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行き成り3426人の命を預けられる!

 無事に出発したアイスコフィン号だが、やる事は多く忙しい航海に成る。


「5日間加速して針路を微調整、その後も5日ごとに針路を調整します。同時に救難信号(SOS)を発信し続け、更に此方の状況も通達しておきます。計算では32日後にファーレン近郊に到達しますが、24日目には通常通信でもタイムロスレスで会話が可能な圏内に入り、27日目から逆噴射を掛けます」


 ココ姉さんが計算しながら教えてくれた。

 アイスコフィンは艦隊を繋げた全長5000mのマカロニだ。

 船体構造は極めて脆く、急加速や急制動を掛けたら分解してしまう。


「まあ27日目に入れば流石に救援部隊も来れる範囲に成りますが、そこまで行ったらファーレンのステーション・コロニーまで横付けしてやった方が良いでしょう」


「その方が余計な手間を掛けない分、受け入れ態勢が万全なモノに成りますし・・・・・」


 ファルディウスの軍人たちも同意する。


「現在アイスコフィンの後部には、大型戦艦48隻分のロケットエンジンが全力で噴射しています。5日間の加速で超光速(ハイパー・レイ)に到達しますので、その後で半分のエンジンを解体して前方に移動、逆向きに装着します。ファーレン宙域に到達したら逆噴射を掛け、予定通り行けば32日でファーレンの第8ステーション・コロニーに付くのですが・・・問題は2つあります」


 宙域図が足下に映し出された。


「現在地とファーレンを結ぶ進路上に、ピッタリ2つの障害物が存在します。先ずは8日目に打ち当たる惑星のイノタ、コレは5日目の進路調整で躱す予定です。ですが本当に問題なのは14日目に到達する宙域で、この掠める様に存在する小惑星群に海賊の根城が・・・・・」


 それは問題だろう。


「デブリ程度だったらシールドで弾けるが、小惑星でも置石されたら一発で詰むぞ!」


「コチラを粉砕し、欲しいモノを拾って逃げるだけだからな・・・奴等にとって戦艦の武器やエンジンは喉から手が出るほど欲しい」


 超高速で接触すれば全て粒子級に分解されるが、置き石をすればコチラも減速位する。

 その事も念頭に入れて行動するだろうが、ヤラしい奴等だなと思った。


「コチラの状況は救難信号で判ってる筈だ・・・何もしないとは考え難い」


 皆の眼がボクに集中する。


「ならやる事は一つだ・・・スターシップで先行し、何かしてる馬鹿が居たら吹っ飛ばす!」


 それが一番手っ取り早い!


「ところで・・・まだ何も思い出せないの?」


「ダメ、全く思い出せない」


「大丈夫なのホントに・・・・」


 ココさんが心配そうに言った。

 コールドスリープを強制的に解除すると、記憶障害や性格変貌が見られる事が有る。

 だが余程乱暴に起こさない限り、普通は2~3日で治まる程度の症状なのだ。


「まあ思い出せないなら仕方が無いや!仮の名前も考えたし・・・・・」


「何て名前だ?」


 ジェリス艦長も聞いて来る。


「キッドだ・・・キャプテン・キッド!」


 皆が大爆笑し、アイスコフィンのコクピットが笑い声に包まれた。


「いや似合ってるよ!坊や(キッド)何てオマエにピッタリ♪」


「寝てる最中に、鼻の穴の中にタバスコ垂らすよ!」


「アレはヤメテ!本当にキツイから!!!」


 挨拶代わりにボクの尻を叩くジェリス艦長の副官には、居眠りしてる時に仕返しした事が有る。


「ボクの故郷で実在した海賊の仇名だ」


「軍人の前で、海賊に成っちゃ駄目だろう?」


「海賊と言うより船乗りとして上げたんだけどね」


 そう言ってボクは、着崩してる軍服の胸元を開いた。




 そして13日目、予想通りの展開を見る事に成る。

 イオンエンジンを付けて移動中の巨大な小惑星を発見した。

 周囲を飛び回っているのは海賊達だろう。


「こちらアイスコフィンです!現在、不審艦の船体コードを確認中・・・全船が賞金付きの海賊船です。4時間以内に破壊しないと、破片が進路上に散らばり被害を受ける可能性が出ます」


「スターシップ、キャプテン・キッド!了解、5分で片付ける」


 スロットル・ペダルを踏み込んでスターシップを加速させる。

 小惑星まで75ベッセル!


「ハイパー・レイで航行し電磁加速砲(レールガン)を発射する」


「敵・艦船は如何為さいますか?」


「無視!小惑星が吹っ飛べば、タダじゃ済まないでしょう?」


「ほぼ殲滅出来ます」


 ハイパー・レイで吹っ飛び続けるアイスコフィンに合流しなくては成らない。

 海賊なんかに同情してる時間は無かった。


「距離50、レプトン通信で海賊より降伏の・・・」


「却下!」


 人を殺そうとしといて助けてくれは、ちょっと図々し過ぎるんじゃない?


