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ドミニオから戦争が始まった②

 この星ドミニオは太古の進化を辿る教科書として、また自然を保護する目的で大事にされて来たけど実は再利用出来ないほど古い宇宙船を廃棄する場所でもあった。

 ただ闇雲に宇宙船を捨てた訳じゃ無く海中に沈めて漁礁にしたり、砂漠に縦に突き刺して地下水脈を掘りオアシスを造ったり、そして生物が隠れたり住んだりするコロニーにしたりしてる。

 まぁ地球でも似た様な事やってたね・・・・で今ボク達が隠れてる❝この場所❞は、そう言う計画の下に投棄された廃棄宇宙船のヤードみたいな場所だった。


『全員配置についたな?』


 ボクはティファさん達にカチューシャの通信機能で声をかける。


『配置についてます・・・でも寒い!』


『凍えそうだ・・・』


『風邪ひいちゃう!』


 この辺は温暖な気候だけど流石に朝は寒い、その中で熱遮断シートに包まってると言うまでも無く寒くて凍えそうに成っている。


『ボクだって寒いんだから我慢してよ!それに・・・そろそろ奴等も降下して来る、気を抜いてる人は後でアイギスさんにオシリ叩いて貰うからね』


 もちろん冗談だけど何となく空気が緩んだ気が・・・まあ気を抜かないで緊張して貰えたら言う事は無い、さて此処(ココ)の地形は廃宇宙船が積み重ねられた上から木々が増殖しジャングルと化してる。

 しかも団地の様に建造物が規則正しく並んで立ってると言うより、上から何隻も積み重なり縦にも横にもなってミッチリ隙間無く並んでる感じ。

 と言うより殆ど接触し擦れ合ってて内部で繋がってたりしてる、だから巨大な迷路の中の様にも感じられた。


「始まったな・・・・・」


 派手な音を立ててスターシップの艦載機である❝アイアンイーグル❞が、ボク達の隠れてる区域を囲む様にして空爆して行く・・・一応イーグルのカテゴリーは航宙戦闘機だけど、大気圏内での使用にも耐え攻撃機や爆撃機にも転用させられる造りになっている。


『お兄さま』


 カチューシャからミューズの声が届いた。

 彼女は今スターシップで遠くの地から惑星全体を監視して貰っていた。


『隕石に偽装した揚陸工作船が、スターシップの待機してる場所と惑星核を挟んで対角線上にて大気圏突入を開始しました・・・アレで偽装出来てる積り何でしょうか?』


 最近ミューズの言葉が辛辣に成って来てる気がする(笑)


『そう言ってやるなって、スターシップの観測機器なら兎も角、このレベルの偽装ファルデウスのでも見破るのは難しいんじゃないのか?』


『そうでも無いと思いますよ・・・この位ならファルデウスでも十分に見破れるかと、それより10分もすればジョシュアさん達は爆撃を終わらせスターシップに帰還します。早ければ、その60分後には敵がポイントに・・・・・』


 この爆撃はスターシップから脱走したティファさん達が、ボク達に追い掛け回されてる様に見せかける為の欺瞞行為なんだ♪


『さあ楽しいカーニバルが始まるぞ』


『こ・・・これが祭り(カーニバル)ですか?』


 早速ボクと言う人間を理解し始めてるティファさんが呆れた様に言って来るけど、


『実際に来年からは祭りに成るさ・・・グランティアの独立記念祭に、だから愚痴こぼして無いで寒くても静かに待ち構えててよ!』


 今は忍んでいる立場ゆえ通信は音声だけ、だけど何となく彼女達が良い笑顔を浮かべながら返事した様に思えた。

 さて・・・そろそろボクが投入した第三の戦力が行動を開始してる筈だ。


「コッチの思惑に乗ってくれると良いけど・・・」


 ボクは思わず独り言ちる・・・会話をしてて分かった事だけどゲイドと言うのは根っからの小悪党で臆病者、彼等をドミニオに艦隊ごと近付けるには衛星軌道上に居るジュリアさん達ロイヤルフェンサー第一艦隊を移動させなくてはならない。

 だけど何も無いのに移動したら誘い込む為の罠だと馬鹿でも判るだろう・・・判るよな?判らないほど馬鹿じゃ無いよな?

 罷り間違ってゲイドと言う敵の司令官が、それが判らない様な馬鹿だとすると・・・ボクは自分の資産を思いっ切り無駄遣いした事に成るんだ!




