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ミューズ姫の部屋を見学する。

 巨大な艦船が周辺を徘徊しているファルディウス帝国の首都星、かなり距離には余裕をもってワープアウトし、帝国軍へ通信を入れて見る。

 ここまで1週間ほどかけて到着したがエルミスⅡでは10日ほど掛かる、到着するのは3~4日後だろう。

 まだ周囲は静かだが首都星の衛星軌道上には、多数の艦隊が敷き詰められる様に浮かんでいた。


「こちら援軍スターシップのキャプテン・キッド、帝国軍の責任者と話したい」


「こちら帝国軍宇宙艦隊司令官ビジーズ大将です。お待ちしてました。皇帝陛下より話は伺っております。No7ステーション・コロニーにて、皇帝陛下と元帥閣下がお待ちしております」


 偉そうな方々が、ボクを待って居るらしい。


「偉そうなじゃなく本当に偉いので、あんまり変な事は言わないで頂けると有難いのですが・・・・・」


 いかん唇に出ていたらしい。

 ビジーズ大将に言われてしまう。


「こちらから誘導しますので、了解して頂けるなら指示に従ってください」


「了解しました。従います」


 ボクはカチューシャをして首の後ろで髪を一纏めに縛った。

 フライトジャケットっぽい上着に、下はジーンズそれにブーツ、手にはフィンガーレスのグローブだ。

 一応、懐に銃を忍ばせる。


「なんでオーソドックスな炸薬銃なのですか?」


「趣味♪」


 アチラさんも、まさか炸薬式拳銃を持って来るとは思わなかっただろう。

 スターシップの工房で素材から厳選して作ったが、銀のフレームに黒いスライドのコルト・ガバメント風のカスタムモデル、グリップはパックマイヤー風のラバーグリップだ。

 ボクの記憶の中にある日本でも時代遅れ感のある旧式モデルだが、デザインに影響の出ない範囲でダブルカアラム化をしてあり、45ACPを参考にした強力な弾丸を使用する。

 宇宙空間でも使用出来る趣味に走った自慢の一品だったが、


「申し訳ありませんが皇帝陛下との謁見、武器の類は預からせて頂けませんか?」


 だよね~~~っ、ちくせう!


「早かったな、反乱軍は全然見えて無いぞ」


 陛下に言われちった♪

 やはり早かったか・・・まあ遅れるよりマシだけどね。

 そこには流石に眼力の違う、帝国の将軍達が居並んでいる。


「先程はどうも、ビジーズだ。コチラがアヴァ元帥にカペターズ大将」


「キャプテン・キッドです。状況は?」


亜空間航行(ワープドライブ)してる船団の反応をキャッチしている・・・一週間ほどで首都星の先アステロイドベルトの向こうでワープアウトするだろう。敵艦隊は25000から30000、対するコチラは12000と言う所だ」


 星域図を広げて作戦を練る。


「外周部での平定を急いだが間に合わなかったな・・・かと言って外周部を固めないと他国の介入がなあ・・・・・」


「結集されるスキを与えたのは痛かったが、これは仕方のない所だ。むしろ3日頑張れば主力の30000が来て挟み撃ちに出来る・・・と言うのは楽天的過ぎるな」


 まあ2~3倍の敵には効率的に当たらないとね!

 ワープアウトする宙域に罠を仕掛ける計画も出たが、広大な宙域のドコに罠を仕掛ければ良いのか特定出来る筈が無い。


 そもそもワープアウトとは何も無かった所に突如として艦船の質量が現れる。

 無重力・真空と言えど突如現れた質量に、周囲の罠は問答無用で吹き飛ばされるだろう。


『それこそ先の海賊の置石を参考にするなら、惑星でも置かなければ妨害にも成りません』


 アリスがカチューシャを通して囁いた。

 スターシップの武装は確かに強力だが、数万の艦隊を一撃で沈める事は出来ない。

 いや出来る物騒な代物も一つ有るが、正直アレは使いたくなかった。


「敵は一方行から纏めて来ると思いますか?」


「絶対に来ないと言い切れるね」


 星域図に3本の矢印が示される。


「これだけの大艦隊そして首都星を堕としに来ると考えれば、アステロイドベルトの向こう側しかワープアウト出来る場所は無い。アステロイドのコッチ側には要塞が有るので、アウト後の無防備な所を狙い放題だからね」


