眼を覚ました途端、戦争に巻き込まれる!
周囲360°継ぎ目のないモニターに囲まれた、無機質で冷たい空気が満ちた空間で眼を覚ます・・・さほど問題は無いが少し頭痛がする。
室内は楕円形をしてる様で、どうやらボクが眠っていたカプセルは後ろの方に設置されてたらしい。
そして少し前よりの中央には明らかに操縦席らしいものが有る。
そこに座って初めてボクは全裸だった事に気が付いた。
「ここは何処、私は誰?・・・なんて言う時が来るとは思わなかったな・・・・・」
周囲を見渡して独り言ちる。
事実、今の状況はおろか自分の名前いや何もかも思い出せなかった。
いや明瞭ではなく薄っすらとなら何かが浮かんで来る気がする。
なのにコノ室内の機器・・・イヤ今自分が乗り込んでいる、この船の操縦方法は明確に頭に浮かんだ。
最低限に抑えられた薄明るい照明が照らす室内で、壁と言うかモニターに自分の顔が映った。
10代前半の子供、かなりの美少女?いや付いてる物が付いてるから美少年だろう。
自分で言うのは恥ずかしい・・・でも自分の頭に残る美意識が判ずるには、美少女と言って良い外見をしている。
全身の肌は白く沁み一つ黒子さえ無い、尻まで伸びた長い髪は青味を帯びたサラサラストレートの銀髪で、眼の色は赤みが強い紫色をしている。
身長は高くないが年齢相応だろうか?
全体的に線が細くアレが付いて無ければ、マダ胸が成長して無い少女にしか見えないだろう。
「ボクは・・・こんな外見してたっけ?」
どうも自分の事なのに、TVでアニメを見てる様な気がする。
その時!青緑いや蒼い光を放つコンソールの色が赤く変わって、周囲の明るさが跳ね上がった。周囲360°天井と床に至るまで宇宙空間の映像が映し出される。
「警告!警告!緊急事態に付き省エネモードを強制的にアクティブモード移行します。船長、指示をお願いします」
話しているのは自分が乗っている、この船のAIだろう。
10秒ほど持ってから、ボクは質問を返す。
「キャプテンってボクの事ですか?」
即座に声が返って来た。
「この船にクルーとして登録されている貴方だけ、必然的にそう成ります。と言うより現在この船には、貴方以外の知的生命体は乗船していません」
それは・・・困ったなあ?
如何したら良いだろう?
だが・・・
「了解、現状を説明して」
緊急事態と言うなら対応せざるを得ないだろう。
「慣性航行中の本船前方300ベッセルに置いて、艦隊同士の戦闘が繰り広げられてます。両陣営から船体をスキャンされていますが、コチラもスキャンし同時に通信を傍受します」
スキャンとは船に対し行われる索敵行為の事、外見や透視した内部情報から相手の戦力や所属を探る事!
もっとも防御の為に妨害して有るので、内部情報まで滅多に破られる事は無い。
「両陣営ともコチラと所属を同一としない団体と判明、A陣営の名称はファルディウス帝国軍24隻、コチラを警戒し監視してる模様・・・対するB陣営はヴァイラシアン帝国軍67隻と判明、戦況はファルディウス側が押されている様です。ちなみに現空間はファルディウス帝国の領域で、軍事侵攻されている模様・・・・・」
戦争か・・・なら個人として関わり合いに成りたくないな。
「警告!ヴァイラシアン側が当船を撃沈する判断を下した模様、600m級の戦艦3隻をコチラに向けました」
何でだよ!
