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手伝わない積りだったけど、性格が災いして結局手伝う事に成る。

 目的地であるバーベル星系付近には、現在反乱軍が大挙して押し寄せている・・・流石のボクも直接乗り込む愚は犯さない。

 だが首魁である筈のダラスは来て無いらしく、先ずは下っ端が集まって陣形を整えてろと言う状態の様である。


「ポワント宙軍基地はバーベル星系の第5惑星に有ります。ほぼ自転して無いので重力は無いも同然なほど弱く、大きさは直径50万km弱の惑星です」


「惑星としては小さい方なのか、月より一回りか二回り大きい感じかな?」


 問題はポワント宙軍基地の有る惑星系のバーベル宙域は、反乱軍の集合場所に成って10000近いの軍艦が(ひし)めいている。


「気付かれずに入り込む事は不可能だよね?」


「目視出来るほど近くまで反乱軍が居ます・・・彼等が如何に無能だろうと絶対に不可能です」


 態々遠くの恒星の影にワープアウトしたのに、ココで見付るのは面白くない。


「小惑星に偽装するのは?」


「向かって来る小惑星が居たら、真っ直ぐだろうがウロチョロしようが怪しまれて艦砲狙撃されますよ?それより恒星の影に隠れてても、ワープアウト時のエネルギー波が探知されなかったとは思えません。偵察の艦隊が来るんじゃ無いですか?」


 ドサクサに紛れて何とか誤魔化せないかな?


「マトモな艦隊が相手なら無理です」


 取り合えず様子見だな?


「ところでミューズさんやい・・・正体が()れて仕舞ったんだから、アリスの振りして、何時までも畏まった口調で話さなくても良いんじゃない?」


「記憶が戻るまで本気で自分が管理システムのAIだと思ってたんだもん、慣れるまでもうチョッと許してね♡」


 惑星系を監視しながら会話を楽しんでいるが、1時間も話し続けるとソロソロ待つのも飽きて来る。

 敵艦隊が偵察を出す気配が全く無い。


「私達の相手はマトモな艦隊じゃ無かった様ですね?」


「ナニそれ・・・アイツ等、本当に気が付かなかったの?」


 そんなので軍隊が良いのか?


「イエ・・・敵の通信を傍受してたんだけど・・・・・」


 何だか歯切れが悪いね?


「流石に遠過ぎて明確に解析出来ませんが、如何やら探知したんですが誰が偵察に来るかで揉めて居るらしいんです。そんな些事を我等にさせるのか?みたいな感じで・・・・・」


「・・・・・・・・・」


「お兄さまに首都星のアステロイドベルトでボコボコにされ、元々嫌々付き合っていた下級貴族が総出で降伏しました。その時から残ってるのは中級以上の気位が高過ぎる残念な方々、しかも自分は選ばれた存在だと疑いもしない低能です。そう言う人達が更に支配する領地から無理矢理艦に船や人を集めた様ですね」


 最近ミューズの言動が過激に成ったと、陛下から何度か文句を言われた。

 それに対する回答は「元々の資質では?」だったモンだから、陛下と頬の抓り合いをしてしまった。

 陛下も「ミューズに淑女足る教育を!」と言ってたが、ボクに言う段階で選択誤ってるんじゃないか?

 ミューズも調子に乗って「お兄さまの影響です」とか言ったから、ボクも責任を取って今後ミューズが過激な事を言う度に、お尻を引っ叩いて教育すると言ってやった!

 だがそれに対して陛下も「叩かれたら言いなさい。その数だけ私がキッドの尻を引っ叩いてやる」とか言い出すモンだから、抓る指の力がお互い上がる事・上がる事!


 さて敵艦隊を如何したら良いだろうか?

 このままワープを使わないでハイパードライブだけで離脱したら、このマヌケ共には絶対見付らない自信が有る・・・離脱してドコか近くのリゾートがある星系で暇潰ししたろか?

 ファルディウス帝国内には、先文明の施設がもう一か所有ったよな?


「もう一つの先文明の施設って?」


「ここから少し離れたシィーゲル小惑星群の中に有るシィーゲル研究所ですね。アステロイドベルトと違い密集した小惑星群ですが問題は、そこにも反乱軍が・・・ただしコチラは地位ばかり高く、資金だけ出して自分で戦う積りが無い様です」


「ゴキブリより眼障りな奴等だよな」


 ドチラも手を出し辛い状況だよな?

 ジュリアさん達が来るのは2週間後、待てない程では無いが少々長過ぎる。


「漸く動き出しました・・・戦艦等22隻ほどが、コチラに向かって来ます」


「偵察に22隻?」


 偵察に回す艦数じゃないだろ?

 馬鹿なのか、それとも臆病なのか?

 燃料だってタダじゃ無いだろうに・・・・・


「たった22隻沈めるのは簡単だけど、ジュリア中佐が来た時に厳戒態勢じゃ可哀想かな?」


「規模が少ないと言え、艦隊が来たら大騒ぎに成るでしょう。意味は無いと思いますよ・・・まあ警戒はされるでしょうけど」


 それも迷惑かな?


「仕方ない・・・超音速以上(ハイパーソニック)で2ベッセル後退、その後ハイパーレイで5000ベッセル位距離を取ろう」


「折角こんなに近くまで来たのに・・・ですか?」


 まあアウトしたのが近くなだけ、ここら辺には空き宙域に余裕が有るからドコでもワープアウト出来る。

 ジュリアさん達ならドコかの反乱軍みたいに待ち構えられるほど時間の掛かる遠くからワープしたり、まして大集結して様子を観察されるような馬鹿な真似はしないだろう。

 それでも来る前に警戒されるような状況を、作っとくと後で嫌味を言われる可能性が有る。


「仕方ないさ・・・それとも何処(ドコ)かに隠れられるような場所有る?」


「少し進行方向をずらせば近くに古戦場が有ります。大型戦艦の残骸や廃墟と化した要塞が浮いてますから、スターシップが十分に隠れられます」


 そう言う所は敵も細かくチェックするんじゃないかな?


