カストロ公爵再び①
世界最強と呼ばれる存在がいる。
曰く、全てを見通す千里眼を持つ大軍師。
曰く、万の敵すらも打ちのめす大将軍。
曰く、病の悉くを治療して人を救う聖者
曰く、最強にして無敗、世界の叡智の塔に刻まれるランクNo.1も超えた最強ランクNo.0
だが、その正体は一切不明。
男か女かオカマか、年齢も不詳なら、生まれも公爵家の捨て子だとか転生者とか生まれながらの救世主だとか、数え上げたらキリがない。
それら全てを合わせて、誰も見たことがないという。
それが、世界最強ランクNo.0
、、、そして、世界の叡智の塔。
その塔に世界ランクナンバーズ、その頂点であるはずのNo.1の上位に、ある文字が描かれた。
『魔王』と。
同時に、そこには未だNo.0という番号は、ないまま。
あ、ども、アレスです。
昔はゴンザレスなんて呼ばれましたねぇ〜。
詐欺師です。
ごめんなさい、嘘です。
最近、詐欺してません。
させてくれません。
そんな俺たちは、商業連合国の港街の一つに居る。特に理由はない。
帝国の森を大火災で燃やしちゃったから逃げて来ただけ。
「ご主人様。ここの支払いはしておきました。
本日のお酒はここまでです。」
そう言って、メメは俺の正面で静かにワインを飲み干す。
首元までの茶色のサラサラのショートヘア。
全体的にスタイルも良く超S級美人。
クリっとした黒い目が宝石のようで、上流階級のお嬢様のようにも見える。
No.2を助ける代わりに、俺のしもべになった女。
そんでもって、No.2を何だかんだ言って、自分で救出してのけた。
ナンバーズを除けば帝国最強の女。
何故か目の前の女メメに、貢がれています。
何でついて来てんの?
ねぇ何で?
何でこんなことになってんの?
怖いんだけど?
この女には詐欺ってないよ?
詐欺れなかっただけだけど。
街の小さな酒場に、上流階級らしき雰囲気の令嬢が居るという違和感。
別段ドレス姿などではなく、ごくごく一般的な旅装束なんだが、オーラがダダ漏れというか、隠せよ?という感じだ。
酒場の看板娘をやっていた時は、普通に可愛い娘さんにしか見えないようにしていたから、オーラを隠すことなど簡単なはず。
ならば、何故しないのか!
思わず聞いてみた。
ワインをクイっと飲み干す。
「ご主人様がお望みなら、検討致しますが?」
「ならば隠せ。」
隠して下さい。
お願いします。
魔力をふうっと抑えるのが分かる。
人のオーラなどは魔力に依存する。
威圧を行う者は魔力を変換して、それを行う。
王族でも威厳のある者は自然とその魔力をオーラとして纏う。
世界ランクのナンバーズなどは、その魔力を隠しもせず、化け物として君臨する。
今は魔獣とかに押され気味だけど。
世界ランクのNo.3、4、5、6、7の半分が死亡。
世界の叡智の塔は、別の者を表示することなく、その箇所は灰色で表示されている。
この間、森の大火災で偶然、No.2が助かって以来、魔獣のナンバーズの襲撃は止まっている。
ナンバーズを襲撃していた何十万の魔獣は、無尽蔵にいた訳ではなく、グレーターデーモンの力で襲撃の度に、移転していたのかも知れない。
俺もグレーターデーモンを目撃したが、よく逃げられたなぁと思う。
ふと顔を上げると、どちらかと言えば、酒場の看板娘の時の雰囲気に近いメメ。
それはそれで可愛らしくて好み。
「魔力抑えてみたけど、どうです?」
「悪くない。」
高嶺の華も良いが、野に咲く花も素晴らしい。
「じゃ、宿行こうか。
彼女の腰に手を回すが、パシッと素気無く払われる。
「言っておきますけど、部屋別々ですからね?」
えー、そんな〜メメちゃーん!!
メメとの旅は意外と悪くなかった。
悪くないというより最高だった。
食い物も移動も全て用意してくれるし、ちょっとツンとする感じもあるけど、メメ可愛いし。
俺なんで詐欺師やってたっけ?
こういうのなんていうか知ってる、ヒモって言うんだ。
理想系だ。
その俺たちは、港街の宿で朝食を取り、食後のお茶を飲んでいる。
「ということで、商業連合国の国家元首との、アポイントメントを取っておきました。
行ってください。」
うん、そうだよねー。
そんな美味い話はないよねー。
そんな話があったら、詐欺だから気をつけな?
詐欺師ゴンザレスからのアドバイスだ!
「なんでだ?」
「面白そうだからです。」
え?何?何なの、その理由?
なんでその答え?
「冗談です。お仕事です。
現在、我々は帝国の調査員兼連絡員として活動しています。
その一環です。」
へ〜、そうなんだ。
あれ?俺たち帝国のお尋ね者じゃなかったっけ?
なんでそうなってるんだ?
怖いんだけど?
何度も言うけど、美味しい話、それ詐欺だから。
逃げるべきかと思ったが、目の前で俺の様子に勘づいたかのように、可愛いらしくニコッとする。
まあ、いいかと思った。
仕事の後にご褒美貰おう、と。
「ご主人様はチョロいですね。」
チョロいと言うなー!
しかも本人の目の前で!
チクショー!
流石は元酒場の看板娘メメちゃんだ!
恐ろしい娘!
この俺がこうも簡単に手玉に取られるとは。
「ご主人様が簡単なだけですよ?」
心の声を読むなー!
そんでもって、商業連合国代表の執務室の前に居る。
「ご主人様は今、カストロ公爵の遺児アレス様です。」
うん、もうちょっと事前に説明しようか?
「面白そうでしたので。」
うん、可愛いく首を傾げるけど、ちょっと無茶苦茶だよね?そんな風におねだりしたら、何でも叶えてくれると思ってない?
何でもは無理だけど、出来ることはやるよ?
バッチコーイ!
そもそも俺、ここに何しに来たの?
「とりあえず、商業連合国からカストロ公爵として領土を分捕って下さい。」
「うん、ちょっと待とうか。今までもそうだったけど、流石に今回はもっと訳分からない。」
ふふふ、とメメに楽しそうに笑われた。
からかわれたらしい。
ちなみにメメは、使用人の格好をしているが、オーラ全開モードであり、どう見てもそんじょそこらの使用人の娘さんには見えない。
メメ曰く、護衛も兼ねているので、少しぐらい存在感を出した方が侮られない、とのこと。
並ぶと、どう見ても俺の方が使用人に見える。
「帝国の者が挨拶に来るという建前が大事なのです。
その時点で仕事は完了しております。
後は、まあ、好きにしていただければ、と。」
そう言われてしまえば、それで従うしか無い。
どうせ考えたところで、国のアレやコレやは予測することしか出来ない。
「何か成果あがったら、ベッドでご褒美貰うからな!」
メメは一瞬だけ、キョトンとした顔をして、直ぐにふふふ、とまた笑う。
出来るなら、どうぞ、だと。
ムキー、やってやるぞー!