次に殺る相手を定める!
ヒマな訳でも無いだろうが、皇帝は頻繁にスターシップを訪れる様に成った。
正確にはミューズに会いに来てる・・・彼女の肉体はコールドスリープで眠ったまま、その精神はスターシップの管理AIを仲介し常に起きているのと同じ状態だ。
『花が増えたなあw』
当然だがミューズは食事やオシャレ等出来ないから、陛下の土産は花がメインに成ってしまう。
スターシップだけでなくドック自体も、そこら中が花で飾られていた。
「ご迷惑で無ければ良いのですが?」
「興味が無い奴は居るだろけど、花が嫌いだって奴って居たら精神が異常を来してる思うよ」
まあアレルギーとかで愛でる事が出来ない人は居るだろけどさ♪
「そう言えば彼に「この場では完全に私を直す事は出来ない」と告げられ、身体をカプセルで冬眠させた後、お兄さまったら良くお花を持って来てくれましたよね」
「そうだったっけ?」
ジュリアさん達やアイスコフィンのスタッフの皆が、ニヤニヤして恥ずかしいから惚けさせて貰う。
「お兄さまったら何だかんだ言って優しいから、プレゼント持って来ても素直に言ってくれず、気が付いたら花瓶に生けられて船内そこら中に・・・その事を指摘すると真っ赤に成って、本当に可愛いかったんですよ♪」
「そう言えば悪い事したね・・・虫がついてた時は!ボクも気が付かなかったけど、船内を毛虫が這ったら船内中の・・・・・」
「お兄さま!お互い深手を負う前に、この話は御終いにしましょう」
人の事は揶揄っといて都合の良い奴め!
あんまり揶揄うと、例のボールを使ってオシオキするからな!
「ぼ・・・暴力とHは反対です」
ミューズは可愛いから、つい虐めたく成るんだよね♪
「お兄さまの意地悪ッ!」
冗談は置いといて今後の予定を考えよう。
先ずミューズの治療である。
彼を含む先文明人は元々コチラの世界の住人で、戦火から逃れようと地球の有る世界に逃れたに過ぎない。
なので先に此方の世界の先文明人達が滅んでいるそうだが、戦いの主戦場・決戦が向こうだったのでコチラの方が施設が残ってる可能性が高いそうだ。
そしてミューズの治療が出来る高等医療機関は、それほど多く無く数か所しか無いらしい。
こんなに文明の進んだ先文明人達の技術でも修復不可とか、一体ミューズを生んだ女の実家は。ドレだけ彼女を虐待してたのだろう!
ボクは宙域図を銀河規模で表示する。
コチラの世界でミューズの治療が出来る施設が残ってる、可能性のある場所は僅か4か所しか無い。
そしてファルディウス帝国内に有るのは2か所、そのドチラも反乱軍の落ち延びた場所に有る。
「医療施設で無く、軍事施設や研究所なんだな」
「コロニーや避難所すら攻撃対象にしたのですから・・・・・」
A級市民を自称してた者達は、他の人民を抹殺して新時代を創ると豪語してたらしい。
その為コロニーや避難施設まで攻撃対象とし、それが恨みを買い血塗れの報復合戦に成ったそうだ。
「ドチラにしろ行かざるを得ないし、行けば戦わざるを得ないな」
これ以上は帝国の内乱に係るべきでは無いとも思うが、それでも内乱が治まるまで待つ気も無い。
そして向こうに行けば間違いなく襲われるし、そう成ったら黙って殺られる積りも無かった。
「OK!近い所から潰して見よう・・・行く先は反乱軍の集まるバーベル星系、その真っただ中に在るポワント宙軍基地だ」
そこに目的地を定める。
「それは良いんだけど、出かける前にエルミスだけは仕上げてってね」
後ろから抱き着いてジュリア中佐に耳元で言われた。
エルミスだけ仕上げても仕方ないと思うのだが、この船を彼女は非常に気に入って仕舞った様だ。
「チャンと目途は付けてから出発しますよ♪部下の方のトレーニングは、如何成りました?」
「大分進んでるわね・・・正直1.5倍速度のシュミレーターを、そろそろクリアしてるの。やっぱり2倍までトレーニングしてても良いと思うな」
と言っても実際エルミスⅡを動かして、最初から思い通りに動かせない。
まあやっても構わないだろうが、2倍までシュミレータの速度を上げるのはエルミスⅡの完熟訓練と一緒で良いんじゃ無い。