「この宙域のほぼ全体に古戦場が点在しており、想定外の事が起きない限り敵が偵察に来る可能性は無いかと考えられます。それほど彼等は勤勉とは言えません」


 その点は同感だ。


「ナビをヨロシク♪さっさと移動するぞ」


 後退しながらエンジンを起動させる。


「フォトンエンジンの発する光を感付かれないか?」


「コレだけ離れてたら、増分子リフレクター望遠鏡でも無いと流石に無理ですね♪」


 取り合えずトットと逃げ出した。




 目的の古戦場に到着し、大きな廃棄コロニーの中で息を潜める。

 さてボク達は如何したら良いか・・・ジュリア中佐が来るまで待つのは退屈で、せっせとポワント宙軍基地の中だけ調べたい。


「一番早いのは艦隊を力尽くで追い払ってから・・・・・」


「却下!」


「どうせ戦闘に成ったら手伝うのに・・・ならジュリア中佐が来るまで・・・・・」


「却下!」


「たった2週間じゃ無いですか・・・・・アレ?」


 何か有ったの?


「反乱軍にも勤勉な士官が居るのですね!巡洋艦が1隻・・・偵察の様です」


 そりゃ反乱中の艦隊が集結してるんだから、周囲の偵察位来るでしょう。

 ジェネレーターを切りエンジンを止めて何とかヤリ過ごそう。


 スターシップはジェネレーターの起動からエンジン再始動し、実際に船体が動き出すまで1分と掛からない。

 これは驚異的な短さで優秀な指揮官に熟練のクルーと最新鋭の戦艦が揃ってても、今の帝国の標準では15分以上掛かるだろう。

 えっ、エルミスシリーズなら?・・・5分ってトコロかな?


 ただ隠れてて見付っても、そう簡単に撃沈まではされない。

 優秀な士官が見付りそうに成ったら、サッサとジェネレーターに火を入れて始動までは全力でシールドを張るしね♪

 それにバッテリーも有るから機能が全て止まる訳じゃ無い。


「あ・・・あの~~~」


「早くもコレの出番かな?」


 ボクはパイロットシートの下から、まだ起動して無いボールを出して撫でている。


「細かいチェックなどしないんじゃ無かった?」


「お兄さまは、そう思わなかったっ?!」


 そう言われると・・・如何しても奴等が勤勉に偵察に来るとは思えなかったな。

 だが現実は偵察の巡洋艦がコロニーの中まで入って来たのだ。

 態々コロニーの中まで目視で確認する様な、マメな奴がまだ反乱軍の中にもいるのか?


「そこまで言うのも失礼かと・・・不本意ながら従ってる方も居られるのでは?」


「まあジェネレーターが動いて無くても、バッテリーで主砲撃ちながらバリア位張れる。動けるまで十二分に持つさ」


 むしろ最初の一発で撃沈可能な通常の巡洋艦サイズだ。

 しかもメインウエポン以外で・・・・・


「あれっ?もう一隻入って来る」


 コロニーの中は広いから、2~3百メートルクラスの船など何隻でも入るだろう。

 だが偵察や戦闘に何隻も入って高速機動で戦う・・・程では無いよな。


「有線ドローンで外の様子を窺ってますが、如何やら偵察で無く密会の様ですね?」


 倉庫か工場の跡だろうか、スターシップは潰れかけたカマボコ状の建造物に隠れている。

 向こうもケーブルを連結し、有線通信で会話する様だ。

 余程会話の中身を聞かれたくないらしい。


「会話・・・傍受出来るか?」


「余裕です♪」


 コクピットに雑音が流れ、段々それが治まると会話が聞こえて来る。


「キミは撃沈された事にする・・・この場から早く撤退するんだ!」


「大佐を残して我々だけ逃げられません。大佐も御一緒に・・・・・」


「出来る訳無いだろう!我等に出来る事は出来る限り陛下の手を煩わせる事無く、賊軍として帝国軍の手に掛かる事ぐらいだ」


「せめてダラスは我等の手で・・・・・」


「出来るならやってる!もう無益な事を語るのは止めて・・・・・」


「せめて人質の無事だけでも・・・・・」


『じゃあ有益な事を話しませんか?』


 う~~~ん♪音声しかやり取り出来ないが、相手の驚愕してる顔が眼に浮かぶ。


「幽霊では無いよな・・・キミは誰だい・・・・・」


 声から子供と判断されたらしい。

 優しく話しかけられる。


『どうせなら顔を突き合わせて話しません・・・お時間は有ります?』


 この提案に、さぞ驚いてる事だろう。




 スターシップを浮上させ、相手の巡洋艦の前に相対する。

 同じ帝国規格同士、小型ランチは巡洋艦に問題無く接続出来た。


「いい度胸だとは褒められんな・・・敵の艦に単身乗り込むなど不用心過ぎる」


 巡洋艦の艦長さんに言われる。


「コチラの船は巡洋艦のエンジンに高イオン・レーザーが照準を合わせ、同時に毒ガス注入型ミサイルが艦橋を狙ってます。ボクを拿捕し様としたらエンジンを、危害を加えようとしたら艦橋をミサイルで攻撃します。ちなみにボクは抗毒剤を注射して来たので毒が効きません」


「物騒な奴だ・・・不用心と言った事は取り消そう」


 面白くなさそうに言った艦長の前で、ボクはヘルメットを脱いだ。


「なるほど・・・キミが❝天空の女神❞か」


「ボクは男なんですがネ!」


 本気で怒りを滲ませ言った。


「さて先程から通信を傍受させて貰いましたが反乱軍に居るのは不本意な様子、人質を取られてると言うのは本当ですか?」


「傍受って通信ケーブルを渡して話してたのに、何で傍受が出来るんだよ」


 先にソコを突っ込まれたが、


「本当だ・・・バーベル宙域に集められた指揮官クラスの貴族や軍人は必ず一人、実子を人質に出させられた。子供の居ない場合は妻を、それが居なければ母親をと言う感じでな!」


 碌な奴等じゃ無いな!