「如何しますか?戦いますか、それとも逃げますか?」
「他の選択肢なんか無いじゃない!」
「あくまで対話で解決するよう呼びかけ続ける、または無抵抗で撃沈されると言う選択肢も有ります」
「却下っ!」
この船の人工知能、なかなかユーモアのセンスはあるのな(怒)
「アイドリング中のエンジンを叩き起こせ、同時にシールドレベルをユージュアルからバトルウェイトへ移行!」
宇宙航行する艦船は常に放射線やデブリ除けにシールドをユージュアルレベルで張っている。
バトルウェイトは敵の攻撃に併せ、戦闘用シールドを張れる様に待機してる状態だ。
「何で関係ないボクまで襲うの?」
「艦橋からの指示に「目撃者は消せ」と言う単語が入ってました。この宙域はファルディウス帝国領、隠密性のある軍事作戦を遂行中の様です」
「迷惑な・・・・・」
ボクは操縦桿を握り、精神感応システムのカチューシャ型ヘッドバンドを装着する。
この船には操縦を含む操作機器はパイロットシートにしか付随して無く、殆どの操作はカチューシャの思考読取システムで操作される。
「最大船速、正面の3隻を沈めたら・・・残りのヴァイラシアン艦船も潰す!」
スロットルペダルを踏み込んで、船体を加速させると同時に各種武装を展開させる。
敵も加速し擦れ違うまで50秒、敵艦がアンチシールド魚雷を発射した。
「魚雷12接近中!」
「ファランクス撃てっ!」
細かいパルスレーザーの粒子が船体両サイドから放たれた。
次々と魚雷が爆発四散し、やがて全て撃ち落される。
「敵艦ミサイル24本発射、同時に光学兵器を準備中」
「ミサイルはファランクスで対応、擦れ違いながら荷電粒子砲を撃つ!」
ミサイルを打ち落としながら敵に迫った・・・ちなみにミサイルと魚雷の違いは、推進剤を消費して飛ぶミサイルに対し、魚雷はジェネレーターとロケットエンジンで推進する。
「最初に撃って来たのはオマエ達だからなっ!」
イオンビームを発射、敵艦2隻を撃沈すると同時に擦れ違う!
同時に急速反転!
敵は反転しておらずケツを取る事に成った。
むしろ撃ち漏らしたミサイルの方が、方向を変えて迫って来る。
「ファランクス照射続行っ・・・」
『馬鹿なっ!小型船と言え、あんな動きが出来る筈は・・・・・」
『航宙戦闘機以上の機動じゃ無いかっ』
『アレは何だよっ!早過ぎ・・・』
傍受した敵の通信が・・・ここは操縦室で良いのかな?まあその中に響いた。
「ゴメンね♪」
敵艦の頭から艦尾まで、ビームキャノンで貫くとボクは再び船首を反す。
戦域に駆け付けるとファルディウス側の船が、更に2隻撃沈されていた。
一方ヴァイラシアンはコチラに寄越した3隻以外全て健在、しかしファルディウスよりコチラを警戒している。
「ヴァイラシアンはコチラの方を脅威と考え・・・このまま突っ込むのですか?」
「このまま突っ込む!」
敵艦隊の中に突っ込んで急制動を掛けると、敵艦が同士討ちを避けて躊躇ってる間に、四方八方にビームとミサイルをバラ撒いた。
『あの野郎っ!』
『フザケやがって!』
『多少の被害は構わん!撃てっ!!!』
敵が魚雷をミサイルをビームをレ-ザーを・・・あらゆる攻撃を放った途端に、急加速して離脱する。
その攻撃は当然・・・ウ~ン馬鹿が相手だと楽で良いね♪
コクピットに流れていた傍受した会話が途切れた。
「どしたの?」
「後は聞くに堪えない罵詈雑言だけなので・・・」
気を利かせてくれたらしい。
「敵艦隊が雪崩打って本艦の後に付いて来ます・・・前方に随分大きな小惑星が有りますが、あそこが目的地ですか?」
「ウンッ!」
小惑星と言うには少々大きい天体が有り、それを飛び越えた辺りで戦闘を再開する。
既に敵艦は半分まで数を減らしていた・・・その数を数隻分減らして逃げを打つ。
「敵の通信内容からはマスターへの罵詈雑言しか聞こえてきません。マスターの作戦に気が付いて無い様です」
「敵の事ながら良いのかな・・・バカにも程が無い?一人くらいマトモな艦長さん居ないのかな?」
ボクの背後から敵艦が連なって、一直線に成って追っかけて来た。
