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風の中に柔らかさを見つける。

 お前の骨と桜の花、どちらがより白いのだろう。

 この国で一番栄えた都市に来た。とにかく稼ごう、そればかりで。

 こぞって人は何でも揃う豊かな街だと宣う。今時珍しい、正確な情報だ。だからといって無条件に与えられるわけではない。手に入れられたのはこの六畳一間とそこに収まるものだけだった。

 窓の向こうに桜が散っている。そうか、もうそんな時期なのか。曇りだからか無数に舞う花びらは普段日の下で見るより彩度が落ち、白茶けたようにわたしの目には映った。

 テレビをつければ、相変わらず地方病の話題が垂れ流されている。

 未知の地方病が爆発的な広がりを見せてから、薄汚い塒から出ることは叶わなくなった。おかげで季節の移ろいに鈍感になったようだ。時間が進んでいる自覚も失いつつあった。お前の病気が進行し、最期の知らせが届いた今日までは。

 病原菌は静かに静かに蔓延し、治療も薬も発見されぬままバタバタ人が死んでいる。死の使いは、この街のあちこちに散らばり潜んでいる。地方病と言えど人の往来があればどのように感染が拡大するかも分からぬから都市は封鎖され、わたしには最早お前に会いに行く術が無い。

 箸休めとばかりにニュースが変わった。行方不明者が発見されたそうだ。既に本人は骨と化しており、物言わぬ骸と対面した家族を出演者が同情する。視聴者もだろう。

 遺骨にすら会えない私には、誰も取材に来ない。悲しみもまた、人の目にふれぬままそこここに散らばっているのだと気付く。

 いまやわたしには、空へと還るように舞い上がる花弁がお前の灰のように思える。花が咲いたことさえ知らないお前の。

 識者曰く、ウイルスは風に乗って全土に広がり、感染者の数を増やしていくのも時間の問題だとのことだった。被害が予想される地域には、わたしのふるさとの名も連なっている。

 そうか、風は、お前のところまでゆけるのか。絶望よりも寧ろ感心してしまった。

 そんなふうに行き来が可能なら、せめてもの慰めに桜の花びらを手向けに行ってくれないか。もしくは、灰をわたしに届けてくれないか。やわい春の風なら、何一つ損なわないだろうから。

 

猫の火葬がありました。


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