「それは最初から分かり切っていた事だ。だか領地に大艦隊を差し向けられ人質を寄越せと言われれば、断れる奴の方が少ないさ」


「人質はドコに?」


「オムド宙域だ」


「ダラスが居る所だね!」


 ココでチョッと地理ならぬ宙理について説明する♪

 惑星系には中心に成る星の名前が付く、太陽系なら太陽・バーベル星系にはバーベル・オムド星系ならオムドと・・・そしてコレは恒星(太陽の様な星)とは限らなくても良い。


 そして○○宙域とはその惑星系が存在する宙域、つまり太陽系なら太陽系を中心とするその周辺の宙域で、帝国に所属してたら「太陽宙域」と呼ばれる事に成る。

 この範囲は一定でなく、例えば周囲に他の星系が無ければ広くなるし、逆に星系が密集する宙域は中間で線を引かれ狭くなる。

 また余りにも広い範囲に惑星系が無いなら、その中にある大きな単体の障害物(はぐれ星や岩礁・大型デブリ・建造物など)の名前が、それすら無ければ無惑星宙域として特別に名前か番号を当てられる。


『この辺りでバーベルとオムドは比較的距離が近いですが首都星に近いのはバーベル、オムドで高みの見物と洒落込みながらバーベルの艦隊に戦わせる積りです』


 ミューズが耳打ち・・・じゃ無かったカチューシャから脳内に直接囁いた。


『ジュリアさん達だって、その位考えるんじゃ・・・そう言う事ね!』


 成る程・・・反乱軍は後ろから攻撃される事を考えていない。

 それは物理的に不可能でオムドの背後には大型のブラックホールが存在し、帝国軍はバーベル手前でワープアウトせざるを得ないのだ。

 オムドの背後にアウトしたらブラックホールに飲まれ、バーベルとの中間にアウトしたら挟み撃ちに成る。

 それ以外の離れた宙域にアウトするのも戦略的に意味がない。


「成る程・・・一応、奴等も考えたんだ」


「解るかい?」


 彼は逆らう手が無い事が解っただろうと言いたかった。

 だがボクが考えてるのは・・・・・


「ウン良く解った・・・反乱軍の首魁達は愚か者の集まりだ。もう少し彼等は歴史を勉強すべきだった」


「エッ!」


 ボクはミューズにスターシップの工房で、あるモノが造れるのか聞いて見る。

 答えはYesだった。


「バーベルには最高どの位の艦船が集まる?」


「今はマダ10000に達して無いが、今週中にも13000まで集結する」


 これは首都星の攻防から逃げた艦数と一致する。

 反乱軍の全勢力が結集するのか?


「いや主に人質を取られる様な弱い立場の人間だけさ。主な権力者はクソ皇子と一緒にオムドに残る」


「それも5000以上に成るだろう。反乱軍の総数は20000弱と言う所かな」


 もう1隻の巡洋艦の艦長も言った。

 首都星の攻防には全兵力を投入せず、余力を残していたのか?


「違うよ・・・全戦力を投入して敗れたから、周辺から更に人質を取ったりして搔き集めたんだ。同時に戦う事に消極的だった、我々からもな・・・・・」


「アナタの信用が出来る同僚はどの位居ますか・・・もしくは人質解放するなら反乱軍を裏切ってくれそうな方は?」


 二人は黙って何かを考えて・・・から答える。


「私が信用出来る奴とその配下は・・・コチラに集結する内の5000以上に成ると思う。だが反乱軍に加わりたい奴など今の陛下の治世で居る者か!人質の心配さえなければ倍は裏切るだろう」


「人質は5000の艦船に分散されて軟禁されてるのですか?」


「その可能性は無いと思う・・・貴族は流石に長男を人質に出せん。そんな事を強要したら流石に矛を向けられる。だから次男三男、下手すれば五男とか差し出される。幼児と言う事は無いだろうが、比較的に幼い子供達だ。また次に多いのが若い女の人質だが、分散させ万が一1人きりの所を血迷った者が襲い掛かったら・・・裏切らぬのに人質を傷付けたと流布される。さすがに其処まで馬鹿・・・しか居ないかも知れないが、忠告する臣下の一人二人位は居るだろう」


「昨日迄、甥がオムドの艦隊に居た。そいつの話では人質は、オムドのステーションコロニーに集められているらしい」


 オムドの背後にあるブラックホールは、規模が大きいが重力は弱い。

 それでも艦船が吸い込まれれば一発アウトだが、オムド星系は吸い込まれないギリギリの所にバランス良く鎮座している。


「それは好都合♪背後から帝国軍に襲われたら如何成るかな・・・・・」


「だからソレは不可能だと」


「簡単ですよ♪」


 ボクはニンマリと笑みを浮かべ答えた。


「で・・・人質は何人くらい居んの?」




 今から作戦が楽しみで仕方ない。

 その時、反乱軍は如何動くのだろう・・・人質を置いて逃げ出すか、それとも算を乱して逃げ惑うか!


「お兄さまは反乱軍が逃げ出す事しか無いと考えてますが、必ず計画通りに事が運ぶでしょうか?」


 ミューズは不安そうだが第一段階で貴族が逃げ惑う可能性は、アリスの計算では作戦成功率が7割以上あるらしい。

 少々少ないがコチラへ来る討伐軍はジュリアさん達を含め10000の艦隊に成る。

 だが総数では負けててもオムドに居る艦隊自体はたったの5000、しかも人に戦わせ後方で踏ん反り返っている奴等だ。

 ソイツ等が10000の帝国艦隊を眼の前にして平然として居られるか?


 答えはNoだ!


「あれ以来ジュリア中佐から苦情が引っ切り無しに届いています。多い時は10分おきに・・・・・」


 どこかの迷惑メール並みだな(笑)

 そんなの軍用回線で送って良いのか?


「この2週間でルグラムさんも説得に回ってくれている。ミューズさんも、面白く成りそうだと思いませんか?」


 コイツ・・・溜息吐きやがったよ!


「お・・・お兄さま?シートの下に手を入れて、何を取り出そうとしてるのですか?」


 焦るミューズはカワイイ♪

 勿論この位で本当にボールを使ったりしないけどね。


「さてと・・・ソロソロ時間だね」


 ボクはスターシップのエンジンを始動させる!

