領主ゴンザレス②
そんな時に緊急の連絡が来た。
隣国コルランが攻めて来たというのだ!
しかもコルランは大国であり大軍だというだけではなく、なんと世界ランクNo.1を連れて来ているというのだ。
まさに切り札、究極の鬼手、むしろズルなほどだ。大国コルランの本気が伺える。
エストリア国が誇る世界ランクNo.5、6を連れて来て、大要塞サルビアに篭って諦めてもらうという策が即採用された。
そう、つまり俺たちは見捨てられた。
俺の領主生活終了〜。
早速、逃げる算段をつけよう。
これは、もしや……チャンスではないか?
戦争のドサクサに紛れて女と離れることも出来て、上手く相手側に寝返り出来れば略奪とか美味しい思いが出来るんじゃなかろうか!
そうとなれば、気分はルンルンだ。
奴隷で最初に任命した奴で1番有能だった奴に後任を任せる。
好きにしなさい。
じゃ! そういうことで!
おうおう、残されて泣いておるわ。
すまないね〜。
恨むなら自分の運の無さを恨むんだな!
俺を恨むなよ!
厩に行って、毛並みの良い馬を選ぶ。
退職金代わりに頂いておくぜ!
馬はあまり上手ではないが、優秀な馬なのだろう。乗りやすい。
厩から出ると、ズラッと並んだ騎馬の人々。
先頭に女。
君たち何の用?
俺これから逃げるんだけど?
「我々もお供させて頂きます!」
女が皆を代表してそう言った。
その後ろには、俺が最初に任命した男奴隷の片割れだな。
「分かった」
一緒に逃げるのか。
後で女を上手に撒かないとな!
次々と騎馬が集まりその数500!
あれ? 随分沢山になったなー。
この周辺の地域全てが見捨てられたんだもんなぁ、仕方ねぇよな。
俺を先頭に騎馬隊が進む。
あのさ……なんで俺が先頭なの?
君たち立派な鎧とか付けている人も居るよね?
いや、逃げてるだけだからいいんだけど。
「あるじ様! こちらの方角は……」
あん?
そりゃあ、敵から逃げるのにエストリア側に走るに決まってるだろ?
「イリス様! おそらくアレス様は大要塞サルビアと挟み込みを掛けようとなさっているのではないかと!」
「あ、なるほど、それなら騎馬隊の突撃力を生かして……」
なぬ!?
こちらは大要塞サルビアに向かう道か!
あっぶねー!
敵に突っ込むルートじゃないか。
大要塞サルビアを包囲する敵は、こっちから向かわなければ会うことがないから有難いもんさ。
「こちらだ」
カクッと曲がる。
今から方向転換すれば大丈夫だろ?
「な! もしやこの道は!」
男奴隷は驚きの表情。
「知ってる道か?」
知ってるなら案内してくれよ。
「いえ、ですがこっちの方には……流石はアレス様」
そうか、そうか、合ってるんだな、逃げ道。
「居る!」
女が叫ぶ。
光が走る。
右サイドを走っていた騎馬のいくつかが、消滅する。
え? 消滅?
「あるじ様!! あれは……No.1です!」
なんですとー!
金髪の凄いイケメンが槍を構えている。
あれは俺でも知ってる。
世界ランクNo.1、光のハムウェイ!
俺的通称ハムの人!
キュピーン!
ここで俺にとっておきのアイデア!
ここで女を人身御供に使えば良くない!?
そうすることで俺は逃げれるし、女からも逃れる事が出来るので一石二鳥!!
起死回生の大名案!
問題は女が大人しく犠牲になってくれるかだが……。
「あるじ様、ここは私が……」
「頼む」
即答である。
はい、と儚げに笑う。
や〜っぱい〜い女だよなぁ。
あんなヤバ〜い女でさえ無ければなぁ〜。
よろしく出来たんだけどなぁ。
ま、いいや。
俺のために散ってくれ。
じゃ! 片手をピンと伸ばし合図。
今頃、見捨てられたことに気づいたのか驚きの表情。
だが、それでもNo.1から逃げれないと思ったのだろう。覚悟を決めた目で光のハムウェイに突っ込んでいった。
あばよ〜! No.8〜。
俺は満面の笑みだ。
後続はまだそのまま続いてくる。
後ろの騎馬の人たちも自分に素直だねぇ〜。
逃げるべ逃げるベ。
そのまま走ると、何やら山のように積まれた物資の山が見える。
マジか!
こんなところに物資の集積所が有ったか!
