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メタモルファ酸No2804が見付らずガッカリする!

「これまた派手にヤラれたわね~~~っ♪」


 無傷で帰って来たジュリアさんが、スターシップのコクピットに来て楽しそうに言った。

 ダラスの旗艦を殺った時、その守護艦隊に集中放火されシールドの限界点を超え被弾したダメージだ。

 スターシップのバリアシールドは戦艦の主砲だろうとビクともしないが、流石にスコール並みの砲撃を集中豪雨されると2度ほど限界が来、そして張り直す間に被弾したんだ。


「対艦ミサイルの直撃を何発か受けたのが不味かった・・・好きな方に向けられるから便利かと思ったけど、ランチャータイプは自体が叩かれたら御終いなんだもんな」


「私も考えが及びませんでした」


 対宙防御用のファランクスを殺られミサイルや魚雷に対する防御力低下が原因だ。

 ミサイル等の力学兵器は兎も角、光学兵器は船体各所に分散配置した方が良いな。

 力学兵器は分散させると砲弾やミサイル・魚雷等。艦内を移送するのが難しく成って来るし必要もない。


「明日にはアイスコフィンもコッチに来るから、じっくりと考えて修理すれば良いじゃない」


「これだって十分考えたんだけど・・・やっぱりボク達は戦闘に関してプロじゃ無いから・・・・・」


 するとジュリアさんはボクの横にピッタリと張り付いて言った。


「若いと言え立派なプロがココに居るわよ♪」


「そして外した兵器をエルミスⅡに移植させろと・・・・・」


「解ってるじゃない!」


 嬉しそうに言うジュリア中佐だが、


「異議あり、キミの艦は無傷だ!今回はワシの艦に手を貸して貰いたい」


 ウェルム少将が言った。

 実は彼の艦は救出した人質を守る為、盾に成って中破してるのだ。


「自慢じゃ無いが帝国軍に在籍して42年、ベテラン中のベテランだ!特に戦艦に関しての相談なら、ワシほど適任は居ないだろう?」


「待ったっ!そう言う事なら私にも権利があるぞ!」


 と会話とコクピットに乱入したのはジェリス艦長だった。


「お久し振りです」


「無事で何より・・・ところで少将、アナタが人質を移送する際の盾に成ったのは確かだ。だが反対側で同じく盾となっていた私に黙って、自分の艦だけ改装させようとは少しアンフェアじゃ無いですか?」


「フンッ、キミにまで取り合いに参加されたら取り分が減るかも知れないからな!第一キミとピスタの船は既にキッド君による改造を受けてるじゃないか!ピスタの奴め・・・自分の艦とワシの艦は名前と形は似てるが中身が違うと散々自慢しやがって!」


 ジュリアさんが耳打ちしてくれた。


「ピスタ少佐はウェルム少将の後輩なんだけど、仲が良いクセに喧嘩ばかりって有名な面白コンビよ」


「ジュリア嬢、一言余計だ!」


 ウェルム少将が面白く無さそうに言った。


「艦が似てるってのは?」


「ワシの艦❝アーマゲドン❞とピスタの艦❝アルマゲドン❞は同形艦だ。しかも偶然名前まで似てる・・・のに奴のアルマゲドンはキミの大改造受けてるからな。ここは先日の海鮮物の賄賂を盾に改造を頼み込む!」


 何この黒い人達・・・・・


「たかが海老で、これ以上利益を追求するのは意地汚いですぞ!」


「海老だけじゃないぞ!スターブルーム海洋牧場は、魚介類から甲殻類に海藻その他諸々まで海鮮物なら何でも揃えられる!」


「バーカンディグループなら瞬間冷凍させた新鮮なお肉を何時(いつ)でも提供出来るわ!もちろん非冷凍も生で食べられるお肉も・・・キッド君お肉好きよね?それに農産物も・・・・・」


「上官殿、お言葉ながらソレは貴女の力じゃない!ソレを賄賂に使えるのは家長である私だ!」


 ボクは呆れながら3人を見渡した。


「食べ物以外でボクを釣り上げる条件って無いの?」


 低次元かつ子供染みた言い争いである事に気が付いて、途端に3人は赤面し眼を反らす。


「3隻の武装を全て剥がし、スターシップから下ろすモノを含めて公平に分け直します。良いですね?」


 ジュリアさんはチッと舌を鳴らし、ジェリス艦長からゲンコツを貰った。

 女の子が(はした)ない、貴女は伯爵令嬢でしょう?