「艦首左側面に被弾っ!直撃です・・・摸擬弾とは言え第一装甲板が凹んで・・・・・」


「冗談じゃ無いわ、あのクソジジイ一体何を考えてるのっ?」


 自分の艦のブリッジで怒鳴るジュリア中佐・・・彼女は自分が艦長を務める高速巡洋艦❝クリッパー❞を溺愛してたから、戦闘以外で傷付けられる事を思いっ切り嫌がるのだ。


「昨日の打ち合わせじゃ新型に偽装した中古艦を何隻か沈めて戦闘を装おうって・・・・・」


 その偽装された艦も火を噴いて轟沈してるのだが、クリッパーを含む他の艦にも思いっ切り摸擬弾がブチ当たっていた!


「そんなに擬装艦を用意出来無かったから仕方ないじゃ無いですか・・・擬装艦を沈め切った途端に他の艦に攻撃当たら無く成ったら、ノスモーの低能共だって欺瞞戦闘だって気付いちゃうでしょうに・・・・・」


 副官であると同時に士官学校時代からの親友ミント大尉に言われて悔しそうに貌を歪める。


「だから昨日はダイル氏の方から、綿密な打ち合わせをと申し入れが有ったんですよ!それを「その場の流れに合わせてアドリブで」何て言うから・・・上官殿これは一体誰が悪いと思いますか?」


 そう強く出られたジュリアは縮こまって・・・


「ハイ私です・・・申し訳御座いませんでした!」


 と言い、ブリッジのクルーにクスクス笑われてる。


「上官殿・・・後でお話が有りますからね!」


「あ~ん、ミント許してぇ~~~っ!」


 ブリッジクルーの忍び笑いが大きくなった・・・最近キッド君にお尻叩きされて以来、何故か同期であるミント大尉まで上官であるジュリアのお尻を叩く事に遠慮が無く成って来てるのだ!

 まぁ実は飛び級を重ねたジュリアに比べミントは若干歳上、部下に成っても頼りに成る姉貴分的な人物である事には変わりが無いのだが・・・彼女の「お話が有ります」は、お説教か最悪お尻叩きもされる可能性がある!


「だったら、さっさと摸擬戦闘を開始しなさいっ!やり過ぎたり演技が下手な場合、お話の時間が長くなりますからね上官殿」


 ミントが自分を❝上官殿❞と呼ぶ時は怒って自分を叱る時、それが解ってるジュリアは(めじり)に涙を浮かべながら!


「敵の擬装艦に実弾をっ、同時に摸擬弾(はなび)を敵艦隊に掃射っ!それとダイル社長の艦を索敵して・・・あのジジイの艦にも摸擬弾を一発打ち込んでやる!」


 そう真っ赤に成って怒鳴るジュリアだったが・・・


「ジュリア艦長・・・くれぐれもヤリ過ぎは無しですよ?」


「解ってるわよぅ・・・」


 と縮こまって注意して来た副官に言うのだった。




 一方ジュリアのロイヤルフェンサー第一艦隊に正対する正体不明の艦隊の旗艦ブリッジでは・・・・・


「やり過ぎじゃ無いか?何も直撃させる事は無かっただろう?」


「良いんだよグレイ・・・この芝居を彼女は少し甘く見てる、芝居と言え作戦の成否が掛かってるんだから少しは真面目にやって貰わなくては」


 そう言うダイルに苦言を呈したのは元執事で如何やら名前はグレイと言うらしい・・・ちなみに現在 旗艦の指揮は副艦長のグレイで執り、本来の艦長であるダイル社長は艦隊司令官のような立場に座っていた。


「元々海賊相手に艦隊戦なんて年中やってたからな・・・今回は我々の力が本物の軍相手に、どの程度戦えるのか出来るか良い指標に成る。さぁ諸君、ファルデウス正規軍の本物の宇宙艦隊が摸擬戦の相手に成ってくれてるんだ!良い勉強の機会と思って思いっ切り胸を借りよう!」


 ジュリアにとっては良い迷惑である!




 そんな事は知らないキッド(ボク)は防寒シートに包まったまま、ゆっくりと眼を開けて身体を解し始めた。


「意外と早かったかな?」


 ジョシュアさん達のイーグルが引き上げてから20分も経って無いが、西の方から何かが近付いて来る警告が視界の隅に表示されている。

 ステルスシップの揚陸艇か・・・如何やらゲイドって司令官、白兵戦でティファさん達を狩りだす積りらしい。

 まあ爆撃機で絨毯爆撃とかして万が一にも逃したら、たった一人だったとしても完全に情報を・・・口を封じた事に成らないからね!


