疑惑のゴンザレス①
世界最強と呼ばれる存在がいる。
曰く、全てを見通す千里眼を持つ大軍師。
曰く、万の敵すらも打ちのめす大将軍。
曰く、病の悉くを治療して人を救う聖者
曰く、最強にして無敗、世界の叡智の塔に刻まれるランクNo.1も超えた最強ランクNo.0
だが、その正体は一切不明。
男か女かオカマか、年齢も不詳なら、生まれも公爵家の捨て子だとか転生者とか生まれながらの救世主だとか、数え上げたらキリがない。
それら全てを合わせて、誰も見たことがないという。
それが、世界最強ランクNo.0
おっす、俺はア、なんだっけ?
アクスだったけかな?
ゴンザレスの名は忘れないんだがなぁ。
絶賛、世界ランクNo.9帝国の秘宝ソーニャ・タイロンにじろじろ見られています。
帝国の中心部、帝都にて世界の叡智の塔観光をして、昼間っから酒場でゆっくり酒を飲んで看板娘のメメちゃんにちょっかい出してたら、いつの間にか目の前に座られた。
とりあえず、俺もガン見しておいた。
顔も身体も良〜い女なんだよなぁ。
目の保養〜。
足を組見ながら、こっちを見てくるんだが、これがまた色っぺえのなんのって。
一晩お相手してぇ。
「ねえ、あんた。No.0なんでしょ?」
はん?突然、何言い出すんだ?この姉ちゃん。
「違うけど?
ていうか、No.0なんて居ないんじゃねーの?」
色々旅してっけど、噂は聞けど見たヤツ居ねーだろ?
とりあえず、エールの追加。
この姉ちゃんの色っぺえ足を見ながら、もう一杯だ。
「私の目の前にいるわよ。」
は?まだ言うか。
詐欺にかける訳でもないのに、いちいちNo.0とか騙る訳がない。
第1、この女は国の役人だし、公爵令嬢だ。詐欺るには危なすぎる。
俺は危険な橋は渡らない主義なのだ。
ふー、とわざとらしくため息を吐く。
「酔ってんのか?早く帰って寝ろ。
夜の相手をしてくれるんなら、大歓迎だがな。」
このお嬢さんは、ナンバーズだが、あの女のように突然斬りかかったりしない。だから、夜の相手もバッチこいだ。
「金貨100払うわ。雇われない?」
は?俺が金でそんなヤバそうな話でも乗るとでも?
「よろしくお願いしやっす!」
雇い主のお嬢様に、その場で深く頭を下げる。
金がねぇんだ。
具体的には、今頼んだエール分すらない。
「誘っておいてなんだけど、早いわね。
しかも内容聞かなくていいの?」
是非教えていただきたい、雇い主様。
「任務よ。私と一緒にエストリア国に行って内偵調査をするの。」
「はい?」
何度目かの疑問だが、流石に今度は口に出して、聞き返してしまった。
「だから、私と一緒にエストリア国に、、、。」
「愛の逃避行か?」
ふっ、モテる男は辛いな。
お嬢さんお金いくら持ってる?
誘拐事件で狙われちゃうから、ちゃんと直筆の置き手紙しておいてくれよ?
「なんでよ!内偵調査って言ってるじゃない!」
だんだん声が大きくなっておられますぞ?
たまたま人が少なくて良かったな。
「お嬢さんのお供はどうした?」
あのお嬢さんの命令なんでも聞きそうな部下たちは。
「、、、全滅させられたわ。あの時に。」
沈鬱そうな表情。
あ、これただの厄介ごとだった。
子守付きの。
「じゃ!」
と素早く立ち上がるが、流石にNo.8ガシッと手を掴まれ一切振りほどけない。
「は、離せ、、、。」
厄介ごと過ぎて金貨100枚でも割に合わん!
「逃げるなら、私の権限で無銭飲食で即時逮捕するわよ!」
ぐぐっ!
ここでサラッと金を出して、立ち去ればいいんだが、肝心の金がない。
エールを持ってきたメメちゃんが、ジト目で見ている。
万事休す!
いや、オーケーアレス、じゃない、なんだっけ?まあ、いい、俺よ。
まだ諦めるには早い。
諦めたらそこでゲーム終了だぜ?