 ワープアウトの直後は、ワープに大量のエネルギーを喰われ防御力がダダ下がりに成る。

 しかも光学兵器に充電して置くと亜空間では放電爆発するので、充電してたなら放電させる必要がある。

 更にボクは平気だが適性検査をクリアした、ベテランの軍艦乗りでさえ5人に2人はワープ酔いをする。


「ここより遠くにワープアウトするなら、ウチの主力が来るまで耐える事が容易くなるね♪この宙域に間違いなく主力はワープアウトする・・・問題は進軍ルートだが」


「アステロイドベルトを回り込む2ルートに、突っ切る1ルートですね?」


 頷くカペターズ大将、


「運の悪い事に恒転周期が連動してね、アステロイドの中に狭いが一直線に突き抜けるルートが出来る」


「この広大な宙域のドコにアウトするかによる。まさか真正面にアウトするとは思えないが・・・・・」


 アウト直後に襲われる事への警戒や、衝突など事故防止の為にワープアウトには広い空間が必要だ。

 それでも広大な宇宙空間、たかが30000程度ならドコへ出て来るも思いのままだった。


「どうせ出て来る場所など判らないなら・・・いっそ首都星に戦力を集中し、ワープアウトした所で対応するしか無いですよね?」


「しかし・・・」


 まあ理屈で考えたらそうなるが、軍人さん達も承諾しにくいモノが有る。

 なるべく敵を首都星に近付けたくないのだ。


「分散してワープアウトする事も有りませんかね?」


「無いとは言い切れないだろうが多分しない、数の上で有利なのに態々分散する事は無いと思う」


「精々別れるとしても数か所だろう。その上で侵攻ルートを分けるか纏まって来るか・・・・・」


 ならやる事は決まっている。


「ワープアウトした一番大きい敵艦隊に、ハイパードライブで突っ込みましょう。勿論ボク一人でね♪」


 陛下は頭が痛そうにコメカミを摩る。


「少なくとも艦隊の中で飛び回るボクを堕とすまで足留め出来ます。その上で残った艦隊から仕留めるのも良し、集中攻撃するも良し」


「「「オマエ・・・そう言う曲芸じみた発案が良く出るな!」」」


 宇宙船モノのスペースオペラって、大抵主人公ってソウ言うキャラでしょ?


「「「これはフィクションじゃ無い!」」」


 ウ~ン、皇帝側の軍人さんとはウマが合いそう♪

 非常にタイミングの良いツッコミです!




 敵がワープインした状況と目的地がココである事から、敵が来るのは一週間ほどかかると見られている。

 まあソレだけ遠い所で集結し、主力が散るのを待ってワープして来たのだ。

 アウトする場所が詳しく判れば良いのだが、そこまで計測する方法はスターシップにも無いし、途中で予定変更されたら元も子も無い。


「とにかく敵が来るまではヒマでしょう。臨戦態勢に成るのは3~5日前で十分、流石に首都星まで降りるのは憚られるけど、ステーションコロニーで羽を伸ばすには問題無いでしょう」


 そう言われたボクは秘書風のお姉さんに連れられ、首都星のステーションコロニー船着き場を散策していた。


「ほぼオニールシリンダーと同じ、バーカンディのファームコロニーと同じく思った以上に自然が多い」


 二酸化炭素や有機物のリサイクルに必要なんだろう。

 ジュリア大尉も言ってたが、同じコロニーで農作物と畜産物を作るのも同じ理由かも知れない。


「緊急時に冷凍固体化させた大気元素の放出や、凍結させた藻を解凍して酸素を作る設備も有ります。しかし自然で作られた大気が、やはり一番美味しいですから♪」


 その意見には同感だ。


「このコロニーの観光スポットは実は一般市民の住宅ナンです・・・もう見えて来ましたよ♪」


 なるほど・・・これは感心する、こうすれば住宅地も観光名所に成る。

 住宅は団地に近い構造だが、その壁面はコケ状植物やツタ植物に覆われ様々な花が咲き乱れていた。

 シンガポールの街に似た様なのが有ったかな?


