ゴンザレスと海③
「まさか、本当にあそこで立ち去るとは思わなかったわ。」
そう言いながら、気怠げにエルフ女は俺の隣で、ベッドから身体を起こす。
「それは懇切丁寧に説明したろ?
世の中、ナンバーズだろうと拘束する魔道具なんてあるんだ。
世間知らずのエルフ女なんて、どうとでも出来るもんだ。」
海岸沿いを歩き2日後、港街に着き、そこで宿を取り休憩。
なお、じいさんと話をした次の日、野宿していると、早速、盗賊集団の襲撃があったが、エルフ女があっさりと撃退した。
100%来ると見込んでいたので、しっかりと罠に掛けさせてもらった。
「ああいう小さな町や村では、世間知らずの他所の人をそのまま、売るルートがあったりします。
ゴンザレス様のおっしゃる通りかと。」
既に服を隙なく着て、背筋をビシッとし、椅子に腰掛けたナユタが付け加える。
流石に諜報に関わっていただけに、よく知っている。
この娘は、俺にいつの間にか騙されてる割には、しっかりしてるわね?
いや、単にエルフ女が迂闊なだけだろう。
それにあの一帯自体が、そういう縄張りなのは間違いない。
じいさん連中が似たり寄ったりの顔をしていたのも、結局のところ血が近いのだ。
「それにしても、その魔道具ってのは、気になるわね。
邪教の教祖が使ってたのよね?」
「伝承系の本の神話に出てくるようなものと一緒だろ。
俺からすれば聖剣も同じ感じだがな。」
「それよ!
あんたスイッチ持ってるでしょ?」
あ〜、そういや、エルフ女はそれの言わば、専門家だったな。
スイッチとマーカーを見せる。
「、、、本物ね。
恐らく失われたとされている、もう一つの魔剣ね。
これがあるということは、何処かに魔剣は存在しているということよ。」
そりゃあ、マーカーは目標と一緒に消し飛ぶもんだしなぁ。
「運び屋としては、何処に持っていく予定だったのよ?」
何処って、、、。
「グローリー宰相に決まってんだろ。」
正確には、そこに至るルート手前だがね。
こんなのは、ルートを辿られないようには中継点が、いくつもあるもんだからな。
最終的に『偶然』グローリー宰相が、手に入れる筋書きだろうな。
「呆れた。
そこまで読んでて、なんであんた単独行動してんの?
結構、ヤバい案件じゃない。」
そりゃあ、ヤバいから逃げたんだけど?
対抗馬の公爵なんて、グローリー宰相からしたら、真っ先に狙いに来るに決まっている。
暗殺は怖いんだぞ!
世界最強?何それ?美味しいの?という感じだ。
俺に英雄願望はない!
「その割に英雄まっしぐらじゃないの?」
主にお前らのせいだろ!?
「ベック伯爵領で単独、革命を成功させておいて何を言う。」
「お見事な手腕でした。」
エルフ女は呆れ顔、ナユタは感服した顔で。
ぐぬぬ、、、。
「、、、偶然だ。」
「偶然で革命が成功するなら、世の中革命だらけよ?」
成功したんだから、仕方ない。
関わる気なんかなかったけど、ナユタに引っ掛かったから、仕方がないのだ。
男は美女で身を滅ぼすものだ。
だから美女怖い。
「、、、どう考えても、あんたが簡単なだけでしょ?」
うるさいやい!
港街で船が出ていたので、俺たちはあっさりそれに乗った。
この日、この地域一帯を根城にしていたサーカナ団が壊滅した。
なんでも、かなりの美女を連れた男に、叩き潰されたそうだ。
サーカナ団は長い間、この地域一帯で無法を働き、旅人たちを食い物にしてきた。
特に中心となったのは、白い魔獣と呼ばれた3人の老人。
男はその3人に漏れなく接触し、最後に極上の女2人を連れて、白い魔獣とサーカナ団を誘い出し、完膚なきまでに叩き潰した。
それにより、海に出ることも許されず、貧困に喘いでいた町は救われた。
しかも、そのタイミングに合わせるかのように、すぐそばのベック伯爵領がカストロ公爵に吸収され、海洋の拠点として、これらの町が使われることとなった。
この鮮やかな手並みに、人々はある人物を思い浮かべずにいられなかった。
世界最強ランクNo.0。
その名が世界の叡智の塔に刻まれることは、今もない。
なお、この噂を聞いた1人の詐欺師が、
「なんでだぁあああ!!!」
それに対し、連れのエルフが、
「やっぱり、あんた、、、。」
「違うぞ!断じて違うからなぁぁああ!!」
と言ったとか言わないとか。
それはNo.0の伝説とは、全く関係がない話であろう。