「さてと・・・狩りの始まりだ!ティファさん達は・・・・・」


 広大な密林(ジャングル)の中に幾つもの宇宙船が傾いて地面に突き刺さっている・・・その全てが緑に覆われた状態であり、投棄されてから大分時間が経過してる事を伺わせていた。

 実際ここは最初は荒れ地で投棄した宇宙船が岩盤を破り、地下水を自噴させ自然湧出した水源により密林化したと言う経歴を持っていた。


「ティファさん達、覚悟は良い?」


「「「「「ヤーッ!司令官殿(コマンダー)」」」」」


 ティファさんを始め15人の兵士の貌が視界の隅に5×3で並び表示され・・・まぁ良い面構えをしてると思う。


「皆が隠れてる地点から西へ約8㎞、密林の中だけどキミ達に貸した装備を使えば何とか逃げ切れる筈だ・・・そこにある廃棄船ヤードの中心に、ほゞ垂直に立ってる一番大きな廃棄宇宙船に逃げ込むんだ。解ってるだろうけど元軍艦だが流石に何百年も放置されて崩壊が始まってる。各自足場の崩壊には注意する様に」


「「「「「了解(ヤー)!」」」」」


「最初は白兵戦に成るけどキミ達は逃亡中、休憩してた所を奴等に襲われると言う筋書き・・・でも実際には廃棄宇宙船(ジャンクシップ)に立て籠もって奴等を引き付けるんだ。そしたら外部周辺からボク達が包囲して反撃を開始して敵を殲滅、そうすれば・・・・・」


「次は兵士による白兵戦を諦めた()が、戦闘機やポッドを出して来る・・・ですよね?」


 そしたら今度はノーダー乗ってロボット戦だ!

 彼女達15人には全員スターシップ特製の機動戦闘服を着させてあり、更に目的地である廃棄宇宙船の中にも人数分の新型ノーダーが隠してあるのだ!


「その戦闘服なら多少の川や断崖くらい飛び越えられる様に出来てる・・・敵がポットや戦闘機を出して来たら一目散にノーダーに迎え!」


「「「「「了解(ヤー)」」」」」


 全員士気は高い様、ボクは背後に向かって・・・・・


「じゃあボク達も移動し様か?」


「ハイ、敵のステルス船もティファさん達の隠れてる場所に到達しましたし・・・・・」


 ボクの背後に居たジーンさんが答える。

 今日は彼等にも実戦を手伝って貰ってる・・・装備はボクがシュワちゃん仕様のM78/83を、そしてジーンさん達7人には例の原型を留めて無いM-16(アーマライト)を装備してる。

 ちなみにティファさん達に貸し出したのは光学兵器であるレーザード・ライフルだ。


「敵がステルス揚陸艇から兵士を降下させました」


 ニアさんが囁いたので宇宙船の上方を見上げる・・・ステルス船は肉眼では見得無いけど、降下してる兵士のバックパックから放たれるジェット噴射がキラキラ光って見えた。

 この世界では既にパラシュートは過去の遺物に成ってて、こう言う物が代わりに成ってるのだ。


「奴等・・・ティファちゃん達の事をネズミと、この作戦の事もネズミ狩りだと呼んでるよ!」


 フォスターさんもチョッとムカついてる感じで吐き捨てる様に言った。


「まぁ良いじゃ無いか、もうすぐ事実を自分の立場を奴等は弁える事に成る♪さあ諸君ボク達もミッションスタート猫狩りの開始、奴等を包囲し同時に背後から・・・接近して首を刈る!」


 ボク達は移動を開始する。




 流石に密林の中では思う様に動けない、それはティファ達グランティア()()()もノスモーの暗殺部隊も一緒だった。

 あの高機動戦闘服は長距離ジャンプと言うより短距離飛行が出来る代物だけど、流石に密林の木々を越えて上を飛んでれば奴等を運んで来たステルス揚陸艇から狙い撃ちにされる。

 それでも高機動戦闘服と彼女達の身体能力なら、全員生き延びて目的地に辿り着けると踏んでいた。


「彼女達が野営してた場所がミサイルで吹き飛ばされたよ!」


 ミューズからの通信・・・流石に背中に冷たい物が走るが、


「安心して全員無事よ・・・作戦通り後退しながら、あの一番高い廃棄宇宙船を目指してる。いま荒れ地を抜けてジャングルに飛び込んだわ!」


 取り敢えず第一段階は成功した。


「ミューズ、敵を運んで来たステルス揚陸艇の情報は?」


 肉眼では視認出来無かった・・・ステルス揚陸艇とは地球で言う「レーダーに反応しない」と言うだけのモノでは無いのだ!