「火、あるか?」
俺は奴隷男に尋ねる。
馬で走りながらだから、火は無理か?
火つけたらさらに、逃げやすくなるんだけどな?
「魔法がありますゆえ、御安心を!」
あんた魔法まで使えるのか!
なんで一緒に逃げてるんだ?
まあ、男の事情などどうでも良い。
「突っ切るぞ!」
「おーーー!!!」
500近くの騎馬の男たちが俺の言葉に応える。
皆、逃げるのに必死だものな!
結果で言えば、集積所は大火となり、その後、別のところからコルラン国の大軍が見えたから、奴隷男と騎馬たちを大軍に突っ込ませ、その隙に俺は見事に逃げおおせた。
俺は、俺は、ついにやったぞー!!!!
あの女からも戦争からも逃げおおせる事が出来たのだ!!!
こうして、俺は1人、気ままな詐欺師稼業に戻ることが出来たのだった。
この日、僕は初めて敗北というモノを知った。
目の前にいるのは、満身創痍であり、もうまともにショートソードを振れない状態。
それでも闘志を失っていない世界ランクNo.8疾風のイリス・ウラハラ。
対する僕は傷1つない。
「ふふ、ふふふ。どうやら私の、私たちの勝ちのようですね」
髪をかきあげ、ため息を1つ。
「どうやら、そのようだね。
あれほどに大軍で、しかも僕まで同行して負けるんだから、戦争というのは難しいものだ」
「慰める気は御座いません。
ですが、相手が悪かった。
それだけで御座いましょう?」
全くだね。
僕はそう思わずにはいられない。
構えていた槍を振り、血を払い彼女に背を向ける。
「トドメは刺して行かなくても良いのですか?」
「今から? 冗談はよしてくれ。
この混乱している中で、彼が戻ってきたら、僕も確実に勝てるとは流石に言えないよ。
40分粘れ、かい? 彼の指示は」
戦闘を開始してから、もう30分を越えた。
徹底的に彼女は粘ることだけに専念していた。
万が一の可能性でしかないが、それでも勝つ事の一切を捨てて、ただ粘る。
「やはりお気付きでしたか」
ピンと伸ばしこちらに見せた指は4本。
つまり40分粘れば、なんとかするとNo.0は言ったのだ、と2人は気づいた。
無論、誤解である。
「まあね。
仕方ない、残念だけど今回は引くことにするよ。
彼に宜しく。
世界ランクNo.1の上にNo.0があるなんて、僕は認める気は無いからね。
次は必ず潰す」
集積所は物資がまともに残っておらず、今も大火が集積所を襲っている。
視界のずっと先には、500ほどの騎馬に横腹を突かれ隊列がズタズタにされたコルラン軍。今から全力で走って援軍に行っても混乱は収まらないだろう。
あの500の騎馬は大要塞サルビア側をわざわざ通ってやって来た。
当然、大要塞サルビアは連携を取り、この機を逃さず包囲部隊を壊滅させているだろう。
包囲部隊をカバーするはずのこちらの主力は、あそこで500の騎馬に翻弄されている最中なのだから。
集積所で混乱する兵たちを叱咤激励しまとめ上げ、燃え上がる大火を魔力で消しとばす。
「覚えていろよ……No.0。
この借りは必ず返す」
僕は、この悔しさを忘れない。
この日、公式にNo.0の名が出てきたわけではない。
この戦争の発生の少し前、亡国ウラハラの王女イリス・ウラハラが何者かを伴って、サリバーンの地に領主としてやってきた。
その何者かは、大国コルランに滅ぼされたシースルー国の天才執政官スラハリと騎士団長セボンを奴隷身分から引き上げ、その領地の采配の全てを託した。
それだけではなく、娼婦に落ちていた大政治家セリーヌを見出すと、彼女に公的立場と人材発掘を命じた。
娼婦に落ちていた数多の有能な女性が登用され、領主邸には有能な人材で溢れた。
この時謎の人物が命じた清掃清潔衛生の3つの言葉は3Sとして、広く人々の生活の規範となり、流行病の激減に繋がった。
また、その先駆者となった公営娼館は、国1番の娼館として、領地に潤いと娼婦たちの希望の地となった。
行われた智謀の数々。
聖者の如く教え。
寡兵にて大軍を粉砕し敗北確定の戦場をひっくり返した武勇
そして退けられた世界ランクNo.1。
ここまでの偉業を見せつけれられて、人々はある人物を想像せざるを得なかった。
世界ランクを刻む世界の叡智の塔。
そこには未だNo.0という番号は、ない。