さて当初は先ずはスターシップを完全に仕上げてから他の艦船に手を着ける予定だったが、ミューズの事を話した後の陛下の様子から裏切られる心配は少ないと感じ始めた。
もっとも世の中何が有るか判らない・・・極論だが陛下が暗殺され、次に皇帝に成った人間が手の平を返す事だって有るかも知れない。
艦体の前にスターシップを完成させる方針は変えない積りだが、直後にエルミスと艦隊が出来る様にするくらいは良いだろう。
元々スターシップに載せてた武装は、修理や補給の事を考え帝国の技術や規格に準じて造って有った。
それでも現在の帝国では類を見ないほど高性能なので、お古と言え装備したエルミスⅡは火力が大幅にアップしている。
そしてソレをランクダウンさせたモノが新造艦に装備される。
それをブラッシュアップし、育てて行くのは帝国の役目だろう。
勿論ファルディウス帝国に裏切られた時の事を考え、スイッチどころか思考一つで❝各艦の最重要部分❞と❝建造データ❞が一瞬で吹っ飛ぶ様にしてあるのは内緒である♪
「お兄さま、新しいエンジンが完成した様です」
隣接する工房ブロックから、スターシップの新しいエンジンが4基運ばれて来た。
艦内の工房区画で造ってる大き目の2基を含め、スターシップはフォトンエンジン6基を装備する。
フォトンリアクション・エンジン、この世界にコノ技術は流石にマダ早いだろう。
「ところでさ・・・キッド君も記憶を取り戻したんだよね?」
「ウン、バッチリとね♪全て思い出したよ」
そう言うと不思議そうに聞き返して来た。
「あのガラス板って教科書なんでしょ?何で記憶を取り戻す機能なんか付いてたの?」
「記憶を取り戻す機能で無く、お勉強前に頭をスッキリさせる機能が付いてたんだよ。前にも言った通りアレには元々リミッターが付いてたんだけど、それが壊れてたんで全力で頭をスッキリさせてくれたのさ」
ホントその程度で済んで良かった・・・下手すると記憶を全てスッキリ消されたかも知れない。
あの後ボクは陛下に断って、事故が起きぬ様に完全に機能を壊させて貰った。
「じゃあ本当の名前も思い出したんでしょ?キッド君の本当の名前って、どんな名前なの?」
そう言えば確かに記憶を取り戻したけど、改めて名乗るのを忘れキッドで通したままだった。
地球と出る時イロイロあって帰る積りも連絡を取る気も無く、ボクは彼女を守り共に旅立つと心に決めた時に地球と苗字は捨てた。
それでも天文部の先輩後輩だった両親が、出会いとプロポーズの場だった天体観測中に考えた名前には愛着が有り、その名前と楽しかった地球での思い出から作った苗字を組み合わせ名乗る事にした。
ボクの良い思い出は夏に集中してる。
あの時ミューズとした初めてのデートの時は、夏の真っ盛りで凄い暑かった。
家族との楽しかった思い出も真夏である事が多く、両親の出会いとプロポーズの場も暑い夏の事だったと聞いている。
そう言えば良く祖母はオヤツに牡丹餅とか御萩を作ってくれ、暑い夏に日に縁側で並んで食べた事が思い出される。
アレって同じモノで春夏秋冬で名前が変わると祖母に聞き、それから考えた新しい苗字は・・・・・
「如何したの?言いたく無いなら無理に言わなくても」
「イヤ・・・」
ミューズと共に宇宙へ旅立つと決めた時、ボクの名前も同時に決まった。
「セイだよ・・・夜船 星、スターシップの名前もコレから来ている」
あの菓子の名前には色々な説が有るが、祖母が教えてくれたのは春は牡丹餅・秋は御萩そして冬は北窓と言うらしい。
そして夏の名前が❝夜船❞で、その由来は「この菓子を作るのに臼と杵は使わないで、もち米を擂鉢と擂粉木で半分だけ搗いて作る半殺しと言う技法で作るから」だそうだ。
つまり大騒ぎをしないで隣家にも知られぬ様に作れるから・・・いつ作ったのか解らない?・・・いつ搗(着)いたのか解らない・・・夜に船着き場に着いた船は「いつ着いたか解らない」・・・まあ駄洒落だよね♪
それを苗字として自分に付けた・・・暑い夏の夜にミューズ守り抜くと誓って自分に名付けた苗字だ。
暑い夏の夜に誓った事と祖母や両親の思い出を、苗字と故郷を捨てても忘れない様に!