「100m級の大気圏突入・離脱可能な高速揚陸艇、船に戦闘装備を施して有るだけじゃ無い、多分内部には戦闘機や戦闘ポッドが・・・」


 それはコチラも想定済みだ。


「ジョシュアさん達に精密に爆撃させ過ぎたかな?初っ端ティファさん達の場所に、思いっ切りミサイルをブチ込むとは・・・・・」


「自分達の場所を知らせる為、ジョシュアさん達が帰ってからティファさん達は焚火して野営してる様に見せかけたのよ」


 そりゃ中々の役者だな彼女達は、


「ジュリアさん達のロイヤルフェンサー1とウチの艦隊が、戦闘を装いながら衛星軌道上から離脱してったわ・・・もう200ベッセルも離れたら多分動き出す!タイミングはバッチリだけど・・・」


「出来るならティファさん達に、コッチに派遣された敵部隊を殲滅させてから一緒に上がる事が理想だけど、そうも言えってらんないからね・・・ボク達の合流が難しそうならミューズがボクに代わって奴等を落とすんだ」


 正直言うとティファさん達はゲイドに精神的・肉体的共に激しく虐待されて来たそうだ・・・出来る事なら彼女達の手で仕返しさせてやりたいのだけど!


「了解しました!奴等にはお兄さまにもティファさん達にも手を出させない、それと同時に絶対逃がしもしません」


 心強い返事が帰って来た。


「けど出来る範囲で・・・・・」


 如何やら思う事もボクと一緒らしい。




 ボク達がジャングルに突入すると既にティファさん達と敵の暗殺部隊は戦闘を開始してた。

 だけどココで敵を全滅させる訳には行かない、ノーダーを隠してある地点から離れ過ぎているのだ。

 その状況でポッドや戦闘機を投入されたら、ボクでも生き残れるか自信が無かった。


 と思ったんだけど・・・・・


「片っ端から黙らせろ!たった15人のティファさん達相手に、ゲイドってバカは何人の戦力を投入してやがんだ!」


 密林の中には300以上の敵が散開してたのだ!


「まあ敵が降下するの見てたけど、ヤケに多いなとは思ってたんですが」


「正確な数値が出ました・・・敵兵力は315名、余程戦力が余ってるんですかね?」


 ジーンさんの感想にレミアさんが呆れながら補足した。


「この侭じゃティファちゃん達に被害が出ちゃうかも、俺ちょっと本気出しても良いかな?」


 フォスターさんが割と本気そうに言うので、


「出して下さい許可します、その代わりに必ず・・・」


「全員無事にポイントGに」


 ポイントGとはティファさん達が向かってる、あの一番大きな廃棄宇宙船だった。

 そう・・・あそこがゴールなのでGにした。


「それが解ってるなら良し、では散開っ!ノスモーの低レベル何かに遅れ取るんじゃ無いぞ?」


「当然ですよ!」


「格の違いを見せて上げましょう!」


 ボクが言うと、そう言ってファルデウス帝国軍人が散って行った。

 彼・彼女等もティファさん達から身の上話を聞き、大分同情してると同時にノスモーの連中に激しい怒りを覚えているのだ。




 木々の間を縫う様に飛び回りながら、見付けた敵の背後に急速に肉薄して・・・声を出す暇すら与えずに敵の喉に腕を廻してから引き抜く様に切り裂いた!

 彼は仲間に状況はおろか助けを呼ぶ事も、それどころか悲鳴を上げる暇さえ無く地面に落ちて行った。


『こうして見ると・・・敵の装備も中々充実してるんじゃ無いか?』


 ボクは今命を奪った敵兵の立ってた枝に膝を突きながら周囲を窺った・・・彼等も高機動戦闘服の様なモノを着ており、高い木の枝(高さ10m位)に飛び上がる位の芸当は出来る様だった。


 ただしボク達みたいに()()事迄は出来無いらしい!