 現在スターシップは撃沈された戦艦の中を刳り貫いて中に入っていた。

 そのまま漂流し、ブラックホールに吸い込まれる残骸を装ってたのだ。


 極短い距離ではワープ出来ないが、バーベルとオムドは十分離れている。

 本当はワープしたら早かったが、残骸や未確認の船がワープアウトして現れたら不自然にも程が有る。

 だから仕方なく爆発した時の衝撃のまま流される船を装って、その戦艦の殻に閉じ篭っていた。

 そして今、殻から飛び出した。




「未確認の艦船が背後に現れました。ブラックホールとオムド星域の間に飛び込んでます。艦数は1!」


 途端に集まっていた貴族達はゲラゲラ笑い出す。


「帝国軍か?どちらにしろタダの自殺志願者だな」


「そのまま吸い込まれて御終いだろう?馬鹿め・・・・・」


 だがスターシップが吸い込まれる前に、


「何かを射出した模様・・・それがブラックホールに」


「高電磁場を計測っ!」


「く・・・空間が圧縮され重力場が・・・・・」


 次々と報告が上がると敵の首魁どもも警戒の色を強めるが遅い・・・強い衝撃が来ると次の瞬間には超大型戦艦が波間の小舟の様に揺れ、乗艦する貴族達が喚き泣き叫ぶ声が響いた。

 それが暫く続いたが、やがて揺れが弱くなり・・・そして収まると兵士が周囲を索敵して息を飲む。


「ブ・・・ブラックホールが消失しましたっ!高重力帯が全く存在しませ・・・大変ですっ!ブラックホールの跡に帝国艦隊がワープアウト、その数10000っ!」


 反乱軍貴族達が悲鳴を上げる。




「良かった・・・無かった、無くなってたよぅ!チャンとブラックホール無くなっていた」


 真っ赤な眼をしたジュリア中佐が叫んだ。

 ブラックホールのある地点にワープアウトしろと言われ怖かったし、間違いなく泣いてただろうが誰も突っ込め無い。

 正直に言えないだろうがブリッジに中に居る数名は、ジュリア中佐を含めチョッとばかり人に言えない事に成ってる者もいる。


 技術が進み宇宙でも余裕をもってトイレを使用する事が出来る様に成ったが、それでも戦闘中は何が有るか解らない。

 実際に地球でも宇宙飛行士の船外活動などは、オムツが標準装備と言う話も読んだ事が有る・・・けどネットで読んだ記事で正しいか如何か保証は出来ないよ?


 運の良い事に帝国の軍用のパンツは、オプションで非常時の為に吸水性が抜群なシートが付属している。

 全員では無いが心配な方は使用するそうだ。




「全乗員、戦闘態勢っ!ワープアウト酔いしてる者は体調の立て直し急げ、その他の者は艦隊をチェック、5分以内に戦闘行動を開始する!」


 するとモニターに父親の姿が映った。


「ウェルム少将より先に飛び込んで良いとの仰せだ。コチラが動くには、マダ15分は掛かる」


 彼等の名誉の為に言っておく、練度の差では無く船の性能の差だ。


「了解っ!先に飛び込んで掻き回してきます」


 全艦艇の準備が整うのに6分半掛かる。

 ワープアウト酔いが酷かったのだ。

 後で罰ゲームの再訓練だが、実際にはコチラの責任では無かった。


「良し、行くわよっ!」


 戦艦から駆逐艦まで、エルミスⅡで揃えられた艦隊のエンジン達が怒号を上げる。




「何とかせんかっ!」


 怒鳴った男は反乱軍の首魁だ。

 だが怒鳴った所で如何にも成らない!

 倍の艦隊が押し寄せて来るのだ。


「戦艦バスキー撃沈・・・巡洋艦ペガス撃沈・・・戦艦ガディウ戦闘不能・・・・・」


「役立たず共が・・・仕方ない、艦隊を50ベッセル後退させる」


 そう言うと横に居た副官に囁いた。


「敵に人質を奪われたら話に成らない。帝国軍の仕業に見せかけ・・・・・」


「心得ております」


 侍従が何かの役の為離れると、その男は呟いた。


「最悪の場合は・・・オマエに罪を着て貰う」


 醜悪な笑みを浮かべた、その男こそダラスその人であった。




「ミューズ、旗艦の特定は出来た?」


「戦艦ナナ・ドニスと同じく戦艦サル・ドニス、共に1200m級の超大型戦艦、このドチラかだと思うのですが」


「正に超弩級艦だね?」


「弩級・・・とは如何言う意味でしょう?」


 固有名詞由来の言葉は説明に困るな。


「弩級のドはドレットノートのドさ・・・そう言うデッカイ戦艦が昔在ったんだ。と言ってもスターシップより小さいんだけどな」


 そう言うと周囲の敵を次々沈めて行く。

 結局手伝う事に成るか・・・・・


「しかし・・・まさかココまで、お兄さまの策が綺麗にハマるとは思いませんでした」


「そんなに可笑(おか)しいかな?帝国もファーレン星域で使ったのが、全く同じ方法でしょ?」


 ブラックホールを中性子爆弾で消失させ、居住可能な星系を手に入れたんだよね?


「イエ、違いますよ?」


 エッ?何で?


「お兄さまの注文はブラックホールを中和出来る爆弾でしたが中性子爆弾では間に合いません。ファーレンの時には1000mも有る中性子爆弾を6発使いましたが、オムドのブラックホールは重力こそ弱いモノの大きさは倍以上、同じミサイルを最低20発は使うので今回は反陽子爆弾を作成しました」


 そうなの・・・・・おっと危ない♪


「お兄さま、会話してても操縦と戦闘には集中して下さい」


 ハイ、ゴメンなさい。


「指揮はナナ・ドニスが執り行ってる模様、おそらくダラスはコチラに乗艦してます。ですが戦艦サル・ドニスにもダラスを担ぎ上げた者達が・・・・・」


「両方沈めるさ・・・ところでドチラかから、何か信号が出て無いか?」


 イヤな予感がする。


「ナナ・ドニスがコロニーに向け、同じ信号を発信し続けています」


「やっぱりネ・・・パターンを解析して」


 反乱軍艦隊の外周部から、ジュリア中佐達の艦隊が内部に向け崩し始めた。

 同時にウェルム少将も外周部に取り付き始める。


「緊急連絡っ!ジュリアさんかウェルム少将は海兵隊を御持ちですか?」


「両方とも積んでるけど、コッチは艦隊戦が忙しくって出してる暇がない」


 ジュリアさんは無理そうだ。


「待たせたな!コチラの海兵隊は何時でも動かせる。揚陸艦はドコへ・・・・・」


 少将は殺るき満々だ。

 するとミューズが叫ぶ!