そして巨大な小惑星を飛び越えると・・・そこにはフィルディウスの艦隊が、全艦砲を充電して待ち構えていた。
背後から絶叫が聞こえて来る様な気がする。
船を軸線から外してファルディウスとヴァイラシアンの間を空けてやった。
全火砲をチャージして待ち構えていたファルディウス軍と、乱射しながらボクを追っていたヴァイラシアン軍、結果は火を見るより明らかだった。
数分後・・・4隻にまで数を減らしたヴァイラシアンから、降伏の通信がファルディウス軍に伝わった。
「こちらファルディウス軍・第4816巡視艦隊です。所属不明の航宙艇さん、聞こえますか?聞こえたらレーザー通信を2470/1185に合わて応答願います。当方は貴方に最大限の感謝と・・・・・」
操縦席から立ち上がるとボクは宇宙船のAIに質問した。
「キミの中にボクの情報は何かある?この船や所属も・・・・・」
「当艦のオーナーである以外、何も情報が有りません。この船に関する情報も基礎データ以外は殆どなく、唯一の見付ったのは当艦の名称です。当艦は200m級・高速巡洋戦闘艦、宇宙船❝スターシップ❞そして私は制御管理AIのALICEです。その名の通り普段の生活から戦闘 行動までサポートさせて頂きます」
まあ名前の事は置いといて、それは困った・・・この船に備えられてる食料や物資も無限ではない。
更に問題は周囲に居住可能な惑星や、ステーション・コロニーの類が全く無く、更に助けたファルディウス軍も自力航行はおろか生存維持の資材すら足りてない状態なのは傍受で判明している。
「起きた直後は静かだったけど、ボクが起きたのは偶然だったの?」
「いえドチラも脅威と言える戦力では無かったのですが、一応戦闘が有った以上は責任者が判断すべきかと思い起こしました。起こした直後に騒いでも不快でしょうし、十分間に合うので3分待ってから声を掛けました」
ずいぶん気が利くAIだ。
さて今後は如何動くべきか・・・こちらも通信を傍受して情報を集めている。
助けてやったのにファルディウス軍の中にも「この船を接収しよう」と言ってる恩知らずが居る・・・全員を信じるのは危険だろう。
「向こうは呼び掛け続けてますが如何しましょう・・・撃沈しますか?」
「まあまあ、それは最後の手段で・・・取り合えず通信回線繋げて見て」
「了解しました」
巨大な正面モニターの一部が長方形に切り取られる。
「通信の許諾、感謝します。当艦は旗、キャッ!」
オペレーターらしい可愛らしいお姉さんが、これまた可愛らしく悲鳴を上げる。
「あなた何で裸なのっ!?」
まあ当然の反応だろう。
「行き成り進路上で戦闘されてて、コールドスリープから叩き起こされた。その所為か記憶が完全に喪失している。操縦方法など明確に思い出せるから、この船はボクの船ナンだろうけど、どこに服が有るのかも全く分からない」
一気に捲し立ててやった。
コールドスリープは前もって眠る期間や起きるタイミングなど計算し、薬剤を注射して凍結・管理・解凍しなくては成らない。
こんなに急速に叩き起こしたのが、恐らく記憶喪失の原因だろう・・・だが船に何の記録も残って無いのは解せなかった。
「大変ご迷惑をおかけしました。だけどコチラも行き成り襲い掛かられたので・・・・・」
申し訳なさそうに話すお姉さんに、ボクは飛び切りの笑顔で答えた。
「冗談だよ、怒ってる訳じゃ無い♪こちらも攻撃され、応戦したに過ぎないから・・・ところでお姉さんがボクと交渉する相手?」
彼女の顔に冷たい何かが過ぎって引き締まる。
お姉さんは若いし可愛いけど、一端の軍人なんだな。
「そちらの状況は通信の傍受等から推測しました・・・お姉さんには申し訳無いんだけど、出来れば責任者の方と話がしたい」
お姉さんの肩を誰かが叩き、その席から彼女は立ち上がった。
その後に座ったのは40くらい、ナイスミドルと言う表現が似合うオジサマだった。
「旗艦ラグナレク艦長 兼 艦隊司令官のジェリス・バーカンディです」
彼は丁寧な言葉で言葉を紡いだ。