#4 「事件に巻き込まれた件について。」
「…い、今なんて言いました…?」
「彼女にはICがない。彼女はアイドルにはなれない。」
先輩の一言はあまりに重く、思わず目眩を感じてしまう程痛烈だった
『IDOL CHARM』…通称『IC』
生まれながらにしてアイドル活動に必要なスキルを発現させる特殊能力
それがないということは、即ち今の世界においてアイドルとして売れることは不可能と言われているようなものだ
「だ、だけど…テルの歌はあんなにも魅力的で…立ち止まって聞いていたお客さんたちも笑顔で…。」
「知り合いだらけの商店街の片隅と、今日のようなきちんとした舞台は同じか?」
「それは…っ!!」
思わず言葉に詰まってしまう
「公、俺はな…もう見たくないんだよ、足元が浮ついたままステージに立たされて、右も左もわからないまま批評されて、本当の意味ででこの業界を理解したときには既にお払い箱。わかるか?」
「先輩…。けど、俺…それでも!」
「納得がいっていないのはこの世界の仕組みにか?それとも未だにアイツのことを…。」
「違います!!」
アイツの話題が出そうになり、思わず勢いで否定してしまう
先輩は一瞬驚いたような反応を見せたが、すぐに元の呆れ顔へと戻った
「…昔のことは関係ないです。俺はただ…信じたいんです、テルを…テルの夢を。」
「…公、お前…。」
『キャアアアアア!?』
突如として生まれた二人の沈黙を割くように、ステージの方から女性の悲鳴が聞こえてくる
「なんだ!?」
テルに何かあったのかもしれないと思い、俺は急いでステージの方へと向かった
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ステージへ向かうと、そこには仮面舞踏会でつけられていそうな目元だけのマスクをつけた謎の男と、その男の手によって拘束されている司会進行担当のアイドルがいた
「た、助けて!!」
「不審者か…?嫌がってるだろ!その子を離せ!」
仮面の男は不思議そうにこちらを見つめてくる
「あれ?うーん、なんで君は動けているのかなァ?」
動けている…?どういう意味だ…?
「…まー、いっかァ。ルートビ!ミュージックスタートだ!」
『かしこまりました…。』
スピーカーから別の男の声が聞こえてくる
相手は二人組か…
「何をする気だ!?」
問いかけを無視するかのように、スピーカーからクラシック音楽が流れ始める
それと同時に、拘束されていた子や観客たちが一斉に踊り始める
「な、なんだぁ!?お前、何をした!?」
「…なんか知らんけど、やっぱり君には能力が通用しないみたいだねェ。邪魔だなァ。」
…何が起こってるんだ…?
周りのやつらは…どう見ても好きで踊ってるって感じではなさそうだな…
となると、こいつが言ってた能力ってやつで踊らせているのか…?
一体何のために…?俺はなんで動けている…?
いや、そんなことよりもテルは無事なのか…?
とにかく警察に通報をしようと、俺はすかさず携帯を取り出す
が、どこからか現れた糸のようなものに取り上げられてしまった
「なんだ!?」
「あははッ!通報なんてシラケる展開、させないよォ?」
くそっ…どうなってやがる…?
今この場で動けるのは、きっと俺だけだ…
それなら…!!
「…お前をぶっ倒せば、なんとかなりそうだな。」
「出来るものなら、ね。」
《制作秘話》
【呼音テルの名前の由来】
だいぶ昔に考えていたオリキャラで、ボカロっぽい名前をつけたくて、ちょうど目に入った電話から考えた。 (呼音=着信音、テル=TEL)
ちなみに電話要素は特に考えていない。