#3 「驚愕の事実を知った件について。」
午後1時、公園_
とりあえず教えてもらったテルの連絡先に電話をかけ、近所の公園へ来てもらった
テルは既にジャージに着替えており、やる気満々な様子だった
「飛び入り参加型のフェス…ですか。」
渡されたチラシを見ながら、テルが呟く
「そう、このフェスで注目を集められたら、うちの事務所でアイドルになれるかもしれないってこと!」
「な、なるほどです!」
テンションが上がっているのか、テルはチラシを食い入るように見つめている
喜んでくれているようだ、プロデューサー冥利に尽きるって感じだな
「予定としては、フェスの日までに歌う曲を決めて、あとは歌とダンスの特訓。当日までにしっかり磨き上げて、その日のMVP…一番を目指すこと!」
「MVP…一番…わかりました!私、頑張ります!」
「おう!その意気だ!改めてよろしく頼む。」
「はい!…そういえば、主人さんのことなんて呼べばいいですか?」
「ん?ああ、無難にプロデューサーでいいぞ。」
「わかりました。プロデューサーさん、これからよろしくお願いします!」
プロデューサーさん…いい響きだ
こうして俺とテルの特訓の日々が始まった
そう、地獄のような猛特訓が
テルは歌こそピカイチだったが、ダンスはからっきしだった
…どこかのアイドルゲームのキャラみたいだ
けれども熱心に特訓を積み重ねたおかげか、フェス前日にはある程度しっかりしたものへと成長していた
衣装は事務所にあったお古のものをいくつか拝借し、似合いそうなものをあわせた
これなら
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そしてフェス当日_
小規模のフェスと言えど、JPNプロ系列のイベントだ
さも当然かのように満員御礼の看板が上がっていた
今回は特に人が多く見受けられるが…
「今日ってなんか特別なゲストとか来るんですか?」
自分と同じくスタッフ作業に勤しむ先輩に尋ねる
「…聞いてないのか。今日の司会進行担当だったやつがドタキャンになって、代わりに向こうの事務所がお抱えのそこそこ人気なアイドルを寄越したってわけ。残念だったな。」
「残念…って、なにがっすか?」
俺の問いに対して、先輩がこれでもかと大きなため息をつく
「いいか、今日の客のほとんどは、そのそこそこ人気なアイドル目当てで来てる。最後にはその子のミニライブも急遽設けられたからな。つまり、誰も素人のお遊びには興味を持っていないってことだ。」
「お遊びって…。」
「とにかく、だ。ライブ中に泣かれても困るし、棄権するなら今のうちにな。」
そう言うと、先輩はどこかへと去っていってしまった
お遊び、ねえ…
確かに他の参加者は浮ついているだけで、どこか適当そうに見える
テルは…うん、しっかりダンスのおさらいをしている、ちゃんとしてるな
呼音テルならいける
どこからかそんな自信が湧いてきた
信じよう、彼女を
『第7回!新人発掘、歌いきりまショー!』
フェスの開始時間となり、少女のアナウンスと同時に観客席から歓声が上がる
舞台裏まで響く程だ、余程人気なアイドルなのだろう
「ぷ、プロデューサーさん!」
テルが小声で呼びかけてくる
「ん?どうした?」
「私、今すっごくドキドキしてます。自分の力が通用するのかどうか…恐いですけど、それ以上にワクワクしてます!」
テルの表情は、まるで幼い子供が遊園地に来たときのようにキラキラと輝いていた
…そうは言っても緊張はしているのだろう
テルの足は生まれたての子鹿のように小刻みにふるえている
「テル。」
「は、はい!」
「…せっかくの初ステージなんだ、楽しんでこいよ。」
「…はい!目一杯楽しんできます!」
そう言うと、テルは参加者待機列の方へ進んでいった
「本気…なんだな。」
後ろから先輩が突然現れる
「あっ、先輩。」
「…どうなっても知らんぞ。」
場所が暗くてわかりにくいが、先輩の表情はどこか物憂げだ
「…一つ聞いていいすか。」
「…なんだ?」
「どうしてそんなにテルのこと、止めようとするんですか?」
「…俺はこの業界に入って長い。だからわかるんだ。」
その後の先輩の言葉を聞いて、俺は先輩に質問したことを後悔することとなった
「彼女にはIC…IDOLCHARMがない。」
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観客席、最後列_
「そろそろですぞ、準備はよろしいですかな?」
「ああ、楽しいフェスにしよう。観客もろとも、踊り死ぬまで、ね。」
《キャラクター紹介》
【輩 先一】
アイドル事務所『318プロダクション』の先輩プロデューサー。25歳で、19歳の頃からプロデューサー業を勤め続けている。高校時代に部活の後輩だった主人公が就職先に困っていたのを見かねて、318プロへ迎え入れたものの、かなり後悔している。