その頃、キッド君達は・・・
「何とか煩いのが来る前に離脱する事が出来ましたね?」
「爺さん可哀想だから、あんま邪険に扱うなよ・・・・・」
ボク達は敗走するヴァイラシアンの艦隊、その最後尾にくっ付いて一緒に航行している。
ほとんどが飛行機雲の様に煙の軌跡を残しながら・・・無重力の宇宙空間だから、航行する艦船が吐き出した煙は取り残されて軌跡を描きやがて霧散する。
「無事な艦は殆ど無いか・・・背後より新たな艦隊が出現!」
ミューズが言うが警戒する必要は無かった。
殿軍を務めていた艦隊が何とか逃げ切って追い着いたのだ。
コチラは比較的、損害は軽微な様だ。
「大丈夫かって声掛けて来たりしないかな?」
「そんなボロボロの艦が何隻居ると思う?ボク達だけに声を掛ける事は無いだろ・・・見かけだけならボク達以上にヤられてる艦も有るし」
そうボク達の見た眼はボロボロのヴァイラシアン艦に成っている。
「鹵獲した戦艦の中をレーザーで焼き切って引っこ抜き、その中に潜り込んで擬装するなんて・・・ナンテコト考えるんですか」
呆れながらアリスが言うが、この戦法はオムド星域のブラックホールで使った戦法の焼き直しでしかない。
偽装で煙や火を噴いてるけど、実際中身のスターシップ自体には傷一つ無い。
「さてと・・・アリス、宙域図を出して♪」
ヴァイラシアン帝国の宙域図がディスプレイに表示される。
「目的地はヒュンケルズ宇宙軍基地・場所は比較的ヴァイラシアン帝国の外れですね・・・・・」
「このまま1週間ほど敵艦隊に同行して、最後は爆散でも擬装して逃げ様かと思たのですが・・・・・」
ミューズの計画は・・・力技で穴だらけだ。
「態々爆散して注目集める必要がドコに有る?そっと抜け出してコッソリ消えれば良いだけだろ?」
コイツは何で派手にやりたがるんだ!
「キッド様の影響かと・・・」
「ボクは戦場以外で派手なパフォしないからね」
と言っても実際に艦隊から一隻だけ離脱しようとすれば目立つだろう。
それなら艦を爆散させ脅かした拍子に逃げるってのも、あながち的外れと言えないかも知れないな。
宙域図で場所の確認をする。
問題はヒュンケルズ宇宙軍基地って戦略研究所って併設されている。
そこは例の細菌兵器や惑星破壊兵器の研究所なんだ。
「情報だけ攫ったら、後は全部消滅させたいね。その為にも行き付く迄は、出来る限り隠密行動に徹したいんだけど・・・・・」
離脱すりゃ眼に留まるよな・・・・・
「お兄さま・・・殿軍を務めた艦隊が、変な動きしてるんですけど?」
ミューズが気がついて報告して来た。
速度を上げ近付いてから信号弾を発し、そのまま速度を落として離れようとしていた。
「何してるんだろ・・・私達に気が付いてる訳じゃ無いみたいだけど?」
「他の艦が気にしてる風でも無い・・・と言う事は認識されても問題ない行動って事だよね?」
何をしてるのか気に成る。
と言うよりアレが認識されている行動の範疇なら・・・・・
「あの中に潜り込めないかな?」
幸い先行し敗走する艦隊の中で、スターシップは最後尾を航行している。
敗走する艦隊より殿軍の艦隊の方が近い位だった。
「最悪擬装の戦艦から飛び出して一暴れして逃げれば良いな」
「「それは考えが、お気楽過ぎます(よ)!」」
アリスに言われるのは兎も角ミューズに言われるのは納得出来無いな!
そもそもコンナ杜撰な計画建てたのオマエだろ?
