失ったモンは取り戻せる!
惑星シィーゲルは小惑星群の外縁部に位置しているから、敵の進行方向に依っては戦地に成る事くらい覚悟していた。
だけど幾ら何でもココまで最悪な状況に成らなくても良かったんじゃ無いか?
そう思えて仕方ない状況に陥っていた。
その状況とはシィーゲル(もちろん惑星の事ね)近郊宙域にジェリス艦隊が布陣し、外側から来訪する反乱軍を迎え撃つ形を取っているのだ!
これには先程ココ・ナッシュ少尉からジェリス司令官の謝罪通信が入って来る程だ。
そう思うならコンナ場所で待ち受けるな・・・とは言えない。
この小惑星群はシィーゲルと衛星以外は自転して無いから、敵が来る方向に迎え撃つなら当然ココに布陣するしか無かったのだ。
「ほぼ100%の確率で反乱軍にも見付ります。お祓いするなら良い教会を紹介しますが?」
「キミの知ってる宗教機関が残ってるんか?」
言葉に少し怒りが滲んで仕舞った。
「勿論キッド様の知識から拝借した冗談です♪機械生命体の私に信仰なんか有ると思いますか?それにファルディウス帝国の宗教に❝お祓い❞何て行為は無いですから・・・・・」
コイツ・・・本気で一発ドツいてやるかな?
元々から機械だったコイツには、あのボール使っても苦痛には感じないし!
「アリス・・・一回キミも有機ボディに入って見るかい?」
そうすりゃ痛みと言う概念を覚える♪
「キッド様が何を考えてるか解りましたので絶対に拒否します!」
だね~っ♪
さて冗談はさておき・・・ミューズの治療されてる場所は❝脳基幹部❞であり、一番奥に在る繊細な器官だ。
ここの治療中いや治療終了後も暫くは、過激な船体機動を取りたくは無い。
いくらスターシップが優秀な耐Gシステムや反重力機関を装備しててもだ!
「いっそ医療区画だけパージして・・・・・」
「敵に見付ったら真っ先に狙われますよね」
「だよな~!」
何か良い手無いかな?
「パージした医療区画をジェリス艦長に預けるのは・・・駄目だよな」
数だけなら3倍前後の敵艦隊と戦うんだから、彼だって直接戦闘する可能性は高いだろう。
それに次の戦闘は艦載機などが出て来る空間格闘戦だ。
「アステロイドベルトの様に小惑星の間が十分空いておりません。間違い無く艦載機による格闘戦が行われ、コチラにも確実に飛び火します」
逃げ惑う航宙艦は高速で戦闘機動を取らざるを得ない。
それこそ避けたい事態だった。
「衛星軌道に打ち上げて置いたリモート・ドローンが敵の映像をキャッチしました」
偉そうに高い艦橋を有する大型戦艦が並んでいる。
海上で使う船なら兎も角として、宇宙で使う艦船に艦橋を設置する必要は無さそうに思えるが、実際大型に成れば成る程に目視が必要な状況が出て来る。
現にスターシップや標準型のエルミスシリーズには無いが、戦艦・重巡洋艦タイプのエルミスには折り畳み・収納式の艦橋を装備して有った。
「キッド様の生まれた地球でも、必要も無いのに大型客船には立派な煙突が付いてたじゃ無いですか?立派な艦橋を設置するのは威嚇・誇示・見栄などの意味もある様ですね?」
何と無駄な・・・・・
「でも逆に言えば・・・ソコを突いたら面白い事に成るかな?」
つまり艦橋を潰せば敵側の偉い人を排除出来る訳だよね?
「それは当然そうですが・・・何か変な事を考えてませんか?」
アリスが不安げに言った。
3時間後・・・ジェリス艦隊が極力❝ワイズマン・ライブラリー❞を戦火から遠ざけ様として、惑星シィーゲルを乗り越え外縁部に迫り出して艦隊戦の火蓋が切られた。
暫らくはシールドを張りながら艦砲を撃ち合い応酬が続くが、やはり周り込んだ艦隊から発進した艦隊がジェリス艦隊とシィーゲルに迫って来る。
同時にジェリス艦隊も艦載機を発進させ敵艦隊も小惑星群に取り付いた。
「無茶です!無謀です!何を考えてるんですか!」
アリスが煩い。
「他に代替案が有るなら聞きますけど・・・・・」
んなモンが有るなら当にやっている。
無いからやらざるを得ないだけの事だ。
「じゃあ後は頼んだよ。くれぐれも安全運転で♪」
ボクは艦載機に乗るとスターシップから発艦した。
そうコレは策なんだ!