 スターシップはハイパー・レイから更に加速し続け、すでに周囲の天体等は肉眼では光る線に成っている。


「レールガンの充電完了、使用するのは凍結粒子弾でよろしいですか?」


「よろしいです!」


 敵を表示する輝点に照準を合わせる。

 ボクは操縦桿に付いているトリガーを引いた。

 船体の加速と射出の加速、その凶悪な速度で、凍り付いてる金属粒子の弾丸が射出された。


「着弾、衝撃波来ます」


 眼の前に拡大された映像で、小惑星が海賊船ごと爆散した。

 光速を更に超えたスピードで射出する粉末金属を凍結凝固された弾丸は、小惑星程度を消滅させるのに十分過ぎる破壊力を持っている。

 数秒遅れて船体に振動が走った。


「破片は2時30分上方38°に向かって吹き飛ばされました。進路上に障害物を残す懸念は有りません」


「海賊の生き残りは?」


「すでに生き残った2隻が逃走し、ハイパー・ドライブに移行しています。15秒でハイパー・レイに到達、彼等が私達の進路に妨害しなおす時間はありません」


 作戦は成功の様だ。


「アイスコフィンに帰還する。作戦成功を伝えといて」


「了解・・・アイスコフィンには13分で合流します。私が操縦しますので少しお休みください」


 自動と言うよりアリスに操縦を任せ、ボクは宙域図を開いた。

 この後に海賊などに襲われる宙域は無さそう、だが個人的にジェリス艦長などに敵意を抱く者が居るかも知れない。

 例えば収監されている、今回の元凶に成った貴族とか・・・宙域図に待ち伏せ出来そうなポイントが無いか確認する。


「一応私の方でもチェックしましたが、危険そうな地域は無さそうです。マカロ・・・失礼しました。アイスコフィンが見えて来ました」


 前方に筒状の物体が航行している。


「背後に回ってマカロニの穴に侵入する。速度を同調させて♪」


 アリスが噴き出した様な気がした。




 マカロニの穴・・・アイスコフィンは中空構造だが、内部では忙しなくドローンが作業している。

 コールドスリープに入らなかった50人の内、30名はドローンの操作に追われていた。


「こちらアイスコフィン・ナッシュ少尉、スターシップは12時先頭ブロックに着艦願います」


「こちらスターシップ・キッド了解♪」


 いつでも飛び出し脅威に対応出来る様に、一番先頭の部分に着艦する。

 すぐにドローンが補給と整備に動いた。


 ヘッドバンドだけ着けて船を降りると、アイスコフィンの艦橋に向かった。

 コレは操縦時の補助アイテムだが、付けてるだけでアリスと会話やスターシップの遠隔操作が出来る。


 すると途中でジェリス艦長の副官、クランキー大尉に出会う。

 彼も艦橋に向かう様だ。


「しかし・・・その美貌に、パンツスーツと言え女物の軍服、長髪にカチューシャじゃ女の子にしか見えないな・・・襲われない様に注意しろよ♪」


 揶揄われてる事は判ってるが、自分でも女の子みたいな外見と判って居るので怒りが沸かない。

 まあ実際に襲われたら激怒して、相手を半殺しにする自信が有るが・・・逆に気に成っている事を聞いて見る。


「そう言う事は、良く有るの?」


「冗談だよ・・・大昔なら有ったかも知れないが、今は催眠誘導や自白剤を使って適性検査されるからな、女が居なくて我慢出来無く成る様な奴は最初から軍人には成れないよ。でも何かの切欠が有れば、善良な人間だって罪を犯すし豹変する事も有る。完全に信用するのは考えモンだな・・・・・」


「誰かさんは我慢出来なくて、ボクのオシリを良く撫でてたけど?」


 タップリ嫌味を含めて言ってやる。


「ありゃ冗談だよ!ラグナレクにも女性クルーが15名乗艦してるが、奴等のケツを撫でた事は一度も無いんだぜ」


「クランキー大尉がホモである可能性は?」


 彼が顔を引き攣らせた。


「無い無いっ、そんな事は絶対に無いっ!ふざけて何度かケツを撫でた事は謝るから、冗談でも特に女性陣には言わないでくれ。あいつらの耳に入った日にゃ艦内中に知れ渡って、3か月はネタにして揶揄われ続ける」


 おどけた調子で大尉は言った。


「でも・・・あんな大きな戦艦で、一隻辺り乗員150人って少なく無い?」


「小型艦と言え一人で乗ってて何を言う・・・まあ今では自動化(オートメーション)されて航行や管理の人数は大分削減されたが、代わりに火器は小型化され積載数が増えたから戦闘要員も比例して増えてるよ。それに艦載機のパイロットも要るしな・・・・・」


