奴隷ゴンザレス④
ついに防衛線が限界を迎えたので、俺たちは作戦通り、全員坑道内へ入った。
「予定出口の開通は?」
「もう少しなんだが、、、。」
ふむ、こういう時は切り替えるのが正しいな。
「引き続き作業しつつ、副案のこちらを開けよう。
開けた先は崖かもしれないが、閉じ込められるよりはマシだ。」
周りの看守たちは頷き、急いで指示を飛ばし、指示した看守自らも走り出す。
ジッとしていると恐怖に負けてしまうからだろう。
もう誰も準男爵看守には、指示を仰がない。
まとめて俺に騙されている。
プクク。
元軍人オッサンも抜き身の剣を持ったまま、戻ってきた。
無事だったんだな、すげぇな。
「このまま、坑道入り口で時間を稼ぎます。
、、、頼みましたぞ?」
俺はオッサンの言葉に頷く。
美少年は最後に、俺の盾にするから任せろ。
しかし何故か、俺に丁寧語になったね?
騙されやすいなぁ。
オッサンは美少年の前に跪き、一言。
「では、行って参ります。」
美少年も頷き、一言だけ。
「エイブラハム。御武運を。」
少女と思えるような高い、されど威厳のある言い方だった。
奴隷たちで、騎士ごっこやってたんだろうな。そんなんでもないと、奴隷稼業辛いしね!
俺もせっかくなので、のっておこう。
「オッサン!死中に活アリだ!」
俺は適当に本に載ってた格好いい言葉を、オッサンに投げかける。
俺、格好いい。
オッサンは俺の言葉に目を見開くと、右手拳を左手で包むようにして胸の前に持って来て、一礼した。
とってもサマになっていて格好良かった。
ちくしょー。
そこからは急展開だった。
そりゃそうだ、すぐそこまで魔獣が近づいている訳だから。
坑道内の所々に、爆破のための火の宝珠が設置され、用意が整ったタイミングで、ようやく脱出口が開いた。
なんとか、間に合った。
結局、当初案の出口予定は岩盤を抜くことが出来ず、途中で掘削ポイントを切り替えたのが正解だった。
しかし、、、開通した出口は崖の中腹、下には川が流れる。
そこに向けて飛び降りれば、助かる可能性は高いが。
飛び降りるこの場所も高い。
見下ろすだけでクラッとする。
「こ、こんなところから脱出するんですか〜!?」
美少年が女の子みたいな声を上げる。
えーい、だまらっしゃい!男だろ!
はよ行け、という思いで蹴り出す。
「え!?きゃあああああーーー!!」
きゃあ、じゃねぇ!
目の前の視界が開いたので、俺も意を決して飛び出そうとして、背後が爆発した。
後からの想像でしか無いが、脱出口を開く時に使った火の宝珠が、不発で残っており、それが爆発したのだと思う。
ちゃんと安全点検しとけー!!!
そうして、大きく飛び出した俺は本来落ちるはずだった川を越え、対岸の木々に突っ込んだ。
、、、だが!
「俺は生きてる!生きてるぞー!!!!」
坑道の脱出口からは、さらに開いた穴から、次から次へと人が川へ飛び込む。
最後にあの元軍人オッサンが、何かを作動させる動きをして、川に飛び込むと、、、。
鉱山があちらこちらから、爆発を起こす。
どうやら、上手くいったようだ。
坑道内に魔獣を誘い込み、鉱山ごと爆破。
奴隷や看守は開けた穴から脱出する作戦。
完璧と言って良い。
、、、いいや、それ以上だ。
うししっと俺は笑う。
当然、奴隷解放の恩赦なんて嘘っぱちだ。
奴隷共は変わらず、奴隷のまま。
しかし、俺はこうして奴らの目から逃れ、自由の身!
「世の中、騙される方がバカなのさ!」
俺はルンルン気分でスキップしながら、木々の間を抜けて自由への道を進むのだった。
その日は、奇跡のような、ううん、奇跡の日だった。
ユーロ王国を失い、頼れる数名の騎士と共に逃げに逃げ続け、私ユーロ王国最期の姫ルカ・ユーロはついに帝国に捕まった。
ただ、逃げ続けた意味は多少なりともあったのか、逃げ続ける内に情勢が変わった。
魔王が現れ帝国が覇道をやめた影響で、処刑されることなく、恩赦として犯罪奴隷として鉱山での労働を命じられた。
だけど、終身の犯罪奴隷となった私と騎士たちには、希望はなかった。
鉱山から抜け出すには、出入口は一つしかなく、脱出を手引きしてくれる仲間も全て捕まり、国を再興するどころか、いつか奴隷として力尽きる日を待つだけだった。
いっそ、それならまだマシかもしれない。
私は性別を偽り、騎士たちに護られてはいたが、それもいつまでもつか。
女性とバレた瞬間に、奴隷もしくは看守たちの慰みモノになるのは、間違いなかった。
そうでなくても、男と思われたままでも騎士たちが護るのをやめた瞬間に、誰なりとの餌食になってしまう程度には、私の容姿はよかった。
その日が近いことに、目を逸らし震えながら日々を過ごす。
そんな時、あの人が奴隷としてやって来た。
あの人、ジャックという名の彼は飄々《ひょうひょう》としていて、その目はこの奴隷生活であっても希望を失っていなかった。
あっという間に、看守と他の奴隷たちに取り入り、情報を集めているようだ。
エイブラハムからも何を考えている奴か分からないので、近寄らないようにと忠告された。
ただ、彼は他のどの奴隷とも違って、私に一切興味を示さなかった。
まるで美少年であっても、男に興味が無いからとでもいうように。
ただ、この頃になると、私を男として見るのは、多少無理が出ていた。
情報を集めていたはずの彼が気づかない筈がない。
気付かないとしたら余程の間抜けか、徹底的にその可能性を考えていないか。
もしくは、私が女と気付いていて、本当に男にしか興味が無いか。
目は自然と彼を追い始め、私は擬似的な恋をした。
それは、この辛い現実を直視したくない心の所為だ。
そもそも、ここに送られた時点でマトモな人ではない。犯罪者なのだから。
それでも、私は生きる希望を欲しがった。
それだけのこと。
運命の歯車が回り出すのは、突然だった。
大量の魔獣が鉱山にやって来たのだ。
帝国から逃げ惑っている間にも、いくつもの街や村、時には国が滅ばされたのは、知っている。
世界ランクのナンバーズですらも、その半数近くが魔獣にやられたと。
そんな魔獣たちが数百以上。
騎士たちが精強とは言え、それは気力体力が万全の状態の時のこと。
今の弱った騎士たちでは、如何程粘れるかが精々だ。
その時、立ち上がったのが彼だった。