「敵旗艦とコロニーの間に入ってっ!」


 瞬時にボクが従いスターシップを滑り込ませ、同時にジェネレーターが凄い大きな音を立てる。

 全力でシールドを張っているのだ。


「ナナ・ドニスが今まで放っていたモノとは違う信号を送りました・・・恐らく自爆指令かと思われます。当艦はシールドで信号を遮断しつつ、先程まで送られてた信号と同じモノを照射中です」


出来(でか)したぞミューズ!ウェルム少将は、コロニーには人質が閉じ込められてますが、同時に爆弾が仕掛けられ、敵が爆発させる信号を送り続けてます。至急非難を・・・・・」


「この人数を流石に無理だ!爆発物処理班を回す」


 強襲揚陸艇がコロニーに向かう。


 最初に送られていた信号は❝受信してる間は爆発しない信号❞そして次に送られたのが❝受信したら爆発する信号❞だろう。

 危ない所だった、ダラスと言う男は本当にロクでも無い人間だ。


「揚陸艦がコロニーに張り付きました。銃撃戦が展開されてますが、程なく突入すると・・・サル・ドニスがコチラに向かって来ます」


 人質奪還されちゃ堪らないもんね!


「コ・・・コロニーが」


「揚陸艇が返り討ちにでも?」


 ミューズの返答が無い。


「如何したんだっ!」


 少し焦ったが、


「見られた方が早いです・・・・・」


 モニターの一部が切り取られ、コロニー各所の監視カメラの映像をハッキングして盗み出す。

 気品のある御婆ちゃんが指揮を執り、オバちゃん・お姉さんが銃を手に取り戦っている。

 その団体が港湾付近で兵士を押し出し、反対側から揚陸艇の攻撃と一緒に挟み撃ちにしている。


「人質に2割ほど成人女性が入ってましたよね・・・子供が居ない貴族や軍人さん達の・・・・・」


 如何やら子供が居なくて代りに人質にされた、貴族の奥さんやお母さんが反乱軍に牙を剥いたらしい。

 可哀想に・・・銃器を取り上げられた兵士が、フライパンや麺棒でタコ殴りに成っている。

 アレは痛そうだ。


「いえ痛いじゃ済まないでしょ、フライパンって凶器ですよ!鉄の板で本気で殴ったら、当然死にますよね!」


 凄いな・・・揚陸艇の連中より頼もしいかも知れない。


「人質の代表らしい女性より通信が入ってます。セッション通信ですから揚陸艇や少将達にも・・・・・」


「介入して」


 更にモニターが切り取られ、上品な老婆とジュリアさんやウェルム少将が映し出される。


「アマンダ・クゥエルと言います。現クゥエル伯爵の母親です・・・おや貴方が天空の女神様ね」


 サクッと音がして何かが胸に刺さった。


「ジュリアさん・・・ボクが男ってマダ報道されて無いの?」


「イヤねェ冗談よ♪」


 手強い婆ちゃんだな!


「もうすぐ港は鎮圧されるでしょうけど、このコロニーには人質が3500人以上居るの。問題は・・・・・」


「爆破指令の信号なら、アイツ等とっくに出してますよ!」


「やっぱりねェ・・・下品な人達は困るわ。ホント戦い方にも品が無い、あんな奴が次期皇帝何て笑わせてくれるわよね」


 そう言って溜息を吐くが、その動作は非常に気品がある。


「10代前半までの子供が2700人ほど、それだけでも何とか逃がせないかしら?他の人間は覚悟を決めたから・・・・・」


「15以上の子供やアナタ方は?」


 反乱軍の砲撃は既にコロニーにも向いている。

 このまま守り切るのは難しい。


「死にたくは無いけど・・・無理でしょ?覚悟は決めたわ・・・戦える子供達も手伝ってくれるって」


「逃げられる様な船は?」


「流石に、そんな物を残すほど間抜けでも無かった様ね」


 ボクは群がる反乱軍の船を堕としながら考える。

 ふとアマンダさんの背後に映る港湾部のブロックが眼に留まった。

 大型艦用の作業ドックが港湾部から突き出した形で付属している。


「ミューズさん、あの作業ドックの入船ゲートを閉じて前後の隔壁を閉じれば・・・・・」


「十分に完全な気密ブロックに成りますね」


「ドックの中には・・・・・」


「二酸化炭素フィルター付きの酸素供給システム、保温設備にジェネレーターも有りますが、制御にコチラから作業ドローンを飛ばします。このシステムなら余裕を見ても20分で♪」


 本当にミューズは良い子だ♡

 ご褒美に頭を・・・撫でられないから、代わりにボールを・・・・・


「怒りますよっ!」


 もう怒られてるw


「アマンダさんっ!20分でアナタの右2時方向にある大型船用ドックに、全ての人質を集められますか?」


「出来るけど如何するの?」


「問答してる暇は無いっ!早く行動するのっ」


「ヤレヤレ・・・女神さまは人使いが荒い。少しは年寄りを労わって欲しいね」


 ウ~~~ン我慢だ!

 相手は年長者、敬意は払わねば・・・・・


「その精神、多少ワシにも発揮してくれると有り難い」


 ウェルム少将が呟いた。




 避難させるため幼い子供達は近くで待機してたらしい。

 しかも万が一に備えて宇宙服を着用し、用意が良い事に感心する。

 その子供を守る為、少しばかり年長の子供が銃を手に取っていた。


「矛盾を感じる光景だね」


 この状況を作った奴等に嫌悪感を覚えた。


「サル・ドニスが更に接近中、主砲の直撃が来ます」


 シールドに明るい火花が飛び散った。

 正直奴等の兵器は脅威では無い、オマエ等の攻撃がボクの船に通用すると思うなよ!