「居住部の上が庭園部に成っており、市民はセットで買う事に成ります。壁が傾斜してるので上階に行くほど狭くなりますが、お金に余裕がある人は何フロアか纏めて買うのです」


 正直言ってジャングルを歩いている様な気分に成る。

 それを意識してかアーチや薔薇窓(ステンドグラス)、それに公園施設などが点在されている。


「この路地は狭いですね・・・成る程これはイワタバコ、日陰を好むコケや植物用に?」


「イエ太陽光に面しない南北に走る横丁は、広く取っても意味が無いので・・・それよりは東西の路を大きく取れば、日当りを良くする事が出来ます」


 日当りの問題か・・・ちなみにコロニーの東西南北は太陽に対する角度で決まり、太陽に対し直角方面に伸びる方向が南北だ。

 更に歩くとバラに囲まれた住宅地に出た。

 そこら中でカップルが楽しそうにしている。


「スラム的なモノも有るのですか?」


 そう言うと彼女は怪訝に色を一瞬だけ貌に浮かべ如何やらボクの発した「スラム」が解らなかったらしい・・・ボクはファルデウス語で会話してるけど基本は地球の文体・書式(フォーマット)、地球に在ってコッチに無い言葉を発言されて戸惑ってしまったのだ。

 ただ彼女は携帯してるかインプラントしてる端末で該当する言葉を解析し、それで足り無ければネット的なデータベースに問い合わせて検索する事も出来る。

 凄いハイテクなんだろうけど・・・スラムに該当する言葉が無いなんて何て素晴らしき世界だろうと一瞬感心したんだけど、如何やら「スラム」と言う単語自体が無かっただけでソレに類するものは存在してた様だ。


「スイマセン、翻訳機にスラムに該当する言葉が無くて・・・チョッと待って下さい。ダウンロード出来ました・・・貧民街の事ですね?収入の上下が有っても極端に貧しい方は、このコロニーには住んでません。そう言う方はフリーコロニーや廃棄コロニーに住居を求めますね」


「フリーコロニー?」


「自治されてるコロニーです。税金が安かったり無かったりしますが、サービスや治安は正直言って・・・後は自然回帰主義の方は惑星上で、そう言う生活を送ってたりしますが、あれはスラムとは違いますね」


 ちなみに廃棄されてるコロニーも、解体されたりしなければ人が住み着く事も有るらしい。

 惑星上に堕ちたりせんだろうな?


「そうなる前に中性子爆弾で爆撃ですね。センターピラーさえ破壊すれば、大気圏でバラバラに成りますが、まあソレでも被害が出るでしょうけど」


 チューブライダーに乗りながら案内される。

 サーフィンの技じゃ無いよ!