殿軍の艦隊はボクが見た感じ中々善戦していたと思う。
多分だが司令官同士の指揮権奪い合いにも参加していない。
つまり常識を持つ艦長さん達だ。
さて速度を落として隊列を組み直す艦隊に合わせ、コチラも速度を落とす。
内部で戦艦の前半分を切り離し、慣性で前に進ませた。
上手く行けば艦が力尽き、空中?分解して脱落した様に見えるかも知れない。
「あの艦隊はジュリア中佐の艦隊を押し留めた殿軍ですね・・・相当激しく撃ち合ってますが、結局足止めを成功させてます。スターシップが補給してる間も、ずっとネチネチ付き纏っててジュリア中佐が青筋を立ててました」
ジュリアさんに喰らい付き、最後まで戦い抜いたなら相当 有能な指令官だろう。
艦船はロイヤルフェンサーの方が圧倒的に高性能、つまり艦隊戦を指揮する手腕はジュリアさんより2・3枚上手だと言える。
「スターシップ停船しました。通信を傍受してますが、如何やら無理矢理招集された地方貴族の様です」
コクピット内に敵の通信が流れる。
内容は言い争い、いや罵り合いと言った方が近い。
如何やら敗走する艦隊の偉い人は「首都星を守れ」と命じ、殿軍の指揮官は此処等で足止めの防衛線を張らせろと反論している様だ。
「ボクも専門家って訳じゃ無いけどさ・・・・・」
「ワイズマンズ・ライブラリーの知識も、軍学上敗走する艦隊の指示を否定します。そもそも首都星のみを守った所で、周囲の星域を奪取されたらヴァイラシアン帝国は滅びます。欲を出して負けた所でビビッた皇帝と取り巻きが結集を指示した様ですが、悪手であると言わざるを得ません」
結局2つの艦隊は喧嘩別れし敗走する艦隊は首都星へ、殿軍を務めた艦隊はココへ居残る事に成った様だ。
敗走艦隊の偉そうな奴が「軍法会議」をチラつかせながら・・・残った艦体は艦列を整えながら陣を整え、スターシップは残骸を装って漂っている。
コイツ等は敗走してるヴァイラシアン軍より精強そうだし、ジュリアさん達が来る前に掃除しとくかな?
艦列が整った所で各艦から旗艦に連絡艇が集まり出す・・・通信で無く顔を突き合わせて会議するのだろう。
「アリス、システムにハッキングして会議を覗く事は出来ないか?」
「流石に外部からのハッキングに対しては防衛してるかと・・・反乱軍みたいに馬鹿の集まりなら、多少は隙を突く余地が有ったんですけどね」
結局ナニも有効な手立てが考え付かなかったので、ボクは旗艦に忍び込む事を選択した。
最後まで反対だったミューズは、あまりにも聞き分けが悪く騒ぎ続けたので・・・ミノムシ状に縛り上げてアリスに足の裏を擽らせる。
先程の仕返しである♪
「じゃあ根に持たれない程度に折檻してから解放して頂戴♪勿論ゴメンなさいって言うまでは、許しちゃ駄目だからね」
そう言うと宇宙空間に身体を躍らせる。
エネルギーを使う動力は敵に察知されるので、ボクは宇宙空間に圧縮空気で吐き出される。
綿密に計算した上で・・・暫くして敵の連絡艇が眼の前に現れた。
ボクは死んだ振りをしながら、連絡艇の簡易スキャンしていた。
内部の会話が連絡艇の壁面に伝わり、その振動を読み取って音声を解析する。
「こんな所まで遺骸が・・・先程連絡に有った戦艦かな?」
「空中分解して二つに成った奴だろ?多分間違いない・・・・・」
コチラの事を見られてた様だ。
「回収しますか?」
「この度の戦いで何人死んだと思ってる?彼だって星空を見ながら眠る方が幸せだろう」
「しかし見た事無いタイプの宇宙服だな・・・・・」
冷や冷やしながら会話を聞くが、そのまま通り過ぎて行った。
ボクは背後に置いてかれたのを確認し、一度だけ圧縮空気を噴出して連絡艇の下部に張り付いた。
「デブリでも当たったかな?」
そうだから気にするな・・・と思いながら戦艦に入る前に手を放した。
少し漂ってから連絡艇などの発着口を覗き込む。
見張り等は居ないらしい。
勿論、侵入防止用の監視機構がフル回転していた。
機械的なモノはジャミングしながら、侵入出来そうな場所を探した。
眼の前の戦艦の壁面に穴が二つ開いている・・・片方は何か黒い粉末が排出され続け間違いなく中に繋がっている。
『分析結果・・・人間の排せつ物を脱水し焼却した炭化物です。ココはトイレの廃棄口で・・・・・』
使いたくない・・・ボクは連絡艇の発着口に戻りソコから内部に侵入する。
発着口はボクが入った途端、ゲートのハッチを閉めてしまった。
周囲を見渡し様子を窺う・・・よく映画やアニメで敵の施設や艦船に忍び込みダクトの中などを移動するが、多分アレはフィクションで現実には不可能だろう。
いや本当に施設や艦船の中を見学した訳じゃ無いけどさ、そんな侵入出来そうなルートを放置するかな?
