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#2 「原石を見つけた件について。」

 商店街の隅にある赤い自動販売機

 販売されている代表的な炭酸飲料のテーマカラーとして目立つように染められているが、今はさほど目立っていない

 なぜなら、目の前で飲み物を買っている男の顔のほうが赤く照っているように見えるからだ


「…なにやってんだ、俺。」


 つい先程、見知らぬ女子を突然違う人の名前で呼び、おまけに路上ライブを中断させた

 下手すりゃ…いや確実にお縄案件だった、通報されていないのが奇跡だ

 せめてものお詫びにと飲み物を買いに来たわけだが


「それにしてもあの子、いい歌声だったな。」


 その時はあまりに焦っていたせいか、考えにすら至らなかったが、間違いなくいい歌声だった

 可愛らしい顔立ちから、男向けのロボットアニメの主題歌が出ていたのは意外ではあったものの、声質には合っていた

 …何を考えているんだ俺は

 早く彼女のもとに戻って飲み物を渡さなければ

 駆け足で先程の場所へ戻ると、少女はベンチに腰を掛けて鼻歌を歌っていた


「…やっぱいい声だな。」


「…はい?」


 少女が不思議そうに尋ねる

 しまった、声に出ていたか…


「ああ、すまない。でも本当なんだ。とてもいい歌だった。」


「あ、ありがとうございます。」


 少女は顔を赤らめながらも、少しにやけていた

 あまり言われ慣れていないのだろうか、ルックスは充分すぎるレベルだと思うが


「自己紹介がまだだったな。俺は主人(あるじびと)(こう)。君はここらへんの子?」


「あっ、はい。呼音(よびね)(てる)っていいます。17歳、高校生です。あっ、アイドル目指してます!」


「ほう…アイドルを、ねえ。」


「はい!今の世の中だと人気ものになるのは厳しいかもしれないですけど…。」


 …出た、中途半端

 どうせ、とりあえずやってみました!とか言うんだろ


「それでも私、輝いてみたいんです。あのステージで。」


「輝いてみたい…?」


「…神音姫(かねき)ナル、って知ってますよね、あのトップアイドルの。」


「ああ、勿論。」


 神音姫ナル…JPNプロの代表アイドル

 事実上このJPN領のトップと言わざるを得ない人物だ


「幼い頃に一度だけ、あの人のステージを見たことがあるんです。すっごくキラキラしてて、周りのお客さんも皆笑顔で、私もあの舞台に立って皆を笑顔にできたらって、そう思ったんです。」


「…それからずっとアイドルを目指して…?」


「はい…と言っても、この商店街でたまにストリートライブをさせてもらう程度ですけどね。大手のオーディションもいくつか受けたことはあるんですが、なかなか…。」


 彼女は少し寂しそうな顔をして、うつむいてしまった

 この子を採用しないなんて、一体どこの節穴だ

 俺だったら、この子を一発で採用するのにな…


 その時、俺の脳内に一つの考えがよぎった

 歌良し、ルックス良し、スタイルは…多少胸がないけど、まあ良し

 熱意は充分ありそうだし、期待できる

 なにより真剣さは、誰よりも高そうだ

 そうだ…この子なら、この子となら


「呼音照…いや、呼音テルでいこう!」


「…はい?えっと、状況がうまく飲み込めないんですけど…。」


「アイドルになる覚悟はあるか!」


 勢いのあまり、彼女の肩をガッと掴む


「覚悟!?…あ、あると思いますけど!?」


「俺と一緒にアイドルやらないか!?」


「…は、はぁ!?」


 _____


 翌日、318プロ事務所_


「却下。」


「えええええ!?」


 先輩からの非情な一言に、思わず驚愕の声をあげる


「なんでですか先輩!?」


「…あのな、まずオーディションも通さずに採用しろってのが無理な話だ。うちの事務所は皆オーディション通してからなの。ましてや、雑用係のお前1人の判断じゃあ採用にはできない。」


「じゃあオーディションやりましょう!彼女からサンプルの音源も貰ってるんです!」


「却下。」


「なんでえええええ!?」


 再び大声をあげたせいか、他の社員から咳払いで諭された


「…すいません。」


「…うちは弱小といえど、『JPN PROJECT』の傘下なんだ。勝手にオーディションを主催するとかはできないわけ、わかる?」


 先輩は呆れ顔で説明する


「それはわかってますけど…でも、今を逃したら二度と無いチャンスなんです!とてつもない原石なんですよ!」


 あまりの熱意に、思わず先輩のデスクを両手で勢いよく叩いてしまった

 先輩は困った顔をしつつ、デスクの引き出しから一枚のチラシを取り出した


「…本当はお前のことを追い出すつもりだったんだけどな。わかった、お前に1度だけチャンスをやる。」


「今サラッと恐ろしいこと言いませんでした?」


「今度、同じ系列の事務所が飛び入り参加型のフェスを開催する。俺もスタッフとして参加するが、まずはそこで注目を集めてみろ。話はそれからだ。」


「飛び入り参加型のフェス…わかりました!そこで目にものを見せてやりますよ!」


 俺は急いでその場を後にした


「…あいつ、大丈夫だろうか…。」


 先輩は事前に渡された呼音テルのプロフィール用紙を見ながら、不安げに呟いた

《キャラクター紹介》

呼音照よびねてる

17歳、女性。紫髪のロングで、赤い眼鏡が特徴的。可愛らしい見た目とは裏腹な力強い歌声は、聴く者全てを彼女の音楽の世界へと引き込む。 (とプロデューサーは語っている)

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