 だが全方向から攻撃され、スターシップは兎も角コロニーの方が心配だ。


「コチラの船のみに攻撃が集中して無いので、シールドは十二分に耐える事が可能です。それとドローンの作業終了しました。人質の移動も全て終了、揚陸艦とも接続済みです」


「揚陸艦ブッチャーの艦長ジャクソンだ。こんな救出法を良く考えたな」


「同じく揚陸艦パニッシャーのジョージだ。いつでも出られるが本当に大丈夫か?」


「泥船に乗った積りで・・・・・」


「「泥船じゃ駄目だろう?」」


 帝国軍はノリが良いから好きだ♪

 さて用意は整った。


「全武装スタンバイ・・・撃てっ!」


 ボクとミューズが手分けをし、スターシップの全ての武装が火を噴いた。

 アッ、言っとくけどブラックホール・ダウンは抜いてだからね!

 反則技で申し訳無いがコチラの攻撃は、完全にでは無いにしろ全て敵のシールドを突き破る。


 敵からの攻撃が激減した。


「行くよっ!」


 スターシップの艦首を巡らし、ボク達はコロニーの港湾部区域の飛び込んだ。


「隔壁は・・・」


「下ろして有ります。抜かり有りません」


 ミューズの言葉にボクは宇宙港の奥へ進む。

 整備ドックが並ぶ中、一番奥の一番大きなドックへ・・・・・


「レーザー充電完了、衝撃を与えない為に敢えて最大出力・・・精密な射撃です。お兄さまに操作は御任せします」


「了解・・・ジョージさん・ジャクソンさん、衝撃に備えて」


 宇宙港の中に区分けされ大型船用の作業区域・・・そのドックを支える支柱を、擦れ違い様にレーザーで焼き切った。

 と同時に旋回し、ドックに並んで停船する。


「ジョージ、トルクを掛けるぞ」


 2隻の揚陸艦が推進力を掛ける。


「ドック反対側・・・切ります!」


 再度レーザーを照射しドックの接合部を溶断する。

 流石に大型船用のドック、中々切れない外壁をジリジリ焼き切って行く。


「マダかっ?」


「もうちょい!」


 流石に大型船用のドックは丈夫に出来てる。

 その間も外部から、コロニーの外壁を破った攻撃が中を跳ね回る。


「個体弾じゃ無いのに良く跳ねるっ?」


「跳ね回ってるのはエネルギー弾自体で無く、破壊され飛び散った施設の破片です」


 何て言ってる内に溶断し、ドック部分が宙に浮いた。

 アームでドックを引っ張り、出口に向かう揚陸艦に伝える。


「コッチが出て10数えたら飛び出して!」


 向こうは安全な領域まで逃げられれば、大型の戦艦にでも乗り換えて快適な旅だ。

 コッチはサブエンジンのみだがフルパワーで出口に向かう。


「行くぞっ!」


 ゲートから出た途端に、ビームファランクスカノンの全砲門が火を噴いた。

 船体の両サイドに設置したランチャーから、曲線を描いた光の尾が敵を貫いた。

 一発一発の出力は前の比に成らず、小型艦なら一撃で貫通する。


「ランチャーの数を減らして、別の兵器を船体に直接設置した方が良いな。その方が複数の敵を一度に攻撃出来る・・・後で改造だ」


「今考える事では無いのでは?」


 ミューズに声で呆れられた。

 後ろから揚陸艦に牽引されたドックが出て来る。

 大急ぎで後退する彼等に敵艦が迫った。


「行かせないからね」


 ビームとレーザーが四方八方にブッ放され、ソレ等は確実に敵艦を打ち抜いて行く。

 ジュリア中佐の艦隊が応援に駆け付けていた。

 主砲の斉射・・・敵艦から派手に火の手が上がる。


「サル・ドニス突っ込んで来ます」


「人質盗られたら御仕舞だからな!」


 艦首両側面のプラズマブラスターをチャージし、揚陸艇に引っ張られるドックの背中に着いた。


「行かせないよっ!」


退()かんが小娘がっ!』


 公開通信で反乱軍から怒声が届く。

 名前も知らないが同じ規模の艦に乗って、恐らくダラスと同レベルの地位に居る貴族だろう。

 ビームキャノンで砲撃しながら前に出る。

 コイツの運命は決まった。


「誰が退くかっ!」


 シールドを切ってプラズマブラスターを発射、見事にサル・ドニスのエンジン部を貫いた。


『待て降伏する・・・脱出を手伝え・・・うわぁ~~~~~っ!』


 サル・ドニスのエンジンが火を噴き、その火は艦隊を包み込んで行った。

 そして火の玉に成ったサル・ドニスは、膨らんで弾ける様に爆散する。


「ダ~レが小娘だ、クソジジイッ!」


「お兄さま、言葉が悪いですよ」


 ミューズに注意される・・・何故だろう叱られてるのに癒される。


「とバカやってる場合じゃない!それにしても武装はもう一度考え直した方が良いな・・・バランスが悪い」


 脱出してる人質入りのドックは、旗艦の方へ曳航されて行った。

 後は総司令官であるウェルム少将が上手くやってくれるだろう。


「ジュリア中佐の艦隊がコロニーに近寄ってます」


「近寄らない様に言って・・・いや敵艦隊をコロニー近くに、おびき寄せられないか聞いて」


 ミューズに問い合わさせると、返答が来る前に主砲が掃射され、同時にジリジリと後退を始める。

 しかもコロニーを盾にして・・・敵が詰め寄ろうとすると、如何してもコロニーに近付いてしまう。


「上手いぞっ!アレなら不自然じゃない」


 ボクはミューズが解析したレーザー信号のパターンを表示させた。


「この信号は今でも出っ放しなの?」


「ドック部がコロニーを出て暫くは・・・今は止まっています」


「このパターンを参考に自爆指令を再現して・・・ジュリア中佐に後退要請、全力でコロニーから離れろっ!」


 ミューズが通信信号を送ると、ジュリア中佐の隊が波が引く様に後退した。

 後に続いて詰め寄ろうとする反乱軍、だがナニか可笑しいと思い躊躇した艦が居た。

 気付いたのか後退を掛けるが・・・・・


「遅かったね♪」


 コロニーが火を噴き夥しい数の艦船を巻き込んだ。




 一方バーベル星系の艦隊は阿鼻叫喚の地獄絵図と化していた。

 ウェルム少将は人質を助けたので降伏する様レプトン通信で呼び掛けてたが、バーベルに居る艦隊を監督・監視していた上位貴族が握り潰していたのだ。