シィーゲルには月が一つ存在する・・・先の研究所の有った衛星で、先古代文明での名前はミローだ。
研究所は岩山の大きな横穴みたいな場所で宇宙港込だったから、内部には艦船でも余裕で入るスペースが有る。
「まどろっこしいな・・・ここに居た奴等よりは練度が高いか?」
「しかも火力も高い様だ・・・数の多さを有効に使えている」
「それでも3倍の戦力で攻めて、この体たらくかよ」
火力の高さが決定的な戦力差じゃ無いと言う事さ・・・どこかで聞いたセリフだな。
それにコッチの装備の方が上・・・と言う事は、やはり装備も戦力差の一部か♪
さてボク達は研究所に付属した宇宙港の、一番奥に停泊した戦艦の休憩室でコーヒーを飲みながら寛いでいる。
この戦艦は艦載機の航空母艦・・・いや宇宙何だから航宙母艦か?
その役割を担っている。
戦闘中に休憩室で寛ぐな?
そんな事言ったて出番はマダだし、そもそも戦闘機の中にはトイレもコーヒーサーバーも無いんだよ?
戦闘機の中で待ち受けるには早過ぎてもね?
「3倍の戦力で押し潰せないなら、練度が高くても高が知れてるでしょ?そろそろ作戦が始まるんじゃない」
ボクが言うと前後して、惑星シィーゲルを守る様に衛星軌道上で隊列を整える。
それを3倍の戦力で押出す反乱軍、シィーゲル表面のワイズマン・ライブラリーを発見した様だ。
「よほど欲しいんだな・・・定石を無視して力尽くで押し込んで来る」
「まあ先古代文明の完全な遺跡だしな・・・・・」
やがてジェリス艦隊は押し出される様に後退した。
ジェリス艦長の演技はアカデミーモノだね!
そうコレは演技・・・先古代文明の遺跡であるワイズマン・ライブラリーを囮にしたのだ。
「敵旗艦から降下艇が地表に降ります・・・・・」
「マダ戦闘も終わって無いのに・・・バカな奴等だ」
皆がヘルメットを取って格納庫へ向かう。
「じゃあボウズ、気を付けろよ♪」
ボクはアイアンイーグルを甲板に止めてあったのでソチラに向かった。
全員が愛機に乗り込んだ所で一斉にジェネレーターに火を入れる!
真っ先に戦艦も・・・艦載機を吐き出しながら、浮上準備をしていた。
「先に行くとするか」
ボクは洞窟から飛び出して、制空権為らぬ制宙権を確保すべく周囲の敵を牽制した。
幸い航宙戦闘機はジェリス艦隊の相手に忙しく、コチラに残った護衛は少なかった。
それでも雲霞の如く纏わりつく艦載機を、パルスレーザーで打ち落として行くのは面倒臭い。
「悪いなボウズ、手伝うぞ!」
上がって来た戦闘機と組んでドックファイトする。
その内に戦艦アークルスと艦載機群が、研究所の宇宙港から完全に脱出した。
「一番恐れてた洞窟内で沈むのは避けられた!さあ諸君、お仕事の時間だぞ!」
シィーゲル衛星軌道上で戦闘機戦が始まった。
パルスレーザーで航空機を打ち落とし、隙を見付けて戦艦に近付くと艦橋にミサイルを撃ち込んだ。
本来敵の航宙戦闘機が居れば、こんな一方的に攻撃出来ないだろう。
だが敵の航宙戦闘機・戦力は殆どジェリス艦隊に群がっていた。
呼び戻されてジェリス艦隊に背を向けた途端、集中砲火を喰らってるだろう。
「欲望丸出しで空っぽのライブラリーに眼が眩んだからさ!」
ボクは大きな戦艦の艦橋にミサイルを撃ち込んで呟いた。
そう既にワイズマン・ライブラリーは、その収蔵した英知をスターシップ内のワイズマンズ・ライブラリーに移されて空っぽの状態だ。
しかも中には・・・これはジェリス艦長にも絶対に言えない。
「流石に旗艦は警護がキツイ・・・・・」
「何とか近付けないか?」
イヤイヤ近付いちゃ駄目だよ!
「手柄焦って無理して撃墜されたら如何するの?敵の数を減らすんだ・・・旗艦を堕とすのは艦砲でも良いでしょう!」
ウン間違った事言っては無いよね?
それとも子供に言われ、頭に血を登らせて逆の事しないだろな?