 ボク達の高機動戦闘服は短時間なら飛行が出来る・・・それも短時間なのは装備やボク達の身体が過熱して耐えられ無いだけ、飛ぼうとすれば1000㎞位は余裕で飛ぶ事が出来る。

 ただ1000㎞を一息に飛び続け様とすれば装備の過熱し破損の可能性が上がるだけで無く、各バーニア周辺の装備者の肉体や衣類が炙られて加熱され火傷を負う事に成る。

 何せ動力源が液体燃料であるHOS(フォス)で、各バーニアから噴出されるジェット噴射は相当な熱を持ってる・・・特に背部バックパックに付いてるバーニアのが最悪で1000㎞どころか数十㎞飛んでも耐熱服越しでもオケツを火傷させられるのだ!


 だから連続で飛べるのは精々最高で10㎞位である。


『とにかく援護し様にもティファさん達が離れ過ぎている・・・こっちもノスモーの暗殺部隊を減らしながらだから、中々彼女達に追い付けないし・・・・・』


 ティファ―さん達を追う敵兵はボク達にマダ気が付いて無い・・・まぁ本職の軍人さんだから背後には気を付けているけど、それでも練度の違いが有り過ぎてボク達はノスモー兵の無防備な背中を襲い放題なのである。


『おっ?』


 狙撃銃を構えてる敵兵を見付けた・・・狙撃手2名に護衛が2人、推測だけどティファさん達を補足し攻撃を仕掛ける積りらしい。


『なるべく銃器を使うのは後にして、最初はナイフとかでサイレントに殺したかったんだけど・・・・・』


 そうやって300以上の敵兵を極力減らしてから銃撃戦に持ち込みたかったのだが・・・ティファさん達に被害が出てはシャレに成らない、ボクは発砲をする覚悟を決めてセーフティーを解除した。

 なにせ地球の武器に比べれば()の技術を持ち出さなくても性能に、特に狙撃銃の射程距離には天地以上の違いがソレこそ太陽まで余裕に届くかって位に有る!


 狙撃手は街中での狙撃でも無い限り、余程間抜けな事をしなければ余裕で逃げられる距離から狙撃する事が出来、しかも光学兵器なら撃たれた人間は絶対に躱す事など出来はしまい!


『間に合うか?』


 ボクは機動戦闘服のバーニアを全力で吹かそうとして・・・その前に狙撃手の背後から影が飛び出した!


『アレはニアさん達?』


 爺ちゃんと言うよりアヴァ元帥達が、ミューズの警護をする為に寄越したファルデウス正規軍の軍人さん、しかも身の回りの世話まで出来る高スペックな(ヒト)達だった。

 男手も必要だろうと2人だけ男性が入ってるけど、基本的には女であるミューズの世話をする為に寄越したので女性の方が多く5人もいる。

 その内の2名 副隊長のニアさんと部下のダリアさんが飛び出すと敵の護衛兵2人の一人は首筋、もう1人はわき腹からナイフを突っ込んでグリグリとしてる・・・うんアレは痛いよね!


 そして驚いた狙撃手が持ってた銃をニアさん達に向けようと、でもこの密林の中そんな長物を向ける余裕が有ると思ってたのかな?

 比較的近い方に居たダリアさんがスッと近付き銃身を手刀で受け止め・・・ほら言わんこっちゃない懐に入って入られたら何も出来ず、そのまま正面からナイフを顎の下から突き上げる様に突き刺される!

 それを見た残りの狙撃手は銃を捨ててナイフを抜くが、上から落ちる様に現れたネリスさんが首を腕に巻き付けるとゴキッと音がした様な気がして力が抜けた身体が下に落ちて行った。


『流石だなぁ・・・アレはボクにはチョッと出来無い』


 周囲を窺うと狙撃手のチームが、もう2組・・・そっちはジーン・フォスター組とレミア・サリア組が当たってたので、ボクは狙撃手達に支持を出してる分隊長らしいのを見付けて黙らせる事にした。


「フッ!?」


 流石に基礎的な訓練は出来てるらしい・・・フィクションの中の敵の様に声を出して相手を誰何する事も無く、分隊長らしいのを囲んでた4人が一斉に銃を向けた。

 だけどボクは発砲される前に敵の中に踊り込むと後ろ腰に挿してた短めの刀・・・脇差を抜いて正面の敵を抜打ちに、そして返す刀で2人を首筋を切り裂いて虎落笛を吹かせる。


「なっ!」


 残った護衛役は拳銃を抜くが勿論 撃たせる暇なんて与えない!

 奴の喉元に刀を投げつけた・・・だけど白刃取りの様に受け止められたので、(かしら)を蹴る様な感じで押し込み喉を貫いて同時分隊長のドタマにナイフを突き立てた!