 でも気持ちは分かる・・・彼女の艦の装備が一番充実してるからね!


「お三方にはお世話に成ってるから、他の装備も一新しますよ。それで喧嘩せず仲良くして下さいね」


 ジュリアさんが飛び付いて頬にキスをしてくれる。


「ワシもキスしてやろうか?」


「やったら最新装備を半分に減らしますからね!」


 この帝国軍の皆さんのノリは好きである。

 こないだ同じギャグをボクが言ったら即拒否したのに♪


「ところで反乱軍旗艦が撃沈された時に大分逃げたのが居ますが、掃討戦はされないのですか?」


「勿論艦隊の再編成が終わり次第出ますが、流石にソレは私達の仕事です。殿下は心配される事無くキッド君と身体を取り戻す事だけ考えて下さい」


「今回の艦隊から3つの掃討艦隊を組織する。この3つが当面の掃討戦を担うが、また敵が集結する様ならコチラもせんとな・・・・・」


「当分ミューズには戻りたくないですからね?」


 ここで言うミューズはボクの何気ない一言で首都星に新しく付けられた名前だ。

 そう言う風習が無かったため首都星の名前がファルディウス帝国首都星だったが、味気無いにも程が有るだろ?


「何で戻りたく無いんですか?」


「アヴァ元帥が新設される❝ロイヤル・ディフェンサー❞の司令官を探してるんだ。ジュリアはロイヤル・フェンサーの指揮官だから任命される心配は無いが、我等は任命されたらミューズに釘付けに成る」