夏の夜・・・夜の船・・・夜の空は星空だ。
ミューズと日本の花火大会を見物し終わった後の夜空を見上げ、空は冬の方が澄んでるだろうが寒く無いので一晩中でも空を見てられる・・・ボクも星空は好きだった。
その時に船にスターシップと名付けた。
「やはりヴァイラシアンが反乱軍に援助してる様ですな・・・・・」
「だけで無いだろう・・・恐らくポイゾニア連邦もな!バレてない積りでいる所が、愚か過ぎて恐ろしいわ」
「所詮、奴等は誰が君主に成ろうと構わない。自分の利益が保証されるならな・・・だから自分の立場が悪く成った途端に、反逆するのは眼に見えていたよ」
皇帝陛下の機嫌が悪い。
「そこ迄して欲しく成る程の物だったと言う事です。最初に奴等がキッド君から船を奪おうとしたのも、裏ではヴァイラシアン帝国が手を回していたに過ぎません」
ジェリス艦長いやジェリス伯爵の言葉と共に、ディスプレイに様々なデータが並べられる。
どれもファルディウスの貴族をヴァイラシアン帝国が、唆してる事を示す証拠物件だった。
ファルディウスからヴァイラシアンに、亡命する様に誘導したかったらしい。
「考え様に依っては、本当に良いタイミングでキッド君が現れたと言えますね。ところで拙い情報が出て来ました・・・・・」
「ヴァイラシアンの皇帝が、親征でも仕掛けて来るのか?」
皇帝が茶化すが、次の瞬間顔を顰めた。
「マダ生きて居ったか・・・・・」
反乱軍の声明放送に皇帝が頭痛を催すモノが混じっている。
「これはキッドに・・・いやミューズに教えるべきか?」
「教えるべきでしょう!キッド君の航海計画では目的地は反乱軍の集結先です」
皇帝の頭痛は当分止みそうも無い。
半月もするとスターシップの状況も、かなり形に成って来た様に見える。
「なんか大気圏内用の戦闘機みたいな外見に成ったね?」
この世界の戦闘機は日本のSFアニメと違い、大気圏内の航空機と宇宙空間の航宙機で、専用を明確に分けているモノが圧倒的に多い。
特に明確に違うのは翼の存在で航宙戦闘機には翼と言うモノは基本存在せず、形状も流線型で無く球状や箱型をしてるモノが多い。
まあ大気が無いのだから当然で、球状の機は被弾時の防弾性や耐圧性、箱型の物は空母の役割を担う船に艦載する時の艦裁量を上げる為に設計されている。
ただ大気圏内外兼用の戦闘機も存在し、そちらは航空機に近いフォルムに成らざるを得ない。
例えばスターシップの艦載機❝アイアンイーグル❞とか♪
「下手したら宇宙空間では戦闘機より、人型ロボットの方が小回り効くもんね」
スターシップの横でシートを掛けられたノーダーを見やった。
正式名称は戦闘用汎用型機動歩兵と言い、ノーダーは(状況を)選ばない & 有効性から来ている。
「それにしても、この形は航空機にしか見えないよね?大き過ぎるけど・・・・・」
ジュリア中佐も同じ事を言う、ウン全長200mクラスの航空機って見た事が無い。
スターシップの形が航空機染みた理由は、翼にも見えるフォトンラダーやフォトンスタビライザーが後部に設置されたからだろう。
ただし航空機の翼と見るには、明らかに面積が小さ過ぎるのだが・・・と言うよりは主翼が無く、水平尾翼が付いてる様なイメージだ。
更に実際には翼じゃ無いが、垂直尾翼らしき物が上部に2枚と、下部にも斜め下方向に伸びる尾翼の様な物が有る。
「高機動時のGが計算上凄まじい事に・・・悪い事言わないから、最上級の対G緩和装置に造り直すからね」
ミューズさん、怖いから脅かさないでね。
ボクはスクーターでスターシップの周りを見回してた・・・スクーターと言っても形はセグウェイみたいな物だ。
さて新しいスターシップのヒップラインは、大きなフォトンエンジンのバーニアを小さなモノで2つで挟み、それを八の字型に多少傾けて縦に並べ左右に装備している。
その間に補助エンジンのバーニアが4つ、更に姿勢制御用と重力下での離陸用のバーニアが船体各所に設置された。
「漸く武装と外装に手を付けられるな・・・・・」
「武装は目途が立ってますが、外装の方は鋭意製作中です。消耗品の補充を容易にする為、出来る限り帝国の規格に合わせますが、それ以外は常に艦内工房で製作する事に成るでしょう」