「お・・・ぉ・・・」


 言葉を発せずに落下して行く分隊長、勿論落とす前にナイフを回収してシースに戻してから顔を上げた。

 するとフォスターさんと眼が合うけど、普段なら何か軽口を叩く彼もニコリと笑うだけで次の獲物に向かう・・・彼もプロだし300以上の敵兵を片付け無くては成らない事の意味を知ってるのだ


『とにかく最初は銃器を使わずに数を減らさないと、それも成るべく銃を使わないで・・・・・』


 再びボクは敵影を探した・・・幸いボク達の方が精度の高いセンサー類を装備し、着てる高機動戦闘服は比べ物に成らない程に性能が高い!

 だから敵を同体センサーやサーモグラフィーで逸早く見付け出し、逆に敵側が装備してるソレ等のセンサーをやり過ごした上で、彼等より圧倒的に素早く背後に周って息の根を止める事が出来る少々卑怯なチート戦をしていた。

 そんな事を何となく呟いたのが、カチューシャの擬似テレパス機能に引っかかって仲間に伝わった。

 それを聞いた仲間からは・・・


『そんな事無いんじゃ無いかな?』


『我々と敵の戦力差を考えればねぇ・・・』


『確かに敵はコッチの十倍以上居るから』


 と仲間から突っ込みが帰って来る。


『それよりキッドさんも手伝って下さい』


 ミューズ親衛隊の隊長であるジーンさんがマップを送って来る。

 森の中では散開して無い小隊や分隊もあり、彼が送った画像には大型火器でティファさん達を狙う十数名の敵兵が・・・・・


『間に合わなければ火器の使用を・・・』


『いや出来れば銃器使うの、もう少し敵を減らしてからにしたいのですが・・・』


 地球のフィクションでも誤解し表現されてるが、炸薬式の銃に消音機(サイレンサー)を装着しても、静かな森の中や近くに人がいるのに発砲すれば十分聞こえる程度にしか銃声を軽減出来ない。

 また光学兵器銃(レーザーガン)熱戦銃(ブラスター)、それに炸薬を使わない電磁加速銃(レールガン)も完全に無音と言う訳じゃ無い。

 それに光学兵器は如何しても弾跡(発砲した弾の軌跡)がハッキリ見得てしまう・・・つまり暗殺任務に従事してる訓練を受けた兵士には勘付かれる可能性が高い。


 だから後ろから自分達を狩ってる敵が居ると敵に気付かれる前に、もう少し敵の数を減らしたい・・・だから発砲はなるべく遅らせたいのだ。


 ちなみに地球を離れる前にサイレンサーの間違いを指摘したYouTubeの番組で、プシュッ!と言う音のするサイレンサー付き拳銃が無いと言ってたのが有るけどソレも間違い・・・サイレンサーと銃が一体化された一番最初位のサイレンサー付きの銃は本当に「プシュッ!」としか音を発しない。

 だけどソノ銃は撃つとサイレンサーが摩耗し数発しか消音拳銃として使えない、しかも銃と一体化してるのでサイレンサーを交換する事も出来ない代物なのだ!


 まぁそれは良いとして・・・


『簡単だよ♪ボクが突っ込むから斬り漏らしをヨロシクッ!』


 再びボクは脇差を抜いて大きな火砲を設置してた敵の中に踊り込む!

 そして瞬く間に正対した3人と更に2人の敵兵を斬り伏せると、火砲の前の方に廻り込んで敵と対峙・・・すると敵が数歩後退し息を整えてボクを襲おうとした背後からジーンさん達が強襲した。


「なっ!」


 流石に狼狽する敵兵たちだけどジーンさん達は7人、敵の残りは11名も居たのでボクも再び襲い掛かって2人を切り殺した。


『ちょっとキッドさん!飛び込むのは良いけど、コッチも心構え出来たからに・・・』


『仕方無いでしょ、いつ撃たれるかも判ん無いのに・・・』


 素人のボクの眼にも火砲の設置は終わって砲撃手は既にティファさん達を狙っていた・・・あそこでモタ付いて、この大きな砲に火を吹かせる訳には行か無かったのだ!

 しかし有る意味これは良い戦利品かも・・・鹵獲出来た巨大な火砲は、広範囲の敵を焼き殺すには優秀な焼夷榴擲弾(ナパームグレネイド)発射装置(ランチャー)だった。


「コイツは良い、ここに誰か残って・・・」


「私が残りましょう、こう言うモノの扱いは私が一番慣れてるので」


 以外にもニアさんが残ってくれたので、ボク達は再び敵の数を減らしに向かった。

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