 しかも観測班がオムドのステーションコロニーが消滅した事を発見する。


「止めないかっ!直接見た訳じゃ無いだろう?」


「10光年近く離れてる、情報が間違ってる可能性も・・・・・」


 必死で言い訳するが人質に取られていた人間は黙ってる筈も無く、20000の艦隊が二手に別れて艦砲射撃で撃ち合った。

 もっとも上位貴族は先程も言ったが監督・監視に過ぎず全体の一割も居なかった。


「人質が帝国軍に助けられた可能性は?」


「解らんがコロニーが爆散したのは確かだ。そして正当継承・・・いや反乱軍は帝国軍に背後から襲われ、既にコロニーの在った宙域から押し出されていた」


 ナナ・ドニスに乗艦してる弟からの通信、ただし弟は認知されて無く関係を知ってる者は少ない。

 あの少年・・・キッドと言ったか?

 彼の救助は間に合わなかったかも知れない。


()()()出先艦隊より通信、如何しますか?」


 部下に言われ正気に戻る。


「すぐにオマエはナナ・ドニスから脱出しろ。間違いなく沈むぞ!」


「解った!」


 弟から通信が切れた事を確認し、煩い上官からの通信に出る。

 コロニーを爆破したのは帝国軍でダラス殿下は関係無い、だから逆らわず殿下を守れば反乱を起こした事を不問にするだと?

 帝国がコロニーを破壊する理由などドコに有ると言うんだ?


 オレは返答せずに()()目掛け主砲を斉射、宇宙の藻屑と変えてやる。


「反乱軍に嫌気が差した艦は我に続けっ、賊徒共を殲滅し帝位の正当継承者を詐称するダラスを撃つ!」


 バーベル星域に居た反乱軍の、大多数が帝国に下った瞬間だった。




 一割ほど数を減らしたバーベルの反乱軍が、そちらに向かって逃げていたオムドの反乱軍に向けて艦砲射撃を開始した。

 その反対からは更に帝国軍が追い立て、オムドの反乱軍は挟撃に有った形に成り次々と数を減らして行く。

 それにしてもバーベル艦隊の怒り様が凄まじい・・・あの怒り様は、どうやら人質が生きてる事を知らない様だ。


「ウェルム少将からは降伏と人質の無事を今だに通信で告げてますが、反乱軍が通信を阻害する為に流した粒子散布型シールドが正確な情報を阻害しています。従って人質が帝国軍に奪取された事を知らない人の方が多いですね」


「ウェルム少将に連絡・・・バーベルの反乱軍に投降を呼びかけて来る」


 通信はミューズに任せて敵の中央突破を試みる。

 迂回する時間は無いモタモタしてるとオムドの反乱軍を潰した後、バーベルの反乱軍とも戦闘に入る恐れがある。


「ミューズ・・・・・」


「何ですか?」


 ミューズは緊張した声で答えた。

 ボクが何を言い出すか解ってる様だ。


「命令だ・・・全感覚接続を遮断、30分ほど昼寝をしてなさい」


 一度も会った事が無いと言え、そして自分の虐待を誘発した奴だとしても、だからと言って血を分けた父親を殺す所を見せる気には成らない。

 反乱軍を突破する時にナナ・ドニスを撃沈し、反乱軍を無条件降伏する様に勧告する。


「お断りします」


 コイツ・・・行き成り逆らいおったな!


「ミュ・・・」


「例えどんなに叱られても、どんなに厳しいお仕置きを受ける事に成っても・・・これだけは譲れません」


「船長命令だよ。拒否は許さない・・・・・」


 コイツもガンコだが、認める訳には行かない。

 ボクはコントロールを奪い、彼女を強制的に眠らせ様かと考える。

 船長権限を行使すれば可能だが、


「お願いです・・・私は全てを見届ける覚悟をして来た積りです」


 まあボクも単純な人間だから、何を考えてるのか読まれたらしい。


「後でお仕置きだぞミューズ、それと絶対に()()()は出すな!」


「ハイッ♪アリガトウ御座います」


 スターシップの推力を上げ、敵の艦隊に突っ込んだ。

 反乱軍は長距離からの光学兵器の撃ち合いに興じている。

 背後の帝国軍にも対応しなくては成らないだろうに元気な事だ。


「ナナ・ドニス見えました。11時方向・上方15°」


 一番艦影が濃い中で、1隻の船がマーカーを付けられる。

 その中からミューズに何隻か、反乱軍で地位の高い軍人や貴族の艦もリストアップさせる。


「12隻か・・・ミューズ、全兵装のコントロールを切断しろ。コレだけは絶対に許さないからな!」


「解りました・・・・・」


 ミューズからコントロールを奪い、火砲を全てコチラで管理する。

 ビームとレーザーそれにブラスターだけ生かして後は全部遮断する。


「そんじゃ・・・イッキま~~~す♪」


 機首を巡らし一番艦影の濃い部分に突入した。

 当然ビームとレーザーとミサイルが雨アラレと言う感じで押し寄せて、とてもじゃ無いが躱せる状態じゃない。

 この世界では破格の高性能を誇るスターシップのシールドも飽和して剥ぎ取られ、次を張り直す間も無い位にダメージを喰らってしまうが一切無視する。


「敵の懐に飛び込みましたっ!」


 目視では確認しずらいが、密集する敵艦隊の中に飛び込んだ。

 途端に攻撃が止んで・・・同士討ちが怖いのだ。

 逆にコチラは遠慮無くブッ放つ事が出来る。


「装填ミサイル全弾発射!」


 思考操作で装填されてた全てのミサイルを発射する。

 四方八方で敵艦が爆散し、更に正面の敵にはビームが降り注ぐ。


「リニアキャノン切断解除、充電を開始・・・・・」


 大出力レールガンにエネルギーを充填する。

 一人だと多数の武装デバイスを制御出来ないから、状況にあった武器を選択する事が必要だ。

 一回撃てば当たれば敵を粉砕するビーム兵器に対し、相手を赤熱化させ破壊するのにタイムラグの有るレーザー、ボクは正面で旗艦の盾に成り全力でシールドを張る艦隊にレーザーを照射する。


「側面から敵艦2隻、突っ込んで来ますよ!」


 ミューズに言われたが無視して正面の敵を撃破、続いてレーザーから側面に向けていたビーム兵器に切り替え、艦首から艦尾まで一気に貫く出力で荷電粒子砲を放った。

 主砲と言え常識外れの威力に敵艦の動きが止まるが、砲台が自分の方を向くと大慌てで艦首を巡らす。

 早く逃げなさい・・・命のある内に、でも次向かって来たら真っ先に打つからね!


