#1 「少女と出会った件について。」
プロデューサー、それは支えるもの
プロデューサー、それは力になるもの
プロデューサー、それはアイドルの活動の全てをサポートする一番の守護者
そう、これはアイドルとして活動する少女たちの為、命を懸けて日々奮闘する男の物語なのである
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声歴20XX年_
特殊能力に目覚めた人物たちが各所で発見されてから、およそ10年が経とうとしている
『IDOL CHARM』
大体100万人に1人の割合で、生まれながらにして持っている可能性のある能力
通常の人間と比べて、より多才に生まれ、より魅力的に魅せる力を持つことができる
しかし一歩間違えれば洗脳まで出来てしまうような、そんな力
世界はあっという間にアイドルたちのものとなった
能力を持たない人々も、生まれや人種は関係なく誰を推しているか
国や地域という概念も無くなり、アイドルたちを推すファンのコミュニティで居住区域が分かれるようになった
中でも強大なコミュニティを持つアイドルは「神」として崇められ、世界の大半は「三神」と呼ばれる3つのユニットによって統治されていた
そんな10年前とは全く違う、変わり果てたアイドルの世界で
とある1人の男が、雪道をのそのそと歩きながらため息をついていた
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「はあ…。」
吐き出した空気が冬の寒さで白くなり、余計に落ち込みそうになる
新雪を踏みしめる足音でさえ、今は騒音に感じてしまう
明らかに重い足取りと、雪の相性は圧倒的に悪いと確信した
なぜこうまで落ち込んでしまったのか、簡単な話だ
…上司に怒られたのだ
俺、主人公、23歳
職業はアイドル事務所のプロデューサー…の端くれ
ここ『ジャパン領』を統治する、三神『JPN PROJECT』の傘下である『318プロダクション』、通称『サイバプロ』の下っ端雑用係をやらされている
しかし、新規アイドルのスカウトに失敗し続けたせいで、頭を冷やしてこいと外に追い出されてしまったのだ
「だってよぉ…とりあえずやってみよう!みたいな軽いノリの子ばっかだったし…。」
まあ、今更もう少しうまくやれたとか考えたところで、同じチャンスはそうそうこないわけだが
納得できないのだ
この世界の仕組みに、そしてアイドルを目指す人たちにも
今この世界で三神を超えるようなアイドルになろうと志す人間はどれくらいいるだろうか
…おそらく数えるほどもいないだろう
アイドル事業の大半は三神が占領し、その他大勢は一番ではなくそこそこの階級を目指す
俺はそんな現状に不満を覚えており、つい熱くなっていた
結果、仕事は失敗続きで途方に暮れているわけだ
ちくしょう…俺、なにやってんだろう
「くそっ、やっぱり納得できない。…こんなの、アイドルじゃない。」
皆を笑顔にするアイドルが輝いて見えた
ボーカル・ダンス・ビジュアルの完璧なパフォーマンスに魅了された
日々レッスンに励む姿には何度感動したことか
そんなアイドルを支えられたら
そんなアイドルの力になれたら
そう何度も願ったのだ
あいつのためにも…俺は絶対プロデューサーに…
「…♪」
…ん?なんだこの歌
ていうか、この声…!?
数秒、呆然と立ち尽くしていたが、はっとなって声の主を探しに走り始める
どこから聞こえているのか、自身の聴力と勘を頼りに走り続ける
間違いない、この声はあいつだ
普段はか細くて弱々しい声なくせして、歌うときは力強くて、妙に格好良くって
一瞬たりとも忘れたことのないあの声
商店街の中へ入り、僅かに人だかりの出来た場所を見つける
その中心に歌声の主であろう少女を見つける
俺は思わず大声で呼びかけてしまった
「ルカっ!」
「え?」
その少女は驚き、歌を止めてこちらを振り向いた
紫色のきれいな長い髪に、赤い眼鏡、整った顔立ち
少し高めの身長に、おそらく学校のものであろう制服
俺は思わずつぶやいてしまった
「…誰?」
「こっちのセリフなんですけど!?」
少女の驚愕にも似たツッコミが辺りに響き渡る
これが俺と彼女、「呼音テル」との出会いだった
《キャラクター紹介》
【主人 公】
23歳、男。アイドル事務所『318プロダクション』のプロデューサー。黒髪。中途半端にアイドルを目指すような子が許せず、説教ばかりしていたためか、事務所を追い出されそうになっていた。