「坊主の言う通りだ!無理しないで周辺の艦船から・・・何だアレは?」
ワイズマン・ライブラリーが光っている。
ウン仕掛けといたのが爆発してるんだね?
「降下艇が一生懸命上昇してますが、ありゃ駄目です・・・ホラ爆発に巻き込まれた!」
「それより爆発が大きく成って・・・全機退避しろっ!」
「チクショウ、アイツ等ナニしやがったんだ!」
大丈夫、遠実点(惑星重力の影響を受ける一番遠い位置)からなら十分逃げられる様に調整して有る。
ライブラリーに眼が眩んで、必要以上に近付いてる馬鹿は逃げられないけどね!
これでワイズマン・ライブラリーの英知を持ち出した事は判ら無く、悪いけど必要以上に進んだ力は隠しておく!
「キッド君、アソコには危険物でも有ったのか?」
「イエ治療目的の資料以外、手を付けてません・・・後で発掘隊に任せるべきだと思って」
我ながら良く言うな♪
「あの馬鹿ども・・・欲に眼を眩ませ、取り返しの付かない事を・・・・・」
ゴメンね・・・ホントにやったのはボクとアリスなんだけどw
大気圏ギリギリまで降りてた艦船は巻き込まれた様だ。
当初の計画より派手に成ったけど、反乱軍に罪を擦り付けてライブラリーを消滅させる事に成功した。
「キッド様・・・ご無事でしょうか?」
通信が入った。
安全運転でシィーゲルを離れていたアリスからだ。
「当然だよ♪ソッチは?」
「お陰様でコチラに近付く敵艦は居ませんでした。私は一切攻撃に参加する事無く、先程ミューズ様の治療も完了しました。ただしマダ予断は許さず、スターシップで戦闘機動する事はお薦め出来ません」
何とか無事に終わったのか?
後はミューズが無事に目を覚ませば・・・・・
「了解、もう少し害虫駆除してから帰投する。それまで戦闘区域に近付かない様に」
「コチラも了解しました♪」
アリスの返事を確認し、ボク達は再びシィーゲルに近付いた。
しかし爆発に旗艦が巻き込まれ、敵の指揮系統が混乱したらしい。
そこへボク達が襲い掛かる事、数十分・・・敵から降伏の申し出が出て戦闘は終結する。
流石に疲れたのでボクはスターシップに戻って休息を取る。
積りだったが偉そうなオジサン達が猛烈な勢いで来訪し、ボクの所に詰めかけたのだ。
見た眼は偉そうだけどボクにも高圧的な態度を取らず紳士的に接し、ライブラリーから何か持ち帰らなかったか?と聞いた・・・ボクは治療の必要なデータしか持ち帰らなかったと答え、アリスは当然沈黙していた。
「あの中ですか・・・高さ数mある円柱状のAIが、数え切れないほど並んでました。その中の一つが医療知識担当で、データを貰って同行者の治療を・・・・・」
規模から嘘を言ってる♪
「あの馬鹿どもめ・・・なんとバカな事をしでかしたんじゃ!」
皆が声を張り上げ反乱軍を呪う。
何でもインテリの軍人さん達で、アソコの価値に見当が付いてるらしい。
ライブラリーの跡は大きなクレーターに成った様だ。
「仕方ないのでコチラだけでも・・・脳基幹部を構成するメタモルファ酸の構成式です」
今後の医療に役立てて下さいと言うと、肩を落とした偉そうな人達は自分の艦に帰って行った。
なんで他に色々と持ち出さなかったんだとブツブツ言いながら・・・ゴメン、ホントは全部持ち出したんだけどね♪
絶対に言わないよ!