 シールドが発達し小さ過ぎる戦闘機では有効な打撃を敵に与え難く成って来たが、マダマダ廃れて来ている訳では無かった。

 それでも選り有効な戦艦巨砲主義が復活した・・・だが戦艦で入り込めない宙域での作業など、艦載機の必要性が薄れた訳では無い。

 そして各種設備の小型化により、戦艦と空母の境界が無く成って来た。

 実際スターシップにも艦載機と機動歩兵(アサルト・ノーダー)・・・いわゆるロボット兵器が搭載されている。


「お帰りなさい、パーフェクトな任務遂行でしたよ♪」


 ココ姉さんが嬉しそうに言うと、ジェリス艦長がコチラに向き直った。


「キッド君は軍に入る積りは無いんだよね?」


 ジェリス艦長に聞かれてボクは頷く。


「じゃあステーションに着いたらギルドに加盟してくれ。そうすれば今回の報酬もギルド経由で払えるし、海賊の懸賞金も貰えるよ」


「ギルドって何なの?」


 大体想像が付くが、聞いて置いた方が良いだろう。


「正式にはシップオーナー&セイラーズ・ギルドと言い船主や船乗りの組合だよ♪仕事の斡旋から報酬・懸賞金の受け渡し・・・船乗りは賞金稼ぎや傭兵業務も兼業してる事が多いから、それにスタッフ募集や銀行業務も行っている。それに船乗り以外のギルドとの橋渡し・・・例えば商業ギルドから輸送や護衛の中継ぎだとか、学術・開発系のギルドから探検調査の依頼とか」


「ギルドにはポイント制が有って、加盟した後で今回の仕事も申告すればポイントが加算されるわ。ポイントが溜まればランクが上がる・・・海賊退治は誰がやっても良いけど、護衛とかは依頼主がランク指定したりするしね」


 クランキー大尉とココ姉さんが説明してくれる。


「ここは宇宙空間だし、海賊ってより宙賊って言った方がシックリ来る気がする」


「ロマンが無いなぁ・・・私達が乗ってるのは宇宙船や宇宙戦艦に宇宙用の艦艇、この広大な宇宙を第二の海に例えてるのさ。それに宇宙賊ってより宇宙海賊の方がシックリ来るだろ?海賊で良いじゃ無いかw」


 ピスタ艦長が言った。

 彼はボクからスターシップを奪う事を、良しとしなかった数少ない艦長の一人だ。


「4000ベッセルまで進路上の安全を確認出来ました。暫くは安心して進めますから、キッドさんは休憩しては如何でしょう?」


「残念だけどコッチもやる事が有るんだ。このモニター使っても良い?」


 了承を貰ってからアリスに連絡してデータを送らせる。


「何をしてるの?」


「記憶が無いからスターシップのドコに何が有るのか判らないんだ。日用品すらも・・・今ドローンに片っ端からコンテナやロッカー開けさせて中をリストアップさせてるんだけど、そのリストに眼を通さないとパンツすら無いんだ」


「世話に成ってるんだし、必要なら幾らでも軍の物資使って良いよ?軍の支給品のパンツは、けっこう質が良いんだ♪」


 ボクは剥れた顔をしているだろう。


「体型に合うのが無いんだって、女物のパンツ穿かされてるんだけど」


 それを聞いた皆が、ココ姉ちゃんを叱り付けた。


「コラッ!」


「ココッ、セクハラだぞ!」


 それって如何言う意味だ?


「キッドも気が付けよっ!船には痩せ型の男だって乗ってるし、そもそもフリーサイズなら伸縮性には余裕が有る。多少大き目でも十分穿けるぞ!」


 つまり揶揄われていた訳だ!


「ココ姉ちゃん・・・・・」


 思いっ切り恨めしい声を出して姉ちゃんに詰め寄った。


「わ・・・私だけ悪い訳じゃ・・・・・」


「この悪戯に参加してたのは誰なの?」


「女性スタッフ全員・・・・・」


 ラグナレクの女性スタッフ14名は、ほとんどコールドスリープに入らないで作業している。

 その全員から揶揄われていた訳だ!

 今は非常時だから仕返しなど出来ないけど、向こうに着いたら覚えて置けよと心の中で思った。


 だが問題は解決しなかった!

 ファルディウス軍支給品のパンツは、男性用Sサイズもフリーサイズもボクが穿いたらズリ落ちてオシリを晒す事に成った。

 クランキー大尉が言う様に「多少大き目でも十分穿ける」と言う訳に行かなかった。


 余計な装飾は付いて無いとか、この程度なら男性用にも似たモノが有ると慰められ・・・ボクは今日も女性用スパッツを穿いている。


「何としてもファーレンに着く前に、キッド君にビキニパンツを穿かせるのよ!」


「「「「「オーーーーーッ!」」」」」


 女性陣の気合の入った掛け声に、ボクは頭痛を覚えてジェリス艦長に頭を撫でられる。

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