間違いなく潰されるし、残されても警備は厳重だろう・・・なら廊下を歩いた方が早いかも知れない。
ボクは絶対にやらないけど、じゃあ何故こんな所まで来たのかと言うと・・・・・
「規格が若干違うから・・・これかな?」
船内各所にある端末が目当てだったりする。
発着場の端に有った制御室、その中で携帯端末に繋げて見る。
アリスの造った携帯端末のハッキング能力なら、どの部屋の会話も気付かれずに聞く事が出来た。
ズバシュッ!
先ず聞こえたのは銃声だったんで驚かされた。
「ふざけるなヨ!このクソッ垂れ共が・・・・・」
眉間に穴をあけた肥満体の青年を蹴り転がし、端正な顔立ちの青年が毒吐いた。
見渡せば他にも、明らかに装飾過多な軍服を着た人間が何人か転がっていた。
ただ装飾が過多であること以外に大きな違いがあった・・・立っている人々は多少体躯の違いが有っても、殆どが鍛えられ引き締まった身体をしている。
それは訓練のみならず実戦で、事務職で、実務で・・・身体を頭を使って来た、質実剛健な雰囲気が漂っている。
対して転がってるのは締まりの無い肥満気味の身体だったり痩せぎすだったり・・・彼等はヴァイラシアン帝国の貴族達であった。
「結局コイツ等はオレ達を駒か盾にしか考えて無いのだ・・・止むを得ない!故郷に帰って家族を連れ逃亡するしか無いな」
口髭を蓄えた初老の士官らしい男が言った。
しかし他の士官は顔を暗くしている。
「如何した・・・反旗を翻すは不満か?オマエ達さえその気なら、私を反逆者として帝都に引き渡しても良いのだよ。オマエ達の糧に成るなら私も・・・・・」
「見損なわないで下さいね!」
若い将校は声を荒げる。
「私が気にしてるのは逃亡先です。亡命するにしても、この人数じゃ何処も受け入れてくれません・・・精々良くて辺境の入植者としてでしょう。ましてファルデウスやジョンブルスンじゃ、戦犯として処分される可能性も・・・・・」
「ファルディウス帝国の皇帝は、君主にしては人情に篤そうだったが・・・・・」
初老の男が言った。
生き残ってる将校で一番年齢と地位が高い様だ。
「ギブスン司令・・・ファルデウス皇帝の息子は、あのダラスですよ!娘を虐待し従わせる為に貴族の妻子を人質にとる外道です。父親だって信用出来ません・・・・・」
ワ~~~オ♪
その言葉を聞いたら血の雨が降るぞ・・・誰が聞いたらだって?
