ゴンザレスとグレーターデーモン②
メリッサが、カレン姫を背負い森を抜けた時、背後の森は既に激しく燃え盛り、更に拡大を続けていた。
そこから、少し移動すると、森の入り口を境に数十万の魔獣と戦っていた第一、第二の部隊が、無事に撤退を済ませ休憩していた。
そこにはNo.10、ソーニャ・タイロンも無事で居た。
メリッサは、カレン姫の治療を頼み、第一、第二の隊長とソーニャに起きたことを、可能な限り報告した。
彼がカレン姫を救出する際に、森の中で起きた不可思議な現象、ただの一匹も魔獣に遭遇せずに目的地に辿り着いたこと。
共に行動していたメリッサよりも、遥かに早くカレン姫を見つけ出す驚異的な察知力。
カレン姫を救出して、必死に真っ直ぐに逃げるしか出来なかった自分を、的確な指示を飛ばしてカレン姫共々命を救って見せた。
そして、もっとも恐ろしいのが、世界ランクNo.2カレン姫ですら、ただ防戦する一方だったグレーターデーモンを、ただ一撃。
毒の沼地で罠に引っ掛けたとは言え、ただの一撃で討伐して見せた。
とどめに森を焼き払い、数十万の魔獣を殲滅し第一第二部隊のみならず、帝国そのものを救い、その功を誇るでもなく、そのまま姿を消した。
仮にだ。
コレが全て偶然の産物だとして、何処の誰がそんなことが可能だというのか?
はっきり言おう。
不可能だ。
かくして、伝説は真実となる。
第一、第二の隊長、そしてソーニャの3人ともあまりの凄まじい結果に、言葉が出なかった。
戦慄と共に実感する。
No.0、伝説に偽りなし、と。
だが、とメリッサだけは思う。
彼はよもや自分をNo.0だと気付いていないのではないか?
もしそうだとしたら、、、。
メリッサは心の中で、歓喜の感情が沸き起こることを感じる。
それが自分のご主人様であることを。
偽りかも知れぬが、それでも伝説を作り上げてしまう存在。
そして、恐らく、世界で唯一、自分だけがそれに気付いてしまったことを。
その歓喜の中で、メリッサが思い出したのは、他のどの顔でもなく、アレスが一瞬だけ見せた困り顔。
普段から冷静沈着を心掛けて、実際にそうである自分の中の心の動揺に気付いた時、メリッサは自覚せざるを得なかった。
あ〜、、、私って、ほんと男の趣味最悪、、、。
出来うれば、こんな趣味の悪い相手は今回限りで願いたい。
メリッサはそう願うのみである。
「帝国、、、ね。」
ふとメリッサは、彼が言った一言を思い出す。
帝国に居られなくなる。
このような大火だ。
確かに犯人は帝国に居られまい。
『普通』なら。
だが、その結果、カレン姫様は救出され、残っていた魔獣、、、数十万もの魔獣が森ごと焼き払うことで殲滅され、帝国は救われた。
多数の被害と森の大火による被害は、巨額にはなるだろうが、それでも、帝国は生き延びられた。
帝国に数十万もの魔獣を押し留めることなど不可能なのだから。
だが、きっと彼は気付いてはいまい。
自身が救国の英雄などと。
そう考え、メリッサはクスリと笑った。
メリッサは、最後に3人にこう告げる。
「さて、私はご主人様の元に行かねばなりません。
、、、ご主人様は自身がNo.0であることを、広められることを好みません。
この事は帝国上層部だけのトップシークレットでお願いします。
、、、あと、カレン姫様にお伝え下さい。ご自愛を、と。」
煤けた格好であったが、メリッサはその場で優雅に一礼する。
そこに居たのは、帝国の帝国第3諜報部隊並びに帝国ランクNo.1のメリッサではなく、元レイド皇女であり現No.0のしもべのメメだった。
その立居姿は、公爵令嬢ソーニャ・タイロンから見ても、高貴なる姿であった。
この日、世界は戦慄する。
追い詰められていたはずの、世界ランクNo.2カレン姫が救出され、数十万の魔獣が森と共に殲滅された。
帝国上層部は皆、口を噤んだが、真実はまことしやかに噂された。
全てを為したのは、世界最強No.0。
世界ランクNo.1の上に表示された『魔王』、そして灰色に染まったナンバーズ。
だが、人々は絶望しなかった。
この世界には、世界最強No.0が居るのだから。
世界ランクを示す世界の叡智の塔。
そこには未だNo.0という番号は、ない。
「というわけで〜、今宵は君と一晩のメイクラブ、って事で、どう?」
「え〜、でも、ちょっとお金弾んでくれたら、メイクラブ行っちゃうかも!」
ウヒョ〜!
あ、ども、詐欺師アレスです。
ゴンザレス?誰それ?
帝国の森から抜け出し一週間。
脇目も振らず移動して、帝国の隣のバーラト商業連合国の港街に到着した。
だから、英気を養う意味で、飲み屋のバーバラちゃんにお声がけをしていたという訳だ!
無事に交渉も上手く行ったので、早速、、、。
そこに、、、。
店に入って来た瞬間から、誰もが振り向かずには居られない美貌とオーラ。
「どいてください。」
哀れな飲み屋店員バーバラは、その美貌の主にそう声を掛けられた瞬間に、俺から飛び退いた。
呆然と俺はその美貌の主、メメに目を向けた。
「困りますね、ご主人様。変な病気を貰われたら、私にも感染りかねません。
以後、女性関係は私が管理いたしますので、どうぞよろしくお願いします。」
微笑を浮かべ、その美貌の主は俺にしなだれかかる。
俺は固まったまま。
その美貌の主の謎の威圧に耐えられるほど、俺は厚顔無恥ではない。
完全に悟ってしまった。
俺は、手を出してはいけないものに、手を出してしまったのだと。
色々な意味で、ヤッチャッタ!
「ご主人様。
ナンバーズを除けば、帝国最強を自負致します私を、撒けるとお思いでしたか?
残念ですが、私はご主人様のものです。
以後、置いて行くことのないよう、ご注意下さいね。分かりましたか?」
そうして、メメは俺の耳元に口を寄せ、
「ご・主・人・様?」
俺は震え上がりながら、何度も首を縦に振るしかなかった。