勝負の神様アンザイーのお教えを心の中で唱える。
詐欺師たる者言いくるめて金だけ頂戴しよう。
だが、そもそも。
「幾らなんでも、流しの人間雇うっておかしいよな?
なんでまた、そんな事態になってんだ。」
むくれたように、お嬢さんはそっぽを向く。
「、、、人手不足なの。」
「人手不足〜?帝国が?なんで?」
「No.9がエストリア国の部隊と、この間の邪教集団の時の部隊の両方とも壊滅よ?
有能だった諜報部隊が2部隊も壊滅したら、流石に人手不足にもなるわ。」
「そうなのか〜。」
ため息を吐きながら、凝った肩を解すようにぐるっと首を回し、何気に店内を見る。
周りに人気はない。
大丈夫か?この店、と心配になるほど。
潰れたら、メメちゃんを拾うのは吝かではない。
俺が養ってもらう側だが。
ビバ!ヒモ生活。
俺はヒモ生活も受け入れる柔軟な男なのだな。
どうしたものかな?と思いつつ、お嬢さんに尋ねる。
「いつまでだ?いつまでも拘束されては敵わん。期限を決めてくれ。」
お嬢さんは、俺があっさり乗りそうなことが予想外だったのか、少し戸惑いつつ、
「あ、そうね。有用な情報が出るまで、と言うのは?」
「それってずっとじゃないか?有用の具体性が無さ過ぎる。
2ヶ月以内とか期限切ったりだよ。」
「2ヶ月ね。じゃあ、それでいきましょ。」
随分、あっさりだな。
まあ、《《どうしようもない》》から、いいんだが。
「それだけじゃない。
有用な情報が出れば良いなら、俺が《《成功》》したお金をあんたが払ってくれたら、そこでこの依頼は達成、俺は無罪放免にしてくれるってのを付け加えてくれ。
後、俺が活動した経費は全てそちらで持ってくれ、俺は金が無いからな。」
「良いわよ。
成功したなら、解放してあげる。
活動資金は、、、当然ね。お金が無いと活動しようがないものね。」
いやにあっさりだな。
まあ、いいけど。どうせ逃げられない。
一介の詐欺師にどうこう出来るとは思えん。
「これ、あんたは幾らでも反故に出来るが、なんとかならないか?」
「良いわ、公爵家令嬢であり、帝国第3諜報部隊、もう一つ付け加えるなら、世界ランクNo.10ソーニャ・タイロンの名において約束するわ。
名誉の誓いってやつよ?」
店内を見回す。
メメちゃんと目が合い、手を振ったら、軽く頭を下げてくれた。
メメちゃ〜ん♡
願いを叶える時、悪魔は契約書を持って誓いを立て、天使は口約束のみってね。
どちらが願いに対して信用出来るか、良く分かる例だと俺は思う。
目の前の人物がどちらであるにせよ、俺に選択の余地は無いけどね。
このままだと無銭飲食で捕まるから、、、。
「ランクNo.10?」
「、、、降格したのよ。」
お嬢さんはそっぽを向いた。
大変だね〜。
やったやったわよ!
これで、この男がNo.0かどうか暴いて見せるわ!
私、ソーニャ・タイロンは内心で歓喜した。
これは諜報活動として、非常に危険な任務だった。
敵地に仮想敵と共に乗り込む。
幾らなんでも無謀と言える。
そもそも、人手不足とは言ったが、幾ら人手不足とは言っても、外部の者を内部事情に巻き込んだりしない。
だが、確認せねばなるまい。
帝国の弱体化は激しく、エストリア国にいつ反撃を受けるともしれない。
ソーニャ自身も不覚にも、ツバメと呼ばれる何者かにより、No.9の座を奪われた。
世界ランクは力を示す。
それはいつ、誰が判定しているかは分からない。
ただ、判定された力は間違いなく本物だ。
その何者かが、帝国領内の者ならばまだ良いが、エストリア国や他の国の者かもしれない。
No.0、それは敵か味方か。
ソーニャは、だらしなく密偵部隊の1人であるメメにだらし無い顔を見せる男を見た。