勿論だが陛下じゃ無くてミューズの方さ♡
「だが故郷に・・・マルティニーに戻って立て籠るのか?それで勝算が有ると思ってるのか?ヴァイラシアンを退けたら次はファルデウスだぞ・・・戦線を維持出来ると思うか?」
こう言うのは無理ゲーと言うんだろうな♪
全員が意見を出し合うが、有効な方針や希望は一切出て来なかった。
その時ボクの怒声が会議室にまで響いた!
「オマエ等、戦場を舐めてるのかっ?!」
死体の転がる会議室で、何故かコントの香りが充満する。
数十分前に遡る・・・会議室の中では銃声が響いた後、ヴァイラシアン現皇室と軍上層部への非難で溢れていた。
一部の貴族が声高に皇帝に殉ずるべきと、自己陶酔しながら叫んで撃たれたのだ。
そう言うなら自分が見本と成って前に出るべきだろ?
宇宙に進出しても、こう専制政治じゃ腐敗してくのも仕方ないのかな?ファルデウスは健全だけど、何代それが続くのか・・・ジュリアさんが聞いたら青筋立てて文句を言うだろう。
しかも明確に集団脱走いや離脱で話が纏まっている。
だが・・・この人達は会話するに値する価値が有る人物に思えた。
ジュリア中佐を凌ぐ艦隊指揮能力も、このまま宇宙の塵にするのは惜しい。
先程までの会議の内容を纏めると・・・マルティニー伯ギブスン卿と言うのが、この艦隊の指揮官らしい。
もう面倒臭いから、このまま直接話をしよう。
ボクは携帯端末を操作し、偽造ツールを停止する。
これで侵入者の存在が暴露た筈・・・警備兵が飛んで来るだろう♪
10分経過・・・誰も来ない。
そんな馬鹿な・・・こんな警備が腑抜けている軍艦が合って良いのか?
ボクは警備室に『連絡艇発着所のコントロールルームに侵入者が居ますよ』とメールを送った。
更に10分経過・・・オヤツを食べながら待っているが誰も来ない。
いや忙しいのは分かっている。
緊急事態なのも・・・ボクはブリッジに直接繋ぎ、自分が侵入してる事を暴露する。
ブリッジのオペレーターは存在しない筈の子供の姿に大慌て、ボクと話しながら警備担当者を呼び出していた。
更に10分・・・ボクはキレた!
館内放送をジャックし、
「オマエ等、戦場を舐めてるのかっ?侵入者が居るんだぞ、侵入者がっ!コレが工作員だったら如何する積りだっ?現にボクはコノ30分で、この船を5回は沈める方法考え付いたぞっ!」
1分後・・・コントロールルームの周囲を武装した警備兵が取り囲んだ。
窓ガラス越しに皆が緊張してる様子が見て取れるが、ボクは彼等を無視して悠然とオヤツを咀嚼している(怒)
すると偉そうなお兄さんがコントロールルームの前に来て、そのドアを丁寧にノックした。
「開いてますよ」
ボクが不愛想に返事すると彼は畏まった表情で入室し、
「大変お待たせいたしました」
「全くだよ!」
捕虜の方が異様に態度がデカい、不自然過ぎる光景に成っていた。
その侭ボクは会議室に連行される。
左手にジュースのボトルとポテチを抱えながら・・・ちなみに会議室の様子はカチューシャ越しに、ずっと聞き続けていた。
「失礼しますっ!侵入者を発見し捕縛しました」
さっきのお兄さんが言ったが、
「訂正しなさい・・・コノお嬢さんは発見も捕縛もされていない。自分から来訪されたじゃ無いか・・・今日の警備担当者は全員2階級降格させろ!」
お嬢さんじゃ無いんだけど!
