ゴンザレスとグレーターデーモン①
そんな訳で見事に俺のしもべとなったメメを、美味しく頂いたのは良いんだが、時間が経つごとに、ちょっとずつ俺の扱いが雑になっていった。
俺、君のご主人様なんだよね?
酒屋で軽くあしらわれる時のような感じ。
あれ?俺もしかしてNo.0じゃないってバレてる?
気付かない方がおかしい気はしてたから、メメの方が正しい気はするが、この段階でバレるのは、それはそれでマズイ。
よし!逃げよう。
森の中でそっと逸れて、そのままバックれてしまおう。
アディオス!メメちゃん!
俺の尊敬する詐欺師シューバッハ氏は言った。
真の詐欺師とは、相手に最期まで詐欺師だと気付かせないことである、と。
そうして、彼は最期まで結婚詐欺で、多くのお金と愛を巻き上げたが、本気になり過ぎた男の娘に、貴方を殺して僕も死ぬ!と刺され伝説となった。
なお、その男の娘はその後、別の女性と結婚し幸せになったという。
シューバッハ氏はこうも言っているのだ。
『どれほどの善行に見えようとも、詐欺とは、何処まで言っても悪である。』
故に、男の娘も重い罪には問われなかった。
その言葉を思い出す度に、お空で笑顔で笑うシューバッハ氏が見えるようだ。
シューバッハ氏の姿形知らないけれど。
それは良いとして、サクサク森の中を進むのだけど、メメは迷いなく俺について来る。
この追跡能力は例のNo.8を思い出す。
ナンバーズクラスになると、謎の追跡能力でもあるのだろう。
あれ?ということはメメも、そのクラスの化け物?
基本的に魔力が強ければ強い程、美人になる傾向がある。これは体内魔力と美容が相乗効果を生み出すため、と言われている。
そこに元々の下地があれば、さらに倍となる。
俺、やっちゃったかも。
いや、やっちゃったんだけどね。
いやいや、現実逃避は良いから、逃げよう。
頑張って逃げよう。
「ご主人様〜、どうするんですか?森の中、着いちゃいましたよ?」
ジーっと見られてビクッとしてしまう。
い、いかん!動揺するな、俺!
今ここにある危機を乗り越えるのだ!
更に森へ進むが万策尽きた!
逃げられない!ピンチだ!
「んじー。」
メメがわざわざ口に出して言ったので、身体が勝手にビクッとなってしまった。
クスッと嬉しそうに笑われた。
こ、これ完全に気付かれてるよね?
今のところ、それを責める気配はないのが救いだけど。
そうこうしているうちに毒の沼地に出た。
木を沼に刺し、その匂いを嗅ぎ顔を顰める。これは、、、。
「ご主人様大丈夫ですか?何やってるんですか?馬鹿ですか?」
思ったことを口に出した感じだが、そこに嫌味は感じない。
No.0ではないと気付いているだろうに、ご主人様呼びは変えないんだな、と思った。
とりあえず、更に進もうとすると、剣の光が視界のずっと先に見えた。
うん。
「、、、帰ろう。」
「駄目です。」
「嫌だ。帰る。」
生きるためには、見なかったことにするのだ!
No.2とグレーターデーモンが戦っている現場なんて!!!!
No.2の名前を呼びながら、メメは駆け出した。
は、速い〜!
あっという間に沼の対岸の更に奥、薙ぎ倒された木々や大木の中で戦うNo.2のところへ向かって行く。
メメは、やっぱりそれなりの強さを持っていたに違いない。
どう見ても、並の身体能力ではない。
呆然としかけた俺は、ハッと気づいた。
こうしては居られない!
俺は逃げるぞ!!!!
森を抜けるため、走り出そうとした。
しかし!タイミング悪いというか何というか、No.2が何十メートルもこちら側に弾き飛ばされる。
それをメメが拾い、直ぐにコッチに帰って来る!!
「やめろ!コッチに来るな!!」
俺は必死に叫ぶ。
俺の叫びを無視して、木々を抜けながら、真っ直ぐ此方に逃げてくる。
こっち来んな、言っただろぉぉおおお!!
俺は必死に違うところに、行っちまえと合図する。
そうするとNo.2を背負ったメメは、きっちり俺が指差した方向にカクッと、進路を忽然と変えた。
その結果、何が起こるかというと、、、。
あっらぁ〜、グレーターデーモンさん?
相変わらずイカしたツノねぇ〜。
ちょっとこっち見ないでくれないかしら?
突然、グレーターデーモンさんの視界から消えた2人の代わりに、あのお方の目に入るのは、わ・た・し。
「グオオオオオオオ!!!」
気合いの入った雄叫びをする、素敵な貴方はグレーターデーモン。
沼の中に突っ込んでまで、真っ直ぐ俺の方に向かおうとする。
来るなーー!!
俺は必死に火打ち石を弾き、さっき沼に突っ込んだ木に、小さな布を巻き火を付ける。
その間、僅か数秒!
俺的快挙!
勢いよく火のついた木を、沼に投げ入れる。
結果を見ずに、沼の中のグレーターデーモンに背を向け、出来るだけ近い大木の裏に飛び込むように、、、。
ドンっという音が聞こえた気がした瞬間、空間から音が消えた。
一瞬だけ、記憶が飛んだ気がする。
辺りは激しい炎に包まれる。
俺は立ち上がり、とにかく走った。
森の木々は次々と燃え、正直生きた心地はしなかった。
行きしに森を歩いた時間よりも、きっと長かった気はするが、森を抜け、川の畔に着くと夢中で水を飲んだ。
生水を飲まないように気をつけていたが、今は仕方ない。
「や、やったぞ、、、!逃げ切った。」
俺は立ち上がり、森の方を見る。
森は激しく燃え、数日は燃え続けるだろう。
幾つもの被害を出して、、、。
「、、、しーらね。」
俺は、とにかく少しでも早く帝国から逃げ出すことにした。