ゴンザレスとカストロ公爵④
流石にエルフ女の目が荒んで来たので、適当に手を抜けば良いのに、と言ったらどつかれた。
なんだかんだ言いながら、引き受けた仕事は全うしてくれるようだ。
ちなみに俺は定番ソファーでゴロゴロ、たまにやってくるカレン姫とか相手しながら、やっぱりゴロゴロ。
こんなに遊んでいて良いのだろうか?
仕方ない、することないんだもの。
でも飽きた。
俺は根っからの根なし草。
そもそも何故、俺はここで豪華なソファーで美女はべらして、転がっているのだろう?
流石に有り得ん。
きっと夢を見て居たのだろう。
ゴンザレス、お主夢を見ていたな?という気分だ。
ということで、街に出て仕事をしよう。
そもそも、詐欺師をしていたのも、仕事がなかったからだ。
前に斡旋所でタイミング悪く、同じ穴のムジナに引っかかってしまったが、そうそう何度もそんなことがあるわけもない。
裏通りらしい雰囲気の場所を歩き、それっぽい店に入る。
荷物運びの仕事だ。
以前、アストの名で冒険者登録していた時の名義を使う。
荷物の中身?
馬鹿言っちゃあいけない。
こういうのは、知らないでいることも依頼の一つさ。
黙って行くと、エルフ女に殺されちゃうので、ちゃんと置き手紙をしておいた。
ちょっと仕事行ってくるって。
そうして、俺は荷馬車を操り、カストロ公爵領の街を出た。
その手紙を最初に見つけたのは、いつもソファーを掃除していたメリッサだった。
『ちょっと仕事行ってくるわ。』
それを見た瞬間、メリッサは崩れ落ちた。
彼の意図に一瞬で、気付いてしまったからだ。
「あなたの仕事は公爵じゃないんですかぁぁぁあああああ!!!!!
逃げたらエストリア国崩壊するって言ったのに!しかも、また置いて行かれた〜!」
でも、これはメリッサも気付くべきだった。
アレスが初めから国など、どうでも良いと思っていることに。
これはアレス本人も気付いていない性質ではあったが、単純に女性陣の誰かが困るからと言った方が、アレスは大人しくしていたことだろう。
いずれにせよ、今回は今までと違う。
早急になんとかしなければならない。
いつまでも、へたり込んでいる訳にはいかないのだ。
だが、この時、いくら優れていても神ならぬ身のメリッサは気付いて居なかった。
エストリア王女救出の際に、アレスからメリッサが請け負った『嫌がらせ』の意外な効果に。
後にメリッサがその事に気付いた時、アレスの底知れなさに、またしても戦慄することになる。
へたり込んだメリッサの肩を、イリスがポンっと叩く。
「ご安心を、メリッサお姉様。捜索の手筈は整っています。」
以前なら、アレスが逃げ出すと共にへたり込んでいたイリスが、柔らかな笑みと強い意志の瞳を宿して、そう言った。
良くも悪くも、アレスはイリスの迷いを取り除いてしまったのだ。
そこには、国を失い、全てを失って自棄になり、No.0に依存していた少女の姿はない。
1人の超S級美女の誕生であった。
イリスは手を広げ、皆に指示を出す。
「出陣準備をしている者以外は、アレス様捜索任務に移れ!これは最優先任務である!
繰り返す、最優先任務である!
我らの命運がそこに全てかかっていると心得よ!」
いつの間にか、気配もなく控えていた黒づくめたちが、一斉に御意と言って散って行く。
かくして、カストロ公爵領の全力を尽くしたアレス捜索作戦が開始された。
エストリア国王女は、一体どうなるのか分からず、意味もなく右往左往し、カレン姫は相変わらず行動力はナンバーズ並みよねぇ、と笑う。
彼を知るそれぞれは、彼らしいと苦笑いを浮かべるしかなかった。
なお、1番怒り出すと思われていたエルフィーナは、それを聞いた際、怒るよりもまず呆れた。
「捜索は海まで広げた方がいいわよ?あいつの行動範囲、ちょっとおかしいから。
偶然で魔王城に来るぐらいだし。」
それを聞いた魔王討伐軍参加者は、戦慄と共に納得した。
有りえる、と。
だがそれも含め、まるでこの出来事が運命であったかのように、彼女たちを翻弄する事態が発生した。
この報告を聞いた時、最も衝撃を受けたのは、他ならぬエルフィーナであった。
「なんで、、、。なんで、そんなものが!」
その日、アレスに荷物を預けた秘密組織は、その日の内にカストロ公爵領の本気により、徹底的に潰され明らかにされた。
『何故か』世界ランクナンバーズが4人も参加していたのだ。
抵抗する術があろうはずもない。
彼ら秘密組織も、カストロ公爵領の調査が進んでいたことに気付いてはいた。
それ故に、十分な吟味もないまま、アレスに荷物を預けざるを得なかったのだ。
彼らが知ってか知らずか、アレスに託したモノ。
それは、手のひらサイズの箱とマーカーと呼ばれる物体で、何かに貼り付けられる布みたいなもの。
聖剣の発動スイッチと同様の存在であった。
そして、運命は加速する。
「こうなっては、情報の洗い出しが必要です。一度帝国に戻ろうと思います。カレン姫様も戻りましょう。」
「まあ、アレスさんも居ないからねぇ。一旦戻ろうかな。」
こうして、帝国メンバーは帰国する。
「僕も一度コルランで国の方針を確認するよ。パーミットにも逢いたいしね。」
No.1含め、コルランの兵も。
残されるエストリア王女セレンは、困惑と不安でいっぱいだったが、イリスは優しく語る。
「ご心配なく。アレス様は我らを見捨てたりは致しません。
その証拠に、エストリア国『反乱軍』は今この時も、なんら動きを見せていないでしょう?
恐らく、すでにアレス様が何かを仕掛けておいでなのでしょう。」
イリスはまだ知らないことではあったが、それは真実であった。
アレスはカストロ公爵領に来る前に、ある『嫌がらせ』を王都に滞在する『反乱軍』に対し、仕掛けていた。
それが予想外の効果を挙げているということを。
「ですので、我らは決戦の準備を進めながら、アレス様捜索に全力を尽くせば良いのです。」
いつの間にか力強く温かな、そんな雰囲気がイリスには備わっていた。
セレンはその言葉を信じることにした。
「アタシは、アレスを追いかけてみるわ。
あいつが持っているのが、もし聖剣に関わりがあるなら、それは魔王と関係があるのかもしれないから。」
終わったと思っていた役目は、まだ終わりではないのかもしれない。
それはアレスと行動を共にする事で、明らかになるかもしれない。
こうして、集まった仲間たちはまた、それぞれに散り散りになる。
それはやがて大きな流れの中で集まることになるだろうと、誰もが予感した。
詐欺師のとある男以外。
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