まあ彼の言葉を聞いて「うわっ!厳しい」と思ったが、
「ハイ、すで現在発着場でボコしています!」
体罰も入ったか・・・
「さて・・・この少女は?!」
困惑してるのは分かるけど、後で一発蹴飛ばしてやろう。
「1時間以上前に侵入し会議の様子を30分近く拝聴・・・その後名乗り出たのに更に30分放置された侵入者です」
辺りを微妙な空気が流れた。
「警備担当者達の体罰は勘弁してやれ・・・その代わり艦内の全トイレ清掃6か月の刑だ!それとコチラのお嬢さんにお茶とお菓子を・・・・・」
溜息を吐きながらギブスン司令官は言った。
「お気使いアリガトウ御座います。でもソノ前に一つだけ訂正を・・・お嬢じゃ無いから!」
最初は意味が解らなかった様だが少し考えて
「失礼した・・・少年、お名前を窺っても?」
「セイ・ヤフネと申しますが、こっちの世界じゃキャプテンキッドの方が通りが良いかと・・・・・」
警備兵達が銃口を上げ様とする。
「お客様に失礼な真似をするな・・・自ら乗り込んで名乗りを上げられたのだ。何か考えられても居るのだろう」
「しかし武装は・・・・・」
確かに銃は取り上げられたが、
「ボディチェックが甘過ぎませんか?ジュースボトルの中に小型の中性子爆弾を・・・あとポテチの袋にもビーム攪乱微粒子を♪」
「オマエ今晩から三日間、営倉な・・・・・」
案内してくれたお兄さんが項垂れた。
なんかゴメンね・・・・・
「しかし良い度胸してるな・・・で私に話が有ると?」
「オジサン達、この後如何するの?」
挑発の意図も有りオジサン呼ばわりして見る。
「如何にも成らん・・・会議は聞いていただろ?」
軽く受け流される。
ギブスンさんは懐が深そうだ。
「ヴァイラシアン帝国に忠誠は残って無いの?」
「その値打ちが有るかな?中央貴族だってコチラなぞ消耗品程度にしか思って居るまい」
眼の前に域図を前に宙理が広げられていた。
「ギブスンさんの領地と領民は?」
「恒星系1つ・・・自然惑星が3に難居住惑星が2で後の惑星は無人、それにスペース・コロニーが4基で総人口が約10億人だ」
全員逃げるのは不可能、希望者だけでも最低万単位出るだろう・・・逃げるのは現実的じゃ無かった。
ちなみに自然惑星とは文字通り自然を有する惑星、動植物等が繁殖して酸素マスクなどが無しでも生存出来る惑星、勿論テラフォーミング後の惑星も含まれる。
それに対し難居住惑星とは住民が地上コロニーの中で生活し、外に出るには常に酸素マスクしてたり宇宙服みたいな物を着てたりする所を指す。
本来住めないが鉱物資源が有ったりするので仕方なく、ギリギリ何とか生存出来る様にして住んでいる惑星の事である。
「ねえ・・・もしギブスンさん達がファルデウス軍に対して堅陣を敷いて立ち向かう姿勢を見せてたら、それでも軍規違反でギブスンさんの首を取りに来るほどヴァイラシアン皇帝って馬鹿だったりする?」
ヴァイラシアン軍人の皆さんが難しい顔をして考え込んだ。
そこは即否定しなくちゃ成らない所だろ?
考え込まれる様じゃヴァイラシアン皇帝って終わってるんじゃ無いか?
「結論から言うとヴァイラシアン皇帝は馬鹿だ!だが同時に人格は最低にして臆病者、ファルデウスに対する盾である以上、恐くて処分出来ないだろう」
ヴァイラシアン・・・本当に終わってるな!