「規格に合わせられ無いモノって何が有るの?」
「ブラスターやリニアキャノンの弾です」
一応プラズマブラスターは基本的に圧縮プラズマをエネルギー弾として射出する武器だが、射出の原理はワープのそれに近い。
その為にプラズマ発生装置を外して給弾すれば、実体弾つまり砲弾を打つ事も可能だった。
実は理論的にバリアシールドの出力さえ上げれば、エネルギー弾は全て弾く事も可能だ・・・まあ其処までエネルギー供給を続ける事自体が常識的に難しい。
反乱軍が帝国に予定より早く襲撃出来たのは、近くの惑星から全てのエネルギーを絞り出し、ワープ時のエネルギー派を観測されぬよう封殺した。
それとは比べ物に成らないほどのエネルギーを注ぎ込めば、殆どの光学エネルギー兵器を無力化出来るが、万が一そんな事を敵が考えた場合に実体弾の使用が必要な事も有る。
「荷電粒子は個体とは言えないしね・・・・・」
荷電粒子砲も粉末金属粒子を使うが、あくまでアレはエネルギーの触媒に過ぎない。
「荷電粒子砲用の金属粉末や各種エネルギー、水や個体酸素等の供給規格は帝国のモノに合わせて有ります。排出物経路も同様です」
ミューズ、キミは優秀なアシスタントだ。
愛い奴め♡
「ところで外部から通信が入ってます。ジェリス艦長の秘書の方からジュリア中佐いえ、お兄さまに話が有る様で別荘の方に来て欲しいと言ってます」
「すぐに伺って良いのかな?」
沈黙の時間が少々・・・
「良いそうです」
「じゃあスグに戻ると伝えて♪」
アイスコフィンとコロニーは直通の通路は無いのでランチを手配する。
「でも何で別荘で?どうせジェリス艦長なら、ラグナレクの艦載小型艇で移動だろ・・・コッチへ直接来れば良いのに」
するとミューズが少し申し訳なさそうに言った。
「多分私に聞かせたく無いのでしょう」
「ミューズには気付かれて居ったか・・・・・」
「通信や報道などチェックしてるのだと思います」
陛下の別荘には皇帝陛下一同にジェリス艦長のオマケまで付いていた。
「私はオマケ扱いかい?」
最近ジェリス艦長のツッコミが洗練されて来た♪
絶妙なタイミングでブッ混んで来る。
「私は芸人では無いのだが・・・」
良かった・・・この世界にも、そう言う人達は居るらしい。
「で何なんです?ミューズには聞かせたく無いけど、バレバレだった事柄って!」
「キッド君!アナタのツッコミが一番、情け容赦無いわよ・・・・・」
そうかも知れないけどミューズを沈ませる様な事はして欲しく無かったな。
「我々が沈ませた訳じゃ無いぞ」
そう言って従者に指示するとモニターに一人の男性が映し出され、ソイツは自分こそ帝国皇帝の正当な後継ぎであると主張している。
見た眼は良いだろうが眼付が気に入らない・・・有った事も無い人なのに、なんかヘビの様なイメージがして、第一印象だけで判断したけど信用出来そうも無い雰囲気が有る。
なんか嫌な予感がする。
「その直感は正しいな・・・私が言うのも何だが、ロクでも無い奴なのは確かだよ」
陛下はホップ(ビール造りに使う奴)かセンブリを、直接噛んだ様な貌をしながら吐き捨てた。
「お知合いですか?」
「息子だからな」
ウッワ~~~ッ、イヤな予感が全開!
「って事は・・・」
「そう名乗る資格など全く無いが、あえて遺伝学的に言えばミューズの父親だよ」
当たっても嬉しく無い予感が見事に的中した。
「そこのアステロイドベルトで、キミが反乱軍の中核を狙い撃ちで殲滅した。中核はマルドゥース公爵の一族だったから、彼の後に担ぐ神輿はダラスしか居なかったのだ」
「コイツ、ダラスって言うのか」
ボクはモニターに映った顔を脳裏に刻み込んだ。
殺す相手の名前くらい覚えて置いた方が良い。
「殺るのか?」
「その気がボクに無くても、奴等はスターシップを狙って来るでしょ?なら戦わざるを得ないし、そうなればミューズが全力でボクの意志を叶え様とします。でもクズと言えミューズに実の父親を殺させる訳には行かない・・・ならボクが先に奴を殺しますよ」
ボクは自分の口から、こんな冷たい声が出せるのかと少し驚いた。




