帝国とゴンザレス⑧
メリッサ元皇女が帝国諸官に述べた内容は、あまりに衝撃的なものだった。
世界ランクナンバーズすらも、敵わない相手にただの一撃。
にわかに信じ難い話であった。
だが、帝国が誇る3人のナンバーズがそれを認めた。
ましてやその1人は帝国皇女カレン・シュトナイダー、世界ランクNo.2。
虚偽を述べる筈がない。
今回の式典は、事情上今まで表に出て来なかったNo.0に対するものでもあった。
帝国はカストロ公爵アレスであると同時にNo.0への無条件の支援を公式に認めた。
それが世界にどんな影響を及ぼすか、人々が知る日はそう遠くないだろう。
暴かれ始めた世界の叡智の塔の謎。
果たして、人類は生き延びる事が出来るのか。
蠢き始めた邪神に対し、人類はなす術はあるのか?
世界の叡智の塔、そこに刻まれた世界ランクナンバーズ。
そこにNo.0の名は、ない。
「あんたも大変ねぇ〜。惚れた男といるための正当性を用意しないといけないんだから。」
エルフィーナは相変わらずソファーに寝そべり、何個目か分からないフルーツを齧りながら、メリッサにそう言った。
アレスは祝典の前に準備のために、用意された部屋に戻るや否や、豪華な服のままばったりとエルフィーナの対面のソファーに倒れ込み、すぐに気絶するように眠りに落ちた。
メリッサはアレスが寝転ぶソファーに座り、アレスの頭を太ももに乗せる。
アレスは既に気絶しているのか、誤解だー、誤解なんだーと唸っている。
その頭をメリッサは優しく撫でながら、エルフィーナの言葉にはそっぽを向く。
いくらレイド皇国が滅びたとは言え、帝国に保護され、社会的な立場を保ったままのメリッサには、立場というものが残っている。
この辺りは世界ランクNo.8のイリス・ウラハラとは、同じ亡国の王女であっても立場が大分違う。
ましてや、すでにイリスがカストロ公爵の庇護下にあることは、カストロ公爵の名が世に出て来た時から、周知の事実だ。
個として、アレスに付き従ったとしても、正式に、となるとそういう訳にはいかない。
だが、今回の出来事により、公式的にメリッサは、カストロ公爵アレスの側に控える者としての立場を示して見せた。
そしてまた、カストロ公爵アレス、いや、No.0がそれに足る人物であることも。
明らかにアレス本人は、望んでいないことではあるが。
「ま、アタシは面白かったら、どっちでも良いけどね。」
エルフであるエルフィーナからすれば、立場云々などただの面倒ごとに過ぎない。
エルフィーナにしてみれば、役目故に魔王との戦いで死ぬ事になるとばかり思っていた。
それをS級美女に膝枕をされながらも気付かずに、誤解だと唸りながら眠る男に強引に覆されてから、もはや人生はボーナスステージである。
「なーにが、誤解なんだか。
きっちりあんたが『やっちまった』ことでしょうに。
メリッサもさっさと、こいつにNo.0ではなく詐欺師って分かってるって、伝えたら?」
こいつとアレスを指差し、メリッサを見る。
「このお方はNo.0です。」
「あん?」
メリッサはそれ以上何も言わず、アレスの頭を撫で続ける。
エルフィーナはそんなアレスを呆れながら見る。
「おーい、あんたの大好きなS級美女にここまでされてるんだから、ちょっとは頑張りなさいよ〜。」
「、、、良いのですよ。ご主人様は十分頑張ってくれてます。」
「アンタねぇ、、、。それがダメ男をさらにダメにするのよ?
まあ、こいつも女を不幸にしている訳ではないから、まだ良いんだろうけど。」
むしろ、何故か関わる相手を幸せにすらしてる。
ちょっと自覚があるのか、メリッサは目を逸らす。
「まー、この男も魔王を『やっちゃった』時点で、どう取り繕うと誤解も何も無いほど、世界的な英雄になっちゃってるんだけどね。」
アレスのことだ、気づいていない事だろう。
彼だけは気付いていない。
既に詐欺師と名乗ろうが、英雄の実績が本物である事に。
そして、彼以外にこの世界に、No.0を名乗った者が過去現在、ただの1人もいない事に。
彼だけは気付いていない。
「いや、気付けよ!」
思わず、エルフィーナは唸りながら眠るアレスに、突っ込んでしまった。
下の星をお願いします!