#6 「何となくいい感じに終わった件について。」
俺は考えていた
どうすればこの勝負に勝てるのか
テルはまだデビューすらしていないひよっこだ
故に持ち歌なんて、フェスに向けて練習していた一曲のみ
対する相手は、今流行りの曲を完コピかつ良アレンジを加えている
…悔しいが、こと演出という部分においては負けているだろう
「プロデューサーさん…。」
知らぬ間に険しい顔つきにでもなっていたのだろうか
テルの心配そうな声で、ハッと我に返る
「…すまん、ちょっと考え事をしてた。」
「プロデューサーさん!私にいい考えがあるんです!」
「…いい考え?」
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「さァ、お次は君たちの番だよ。どんなパフォーマンスを見せてくれるのかなァ?」
「テル…いけるな?」
「ええ、任せてください。目一杯、楽しんできます!」
そう言うと、テルは楽しそうに壇上へと上がっていった
…頼むぞ、テル!
「すぅー、はぁー。」
「緊張してるねェ、アイスブレイクが必要かい?」
「いえ、結構です。…皆さん初めまして!呼音テルといいます!今日は皆さんもよく知っている、あの神曲を歌おうと思います!是非聞いていってくださいね!」
テルの合図とともに、スピーカーから音楽が流れ始める
そう、俺とテルが初めて出会った時の曲
ネットで神曲と崇められている、ロボットアニメのオープニングソングだ!
「ふーん、なるほどね。あえて流行りのものではなく、一昔前のヒットソングを持ってきたわけだ。しかし、一昔前の曲で視聴者は満足するかなァ?」
「ああ、皆大盛りあがりだろうな!」
「なにィ?…はっ!?」
…気づいたようだな、だがもう遅い!
この生放送は、全てのチャンネルを乗っ取っているわけではない
某オタク向けの動画投稿サイトを乗っ取っているんだ!
だって、画面の右下にロゴあるし
「まさか…視聴者の層に気づいた上で、選曲したというのかァ!?」
「…ていうかさ、フツー合わせるよね。自分で乗っ取っておいて気づかなかったの?」
「…僕はこういうのに疎いんだよォ!なんだよ、オタク向けの動画投稿サイトって!?」
「あー、まあ知らん人は知らんだろうし、関わりなく過ごす人も多いだろうな…どんまい。」
『神曲ktkr』『懐かしー!やっぱ好きだわこれ』『てか、歌ってる子最高、マジ推せる』
コメントもたくさん投稿されていて、盛り上がっているようだ
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そして無事にテルのステージは幕を閉じた
「結果発表…ってわざわざアンケート取らなくてもわかるか。はい、僕の負けだよ。おめでとー。」
なんか急に適当になったな…
語尾のキャラ付けもなくなってる…
「やりましたね、プロデューサーさん!」
「ああ!よくやった!テルのアイデアのおかげだな。」
そう、今回の曲はテルが決めた
俺の考え通りに流行りの曲を選んでいたら、負けていたかもしれない
こういった状況でも柔軟に対応できる
やはりこの子はトップアイドルになれるかもしれないと、改めて思った
「次こそ勝って、僕のほうが上だと知らしめてやるからな…待ってろ!」
「ええ…またやるの…?」
「ルートビ!撤収だ!」
『かしこまりました…』
次の瞬間、ミラクル仮面を糸のようなものが掴み、上空へと連れ去っていった
「ミラクル仮面…ルートビと呼ばれていた男も気になるが…まずは、一段落だな。」
緊張が解けたせいか、思わずその場にヘナヘナと座り込んでしまう
テルも同じだったのか、同時にその場に座り込んだ
「はぁー。勝てて良かったです…。」
その後、周りの客も解放されたのか、無事に身体の自由を取り戻していた
テルは皆から感謝され、一躍時の人となった
先輩も、流石に認めざるを得なかったのか
「…まずは上に掛け合ってみる。」
と、言ってくれた
そして、事件から3日経ち
テルはついにうちの事務所へ迎い入れられることとなったのだ
《キャラクター紹介》
【ミラクル仮面】
本名不明。突如として現れた謎の仮面男。不思議な糸を使い、人を無理やり踊らせる能力を持つ。「ルートビ」と呼ばれる相棒がいるようだが、こちらも正体不明。目的も不明。不明すぎて草。