「そんなの絶対に嫌だぞ!カペターズかビジーズに任せて置けば良い」


「ロイヤル・フェンサーも後2~3艦隊新設するらしいから、お父様とウェルム少将が指揮官に成るんじゃないかしら?」


 そう言えばジュリアさんの艦隊以外にも、チラホラとエルミスタイプが存在する。

 形状的には余り似て無いが、ジェリス艦長のラグナレクもエルミスの技術が導入されている。


「エルミスの形状は高速機動艦には向いてるが、比較的だが重武装艦には向いてないんだ。この際だから重武装タイプも考えて見るか・・・でもその前に!」


 ボクはシートの下から、あのボールを取り出した。

 モニターの中でミューズは息を飲む。


「二度と勝手な事はしない、ボクの言う事には素直に従う・・・と言う約束を、火星の軌道上でしたよね?」


「ハイ・・・」


「反乱軍を横切る前にボクは「後でお仕置きだ」と言ったよね」


「か・・・覚悟は出来てます!ご存分に・・・・・」


 そう言うとモニターの中でミューズが眼を瞑る。


「イイ覚悟だ・・・起動っ!」


 ボールが発光する。

 この間はコレを叩くとミューズにはオシリを叩かれてるのと同じ刺激が響いたが、


 ボクはボールの上に手を乗せると優しく撫でた。


「エッ?」


「その後は命令通り手を出さなかったから、今回だけは許して上げる。でも今度言い付けに背いたら、叩きじゃ無く蹴っ飛ばすから覚悟する様に」


 そう言ってボールを撫で続けると、ミューズはモニタの中で眼を細めた。


「今回はお尻じゃ無いの?」


「頭を撫でてるんだ♪切り替え可能なの」


 暫く撫でた後、


「そうだ・・・お兄さまにアリスから伝言です。明日朝早くアイスコフィンが来るのでポワント宙軍基地に行くなら今の内に行った方が良いと言ってます」


 そうだね、修理始まったら暫く動けない。

 ハイパードライブ程度で航行するなら問題は無いだろう。

 ボクは他の皆を船から追い出して、バーベル星系に向けてスターシップを発進させた。




 バーベル星系も恒星を中心とした太陽系型の惑星で、俗に惑星系・恒星系と言われる星系だ。

 前も言ったけど恒星の名前がバーベルでポワントは第5惑星、重力も殆ど無い様な事を言われたが大気や物体を留める程度は有るらしい。


「北緯47.052経度244.32・・・まで10分です」


 この世界の座標表示でミューズが告げる。

 地球と同じく北緯南緯に当たる言葉は有ったが、東経西経を表す言葉が無いのだ。

 地球ではどっかの有名な天文台がゼロ地点に成るが、宇宙に進出したこの世界では数多の惑星に一々付けていられない。


 そこで恒星系なら恒星を中心に一番水平に何かが揃う時に・・・とか説明されたが、意味が良く解らなかった。

 まあ一々覚える必要も無くジェリス艦長やウェルム少将も「そんなの分かるのは大学院の教授位だ」と言っていた。

 まあ個人で調べなくても時間と同じで機械では買ってくれる、時計で時間が解るのに態々太陽の傾きなどから時間を割り出す必要が無いのと同じだろう。


「見えました・・・でも・・・・・」


 これは完全に無理だろう。

 直系25㎞の竪穴式・宇宙港は完全に崩れ去り、内部の施設が崩壊していた。




 宇宙港の港湾施設は竪穴内の壁面内側に建造されていた。

 開口部の穴には昇降式の蓋に成ってたらしいが、今は中に落ち込んで真っ二つに成っている。

 一応原形は留めているが、施設や資材は望める様には思えなかった。


「ドローンを飛ばせ!徹底的に中を調べるんだ」


 スターシップ内の作業用ドローンを全て飛ばした。

 偵察も出来る有能な奴等だ・・・彼等が四方八方に飛んで行く。

 望みは薄いが出来るなら必要なモノを揃えたい。


「出来る事なら・・・医療関係施設が残って無いかな?」


 この世界に置いても人間の頭脳は、未だに全てのメカニズムを解析されて無かった。

 それでも精神エネルギー体つまり霊魂的なモノを抽出し他の身体に移したり、一から完全な人体を作成する事が出来る技術を構築している。

 今のボクの身体だって彼が使う為に用意された人工ボディだ。


「管理システムの端末が見付りました!コチラにオフラインで接続します」


 この場合のオフラインとは端末をレーザー通信で繋げることだ。

 施設の情報をコチラに遅らせる。


「駄目だな・・・宇宙港に中性子爆弾を撃ち込まれたんだ」


 その為内部は一瞬で焼き尽くされたらしい。

 だがココは軍の基地でもある宇宙港だ。

 シェルター的なモノが必ずある筈だ。


「良し、在ったぞ!内部は・・・・・」


 内部映像をコチラに映させる。

 だが、予想を反してボクを落胆させる。


「こちらフリッパー、ジュリア中佐!手伝いに来たわよ」


「なにを?」


 手伝って貰う程の事は無いのだが、