 透明チューブ状の通路の中を走る列車みたいな乗り物だ。


「無重力区画の方へ戻るついでに、陛下の別荘やアトリエも見て見ますか?」


 シリンダーコロニーの両サイドは無重力の区画で、宇宙船の港やドッグが建設されている。

 厳重な警備とチェックを通過すると、そこには皇帝の別荘と個人用ドッグ兼アトリエがあった。


「ここなら好きに重力を調節出来るか・・・・・」


 皇帝がミューズの躰に負担を掛けない様、ステーションコロニーで暮らしたと言っていた。

 当然ながら彼は自分の孫の為に、コロニーの生活区画の重力を操作する様な馬鹿じゃない。

 ここはコロニーの自転に関係なく、独自に回転しているので勝手に調節出来るのだろう。


「落ち着いた別荘と言う感じだな・・・・・」


 流石は皇帝の別荘だけ有って、庭には池や林も有り大きな学校のキャンバス位の敷地が有る。


「良かったら中も見学しますか?陛下からも是非にと言われています」


 それを言われてボクは漸く、このコロニー観光の趣旨を理解出来た。

 名前を聞いても名乗る程の者じゃ無いと躱した彼女、政府のエージェントで心理学か何かに造詣が深いのだろう。

 ボクとスターシップの記憶や情報が消失されてる事は帝国側にも通知して有る・・・陛下はボクがミューズ姫で有る可能性を捨て切れ無いのだ。


「良いですよ、その方が都合が良ろしいでしょう?」


 門番に話して中に入ると、彼女は深々と溜息を吐きながら言った。


「バレちゃいましたかね?」


「気にしないで下さい、こちらも本当に気にして無いですから♪」


 そう言う積りで言った訳じゃ無いが、言い方が少し嫌味に聞こえたかも知れない。

 大きな庭を歩いて行くと庭師のお爺さんがビックリした顔をしてる・・・多分ミューズ姫を知ってるんだろう。

 彼女の案内に従い建物の正面扉を開ける。


「美術館の中みたい、流石は皇帝陛下の別荘だ」


 中は嫌味に成らない程度に贅を尽された、美しい大広間に成っている。

 その正面には一枚の絵画が飾られていた。

 少々痩せぎすだが美しく愛らしい女の子、こんなカワイイ娘を虐待してた親が居るのか?


「この娘がミューズ姫?」


「そうです」


 成る程・・・間違われる筈だ。

 ボクが過度にダイエットして不健康に痩せたら、こう言う顔に間違いなく成るだろう。




「こちらが姫様の部屋でした・・・いえ今でも姫様の部屋です」


 なかは女の子の部屋にしては飾り気のない、簡素で清潔感溢れる部屋だった。

 男の子の部屋にしても無骨さが無く、だが本当にモデルハウスの様に生活感が無い。


「姫様はモノを置きたがら無かったのです。モノが有ると奪われるか、それとも与えた事を口実に何かされたので・・・・・」


 他人事ながら殺意が沸き立つな・・・いやヒョッとしたら自分の事なのかも知れない。

 正直言って前ほど自分がミューズ姫で無い事に、自信が持てなく成って来ていた。


 上品な木製のライティングデスクとベッド、それに一般家庭用のクローゼットに飾り棚・・・本当にお姫様の部屋だったのか?

 ライティングデスクの上には、今の容姿より若く見える皇帝陛下の膝の上に乗せられ、微笑んでるミューズ姫の写真が飾られている・・・この時すでに彼女は陛下達に告げられ無くとも自分の寿命を心得ていたそうで、それに陛下もミューズ姫が失踪したら外見が一気に老け込んでしまったらしい。


「ここは公開してる訳では有りませんが、希望すれば一部見学が可能です。彼女の様な可哀想な娘が二度と出て来ない様に・・・・・」


 そう言うと彼女は眼元にハンカチを当てた。

 年齢は30代くらい・・・ヒョッとしたらミューズ姫の世話をした事が有るのかも知れない。


 ふと横を向くと陛下がプレゼントしたモノだろう、飾り棚にはエルミスのモックアップの様な物が飾られている。

 その上下の段には流石に女の子らしいのか、鉱石や置物が飾られていたが・・・その中に有る妙なモノから眼が放せなくなった。


「それは❝忘れられ物❞です」


「忘れられ物?」


 覗き込むと厚さ1㎝ほどの遊色効果の有るガラス板の様に見え、紫・青・緑・黄色と色を変えながら光を放っていた。


「先古代文明時代のモノらしく、誰が何時作ったのか全く分からない遺物なのです。昔は神の創った物だと信仰の対象に成っていた時期も有ります」


 確かに神秘的な色をしている。


「良かったら触って見て下さい・・・面白い事に人が触ると全く色を失って、銀灰色のガラス板に成ります」


 ヘェ、オーパーツ的なモノか・・・面白そうじゃ無いか!

 ボクは飾り棚の扉を開き、そして指先で触れて見た。

 ビビリって言うなよ!

 下手に何か有って割っちゃったら、皇帝陛下に叱られるだろ?


「ホントだ・・・」


 指が触れた途端、ガラス板から眩しい程に発していた光の色が失われた。

 後に残ったのはタダのガラス板、表面には幾何学模様が刻まれ綺麗だけど・・・ンッ?


 何かが頭の中で囁いた。


 次の瞬間、ボクの身体から力と言うモノが全て抜け落ちる!

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