#7 「ギャグセンスが寒すぎる件について。」
318プロ 事務所_
「えー、というわけで…本日付で、この事務所に呼音テル君が加わることとなった。はい、皆拍手。」
先輩の紹介に続いて、同僚や事務員からまばらな拍手が送られる
俺は勿論、一人盛大な拍手で迎えた
「あの…一つ質問いいですか?」
テルがおどおどしながら、先輩に尋ねる
「なんだ?」
「私、まだ採用されてなかったんですか?この前、宣伝用の映像撮ったり…厳しいダンスレッスンした気が…。」
「あー、あれは…そう、夢、夢だ。」
「夢!?」
テルが昭和のバラエティのように驚き飛び上がる
「で、でもでも、私確かに…。」
「勘のいいガキは嫌いだ。それに、いちいちそんなことにツッコんでいては、この世界では身が持たんぞ。」
「は、はあ…。とりあえず気にしたら負けだと思っておくことにします…。」
テルが弱々しく引っ込んでいった
「とりあえず、呼音君には宣材写真の撮影をしてきてもらう。」
そう言いながら、先輩は何枚かの写真を取り出す
「これはうちに所属しているアイドルたちの宣材写真だ。参考にしつつ、同じ事務所で活躍する仲間たちの顔と名前を覚えておくこと。裏に名前書いといたからな。」
写真の裏を見ると、それぞれ写真のアイドルに対応した名前が書いてあった
「…ありがとうございます!」
先輩…否定的だったくせに、優しいな…
思わず笑みがこぼれてしまう
「どうした、公…ニヤけて、気持ち悪いぞ。」
「なっ!?」
「公は呼音君に付いて行動してくれ。撮影場所はスタジオだ、分かるな?」
「は、はい!」
久々のちゃんとした指示に、ドキッとしてしまう
なんだろう…急に緊張が…
「よろしくお願いします、プロデューサーさん!」
テルの元気な声で我に返る
そうだ、俺がちゃんとサポートして、引っ張っていってやらないと…
「…ああ、任せてくれ!」
「ふっ…大丈夫そうだな。」
「え?先輩、なんか言いました?」
「…なんでもない、とっとと行け。」
先輩が照れていた理由はわからなかったが、俺はテルと一緒にスタジオへ向かうことにした
_____
撮影スタジオ_
「き、今日はよろしくお願いします!」
「はい、よろしくねー。」
既に待機していたカメラマンと、緊張混じりの挨拶を交わす
…こんなに緊張していては、良い笑顔が撮れないのではないだろうか
ここはひとつ笑わせて上げた方がいいだろうか
俺は衣装セットの中から、ハゲヅラの被り物を手にとり、こう言った
「テル。」
「はい?」
「…ハゲが励ます、なんつって…。」
…辺りに、氷河期かと思わせる程の冷たい空気が流れた
カメラマンも我慢大会でもやっているかのように固まっている
ご想像の通り、大失敗だ
学生時代、いつも教室の隅っこでラノベを呼んでいたのが仇となったか
もっと人を笑わせる術を学んでおけば…
「ぷっ…あはは!プロデューサーさんったら、心配性なんですから。」
「うぅ…すまん。」
思わず涙目になってしまう
「大丈夫ですよ、私ばっちり楽しんできますから。きっといい写真も撮れます!」
そう言うと、テルは元気に撮影へと向かっていった
…俺が心配するまでもなかったな
心配なのは、むしろ自分の方か…
ホッとしながらも、フェスの時先輩に言われた言葉を思い出していた
(納得がいっていないのはこの世界の仕組みにか?それとも未だにアイツのことを…。)
あの時は勢いで違うと返事してしまったが、本心はどうだろうか
俺は…未だにアイツのことを…
そんなことは無いと、自分に言い聞かせたかったが、今は仕事中だと一時的に不安を紛らわすことしかできなかった
《キャラクター紹介》
【呼音テルの趣味】
アニメが大好きで、商店街のライブのほとんどはアニソンを歌っていた。ジャンルは幅広く、推せるものはとことん推す主義。アニメの見過ぎで、少し目が悪い。