艦長が言った❝夕方❞はヴァイラシアン首都星・首都に合わせられているが、この戦いが終わればファルディウス帝国首都星ミューズの首都に変更されるだろう。


「ボクは先に行くから陛下をお願いします」


「先に行くってオマエ武装して無いだろ?」


「何とかします!」


「何とかするってオマエ・・・・・」


 クランキー大尉が引き留めようとするも、スターシップは後部ノズルから光を発し加速しながら遠ざかって行く。


「これか・・・如何やらコレが敵の本隊らしいな」


 ジェリスが見た緊急通信の内容は「ヴァイラシアン皇帝を捜索中、約十万の敵艦隊と接敵!包囲され離脱不可能、至急救援を願う」と言うモノだった。

 そして送り主は娘のジュリアだったりする。

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― 新着の感想 ―
数日前から楽しく読ませていただいてます。 シュミレーション 日本人なので言いやすいのですが・・・何回も出てきていて誰も突っ込まないのですか((笑)) 作者はわざと使っているとか!!!(凄) おじさんと…
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