その後は投降した兵士や艦船の相手に艦隊は忙しかった様で、コチラには誰も来ようとしなかった。
スターシップはミローのシィーゲル研究所址に停泊していたが、そこから追い出されシィーゲルの衛星軌道に乗っている。
「そりゃアソコだって文化財だもんな・・・・・」
「よほどライブラリーが惜しかった様で、未だに探査艇をシィーゲルに降下させてます。もっとも宇宙艦隊は軍事組織であると同時に探検隊・調査団的な役割も持ってます。例えば移住可能な惑星や新たな太陽系に改造出来そうな惑星系を探すのに・・・その血が騒いでいるのでしょう。第二のライブラリーは必ずある筈だと血眼に成って・・・・・」
彼等の苦労が報われると良いね・・・無理だろうけどな♪
さてと・・・ソロソロ夜時間、ボクも少し眠るとしよう。
キッドはコクピット後方の休憩室で休んでいた。
この船にはベッド自体は無く、いつもキッドは薄手の毛布一枚かけソファに横に成って眠っている。
この船はコクピットだけでなく休憩室も、天井・壁面・床も全て360°ディスプレイ・モニターになる。
そこには普段、地球から拝借した絵や風景など画像や映像が表示されてるが、今は眠り易くする為に真っ暗に成っている。
その一部が切り取られる様に開くと、全裸の少女が中に入って来て閉じた。
アクション物フィクションの主人公なら跳び起きて誰何するだろうが、キッドはタダの少年で身体の強靭さは人工的なボディに置き換えられてるからに過ぎない。
だから少女が毛布に滑り込みんで、キッド君に腕を絡めて抱き着いても・・・疲れ切って寝ている彼を責められないだろう。
いや本人は自分を責めた!
なんでコンナ美味しい状況で目覚めなかったのかと!
キッド君は男の生理現象に悩んでいた。
健康なのだから仕方ない・・・いやソコじゃない!
『ボクは起きたばかりだよな・・・つまり今ミューズに気が付いたばかりなのに、何でアレが起立してるんだ?』
マダマダ若いキッド君だった。
若い男が若い女に抱き着かれれば、例え寝てたって匂い等で異性に反応する。
ちなみに違和感を覚えて起きたキッド君はマダ真夜中、尿意を我慢してる訳でも無く、若い男の子にとっての朝恒例の現象では無い。
「オイこら・・・起きなさいミューズ!」
反応が無い。
「起きなさい!起~き~ろ~っ!」
首に両手を廻され付く位の所に顔が有る。
「オイッ!アリス何で起こさなかった」
「勿論、面白そ・・・イエ危険は無いと判断したので」
「いま言った!間違い無く言った!!❝面白そう❞って言いかけた!!!オマエ初めて会った時から思ってたけど随分人間臭いな・・・実は有機ボディ持った事有るんじゃ無いのか」
完全機械のAIより有機AIの方が、そしてタダの有機AIよりボディを与えられた方が人間らしい感情を得る。
この世界では常識で与えられるボディが周囲の人間に近い程、例を挙げれば「完全有機ボディ>生体アンドロイドやサイボーグ等>機械アンドロイド>簡易機械ボディ」と言う感じで、人間らしい心がAIに育まれるらしい。
「そんな事は無いですよ♪」
否定はするが怪しい・・・今度確かめてみよう。
「とにかく起きろミューズ、オマエなんて姿でボクに抱き着いてるんだ!」
ミューズは医療カプセルから出たままの姿、つまり全裸だった!
こんな状況じゃボクだって、その・・・男の子なんだぞ!
「無駄ですね!」
「何でさ!」
アリスに言われる。
「起こそうと思う事は無駄です・・・もう起きてるんですから!」
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
「オイ・・・コラ、ミューズさん?」
「グーグー!」
何ともワザとらしい反応だ!
「折角、健康体に成ったんだ・・・その身体の耐久試験を兼ね火星の衛星軌道以来、久し振りのお尻叩きだな!」
「グーグーグーグーグーッ!」
何かを抗議する様にワザとらしいイビキをかくミューズさん。
何をしたいんだコイツ・・・・・
「僭越ながら・・・地球でもファルディウス帝国でも昔話の定番である、お姫様は王子様のキスで目を覚ましたいのでは無いでしょうか?」
「そうなのかミューズ?」
「ぐーーーっ♪」
このバカ娘は・・・・・
「一体コッチが、どんなに心配してたと思って・・・・・」
「だから照れ隠しも有るのでは?ここは一つ兄らしく寛容な心で・・・・・」
困った奴だが嫌な気はしない。
ボクは上体を起こしてミューズを抱き締めると、そのオデコにキスをした。
「グゥ~ッ!」
イビキで返事するな!
何だよ、その不満そうなイビキは?
「キッド様・・・失礼ながらアナタはヘタレ過ぎます!そこはオデコじゃ無く唇でしょう・・・当然じゃ無いですか?」
クソッ!
アリスにまでヘタレ認定されて仕舞った。
オマエが見てるからヤリ難いんだよ!
仕方なく改めて彼女の唇に自分の唇を合わせた。
大人のキスじゃない方、当然ね♪
「オハヨ、お兄さま♪」
「お帰り、ミューズ」
この時、ボクは一番大切なモノを取り戻した。
二度と手放さない!