「軍監が派遣される可能性は?」
「大いに有るな」
「そいつ等の口を塞ぐか拘束して、一か月くらい誤魔化せると思う?」
「たぶん誤魔化せるが、それ以上となると流石に難しく成って来るな」
ボクはカチューシャ経由でミューズ達に相談した。
『ヴァイラシアンの首都星とかに気が付かれず、大至急ジュリア中佐の所まで行って戻って来れるかな?』
『スターシップなら可能です♪』
『お兄さま、相変わらず敵を篭絡するのが上手いですね♪』
ボクは宙域図に大きく横線を引いた。
「このラインに防衛ラインを張って、ファルデウス軍が来たら投降して寝返りませんか?敵軍の将として裁かれる人が出るかも知れないけど、それ以外は領地そのままにファルデウス帝国に帰属可能って条件で・・・・・」
「乗った♡」
この人もノリが良いな・・・ファルデウスとは相性が良いだろう。
24時間後・・・
「軍人である以上、敵に対して剣を振るうは運命だ。それを罰する事はせんし、寝返ってくれるなら地位を約束する。ただし戦争を立案したり、武力を行使する事を決定した者は裁く事に成る」
「ではギブスンさんの命と地位は?」
「保障しよう」
「良かった・・・ノーと言われたら本人は兎も角、部下が黙って無さそうでした」
コレで説得出来るだろう。
問題は・・・
「逆侵攻してギブスン指令に合流するには?」
「50日」
チョッと不味いかも?
「もう少し早く出来ません?」
「戦争を甘く見るで無い・・・コレでも大急ぎだ。艦隊を揃えるのは可能だが、兵站を整えるには50日を掛けざるを得ない」
無理を言っても仕方ないだろう。
「仕方ない・・・何とかします」
「オイコラッ、ミューズだけでも置い・・・」
最後まで聞かないで通信を切った。
ジュリア中佐がケタケタ笑っている。
「首都星に戻った途端にアナタ達が帰って来るなんて、ずいぶん陛下は運が悪いよね?」
「普段の行いでしょう♪」
「オマエ・・・爺さんには遠慮しないな」
ミューズは今日も平常運航の様だ。
「しかし50日か・・・ギブスン指令達が持つかな?」
「正直ファルデウス軍としても持って欲しいな・・・流れる血は少ないに越した事は無い」
その割には先の戦争でスコアを稼ぎに行った・・・何て冗談で言うけど本気で思っては無い。
敵が残ってたらコチラが撃たれる・・・戦場では降伏しない以上、敵はタダの的でしかない。
「まあ仕方ないや、ジュリアさんは成るべく早く来てくださいね♪」
「待っててね♪」
ボクはミューズとスターシップに戻ると、大急ぎでギブスンさんの元に戻った。
ギブスンさんの所から遠い場所にワープアウトし、フォトンエンジンで首都星の様子を窺いながら近付いた。
敵に気付かれない為に・・・・・
「50日は難しいな・・・・・」
ギブスンさんが唸った。
軍監とか監察官と呼ばれる者が派遣され、口を塞ぐか監禁して行方不明にさせ、再度派遣され一度くらいは同じ事を繰り返す、そして今度は艦隊が派遣され迎撃して反逆がバレるのに一か月前後と言うのが彼の読みだ。
「そうしたら次に来るのは大艦隊、我等だけで戦うには少々荷が重過ぎる」
まあ其処まで来たら誤魔化すのは不可能だろう。
「何とか50日やり過ごす方法・・・・・」
軍監が来るとしたら当然首都星からだな・・・流石に艦隊といっても10隻未満の小艦隊で来るだろう。
敵は首都星の防御を固める事しか考えていない。
「良い事思い付いちゃった・・・この辺に50隻くらいの小艦隊を隠せる様な、場所って何か無いですか?」
ギブスンさんが防衛ラインを張ったのは、比較的と言え国境に近い宙域で首都星からは遠い。
むしろジュリアさん達が集結している宙域の方が近いと言える。
「小惑星群が1か所とガス雲が1か所・・・廃棄コロニーの投棄場所も有るな」
ボクは暫く考えてから、
「もう一度ファルデウス軍のトコ行って来ます」
「気軽に国境を破るんじゃない!」
「でもレプトン通信にしろレーザー通信にしろ、ヴァイラシアンに傍受され解析される可能性有りますよね?」
ギブスンさんは黙り込んだ所で、「行って来ます♪」と言った。
彼の返答は、行ってらっしゃいだった。