「と言うより護衛、スターシップは結構ダメージ大でしょ♪それより何か成果有った?」


 まあボロボロなのは確かなんだけどね。


「成果ゼロ・・・どころかマイナスだ」


 ジュリア中佐は怪訝な顔をする。


「医療施設は壊滅だけど、地下の研究施設は生き残っていた。今から消却するから少し離れて・・・・・」


「何で燃やすのよ!貴重な研究資料じゃない!!!」


 ジュリアさんは反対するが、


「生物兵器だ・・・敵の陣営に散布して中の住民を、ゾンビ化させて見境無しに襲うモンスターに変えるね・・・・・帝国に必要だと思う?」


「ここには生きてる施設は何も無いわ!でも調査する為に少しボーリングして見ましょ♪」


 フリッパーがポワント宙軍基地の上で静止する。


「でも一応情報だけはキッド君の方で保管して置いて・・・同じ物が他の施設から発掘される可能性や、今後開発される可能性も有るから・・・・・」


「了解!」


 血清やワクチンの作成は高速増殖で、一般の多用途型・種バクテリアから造れる物だと判明した。

 サンプルを残す必要は無い。

 その施設だけ吹っ飛ばせる様に、最大出力のプラズマブラスターで焼き払った。


「文字通り❝芯まで焼き尽くし❞ました。ヴァイラスが生き残る可能性は完全に有りません」


「もう2回ほど念の為に焼いて置こう・・・ほかに生きてる施設は?」


「幾つか在りますのでリストにしました」


 リストの内容を確認する。

 医療関連の施設は無く、また急激に技術を進歩させる様なモノも無い。


 もう少し詳しく調べる様にドローンに指示を出す。

 発見されたモノや解析されたモノがリストアップされる。


「地下倉庫・・・おっ希少金属が有る。貰って置こう・・・」


「キッド君、勝手に持って行っては・・・」


「フリッパーとかの改装に・・・」


「戦時徴用だったと言う事で・・・」


 帝国のモノじゃ無いだろ?

 ボクが来なければ発見も出来なかったのに、直系25㎞の穴など宇宙規模から言えば針の先程しかない。


「倉庫が発見・・・何も残って無いな」


「元食糧庫です。風化どころか形跡も残ってません」


「一応使わない物は、危険の無い限り残して置いて・・・後で発掘するから。ココまで形を残した先古代文明の遺産なんか、二度と出て来ないかも知れない」


 ジュリアさんが恐ろしい事を言う。

 もっとチャンと残って貰ってないと困るんだよ!


「そりゃそうかも知れないけど・・・形の残った遺跡なんか初めて出たのよ!私達人類が発生する以前の人類なんだから!」


 まあ3千万年以上前の文明だもんね!

 でも普通なら5千万年程度は、稼働状態で保存出来てる筈だった。

 ココまで崩壊してるのは戦争で破壊されたからだ。


「当時の人類は、如何言う生活してたんだろうね?」


「想像も付きませんね」


 ボク達の会話にジュリアさんが口を突っ込む。


「そんなに違ってたのかしら・・・同じ人類でしょう?」


「向こうで出会った❝彼❞の話では生態系から全く違うと・・・・・」


 ジュリアさんは怪訝そうな顔をした。


「だってキッド君の身体は彼に使う筈の物をカスタマイズして使ってるんでしょ?」


「それは・・・・・」


 ミューズが言い淀んだ。


「そっ、カスタマイズしないと使えなかったんだ。その前の形状を興味本位で見様としたら、彼はボクを必死に成って止めていたよ。ショックを受けたり、精神的に使えなく成る可能性が有るから見るのは止めて置けって」


「あの言動からは・・・私達が人として認められる形状を、してたか如何かも怪しいです」


 多足の軟体動物状だったり、多眼や昆虫型だったり!

 肉体のスペックも高く、この状態で再現出来る最上のレベルで固定されてるらしい。


「施設のスキャン終了しました。残念ながら目的の物は、ココには存在しませんでした」


 ガックリと肩から力が抜けた。


「今更だけどキッド君達は何を探しているの?」


「メタモルファ酸No2804」


 ボク達が探してるのは使用可能なコレ自体か製造法だった。


「ナニそれ?」


「早い話が人間の脳内で、魂とか霊魂とか言うモノに近い存在である❝精神エネルギー体❞を身体に固定する為のクギだよ。知的生命体はコレを使って身体に精神エネルギー体を固定してて、無いと身体から離れてやがて霧散してしまう」


 先古代文明の人類は肉体が滅んでも、精神エネルギー体のみで存在出来るほど、強靭な精神エネルギーを持っていた。

 彼が納まっていたAIはメタモルファ酸No2804を使って中に彼を維持していた・・・それでも限界が来ていたのだ。


「仕方ない・・・次の目的地を目指そう」


 ボクは力無く呟いて、帝国艦隊の元に戻った。

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