「外装部と兵装のダメージが厳しいです」


「全く造ったばかりなのに・・・・・」


 ビームキャノンとレーザーキャノンが1台づつ沈黙している。

 今回はオーバーヒートさせた訳じゃ無いよ!

 使って無いがファランクスカノンのランチャーもやられてるな・・・やっぱりもっと分散して船体各所に分けて設置するべきだった。


「正面、旗艦ナナ・ドニス・・・・・通信が入ってます」


 正面モニターの一部が大きく切り取られ、何時か映像データで見たオッサンの顔がアップで映し出された。


「貴様・・・実の父親を殺す積りかっ!私は・・・・・・・」


 オイオイ、陛下の血を継いでるとは思えないな?

 この俗物は一体ナン何だ?

 ミューズに会った事も無い癖に何を言ってる!


「アナタが()のお父様ですか?」


「貴様はミューズ何だろうがっ!」


 一般に公開され報道されてるが、時系列的には最初ボクは正体不明の戦闘艦乗りとして報道され、次は行方不明に成ったミューズと瓜二つである事が報道された。

 そして今はボクが男である事やミューズ姫で無い事は既に公開されているが、皇帝が情報操作してるとでも思ってるんだろう。


「あのなあ・・・仮にボクがミューズ姫だとして、キサマに親を名乗る資格有るのか?ボクがミューズか如何かも解らないクセに・・・・・・」


「き・・・貴様はミュ・・・」


「残念ながら()()()ミューズじゃない。話してる相手が男か女かも解らないのか?」


 ボクは集合してる艦影の中心に向かって機首を向ける。


「まあ人質を取って無理矢理戦わせる様な奴なんて、生かして置いても世の為に成らないだろ・・・大人しく死んでくれ!」


 リニアキャノンを発射した。

 その光と衝撃波が伝わって、真空なのに艦体を震わせ轟音を立てる。

 敵の中心を薙ぎ払い、その殆どをデブリへと変えながら・・・・・


「こちらファルディウス帝国軍キャプテン・キッド、貴君らの盟主は消滅した・・・彼等に続いて消滅したいものは戦闘を継続、生き残りたいならジェネレーターを落とせ」


 敵艦が次々と整列し動力を停止させる。

 それを鼓舞し戦わせ様とする艦は、少将の艦隊が撃破して行った。


「終わったな・・・ミューズ、手を出しても良いよ」


「分りました」


 彼女は艦体の損害状況のチャックを始める。


「しかしあの男・・・自分の娘の容姿すら解って無かったのか?」


 今ボクは髪の色を本来の黒に戻している。

 瞳の色も黒く見える程に濃い鳶色で、ミューズの本来の髪と瞳の色を知ってるだけでボクを彼女と思わない筈だ。


 まあ性別は・・・外見と声だけじゃ解らないか・・・それはボクも理解してるんだけどね(泣)

 ああっ、早く声変わりしないかな・・・・・


「エッ、クリーチャーボディは成長しませんよ!」


「何だって!」


 この日一番の衝撃を覚える。


「知らなかったのですか?」


「知らないよっ!」


 てっきりボクは成長し大人になってくモノだと思っていた!

 クリーチャーって成長しないんだ!


「だって自分で調整出来るんですよ・・・その気に成れば貌やスタイルから身長まで、容姿は全て自在に変えられますから成長する必要無いでしょ?ただ体積を変えるには栄養を十分取るかダイエットしないと成りませんが、普通の人のソレと違い調整で簡単に出来ますから・・・・・」


 世の肥満で悩む人や女性に羨望の眼で見られそうだ。


「この2週間で瞳や髪の色を本来のモノに戻してたじゃ無いですか?てっきり知ってるモノかと・・・でも何で戻したんです」


「同じ顔が二つ浮いてちゃ紛らわしいだろ?」


 最近ミューズはボクと会話をするのに、合成した自分の貌をディスプレイに表示させる。

 彼女とボクが瓜二つなのは、ご都合主義も極まっているが本当に偶然だ。

 海上で日本政府の船から逃げ回ってたボクを見て、ミューズは驚き観察する事にしたらしい。


 空から火の玉に成って落ちながら・・・その前に避けてくれよと思ったが、調べてボクの境遇を理解した彼女はボクを死んだ事にしてやり直させようかと思ったそうだ。

 まあボクが嫌がったら生きてた事にして出て行けば良いのだ♪

 結局同行して宇宙に繰り出したが・・・・・




「オムド側の反乱軍を突き抜けました」


 前方から光学兵器の光が飛んで来る。

 怒り心頭のバーベル側反乱軍だ。


「ミューズッ!」


「了解しました」


 全宙域に向け通信いや放送する。


「コチラは❝天空の女神❞キャプテンキッドです。反乱軍の全指揮官へ、首魁のダラスと旗艦ナナ・ドニスは(うみ)の藻屑となりました。その中心では反乱軍の投降が続いており、皆様にも降伏をお勧めします。なおダラスが監禁していた人質は全員帝国軍に保護イエ奪取しましたので、今後は帝国の人質です・・・ですから逆らわない方が利口だと考えます」


 何て言い草だ・・・でもコレで反乱軍も帝国に屈する口実が出来る。


「バーベル側の反乱軍が一斉に砲撃を止めました。ルグラム中佐が周囲を纏めている様です・・・オムド側の反乱軍はマダ抵抗する勢力が居ますので、攻撃しても良いかと言ってますが?」


「許可する」


 投降する反乱軍の数が徐々に減っている。

 鎮静化するのは時間の問題だった。

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